こんなの一体どこに逃げ出せばいいっていうんだよっ!?
げんなりとした表情がぐにゃぁっと驚愕で彩られていく様に
流石にそこまで表情を変えられるようなことを言ったつもりはなかった。
「違うっ違うぅぅ!! 後ろやばいかも……!!」
ワナワナと唇を震わせた
随分と控えめな動作だな、なんて思いながら
それは海の中からぬらりと姿を現して来ている。
他の
ただ大きさが異様だ。
今まで見たもっとも大きなモノで二メートルと少し程度だった。だのに、今海からぬらりと立ち上がらんとしているモノはその二メートルと少しの有に五倍はあろうかという大きさをしている。
形としては頭に猛禽類を思わせるような巨大な翼があり、謎の鋭い二本角が生えたイカ、とでも表現すればよいだろうか。
ただイカ自体は種類によっては十数メートルほどの巨体に成長することはある。しかしそれは海中という地上とは自重の掛かり方が違う環境育生されるからこその大型化だ。
では、今目の前にいるモノはどうだろうか。
確かに半身は海面下に潜っている。だけれどもう半分、つまり頭頂部とそこから生えた翼と角はバッチリ完全に海上部分にせり出している。もういっそ直立していると言い換えたっていい。
何をどう考えたとて自然界のイカの軟骨であの巨体を海上縦方向に晒して支えきれるわけがない。
であるにもかかわらず、海面から半身をむき出しにした状態で、うねる触腕をぐねりぐねりと動かしてこちらへ向かってくる。
そして向かってくる一体がいるということは、別方向からも別の
「あ、あはははは……」
「笑ってる場合じゃないでしょ……!! ほらっ、とっとと逃げるわよっ!!」
キュッと唇を一文字に結んだ
生き延びるのであれば、確かにあんなモノとはまともに相対してはいけない。
逃げるのが絶対に正しい判断だ。
だが――、
「前からも後ろからも追い込まれたらどうにもならないわよ。だから、二人は進みなさい。アレはお姉さんが食い止めておくから……!!」
「ちょっと、何言ってるのよっ!?」
「大丈夫よ、お姉さんは自称正義の味方だからね。それよりも、二人はちゃぁんとしっかり生き延びないとだめよ? 後から追いかけてどっちかが倒れてたりしたらお姉さん許さないんだから。自分で言うのもなんだけれど、怒ったら怖いわよ~?」
言葉の後にもう
「とにかく今は逃げて、あなたの敬愛する先輩とちゃーんと合流しなさいね」
それでも、何も言わず、ただ一度だけ深く頷いて、躊躇う
「ちゃんと生きて追いついてきなさいよっ!! 絶対よっ!! 絶対だからねっ!!」
「うふふ、お姉さんもちょーっと張り切らないとダメかしらね?」
先ほど海面突入のときにぶっつけ本番無茶ぶり上等で挑戦してみて分かったことがある。
それはこの配られた"力"というモノは随分とフレキシブルであるらしいということだ。
例えば、
より分かりやすくするならば、既に存在している水に指向性を入力することで向きや勢いを操ることが出来るようになるという代物。
使ってみた感覚的には大きな質量にまで介入できるが元となる水が手元に存在していないと全くの無能力と大した違いはない。
扱える出力の大きさとしては自分に渡されたものが最大値なのだろうと、
これほど明確に不完全になるように調整された"力"については思うところがある。
あくまで想像の域を出ないことだが、恐らくは本当にバランス調整のようなものなのだろう。
殺しに最適化した便利な能力でお手軽に殺し合いをさせるというのは、あのアナウンスの声がいう『楽しい殺し合い』という枠組みから外れてしまうのかもしれない。一生懸命頑張って戦っているのが見たいということなのだろうか? であれば、首謀者は相当に性格が悪い。
いや、こんな殺し合いゲームを仕組んできている辺りどちらにせよ性格が終わっているのは変わらないか……。
今目の前にいる無数のバケモノたちを次から次へと作り出し続けてられるような相手が首謀者なのだし、恐らくはやろうと思えばもっと完璧に近い形の"力"を作り上げることだって出来たはずだ。いや、出来ないわけがない。
とすると恐らくは個々に渡した"力"の強弱についてもスパイスやフレーバーとしてあちら側に取って都合のいいように調整されていると考えた方が良いはずだ。
どうしてそんなことをする必要があるのか、という部分については全く分からない。が、少なくとも
ふっと、息を吐きだして足もとを濡らす波に意識を集中する。
始めは手で触れていないと上手く扱えない、と思っていた。思い込んでいた。
だけれど、それは違った。
さっき遮二無二に実践してみたから分かる。
かなり出鱈目なのだ。
海水に浸る足から海水に指向性を持たせ、練り上げ、立ち上らせて、大質量の海龍を作り上げていく。
あの巨大なイカに負けない大きさの海龍だ。縦に長く、渦潮の化身のような水の龍。
さっき強引に波を操って身体を無事海岸まで運ばせたのと要領は同じだ。
出来ないわけがない。
「おっ、りゃぁぁぁっぁぁぁぁ!!」
ゴゥンッ!! と海面が立ち上がり、
一体だけではない。
総計、五体。
やっていることは一〇メートル級の巨大な水の柱を五本作り出し維持して適切に操作するのと変わらない。
与えられている力の最大出力が一体どの程度あるのか、
「折角だし、雨が降って雷が落ちてきたりすると雰囲気でそうなんだけどね」
軽口と同時につつぅっと鼻血が出て、ちゃぽんと海水に溶けていく。
呼吸をするたびに鼻の奥に血の匂いがこびり付いて、少々気持ちが悪くなる。
だけれど、一旦見て見ぬふりをして、作り上げた三体の水の龍をイカのバケモノ目がけてけしかける。
イカの触腕がうねり角が振り乱され翼が力強く羽ばたき、水龍の身体をバシャンッ!! バシャンッ!! と弾けさせ、水龍も水龍で負けじと身体全体を大きく使って叩き、縛り、頭突きをし、噛みつく。
さながら怪獣大決戦か。
ただ片方だけに集中しているわけにもいかない。
先に行かせた
「はぁぁぁぁっぁっ!!」
だから一層気合を込めて発破の声を上げて、残った二匹の水の龍を二人を追いかけていく小型の
巨大な水龍の頭がズバシャンッ!! ドバシャンッ!! と陸に激突して弾け、その衝撃で辺りの
その飛び散った頭を即座に再生させ、同じことを何度も何度も繰り返す。
そうすれば自然と彼らの意識は
相当数の
「お姉さんこれでも結構美人な自覚はあるのよね。だから人に注目されるのは慣れっこなんだけど……、この数はちょっーっと多いかなーって!!」
大きく豊満でダイナマイトなセクシー水着の胸元へ軽く手を当て軽口を一つ。
そして
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