第10話 海上の戦い
「ぶわー!!」
綱吉さんと今後の連携を約束し合った直後、上からシェンの叫び声が聞こえた。
俺は飛び出すように客室からブリッジに上がった。
「うぅーわッ! 雨か!?」
いつの間にか、空が黒い雨雲に変わっていた。横殴りの雨があっという間に俺の全身を濡らし、強風がボートを激しく揺らす。
「おいみんな! 何かに掴まれ! 落とされるんじゃないぞ!!」
大声で叫ぶが、スゥが俺の腰に抱き着いてきただけで、他のみんなは別の方向を向いていた。
彼女達の視線の先で、竜巻が発生していた。
「おいおい……海の天気って、こんな急に変わるもんなのか?」
今日は、東日本全体で快晴になるって聞いていたのに。天気予報も、たまに大きく外れることがあるんだよな。
「安全面を考慮するならば、ひとつ提案があります」
「どうした、チータ? 提案って、何を?」
「この天候を元に戻すために、あの中にいる何者かを倒しましょう」
チータはそう言うと、竜巻に人差し指を向けた。
「あそこに……ってことは?」
「うん。敵がいる」
俺の腰にしがみ付いたまま、スゥは頷いた。
「あそこにいる何者か――おそらくは神霊子でしょうが……そいつを撃破しさえすれば、ここら一帯の天候は、元通りになるはずです」
まさか、天候まで操れるとは。自然を味方につけられることの恐ろしさは、やはり放置することなんて出来ない。綱吉さんが≪シーズン≫を結成した理由がよくわかる。
「なので、まずは接近しながら、相手の正体を探ることを提案します」
「そんなノンキしてらんねーぞ!」
シェンはそう叫ぶと、手に持った手斧のような武器の先端から、ビームを発射した。すると、海蛇のような生物がブリッジの上に落ちてきた。豪雨に隠れていたであろう、顔面をまるごと消し飛ばされたその生物は、しばらくその場でばたついていたが、やがて動かなくなった。
「やっぱり来たんだね、敵が……」
遅れて、綱吉さんと姉ちゃんが出てきた。
「そいつは……小型のドラゴンか?」
姉ちゃんは、どこから持ってきたのか、ストローで海蛇っぽい生き物の身体をツンツンとつつく。
「どうだろう? ていうか、ここまで痛めつけて、相手は大丈夫なわけ?」
「大丈夫だろうな。見てみろ」
「ん? ……あっ!」
気付けば、海蛇っぽい生物の死体が、音も無く消えていた。ちょっとよそ見していた間に、だ。
「スゥ、今の見たか?」
「うん。すぐ消えちゃった」
「消えた……」
「おにーちゃん! あそこ!!」
「おごご……!」
フーコは俺の背中に張り付くと、両手で俺の顔を押さえつけ、強引に竜巻のある方向へ向けさせる。
「あ、ありゃあ!?」
フーコが焦る意味を理解した俺は、思わず目をみはった。
先程の海蛇モドキが九匹も、海面から出ていた。全ての目が血走らせて、こちらを睨んでいる。もしかしなくても、キレてるな。
「ブシャー!!」
中央の顔から雄叫びがあがり、それを合図に他の首から水流が放たれた。
「ッ!」
これを放って置いたらみんなが死ぬ! ――直感でそう感じ取った俺は、無意識の内にセイクリッドファントムを召喚していた。右手の甲に浮かぶ金色の翼が光の球となり、少年の姿を模り、俺達の前に躍り出る。
スキル『創造』発動 ⇒ 防御スキル『バリア』に変換!
