第16話 前世界からの脅威

「大変です、秀平さん!」


 目が覚めると、青ざめた顔をしたチータが、俺の肩を揺すっていた。彼女の後ろには、山積みにされた段ボール。

 どうやら、俺は昨日、物置部屋でそのまま寝てしまったみたいだ。足元を見ると、俺の膝を枕代わりにした輝美が、穏やかな寝息を立てている。


「どうかしたの? 急に騒いで……」

「いいから、テレビを見てください! ……あぁほら輝美さんも!」

「痛ッ!?」


 チータは輝美を軽く蹴飛ばし、俺を立ち上がらせる。そのまま無言でチータの背後にいたスゥに手を引かれながら、一階のリビングまで移動する。

 ソファに座った姉ちゃんが、厳しい表情をしてテレビを睨んでいた。


「チータ、何がどうし……」


 質問しようと思ったが、テレビに流されている映像を見たことで、全て理解した。


『ご覧ください! 東京タワーに、謎の巨大な蛇が巻き付いており――』


 女性アナの煩わしい説明なんて耳に入らない。目に見えている情報が、全てを物語っていた。

 立て続けに流される各地の映像には、岩の巨人や巨大なタコ、頭が二つある狼、動く骸骨の大群等、ファンタジーの世界の住人が暴れ回る様子が映されていた生放送でケガ人を映すような真似、やらせで行うはずがない。

 すなわち、目の前に映るこの光景は――リアル。今、現実に起こっていることだ。


「あれは……神話生物か?」

「そうじゃなくても、世紀の大発見だろうがな」


 姉ちゃんはすぐに寝巻を脱ぎ捨て、ソファにかけてあったスーツに着替え始めた。


「すぐに社長からの指示が入る。お前達も準備しておけ」

「事務所に行くの? 『テレポート』で送ろうか?」

「いや、移動しながら周辺地域の現状を確認する。車で行くから、お前はいつでも戦う準備をしておけ」


 早口でまくし立てながら、姉ちゃんは着替えを終え、家を出た。程無く車のエンジン音が聞こえてきたため、本当に車で東京に向かったようだ。


「えぇ~……何これ?」


 遅れて降りてきた輝美が、ニュースを見た瞬間、寝ぼけた表情を歪めた。


「もしかして、過激派の連中の仕業ってわけ……?」

「輝美さん、何か知ってるんですか?」


 チータからの質問に、輝美は「知ってるわけないじゃない」と言わんばかりに首を横に振る。


「神話生物の存在を、ギリギリのタイミングまでは完全に秘匿するべきだって方針は、≪シーズン≫も森羅研も同じ意見だったはずなのよ」

「過激派の可能性は?」

「なくはないけど、メリットが考えられない。無駄に目立つことと、周囲を敵に回すことは、あいつらが一番嫌う展開のはずよ」


 なら、どうしていきなりこんなことになったんだ?

 そう思ったちょうどその時、外から爆発音が響いてきた。


「今のは……!」


 庭から、外の様子を見ると、海が燃え上がっていた。原因を探ったところ、米軍の艦船が破壊されているのを見た。どうやら、燃料が引火したらしい。

 そして、その犯人(?)は、すぐに姿を現した。


「オギョオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

「うわキモッ!!」


 艦隊より大きな赤い金魚が、燃え上がる船を一気に海に沈めた。

 腹部に付けられた、人間の女性モデルを連想させる綺麗な両脚で、だ。


「えー! なにアレキモいよぉ!」

「美への冒涜……!」

 

 俺の背中にしがみついたフーコとスゥが、悲鳴にも似た声を上げた。


「ここにも現れたということは、人類に敵意アリとみなすべきですよね?」

「見りゃわかるでしょ、そんなの。いくわよ、チータ」


 輝美は黒いコートとYシャツ、スラックスに早着替えした。これは、再会した時と同じ服装で、戦闘服とか言っていた。そして、チータを伴って外に出た。


「おい、ちょっと待て――」

「秀ちゃんは周囲を見てて! あいつだけとは限らないし、あの程度ならあたし達だけで充分!」

「ッ! わかった……!」


 輝美が黄龍、チータは青龍を召喚。それぞれが神力で肉体を模った神霊の背に乗り、海の上を飛んでいった。

 青龍が『水操作』のスキルで、水の竜巻を作って巨大金魚みたいなのを閉じ込めた。それを確認した黄龍が、『雷』のスキルを発動。竜巻の中心めがけて、雷のエネルギーを取り込んだビームを撃ち込んだ。


「ギョエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!」


 巨大金魚モドキは、断末魔を上げながら爆発四散。この世から消えて無くなった。

 なんとか、簡単な相手で済んだことに、胸をなでおろす。


 その後、輝美とチータが戻ってきてからも警戒はしていたけど、増援は出てこなかった。

 

 ◇◆◇◆


 三十分後。俺達は東京にある≪シーズン≫の事務所に集まっていた。『創造』のスキルを『テレポート』に変え、Y市から一気にここまで来たのだ。

 今は、駆け付けた組織のメンバー全員で、ミーティングルームにいる(さすがに、ロンドンにいる時任君はいないが)。


「さて、面倒なことになった」


 専用のイスに座っている綱吉さんが、渋面を浮かべて唸る。


「まさか、ここに来て神話生物が一斉に暴走するなんてね……正しく自然災害だよ、こりゃあ」

「すぐにでも対処した方が良いのでは?」


 他の40代くらいの女性メンバー(名前は知らない)が、すぐにでも飛び出しかねない勢いで進言する。


「そうだね。じゃあ、火野姉弟チーム以外の人は、すぐに準備! 神話生物の駆逐に入って!」

「了解!」


 先程の女性は即座に、残りの人達も戸惑いながらではあるが、後に続いた。

 ミーティングルームには、俺と輝美、チータ、スゥ、フーコ、シェン、姉ちゃん、そして綱吉さんが残された。


「何のために集まったのやら……」

「組織のトップから直々にってんなら、電話とかメールでも良さそうなもんだけどなぁー」


 チータとシェンが、少しだけ呆れた様子で綱吉さんを見る。綱吉さんは苦笑しながら、「そうだね」と答えた。

 

「ただ、君達と違って、他の≪シーズン≫のメンバーは神霊子じゃない人も多くてね。専用の武器をもっていかないと、対処が出来ないんだよ。だから、どのみち準備は必要だったのさ」

「そうなの?」


 隣にいる輝美に尋ねてみる。


「本来、神霊子として目覚めて、神具を使えるようになるのって、結構時間がかかるのよ。半年とかね。イメージの構築ってことで、媒体となる道具を使う人もいるくらいだから、千差万別ってところかしら?」

