2nd day's

お前は誰だ!? 勝手にゲーム開始の宣言をするんじゃないっ!!


AM ??:??


『えー、えー、あー、あー……。テス、テス。うーん、よしよし乾度良好、明々、爛々。皆様方お初にお目にかかりますです。どうもこんにちはそう吾輩がゲームマスターです』


 もう本当に突然目の前に現れた彼は、曖昧模糊で非常に中性的な声で語り、変な流暢さで手を振っていた。


 右手左手、どちらにもマイクのようなモノが握られている形跡はない。


 不思議どころか奇妙な存在だ。


 先ほど彼と称したモノの、実のところ目の前に立つこの人物が男なのか、女なのかを判別することは全く以てままならない。


 服装こそ白いラインで超模様の入ったカラスのように黒い半纏と同系統の色柄の短パンを穿いているので、なんとなく男の子のような気がしなくもない。


 だけれど、それを押して余りあるほどに中性的な雰囲気を纏っている。


『皆様方はこの常夏島に眠るさざ波の秘宝から存在を認知されました。よってこれより皆様には平等に秘宝を手に入れる権利が与えられることになります』


 特定の何らかの集団へ向けて話をしているというのに、あって然るべきなはずのレスポンスは一切なかった。


 ただ彼だけが言葉を伝えることを許されているのか、一方的に言葉を続けていく。


『ゲームの期間は三日間。その間皆様方はこの常夏島から外に出ることは許されません。端的に申し上げれば、脱出不能の無人島に閉じ込められたとお考え下さいませ』


 通告か、あるいは勧告か、ただ彼の言葉だけが語られていく。


『その代わりと言ってはなんですが、皆様方には最大で一つ贈り物をさせていただきます。どうぞ謹んでお受け取り頂ければ幸いでございます』


 大仰に恭しい所作で以て深々と彼が頭を下げる。


 そしてゆっくりと再度立ち姿まで戻ってから、次の言葉を繋げていく。


『ゲームルールは至ってシンプル。皆様方には殺し合いをして頂きたく思います。勝利条件は最後の一人として生き残ること、そしてこちらからお送りさせて頂きました贈り物を一人で四つ独占すること、この二つのいずれかを満たすこととなります』


 必要なことを語り終えたとでも言うように、言葉のすぐ後で彼の姿がフッと消え去る。


『大丈夫、ご安心くださいませ。痕跡は何も残りません、そう何も。故にゲーム終了までは何をしても許されます。ゲームが終わった後に皆様方が何らかの罪に問われることもありません』


 だけれど、語る言葉はさらに紡がれ、消え去ったはずの彼の姿がもう一度フッと現れ、内緒話をするかのように自身の唇に人差し指を軽く当てる。


『これほど平等なチャンスもありません。皆様方の願いはきっとさざ波の秘宝が叶えてくださることでしょう。奮ってご参加下さいませ。生き残るために尽力してくださいませ。あぁそれから最後に一つ。このクルーザーの中だけは中立地帯ということに致しましょうか。争いごと、厳禁ですよ?』


 そしてまたパッと煙のようにその姿は消え去ってしまう。


『期待しています。皆様方のお望みが叶うその瞬間を』


 言葉とその余韻だけを残して彼は影も形もなく消え失せた。


 叫んだモノがいて、笑ったモノがいて、顔を歪めたモノがいて、舌打ちをしたモノがいる。


 誰も彼もの心にしこりを残して消えていった。


 それはまるで打ち手のいない釘がただ独りでに壁に突き立てられ、そのままの状態で放置されているかのようだった……。

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