「止まれぇええええええええええええ!!」
俺が叫ぶと、セイクリッドファントムが眼前に光の膜を展開した。防御フィールドってヤツだ。それで、敵の水流を完全に防ぎ切った。
「シュウ、すごい……!」
「おにーちゃんつよぉい!」
興奮したスゥとフーコが、俺の服を左右から引っ張る。俺はというと、咄嗟のことで無我夢中だったのと、自分の能力でこんなことも出来るのかと驚いて、軽い放心状態になっていた。
「いや、すごいじゃん! 秀平君、お手柄だよ!」
「あ、いえいえそんな……」
綱吉さんが、セイクリッドファントムの性能を評価してくれている。素直に嬉しいけど、まだ敵は元気に暴れまわっているので、気は抜けない。
「にーちゃん! あいつらを仕留めなきゃだな!」
「おう」
シェンの言う通り、敵対心を剥き出しにしている相手に、何もしないで殺されるつもりはない。
しかし、いくらセイクリッドファントムでも、単独で敵の大群に飛び込ませるのは、リスクが大き過ぎる。力の強さで負けているとは思わないけど、俺自身がその使い方を熟知していないから、敵の手段に対応し切れない可能性が高い。
かといって、スゥの朱雀に運んでもらうのも、少し危ない気がする。原典はどうか知らんけど、少なくともスゥの神霊である朱雀は、読んで字のごとく、火の鳥だ。水のフィールドでは不利だ。万が一ダメージでも受けたら、本体であるスゥへのフィードバックがどのような形で表れるか、考えるだけでも恐ろしい。
「秀平さん。あの敵は、ボクに任せてもらえませんか?」
チータが挙手をする。
「君が戦うの?」
「水場での戦いならば、ボクと青龍の独壇場です」
「青龍、か……」
それは、確かにそうだ。
青龍は水を司る神話生物だ。神力の応用で宙を泳ぐことが出来るけれど、本来は水生生物ということで、水の中ならば余計なことにリソースを割くことなく、十全に力を発揮できるんだろう。
だけど、心配事はある。
「お前をおびき寄せる罠の可能性は、ないと思う?」
こちらに危害を加えようとしてくるってことは、相手は高確率で研究所からの刺客と考えるべきだ。俺達を乗せたボートが出た時以外に目撃例が無いということは、偶然ではないはずだ。
しかし、チータは首を横に振る。
「敵は、その気になればいつでもこのボートを鎮めることが出来ると思います。全滅を避ける意味でも、ボクが出向いた方が良いと思います」
「そ、そうだけど――」
「それにね、秀平さん」
チータは、神具である青龍偃月刀を握る手に、限界まで力を込める。
「そろそろ、思い知らしてやりたいという気持ちがあるんです。ボクたちを甘く見た報いは、受けさせてやりたいって……!」
普段は大人しいチータが、怒りに燃えている。仲間達が全滅しそうになったこの状況を作った敵は、許さない……そういうことか。
俺は、他の三人に視線を移し、意見を求める。
「空中からの援護、備えておく」
「フーコ、チータならできるってしんじてる!」
「牽制ならオイラに任せとけ!」
どうやら、各々出来ることをする――ということで、チータの意見に乗るようだ。
なら、俺も信じるしかない。
「わかった、チータ。頼んでも良いか?」
「はい!」
「いってこーい!」
「がんばれ、チータ!」
「……がんば」
チータは笑顔で俺達の声援に応えると、すぐに青龍を召喚し、その背に乗って敵の神話生物に挑んでいった。
◇◆◇◆
敵に接近したチータは、すぐに相手の正体を確認することが出来た。
「なるほど。ヒュドラでしたか……」
胴体に九つの顔と首が付いている、海の怪物ヒュドラ。
もっとも、この世界に現れたということは、いろいろと「伝承通り」にはいかない。現に、さっきは首が胴体から離れていた。いくら神霊といえど、肉体を損傷すればタダでは済まない。
(人間の本体は……見当たりませんね。隠れているのでしょうか?)
一応、神霊子対策として、相手から身を隠す隠形の術はある。だが、それは光の屈折を利用して姿を消す仕組みなので、一度攻撃を仕掛けた時点で居場所がバレてしまう。既に、相手は攻撃している。だから隠れ続けることは難しいはず。船はもちろん、潜水艦の類も見当たらない。
チータは、過去に研究所で見た、『ある現象』を思い出した。
「……なるほど、あれは
人間と神霊にも、相性は存在する。波長が合えば、より強力な力を引き出すことが出来る。
しかし、相性が良過ぎるあまり、時には神霊が人間の肉体を奪うケースも存在する。そういう存在を、荒神と呼ぶ。目の前のヒュドラは、正にそれだった。
こうなったら、目の前にいる生物を人間とはみなせない。
強過ぎる力をもった凶悪な獣は、排除しなければならない!