「みんなが俺達のようには出来ないってわけだ……」


 そういうことなら、手ぶらで神具を扱えるウチの子達は、優秀な神霊子ということになるんだろう。かわいくて強くて、最高な子達じゃあないか。

 ……と、今はそれどころじゃなかった。


「こうなった原因って、はっきりしているんでしょうか?」


 沈黙が、場を支配する。

 俺の疑問に答えられる人は、この場にはいなかった。

 そこに、綱吉さんのスマホが着信音を鳴らした。


「時任君か……」


 綱吉さんは、スマホを操作し、再びデスクに置いた。


『もしもし、代表。聞こえますか?』

「あーうん、聞こえるよ」


 どうやら、スピーカーフォンにしたらしい。焦った様子の時任君の声が聞こえてきた。


「今、みんなにも聞こえるようにしてる。そのつもりで話してね」

『は、はい! えっと、森羅万象研究所の方も、現在大慌てなんですが、そこで急いで報告した方が良い情報を得たので、報告させて頂きます!』

「なんだろう?」

『この、神話生物が一斉に出現した理由です!』


 全員、一斉に背筋を伸ばした。


「時任君、何が起きたんだい?」

『どうやら、≪ワールドリバイバル≫なる現象が起きているようです! 神話生物がいた世界の情報が残っていて、それが一気に目覚めたとかなんとか――』

「落ち着け、時任! 今さらジタバタしてもしょうがない!」


 姉ちゃんは鋭い声を上げ、時任君の言葉を止める。


「その、≪ワールドリバイバル≫だったか? それの説明も含めて、もう一度1から10まで、説明をしてみろ」

『は、はい……』


 時任君は数回深呼吸をした後、語り始める。


『まず、世界の成り立ちっていうところから説明しなくちゃいけないんですけど……わかりやすく言うなら、今の世界は、一回滅んでいるんです』

「ん? 滅んで……えっ?」

『その声は、秀平君だよね? 疑問はもっともだけど、今はまず説明させてほしい』

「あぁ、ごめん。頼むよ」

『うん。それで、今の世界が出来る前――つまりは、前の世界になるわけなんだけど、神話生物っていうのは、そこで実在した生物らしいってことが、ここ最近の研究で判明したらしいんだ』

「それが、どうして今の世界で出現するようになったんだい? そこは判明してるのかい?」

『おっしゃる通りです、リーダー。神話生物がいた名残として残っている神核……それは皆さんご存じの水晶のような形状を取っているものもあれば、本当に砂粒程度に分解されてしまった物も存在するんだそうです』

「もしかして……その、砂粒みたいな神核が、一気に覚醒しちゃったとか?」

『そう、考えられているようです。だけど、それは偶発的に発生するようなものではないと思うっていうのが、森羅研の見解のようです』

「どういうこと?」

『神核となった神話生物が、肉体を取り戻す方法は、主に二つ。神霊子の神力を受け取って召喚するか、肉体を乗っ取って荒神あらがみとなるか……この二通り以外はあり得ない』

「けれど、現に神話生物はこうして暴れまわってるじゃないか」

『……だからこそ、懸念されていることがあるんです』


 時任君は一呼吸入れて、重苦しそうに言葉を紡いだ。

 

『出現した神話生物は、人間の肉体を利用していないとのことです』

「えっ? どーゆーこった?」

 

 シェンが首を傾げるのも当然だ。前の世界じゃどうだったかは知らないけど、少なくとも俺達が生きるこの世界で神話生物が活動するためには、今の世界に生きる人間の力を使わなくてはならない。

 これは矛盾している。神霊子のルールから逸脱している。


「代表。これはここに来る前、あたし達の家の近くに出現した神話生物を倒した時に、残されたものです」


 輝美が、丸い水晶のような神核をテーブルの上に置いた。


「これは……神核、だよね?」

「はい」


 綱吉さんは、輝美から受け取った神核の欠片に、人差し指を当てる。

 それは、わずかに動いているように見えた。


『今の状況から察するに、何者かの手によって神話生物が再生された……そう認識した上で、対策と、原因究明に動いているようです』

「わかった、時任君。森羅研の内情調査に、この問題の件もプラスする。大変だとは思うけど、どんなに細かい情報でも見つけ次第、すぐに報告してくれ。こっちのプライベートとか、そういうのは一切無視して良いから、頼むよ!」

