激突!! ドスケベスリングショットVS妖艶白髪スレンダー!!
PM 17:25
「あら、もー逃げられちゃった」
立ち上がり、ワンピースの裾を軽く叩きながら手足の様子を確かめるようにして
「その割にあんまり残念そうには見えないのよねぇ?」
「そりゃぁ、邪魔が入らないなら邪魔が入らないで少しは楽しいかなって」
「そんななりしてる割りには随分と……、少年漫画みたいなことをいうのね」
「私好きよ、少年漫画。みんな命削って一生懸命生きている感じがして」
「そ? 少年漫画だったら、こういうときは急に知らない敵が出てきて共闘することになったり、何のかんの見逃してくれたりするモノじゃない?」
「それとこれとは話がべーつ」
まるで些細な茶目っ気を出してみましたと言わんばかりな声色と同時に足もとに転がっている小石をパスンッと蹴り上げた。
鋭く蹴り上げられたソレは
けれど
即座に軌道と狙いを見極めて小さく首を振ることによって小石の飛来を回避する。
同時に両者の足がダッ!! と音を立てた。
それでも両者には大きな違いが一つある。武器を手に持っているかいないか。
対して
ガツンッ!! と鈍い音が響く。
振り上げられたモンキーレンチが
「いっ、つぅ……!!」
「アハッ!! 武器抜いた方がいいんじゃなぁい? 腕の骨折れちゃうよぉ?」
「余計なお世話よ……!!」
顔をしかめながらも受けたレンチに対して素早く腕を跳ね上げて、側面に握り込んだ掌底を打ち付け、弾き飛ばす。
ミシミシと腕が痛んだが、今はそれに気を取られていていい場合じゃない。
「ここっ……!!」
隙を見逃すまいと、レンチを受けた腕とは逆の腕を下から押し上げるように使って正確に正中線中央、みぞおちへと真っ直ぐ穿つ。
絶対に躱せないタイミングだという確信があった。
だのに、シュルリとしなやかに
「あっぶなぁーい。やっぱりあなたがいっちばん手強い相手って考えは合ってたみたいねぇ」
スンッと両足を上手く地面に付け直し、暇を持て余してペン回しをしているときのようにクルクルと大仰な動きでモンキーレンチを振り回した。
腕の痛みと痺れが当初の想定よりもずっと長引きそうな予感に歯噛みした。
あんなに細い身体ではいくら金属の塊を振り回されたところでそれほど大した加重は掛からないと踏んでいたのだ。しかし、どうやらそれは侮りだったらしい。
「……、見かけ上の筋肉量、質量とインパクトの瞬間に掛かった加重が違い過ぎるわ。ということは……、大体推して知るべしかしらね」
「あらぁ、鋭ーい。でもカラクリが分かったとして、対処する方法ってあるのかしらねぇ? クマと対峙した人間に取れる選択肢ってあんまり多くないわよぉ?」
「そうね。もしあなたの"力"がお姉さんの想像通りのモノだとすれば、小手先の対処法で無力化する、みたいなことは出来ないでしょうね」
「じゃあどうするのぉ? 少しはやる気になってくれると嬉しいんだけどなぁー。例えば、そのナイフを使うとかさぁ!!」
出し惜しみされて楽に勝てるのであればそれでいい、という割りきりのない反応だった。
「あなたは望みを叶えたいの? それとも本気の殺し合いがしたいの?」
「どっちもっ!!」
純真な笑みだった。
純粋な獰猛さを宿し狂気的な高揚感をまとった極上の笑み。
小さな子供が時折見せる無邪気な悪辣さを感じさせるような笑い顔。
「殺し合いをするつもりなんてこっちには毛頭ないのよね。だけれどね、あなたをこのまま放っておくのも危なっかしくて仕方ないのよ。だから……、お姉さんも使わせてもらうわ」
溜息が一つ。
ゆっくりと地面に膝をつき、指先をぬかるんだ地面へとつける。
「っ――!!」
ぐっと腹筋に力を込めてぬかるみにつけた手をぐぃっと上へ持ち上げる。
まるで泥が指先に付着したみたいに隆起する。
いや、違う。
始めは地面を巻き込んでいたが、それは数十センチの間だけ。
そのあとは純粋に大質量の水が手元に引っ付いて持ち上げれられている。
「わぁおっ!! 見るからに凄い出力量っ!! どうかなぁ……!! そんなのぶつけられたら大変なことになっちゃうなぁっ!!」
「でもそれで何が出来るの!? その質量は手元から離しても操作が効くの? それともその中に私を捕まえちゃう?」
興奮した犬のように肩を怒らせて
ギュゥと握りしめたモンキーレンチが見定める先は左半身だ。右半身側に攻撃を加えようとしても手元の大質量の水を操って防御される可能性が極めて高いと判断したのだ。
ただその動きは分かりやすかった。
だって、誰だってそうするのだ。
相手が掌握している大質量のモノにわざわざつっ込んでいきたいなどと思う酔狂な輩はそう多くはないのだから当然と言えば当然だ。
故にするりと半身がズレる。
身を躱して、くるりと身体を反転し、跳び掛かってきたその背中に向かって手元に吸着している水の塊を叩きつけるっ!!
ドパンッ!! と強烈な衝撃が
「カハッ……!!」
強引に息を吐かされながら、勢いよく前方へとつんのめる。
だけれど身体が地面にぶつかることはなかった。
そのまま水の塊がぐわんっと彼女の身体を飲み込んでゴッ!! と流れていくのだ。
流れていく先は今しがた
「はぁ……、はぁ……。悪いけど、そのまま流されてしまってね」
手元から離れた水の勢いがどの程度持続し続けるのかは
出来ればこのままタイムアップのその瞬間まで再会せずにいられることを願うばかりだ。
PM 17:36
「あら、こんなに近くにいたの? ダメじゃない、もっと遠くにいかなくっちゃ」
髪も肌も水着もびしょびしょに濡らした
その姿に二人は顔を合わせてほっと安堵の息を吐き出す。
「よ、良かった……。本当に良かったぁ……」
「心配したんすよ……!! 無事でよかったっす……!!」
「あらあら、ごめんなさいね。そんな顔させるつもりなんて全然なかったんだけどなぁ。自称正義の味方がそんなに簡単に負けるわけないじゃない。どんと任せて信頼しなさい?」
今にも泣き出しそうな二人の表情を見て、
それはこれまで彼女が生きてきた世界観では考えられないような純粋すぎるくらいに純粋な優しさだった。
本来世界は良いことも悪いことも一辺倒ではない。
ただそこには少しばかりの偏りがあるというだけの話。
そしてだからこそ、心の内に恨みが募る。
どうしてこんな子たちとの出会いが、こんな意味の分からない殺し合いゲームの渦中で無ければならなかったのか、と。それはどこの誰なのか分からない首謀者への恨みであり、そしてこの状況自体への恨みでもあった。
「ほら、ほら、早く動いた動いた。もっともっと距離を作っておかないと、後から追いかけてこられたら怖いでしょ?」
「追いかけてくるんすか……?」
「生きてるはずだから、まぁ多分五分五分ってところかしらね」
「す、進みましょう……!! とにかく前にっ……!!」
そして三人は
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