「キシャアアアアアアアアアアア!!」
ヒュドラは、中央の首を除いた八つの頭を、チータと青龍に向けて飛ばしてきた。
「ふっ!」
チータは自らの肉体を媒体に、青龍の力を顕現する。水の柱が彼女の眼前を突き上がり、ヒュドラの切り離された頭を全て飲み込む。
「お返しします!」
チータが腕を振るうと、水の柱は蛇のようにうねり上がり、鞭のようにしなる。振り払われるように飛び出したヒュドラの頭が、ピッチャー返しのように胴体にぶつけられる。
しかし、頭部はまるで水の中に入るように胴体に吸い込まれ、元の九つの頭に戻ってしまった。
(体を構成するものは、
青龍は水を司る神話生物である。故に、神霊となった肉体を失った青龍がかりそめの身体を得るためには、水が必要となる(大気中に含まれる水分でも充分)。
相手も同様の原理ならば、海の上での戦いは、長期戦になることが予想される。
そうなると、どちらにとって好都合か?
答えは、ヒュドラである。
「ッ!」
チータは青龍の背から青龍偃月刀を振るい、水の刃を発生させ、海面に向けて飛ばした。水刃は、密かに水中を泳いでいた、十、十一番目の頭を切り裂き、その動きを止める。
「卑怯……とまでは言いませんけど、嫌いですね。そういうの」
チータの睨みを受け、ヒュドラは醜悪な笑みを浮かべて見せた。その笑みの意図を理解しているチータは、つい舌打ちをしてしまう。
チータが不利になる理由――それは、チータの目的が防衛であること。攻撃および撃退は、その目的を確実に達成する手段のひとつでしかない。そうなると、自ずと動き方に制限を設けてしまうものだ。
対するヒュドラには、その制限がない。抹殺対象を確実に始末してしまえば、後はどうでもいいのだから。
「そうなると、一撃必殺が求められますね……」
荒神といえど、人間を取り込んだ神霊ならば、必ず
だが、相手もそれは重々承知している。その証拠に、ヒュドラは先程から水流や頭部を発射するだけで、下手に青龍に近づこうとはしない。一方で、天候を操り、海を荒らすため、秀平たちを乗せたボートが移動できないような状況を維持することも忘れない。
しばらく、水弾の撃ち合いが続く。ヒュドラの攻撃は、チータに全て斬り落とされ、青龍の攻撃はヒュドラにダメージを与えられない。
(面倒な相手ですね)
実に嫌らしい相手だ。同時に、戦上手でもある。
戦闘において常套手段と呼べるものとは、いつだって相手が苦手とするものをいかに押し付けられるか、ということ。そして、事前にどれだけの準備を重ねて、その時の状況に応じることが出来るように備えられるか、だ。
以上の二点さえ抑えておけば、並大抵の相手に負けることはない。
「どうすれば?」とチータが悩んだ、その隙を、ヒュドラは逃さなかった。
全身を発光させ、八つの首を飛ばしてきた!
「なっ――」
それは、まるで雷の槍だった。ヒュドラの攻撃が青龍の掠めるが、あまりの鋭さに、姿勢を崩してしまった。
悲鳴を上げることさえできず、チータは宙に投げ出されてしまった。
ヒュドラは、勝利を確信した。確実に仕留めるべく、チータに向かって、司令塔となる中央の顔を近づけ、飲み込むべく大口を開いた。
(しまった――っ?)