『了解です! みなさん、お気をつけて!』


 時任君との通話が終わった。綱吉さんはスマホをジャケットの胸ポケットにしまい、大きく息を吐いた。


「……やむを得ないか」

「と、言いますと?」


 姉ちゃんが尋ねると、綱吉さんはチータ達を見る。


「みんな……どうか、協力してほしいことがあるんだ」


 綱吉さんが、それぞれの目を見ながら、眉をしかめる。


「君達さえ良かったら、僕達の作戦に協力してくれないだろうか?」

「綱吉さん、もしかして――」

「お前は黙ってろ」


 姉ちゃんに首根っこを掴まれ、何も言えなくなる。綱吉さんは、きっと俺が何を言うつもりだったのかわかっているんだろう。俺に向かって、謝罪するように軽く頭を下げた。


「ボクは構いません」


 チータが即答する。


「いいのか?」

「ボクらは、隠れて生活することを余儀なくされている立場ですが、そのためには多くの人の存在が不可欠です。自分達の為にも、戦う理由はあるかと」

「同感……」


 続けて、スゥも名乗りを上げた。


「降りかかる火の粉は、振り払う……」

「フーコもさんせー!」


 フーコまでもが、戦う意思を示した。


「まちのみんなもあぶないんでしょ? だったら、フーコたちでまもってあげなきゃ!」

「だな!」


 案の定、シェンもやる気のようだ。


「肉屋のおばちゃんに魚屋のおっちゃん、定食屋のジジババに死なれたら、外に出る楽しみ無くなっちゃうもんな!」

「あはは……」


 みんなそれぞれが、戦う理由を持っている。そして、彼女達は見た目は幼いけれど、考え方にはしっかりと芯がある。

 そんなチータ達がそう判断するのならば、俺が無理に止める必要もないだろう。


「秀平君」


 綱吉さんが、俺に同意を求めてくる。最終確認のつもりなんだろうが、


「わかってます。けど、この子達には、条件を出させて下さい」


 俺は床に膝をつけ、チータ達と目線を合わせる。


「絶対に、単独行動だけはしないでくれ。最低でも二人組で行動すること。これだけは守って」

「はい!」

「うん……!」

「はぁい!」

「OK!」


 四人と共に頷き合い、綱吉さんに向き直る。


「構いませんか、リーダー?」

 「良い保護者してるね、秀平君。見ていて安心しちゃったよ」


 綱吉さんは、にこやかにサムズアップをして見せた。


 ◇◆◇◆


 そんなわけで、俺達は二手に分かれることにした。

 編成は、俺、スゥ、フーコのAチーム。陸の神話生物の対処を担当する。

 輝美、チータ、シェンのBチームは、海上の神話生物を担当することになった。

 さすがに、この状況下においては、誰も文句を言うことなく、速やかに行動することになった。


 そんなわけで、俺達Aチームは、テレポートで九州地方に瞬間移動し、スペースワンダーワールドという宇宙をテーマにした遊園地にやってきた。無論、遊びに来たわけではなく、そこに現れた神話生物を大人しくさせるために来たのだ。

 普段ならきっと多くの人で賑わっているであろう遊園地には、全くと言って良いほど人の気配がしなかった。この辺の人達は、既に避難区域に向かったと見るべきだろう。


「おにーちゃん、いたよあそこ!」 

「な、なんだありゃあ!?」


 遊園地上空に浮かんでいた神話生物は、一言で言えばUFOのような頭部に、人型のフレームをそのままくっつけたような外観をしていた。いくら俺が歴史に疎いからって、あんなのが神話に出ているとは到底思えない。つまりは、セイクリッドファントムのような、様々な神話生物の情報を取り込んで新たに生まれ変わったものと思うべきだろう。とりあえず仮称だけど、UFOロボと名付けよう。

 ただ、どんな相手だろうと、破壊活動を続けるのなら倒すしかない!


「フーコからいくね!」


 フーコはこちらの返事を待たずに白虎を召喚。その背に跨り、一気にUFOロボへ突撃する。


「がおーん!」

「ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


 フーコと白虎による、『風操作』のスキルが発動。風のバリアを張った状態での突進――旋風の弾丸にも似た一撃が、UFOロボのボディをバラバラにした。鉄骨が繋がり合ったような華奢なボディを構成する部品が、宙に舞い散る。


「……ダメ。まだ終わらない」


 スゥの言う通り、部品は磁石に吸い寄せられるようにUFOロボの元に戻っていき、またも人型を成す。


「えぇ~!?」


 敵の追撃をさけるため、フーコはUFOロボの背後に回り、一度距離を取る。こっちにはすぐ戻っては来るだろうが、その間はこちらに攻撃が集中することになる。


「スゥ、俺が仕掛けるよ」

「心配しないで」


 スゥは赤い光を放ち、朱雀を召喚した。


「敵が攻撃してきたら、その前に溶かし切るから」

「頼もしいね!」


 俺はセイクリッドファントムを召喚。短時間で勝負を決めるべく、俺の意識をセイクリッドファントムと一体化させる。その間、俺の本体は仮死状態に陥るわけだが、そこはスゥに任せることにした。


「三分間、一人占め……!」

「ま、任せるよ……」

 

