後に残されたモノたちの述懐
「偉い政治家になってみんなを幸せにするんでしょ!? だからダメっ……、ダメよっ、こんなところで死んだりなんかしたら絶対に、絶対にダメなんだから……!!」
失われていく熱が何を意味しているのか、それが分からない
だけれど信じていた。
まだきっと何とかなると信じていた。
今まで
だのに、だのに、そんな人の鼓動が弱っていく。
信じたくなかった。目の前の現実を信じたくなかった。
だから
だというのに、
「何よっ……、何よその表情は……。そんな悟ったみたいな表情しないでよ……」
「生きて……、幸せになるのよ……?」
まばらな呼吸を整えることもないままに
本当はもっと言いたいことは沢山あった。
生きて自分の力で自分の願いをかなえるのよだとか、お姉さんの代わりにあなたがみんなを幸せにしてあげてねだとか、こんなところじゃなくってもっと楽しい場所に遊びに行きたかったねだとか、あんまり一人で抱え込まずにちゃんと誰かに相談するのよだとか。
だけれど、そんなことをいう余裕はもうない。
その上、きっとあんまり多くを語れば
根本的なところがすごく真面目な性質である
だからただ、本当に大事なことだけを掠れる喉で震える唇で言葉にする。
「何言っているのよっ!! そんな今わの際の遺言みたいなこと言わないでよ……。やだっ……、やだよ……、だめっ、ダメ、だよ……」
そしてするりと
冷たい手。
血液の流動が止まった手。
脈拍の感じられない手。
温もりの消えた手。
もうすっかりと命が抜け落ちてしまっていた。
「うそよ……、うそっ……、やだっ……、やだぁ……」
命の無くなる確かな実感が、
どうしようもなく。
そう、もうどうしようもなく、終わっていた。
「ばか……、あんたバカよ……」
冷えていく物言わぬ屍の上に
AM 05:03
「ハシちゃん、
ぐったりと動かない
その少し後ろで
「生きているの……?」
「いや、亡くなってる」
「そう、こっちも同じ……。良かった、私その人が生きていたら何をしでかすか分からなかったと思うから」
昏い表情の
明らかに無理をしている。
それは分かっているのに
「そっか……、そっか……」
何せ彼も
だからゴウンッ!! と側頭部をハンマーでぶん殴られたような衝撃を受けて身体が硬直し抱えている
よろけそうになる足を何とか踏ん張って堪え、前へと踏み出し、そのまま
「……、なんでここに置くのよ……」
「死体まで粗末に扱う必要はないっしょ。それにどういう理由なのかは分からないけど、この人は
「そっ……」
それっきり三人は押し黙ってしまう。
ただだからといってこの場にこのままとどまり続けることは出来ない。
だから――、
「そろそろ移動しよう。ついてきて、安全そうな場所に案内できるから」
「っす。お願いしやす」
「……、」
彼女は躊躇いがちにその手を取り、体重を預けるようにして立ち上がる。
それから
向かった先は滝の根本。
「この滝の裏に洞窟があってね。ミサキさんには奥に隠れて貰ってるんだ」
彼はほとんど崖に張りつくような格好になって滝の裏側に入る道筋を指し示す。
「先輩流石っスね!! ってことは、ずっとここに隠れてたんすか?」
「うん、そうなるね。本当は
「いやそんなっ!! 先輩が無事だったんなら俺からはそれだけで本当にいうことないっすよ」
三人は岩壁に身を貼り付けてソロリソロリと滝裏へと進んでいく。
ゴゥゴゥと流れる水の音を通り抜けると、そこには薄暗く湿っぽい岩の洞穴が広がっていた。
洞窟の入口の少し先の壁に現代では中々お目に掛れない松明が立てかけられ、入口近くまで明りを届かせている。
「暗いから足もとに気を付けながら付いてきて」
先導するために先を進む。
「うっす。ハシちゃん、足もと分かんないし手でも繋ぐ?」
「……、そうね、お願い」
「うっす」
暗い一本道の洞窟を三人はゆっくりと進んでいく。時折岩肌にキラリと松明の光が反射されて僅かなプリズムが混じっていることが窺える。少しばかり掘ってみたりすると水晶の類が採掘できたりするのかもしれない。
しばらくの間無言で進んでいると、
「そう言えば、アンタは特にこの島に来た目的がないって言ってたわよね」
ぽつりと
「そっすよ。俺はナンパし放題のビーチって聞いたのと先輩に誘われたから来たってだけ」
「改めて考えたんだけど、私だけ目的を話してないのって、不公平かなって思って……。だから、話しておきたいの、私のこと」
「どうぞ」
頷いた
「もしかしたら気付いてたかもしれないけど、私は実は結構いいところのお嬢様なの」
「あー、もしかして
「流石のアンタでも知ってるのね。そう、私はその
「つまり……、みんなに認められるって願いを叶えたかったってこと?」
「違うわよ。そんな洗脳みたいな願いの叶え方をしたって私自身は絶対に満たされないじゃない。私はただ欲しかっただけなの、なんでも願いを叶えられるさざ波の秘宝が」
「叶えるべき願いはないけど、願いを叶えられる秘宝が欲しかった?」
「そう」
「……? それって何のためなんすか?」
「落ちこぼれのレッテルを見返すために、かな。私はただ見返したかったの、ただの落ちこぼれじゃないんだぞって、証明したかった。ただそれだけなのよ」
劣等感の払拭。
それが
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