だが、ヒュドラはチータを飲み込むことは出来なかった。
「グガ? ゴガガ?」
ヒュドラの身体が、宙に浮いている。無論、ヒュドラの意志ではない。
「これは、一体……?」
追撃を免れたことで、なんとか姿勢を整えることに成功したチータ。一度、海の中に沈むも、すぐに浮かび上がり、神力を利用して両足の裏に浮力を発生させ、海面に立つ。同じく、青龍もすぐにチータと合流し、彼女の身体をすり抜けるように通り抜け、彼女の傷ついた肉体の治癒を行なった。
「あっ」
チータは、ヒュドラを持ち上げている者の存在に気付いた。
ヒュドラの頭上、約十メートル離れたところに、小型の円盤のような、UFOのような物体が浮かんでいた。キャトルミューティレーションでおなじみの、物体を引き寄せるトラクタービームにより、ヒュドラを拘束している。
そのUFOは、黒い帽子をかぶっていた。
「秀平さん……!」
思いもよらぬ援護を受け、チータの表情が明るくなる。
神力は、それぞれ特徴が違う。もはや感覚の話になるので論理的な説明は難しいところはあるが、とにかくその神力を通じて、誰が発生させたものなのかは、一度完璧に記憶してしまえば、間違えることはない。
そして、その神力は、チータにとって最も馴染みある性質のもののひとつだった。
「ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」
ヒュドラが必死にもがくが、抜け出すには至らない。引力の方が強いのか、頭を撃ち出す戦法も取れずにいる。混乱しているのか、水を使っての戦法を取る素振りも見せない。
「これなら……!」
秀平が作ったチャンスを、無駄にはしない。
チータは、青龍を青龍刀に宿し、そこにありったけの力を込める。
そして、露出されたヒュドラの腹に、赤く怪しく輝く神核の光を見た。
「はぁぁぁ……ッ!」
チータの全身全霊の一撃――投擲された青龍偃月刀が、ヒュドラの神核を貫いた。
「ア、ガァァァ……」
ヒュドラの肉体はたちまち崩れ落ち、光の粒子となって消えていく。それに伴い、周囲の天候も元に戻り、雲一つない快晴となった。
「勝ちました……」
チータの体力は大きく消耗し、青龍が姿を維持できずに消える。そのまま海に落ちる――かと思ったところで、何者かがチータの腕を掴み、体を持ち上げた。
「スゥ……?」
「ないすふぁいと」
朱雀に乗ったスゥは、チータの手を引き寄せ、背中から抱き着いた。
「かえろ?」
「……うん、お願い」
ふたりを乗せた朱雀は、程無く彼女達の仲間と保護者の待つボートに辿り着いた。
◇◆◇◆
「あぁ、良かった良かった~……無事だったんだねー……」
「しゅ、秀平さん……!?」
戦闘を終えたチータを抱き寄せながら、無事を確認する。心音よし! 呼吸確認! 外傷も、目立ったものは見当たらない! ちょっと顔が赤くなっているのは気になるけど、熱は無いみたいだし、今は過剰に気にすることもないだろう。
ともあれ、みんな無事! 敵も倒した! 一件落着ってヤツですよ!
「あ、あの……!」
「がんばってね、よく生きて帰ってきた! えらい、えらいよチータ……!」
「ぁ、ぅぅ~……」
チータが震えているようだ。怖かったのかな? 「よくがんばったね」って言いながら、ひたすらチータの頭をなでる。
それにしても、金翼の欠片がもつ『創造』のスキルの応用力には、毎度のことながら驚かされる。
まさか、セイクリッドファントムを『変身』させるスキルまで使えるとは思わなかった。UFOに変身させたのは、単なるイメージ。飛行機とかじゃパワーが足りないって思ったからね。あのトラクタービーム以外では、威力低めのビームを撃つことくらいしか出来ないみたいだけど、これで行動の択が広がったな。
繰り返すけど、チータを助けられて、本当に良かった。
「シュウ、わたしもがんばった……」
「フーコだってやろうと思えば出来たもん!」
「ヒイキはやめろよなー」
背後から、スゥ達が俺の肩をグーで叩いてくる。
「わかってるよ。みんなも、ありがとうね」
ひとりずつ、頭をなでる。
スゥはチータの救出や治療をがんばってくれたし、シェンは援護射撃に備えていてくれた。フーコは……今回はよくわかんなかったけど、出番がないというのはその分楽を出来たということで、気楽に考えてちょうだいな。
「みんな、ありがとう! おかげで助かったよー!」
綱吉さんが、こちらに向かって拍手を送ってきた。
「予想通り、みんなすごく強いじゃないの! これなら、下手に護衛をつける必要も無いのかな?」
その瞬間、こども達は俺の身体にしがみ付いてきた。その様子を見た綱吉さんは、嬉しそうに笑った。
「大丈夫だよ! 秀平君には、これからも君達の世話役をお願いしているから!」
「ほんとー!?」
「そうだよ、フーコちゃん。秀平君が君達のそばにいる限り、僕達≪シーズン≫が君達の味方でいるものと思ってちょうだい!」
「うん!」
フーコが、俺の頭に頬を擦り付ける。
「君達はただ、穏やかな生活を送れるようにしてくれればいい。君達のいう施設を始めとした困ったことには、僕達のような大人が対応するからさ」
「……ボクたちは、何もお礼が出来ません」
旨すぎる話だと思ったのか、チータが訝しむ目を綱吉さんに向ける。まぁ、彼女達からすれば、一方的に「助けてあげる」と言われているわけだから、すぐに信じられないのも当然か。
「君の警戒はもっともだが、どうか信じてほしいな」
しかし、そこは姉ちゃんが苦笑しながら補足に入る。
「君達が秀平の中の金翼の欠片に引き寄せられたこと。これは、きっと偶然じゃないはずだ。金翼の欠片が君達を求めていると解釈することも、出来るかも知れない」
「そう、なんですか……?」
「そう。それはつまり、秀平には君達が必要だということなんだ」
「「「「…………」」」」
目を丸くするチータ達を前に、姉ちゃんが俺を指差す。
こども達が、同時に俺の顔を覗き込んできた。その目に込められた感情は、期待か? 不安か?
