早速かっ!? 早速始まっちゃうのかよっ!?
PM 14:16
「や、やっと追いついたよぉ……。待って、待ってよ
常夏島南西方向の河口と浜辺の丁度中間あたりに広がる葦の原で、
クルーザーを下りてすぐに一時的に見失ってしまったけれど、どうにか合流することが出来て一安心、
「って、ちょっ!? ちょっとぉ!! おーいっ!! 聞こえてるでしょー? 止まって!? 止まってってばぁ!! ねぇっ、
と思ったのは束の間で、肝心の
「
だけれど、お互いの距離は全然縮まらない。
それどころか、徐々に徐々に開いていく。
当たり前と言えば当たり前の話ではある。何せ
だから、どれだけ
「分かった。分かったよ……!! 振り返ってくれなくてもいいっ!! だからさ、うんともすんとも言わないのだけは止めて欲しいなぁって!! ねぇ!? 私たち友達じゃないっ!! 私……、そういうことされると寂しいよ」
ヒーヒー言いながら草をかき分けて、一生懸命声をかけて、追いかけているのに、てんで無反応を決め込まれたら流石の
そしてついに――、
「ねぇっ!!
呼びかける声に怒気が込められる。
そんな声が自分の喉から飛び出してきたことに対して
その瞬間、
そのまますっと振り返った彼女の目は冷たかった。
冷たく、蔑みの感情に満ちた目で、
「なっ!? なんで、そんな目で見るの……? なんで……」
「あぁ、悪かったわね。あなたも知っての通り、私って隠し事が下手なタイプなのよ。あなたと違って」
「えっ!? は……? な、何言ってるの……?
「あなたの言い分も聞かないうちから決め付けるのは良くないっていうのは分かっているのよ。でも……、あなたよくそんなことを堂々と私に向かって口にできるわね?」
決して、そう決して友人に対してこれほど強烈で明白な敵意を向けるような人ではなかった。
「な、何言ってるの?
だから
「教えてもらったのよ、本当のことを。あなたが……、いいや、アンタが今までやってきたことの全部をさ」
「今までやってきたって……? そんな私はそんなに前から
「あはははっ!! 流石すっ呆けるのが上手いわねぇ……。そんな風にしてずっと私のことを騙してきたんでしょ?」
「なっ!? 何言ってるのっ!? 誰に何を言われたの!? 親友の私よりその人の方が信じられるっていうの?!」
「あくまで白を切るつもりなんだ……。じゃあ、中学の時、クラスの子の財布の盗難をでっちあげてその罪が私にいくように誘導したのはアンタなんだってね?」
「なっ……!? えぇ……?」
「それから高校の時、私に告白してきた男の子に片っ端から別の女の子を色仕掛け要員としてぶつけてたんだってね?」
「それって……?」
「今私が背負ってる借金も元をたどれば、アンタが根回しして彼氏に背負わせて、そうして蒸発するように仕向けたんだってね?」
「なっ、……、なんなの? なんのことを言ってるの……?」
「何のこと言ってるの? はおかしいでしょ。私はちゃんと伝わるように言ったじゃない。それとももう一回言わないとダメなのかしら?」
ふわりと風が葦の原を薙いだ。穂先の擦れ合う音が騒めく。
「……ちっ!! アイツ、裏切りやがったのか……」
その言葉を皮切りにするように怯え、困惑していた
「それじゃあ認めるんだ?」
「どうせアイツのことだし、口頭で情報だけ伝えるなんて温いことはしてないんでしょ?」
「……、よく分かってるじゃない。しっかり証拠の音声データと証拠写真、それから契約書の写しの一部分まで差し出してもらったわよ」
「ちっ……!! 本当に余計なことをやってくれる……!!」
舌打ちと共に吐き捨てられる忌々し気な感情は、だけれどどこか歓喜が滲んでいるようにも感じられた。
「私とアンタのよしみだし、弁明やいいわけの一つ二つくらいは聞いてやってもいいよ?」
「生憎だけれどね……、あなたに懺悔するようなことは一つもないわぁ」
「……、そっ。じゃあ今までの私の不幸を喰らって死ね!!」
「いやよ。だって私はあなたの苦しむ顔を見るのが好きなんだものっ!! 死んだらあなたの苦しむ顔見れなくなっちゃうじゃないっ!!」
「何か御大層な理由でもあったのかと思ってたのに……、そんなことなの……? そんな理由で裏で手を回していたっていうわけ……?」
本音と思わしき
語られた全ての行為はただただ
「そんなことじゃないよっ!! 私ね、大好きなのっ!!
何かそこに利益があるというのならば、許すことは出来ないとしてもまだ理解することは出来たかもしれない。
だけれど、損や益なんてモノは一切存在していなかった。
「クソ野郎よりも質が悪いわ、アンタって……」
今まで理解しあえていると思っていた分、失望は大きかった。
親よりも兄妹よりも、誰よりも、分かり合えていると信じていたのだ。
だのにそれはただの錯覚、勘違いに過ぎなかった。
「アンタの裏切りにずっとずっと気付いてなかっただなんて、おマヌケすぎて嫌になるわね、本当に」
「アハッ!!
葦の穂先を握っている
「死ね」
一言と共に引き金を引くように手首が跳ねる。
パカンッ!! と指先から放出された何かが真っ直ぐ
ドパンッ!! と衝撃で
「もー、ちょっと痛いでしょ? それに不意打ちするなんて卑怯よ、
びっしょりとずぶ濡れされてデロリと化粧を剥がされながら
「チッ……!!」
舌打ちと共に
「
ただ、こんな状況の時にどういう風に対応すればいいのかについてはさっぱりと分かっていなかった。
何せ
「
何をしようにも
しかし、どうやって見つければいいのかについては皆目見当もつかなかった。
それが人を操って人を不幸にして、甘い蜜を舐めるように他あの死んでいた女の限界値。そう、根本的に自分自身が矢面に立つことに慣れていない。
それでもどうにかしなければいけない。
どうにか出来なければ、一番楽しい愉悦の時間を無に帰す羽目になってしまう。
「うぐぅ……!! 痛ぁっ……!? ちょこまかちょこまか、あっちこっちからぶつけてきて……!! せせこましくってイライラするわっ!!」
どうすればこの状況で有利を取れるかを考えたいのに、ガサガサ音が立つ葦の影から次から次へと水のつぶて襲い掛かってきて、思考をまとめることが出来ない。
一発一発の威力は軽いゴムボールを全力投球される程度なので、肉体的なダメージとしては然程大きくはない。ただそれでも当たれば痛いし、衝撃で頭や身体を大きく揺らされると思考が鈍る。
バシャンッ!! と一発まともに顔面から喰らって、大きくよろけ、葦の原の中へベチャリとつっぷす。
「うえぇぇ……。泥が口の中に入ったぁ……。あぁ、でもイイコト考えちゃったぁ!!」
そして、
それで状況はイーブンだ。
一旦この状況をキープしつつ、何とかこの状況が打破されないうちに次の手を考える必要がある。
ただ、屈みながら動いてみて分かったことがいくつかある。まず一つは、中腰で葦の中を移動し続けるのはかなりしんどいということ。そしてもう一つ、葦の原に身を顰めるということは尖った葦の葉が肌のあちこちに触れるということ。気を付けて動いても結構簡単に小さな切り傷がついてしまう。
元々の運動能力の差から考えてもこの状態をキープし続けたとして、先に体力が尽きるのは
とにかく体力が尽きる前に
そう考えると自然と
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