 俺の本体の頭の臭いを嗅いで恍惚の表情を見せるスゥをそのままに、俺はUFOロボに挑みかかる。

 訓練と称していろいろと実験した結果、セイクリッドファントムに意識を映すと、その分戦闘力は跳ね上がるが、仮死状態となった本体と魂が切り離されてしまう恐れがあることが判明した。肉体が死に、荒神になってしまうという。

 

「ま、そうならないようにするだけだってね!」


 俺は金属棒を取り出し、UFOロボの脚を叩き折るべく、横薙ぎにフルスイング! しかし、敵も学習していたのか、飛行して脚を折り曲げることでそれを避けた。そのまま上空に上がると、鉄骨の先端からビームの雨を降らせた。

 幸い、朱雀による炎の吸収能力によりスゥと俺の本体は無傷でやり過ごせたし、セイクリッドファントムとなっている俺は、そもそも小さい的なので回避する心配はせず、直撃を避けた。

 だが、スペースワンダーワールドの敷地内は火の海と化した。ジェットコースターなどのアトラクション施設はもちろん、象徴でもある宇宙船の模型は溶かされて倒され、接触した他の建物までドミノ倒しのようになり、潰されていく。

 これはまるで、地獄絵図だ。

 

「ちょっと……頭来たかぁ!?」


 UFOロボが頭部のレーザー砲を露出させ、俺に照準を合わせた。


「受けて、立ぁぁああああああああああつ!!」


 UFOロボが、頭部から極太のレーザーを放った。これならば、的が小さいセイクリッドファントムでも、余裕で飲み込んでしまえるだろう。

 無論、大人しくやられるわけがないんだが!


「ぬぅん!」


 意識を右手に集中させ、力いっぱいUFOロボに突き出した。極太のレーザーが、俺の眼前で急激に細くなり、集束していく。これは、俺の右手に発生させた無色の神力で出来た球に吸収されているからだ。

 スキル『凝縮』。ありとあらゆるエネルギーを小さくまとめてしまうスキルを、『創造』した。


「グゥゥゥゥオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」


 とはいえ、受け止められる量には限界があり、具体的な数字は俺自身にもわからない。どんぶり勘定もいいトコだけど、ここはガッツで補うしかないだろう。

 相手のエネルギー量も相当なもので、滅茶苦茶しんどい。けど、アイツがしたことを考えれば、怒りの念によって強化された俺の精神力は、この程度では萎えることはない。

 1分後。ついに、敵の攻撃が止んだ。

 俺の右手には、奴が注ぎ込んだビームの塊が、今にも爆発しそうになってはいるものの、球体に集束している。


「フーコぉ!!」

「はーい!」


 戻って来たフーコと白虎が、今度はUFOロボの真下に移動し、竜巻を発生させた。強力な武器を使った反動で動きが鈍くなったUFOロボが、素早さで圧倒的に上回る白虎の攻撃を避けられるわけが無かった。ボディを分解させることなく、上空に吹き上げられた。


「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」


 雄たけびを上げ、右手のエネルギーを留める見えない壁の一部を、消す。そこから漏れ出したエネルギーは、再びビームとなって、UFOロボに向かって伸びていった。

 白い光のラインが、UFOロボを飲み込んでいく。光が消えた時、敵はきれいさっぱり、消滅していた。

 俺は大きく息を吐き、セイクリッドファントムを消した。それと同時に、俺の魂は本体に戻り、瞬きする一瞬の内に、視界にスゥの顔が飛び込んできた。


「シュウ……カッコ良かった」


 スゥが、俺の顔に何度もキスをする。


「あ、ははは……スゥ、くすぐったいよ」

「あーずるいー! フーコもするー!」


 戻って来たフーコが、起こした俺の上半身を再び押さえつけるように飛び込んできた。そこからさらにブチュブチュとキスをしてくるもんだから、くすぐったくてかなわん。


「気持ちは嬉しいけど、ふたりとも。まだ、暴れてる神話生物がいるはずだから、すぐに移動するぞ!」

「んっ」

「はーい!」


 ふたりの肩を抱き寄せ、そのまま次の目的地をイメージし、移動を試みる。

 そして、移動した先で戦う。

 今日だけでも、これを5回繰り返したところで、姉ちゃんから帰還命令が出た。

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