どちらにせよ、俺の答えはひとつだけだ。
「うん、本当だよ」
何度目になるかわからないけど、大事なことだから何度でも言う。
「俺がこうしていられるのは、みんなのおかげだからね」
それは、本当のことだ。チータ達に限った話じゃない。
人が生きていることには、必ず何かしらの意味がある。
一度は自殺なんて馬鹿な真似をしようとした俺ですら、出来ることがあった。そう思えるようになったんだ。
チータ達だって、きっと……。
「お礼は出来ないと話していたけれど、ちゃんとあるよ」
綱吉さんは、俺の肩に腕を回してきた。
「それはね、君達が秀平君と一緒に生活してもらうことこそだ! なんか、自殺しようとしてたらしいし、もし今度そんな風に彼がへこたれそうになったら、君達が守ってあげると良いと思うんだ」
「はい、わかりました!」
「まかせて……!」
「フーコ、がんばるね!」
「オイラがいれば百人力よー!」
綱吉さんの提案に、こども達は張り切って頷いた。
頼りないって思われたのかな? あはは……。
「よーし! じゃあ結論が出たところで、明日からは本格的にお前らに働いてもらうからな!」
「えっ?」
姉ちゃんからの急な指示に、思わず変な声が出た。基本的には普通に暮らしていればいいって話だったんじゃないの?
「想定以上に、神霊を使って悪だくみしてるヤツが多いみたいだしな。今日だって、本当なら他のメンバーとの顔合わせをさせたかったってのに、みんな緊急対応で各方々に飛んでもらう破目になっちまってるんだ。お前だけ楽しようったってそうはいかないからな?」
「なんてこったい……」
こういう話の運び方は、どこの会社でもあるもんだよね。
まぁ、これが俺に出来ることだって理解はしているし、何より綱吉さんの仕事の手伝いが出来るわけだし、何よりチータ達の安全を守るための戦いでもある。
文句ばかり言ってるわけには、いかないよなぁ。
「じゃあこんどはフーコがてつだう!」
「えっ?」
「フーコだってつよいって、おにーちゃんにおしえてあげる!」
そう言って、フーコが俺の首筋に甘噛みをしてきた。別に、そんな風に思ったことはないんだけど、こればかりは本人の気持ちの問題か。
「ついてくるのは良いけど、無理はしないようにね」
「それ、シュウにも言えること……」
スウが、俺の頭を胸に抱いた。ちょっとだけ、ふんわりした感触がした。
「たぶん、シュウは無茶するタイプ。わたしがいなきゃダメなタイプ」
「そ、そんなことないんじゃ――」
「ま、頑固なタイプではあるよなー」
「シェン、お前まで……」
シェンが、俺の肩に手を置いた。
「まぁでも、心配すんなって。オイラも手伝ってやるからさ!」
「ボクも、一緒に頑張ります」
俺の腕の中にいるチータが、柔らかい笑みを浮かべていた。
「ボクは……今の暮らしが、好きなんだと思います。でも、それを邪魔する人達がいることも知ってる……だから、守れるようになりたいんです」
「今日もやられそうになったもんな?」
「ま、まぁ……否定はしません」
シェンからの痛い指摘に、チータはわずかにそっぽを向く。
でも、そっか。
みんな、同じ気持ちでいてくれるんだね。
「なら……俺達は、チームでがんばります。みんなも、それでいいか?」
「はい!」
「んっ!」
「うん!」
「お-!」
こども達は、笑顔で頷いた。
その純粋無垢な姿に、俺と綱吉さん、姉ちゃんでさえも、つられて笑みがこぼれた。
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