お宝は見つからない!! 先輩は見つけたっ!!


「そ、それならスリーサイズをっ!!」


 セクシーお姉さん極楽鳥ごくらくちょうのなんでも答えるの言に最初に疑問を口にした玄道くろみちよりも加成谷かなりやが鋭敏に反応した。ナンパ目的で常夏島にやってきた加成谷かなりやにとってはとても、とっても重要なことだった。


 しかし――、

「アンタはちょっと黙ってなさいっ!!」

「へぶっ……!!」

 即座に小鶴瓶こつるべに脳天にグーパンを叩きこまれて沈黙する羽目になる。


 どう考えてもいくらなんでも答えると言ったからといって話の腰を折って即座にスリーサイズを聞きに行くヤツが悪いのは間違いないので、正義の鉄拳だった。


「えぇっと、その、ずっと歩いてますけど、何かアテでもあるのかなー、なんて……?」


「アテ? そんなのがあるんだったら、わざわざみんなで行動しないに決まってるでしょ?」


 あっさりとした返答だった。


 さらりと他意なく、正直すぎる答え。


 だから加成谷かなりやは言葉の意味を理解するのに一拍かかった。


「……えぇっ? アテなかったんすかぁ?!」


「当然でしょー? そもそもアテなんてものがあるのであれば、今の今まで全くの手付かずのままにされてるはずがないでしょーに」


「ん? んんー? うーん、言われてみれば確かに……? いやっ!! でもそれならどうやって見つけようって言うんすか?」


 極楽鳥ごくらくちょうの言ってることはもっともではあった。もっともではあったが、なんじゃそりゃという思いも同居してしまう。


 故に分かったような分からなかったような、納得出来るような出来ないような、何とも中途半端な気持ちにされられる感じだった。


「そりゃ決まってるじゃない。今日から帰りまでの三日間の間にフルに足を使って探すのよ。この常夏島を上から下まで頑張ってくまなく探していくの」


 力業だった。


 人力頼みの力業。人海戦術をするにしても些か人数が足りていないと言わざるを得ない力業。


 だというのに、玄道くろみち小鶴瓶こつるべも別段落胆する様子は一切見せなかった。


「あれ? ハシちゃんもハトちゃんも意外と平然としてる……?」


「この人が私より情報知ってたらラッキーくらいは考えていたけど、まあ別に大方予想通りなのよね」


「そもそもあると言われているだけで、どこにあるとかどんな場所にある、だとかは全く何にも手がかりナシでしたからね……」


 小鶴瓶こつるべ玄道くろみちは目を見合わせて頷き合う。


 どうやら示し合わせなくとも加成谷かなりや以外の三人の見解は始めから一致していたらしかった。


「手がかりのないモノを探し出す、なんて……、超絶大変じゃないっすかー」


 特にさざ波の秘宝を求めていないただ一人の男、加成谷かなりや堂佶とうきつは楽観的にそう呟く。そして内心で「しっかし、あるんだかないんだか分からないようなモノを彷徨い探すっていうのは……、心とか持つんかな……? はっ……!! もしや心が折れかけた女性にそっと優しく寄り添いに行くのがチャンスなのでは……!!」などと益体のない割と最低なことを考える。


 しかし加成谷かなりやと女性陣とではそもそもの目的意識が全く異なるので、致し方ないことである。


 女性陣の目的がさざ波の秘宝というお宝を見つけ出すことであるように、加成谷かなりやの現時点での目的は、敬愛する我等が先輩、瑠璃斑るりまだら遊馬ゆうまとの合流し水着美女を何とかナンパしてお持ち帰りすることなのだから。


 願いに貴賤はない。


 ……本当か?

 本当に願いに貴賤はないのか?


 その答えはきっとこの地に眠るモノだけが知っている。


 そうしてしばらくの間霧の立ち込める木々の合間を進んでいけば、ざぁぁっという川のせせらぎの音が聞こえてきた。


「水の音ね」


「もしかしたら近くに川があるのかも……。行ってみませんか? もしかしたら何か手がかりがあるかもしれませんし……」


 水音に耳を澄ませた玄道くろみちが少し思案してから提案する。


「賛成。魚も取れるかもしれないしね」


「えぇ? ハシちゃんもうお腹空いたの? ハラペコキャラ?」


「そんなわけないでしょ……。もしもの時のために川の場所、食糧が調達できるか否かを知っておいた方が得ってことよ」


 加成谷かなりやのリアクションに小鶴瓶こつるべは呆れた様子でため息交じりに説明してくれた。


 が、それはさっきバーベキュー食べたばっかりなのにもうお腹すくなんて、かわいいなだとか考えていた加成谷かなりやにとってはド正論ガラス片突き刺さりグローブ顔面パンチだった。


 しかし泣き言をいうよりは一発こっきりで済ませてくれたことに感謝した方がいいかもしれない。


 小鶴瓶こつるべの口が悪かったらさらにデンプシーロールでタコ殴りにされていただろう。


「なっ、なるほどね……!! よく考えてるじゃん……!!」


 だがド阿呆はめげなかった。めげずに、何とか精一杯強がって見せた。いっそちょっと健気かもしれない。


「何にも指針がないよりは川の上流へ昇って行くっていう分かりやすい進路があった方が気持ちも楽だろうし、いいかもしれないわね」


 意見をまとめた極楽鳥ごくらくちょうに従う形で四人は水音の方へと近寄っていく。


 草をかき分け、木々の合間をすり抜け、ぬかるんだ草場を通り抜けた先には光が広がっていた。


 小さな小さな滝があり、周りの岩場は水しぶきによって角が削れてつるりとしている。


 そして、その小さな滝によって流れが作られている渓流のそばに人影が二人座っていた。


「せっ、先輩っ!! 瑠璃斑るりまだら先輩っ!! 探したんすよぉ!?」


 その人影を見た途端に加成谷かなりやがわぁっと駆け出す。


 一人は男物の黒い水着の上から薄手の黒いウィンドブレーカーと羽織り果てしない清涼感を身に纏った釣り竿を握った細身のイケメンで、もう一人は黒のモノキニの上からスケスケ布地のパーカーを羽織って白い帽子を被った背の高い美女。


「ん? あぁ堂佶とうきつじゃない。なにどうかしたの? 変な声出して」


 振り返った男はやや高めの甘い声色としゅっと線の細さを感じさせる顔の良さを持ち合わせていた。


 そう、この線の細いイケメンこそ加成谷かなりや堂佶とうきつが敬愛してやまない彼の先輩、瑠璃斑るりまだら遊真その人だ。


「うぉぉぉぉ!! 心配したんすよ。気が付いたら先輩どこにもいないんすもんっ!!」


「あははは、悪い悪い。ちょっと釣りがしたくてね」


 ひしっと抱き着いてきた加成谷かなりやのことを優しく受け止め、手にしていた釣り竿を足もとに立ててある固定具へとそっと置いた後で彼の背中をポンポンとあやすように擦る。


 かなり柔和な所作だった。それを見ただけでなんとなく、人の良さが滲み出しているような気さえ感じられるほどの柔らかさ。


「遊真ずるいぞ、わらわもハグして欲しいのだがのぉ?」


「アハハ、それは後でいくらでも」


「約束ぞ?」


「約束するよ」


 涙ちょちょぎれる後輩をあやしつつ妖しい雰囲気を纏う美女ともしっかりといちゃつく器用さも持ち合わせているイケメンだった。


 たっぷり三〇秒ほど先輩にヒシと抱き着き続けて加成谷かなりやがようやっと身体を離す。


 気持ち悪がらず、嫌な顔もせずにしっかり受け止めてくれる先輩はよくよく人間が出来ていた。


「いやーっ!! 失礼っしたっ!! みっともないところ見せちまって……!! でも本当に良かったっすよぉ、何事もなかったみたいで……!! で、先輩そちらの美人さんは一体どちら様で?」


 クルーザーに乗り込む明け方の待ち合わせの時には姿を見なかったその美女に対して加成谷かなりやが当然の疑問を口にすると、


「そういえば紹介したことなかったね。彼女はボクの恋人、七艶ななつやミサキさん」

 さらりとした答えが返ってきた。


「……、」

 一拍、


「……、」

 二拍、


「……、」

 三拍置いて、


「先輩彼女いたんすかっ!?」

 素っとん狂な声が森の中にどよめく。

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