第194話 想起破滅《リコールベイン》
「はい?」
カズヤからの意外な要求に、闇勇者レイヤは双眸を細め聞き返す。
「だから俺をあんたの部下にしてくれ! 頼む!」
「ちょっと何言っているかわからないですね……カズヤさん、貴方はボクなんかより大先輩で正統な勇者だ。何を好き好んでこんな闇堕ちしたガキに従うつもりなんです?」
レイヤはあえて自分を卑下した言い方をする。
頭のキレるカズヤは、これらはレイヤの問答で自分の真意を試していると察した。
「答えはシンプルだ。【聖刻の盾】と【風神乱舞】に俺達の密猟がバレて、加担した配下達も全員捕まっちまった。既に『零課』に知れ渡っているだろう。もうエリュシオンに戻れない……ギルドだって黙ってないさ。【覇道のキメラ】は強制解散となるだろうぜ」
「つまり帰る家がないから、ボクの仲間になりたいと?」
「ああ、その通りだ。もう一つ、俺には復讐したい奴がいる! きっとあんたにとっても邪魔な存在の筈だぜ!」
「……幸城 真乙、ですか? 貴方ほどの勇者をそこまで追い込んだ【聖刻の盾】の
「そうだ! 俺は奴が赦さねえ! 『
カズヤの誘いに、レイヤは両腕を組み「なるほど……」と深く思考を巡らせている。
ずっと傍で二人の勇者のやり取りを見ているアンジェリカは、これもレイヤ流のパフォーマンスであると察していた。
「幸城 真乙に関しては一理ありますね。貴方のユニークスキル、《
「ああ、その通りだ! なっ、悪い話じゃないだろ!?」
「ええ仰る通り、有能な仲間は多い方がいい……ですが、そうなると貴方も闇堕ちすることになりますがよろしいのですか?」
「どうせ、このままでも『零課』の粛清対象だろうぜ! それでも構わねぇ! 闇堕ちでもなんでもしてやるぜ!」
「なるほど……それで、そちらの
レイヤは、カズヤの肩を支える
「オ、オデのことなんだなぁ?」
「ええ、貴方はどうするんです?」
「オデ、オデもカズヤさんと同じなんだなぁ……このまま粛正されるより、貴方について行きたいんだなぁ」
「ふむふむ」
レイヤは頷きながら特に警戒することなく、二人の男に近づいて行く。
「わかりました、
爽やかな微笑みを浮かべて了承した。
その言葉に、カズヤとサンブーの表情がぱっと明るくなる。
「本当か!? ありがとう、レイヤ……いや、レイヤ君!」
「嬉しいんだなか、感謝なんだなぁ。レイア様って呼ばせてもらうんだなぁ」
「ええ、いいですよ。ただし――」
レイヤは言いながら不意に右腕を翳した。
掌から暗黒色の幾何学模様の魔法陣が出現し二人に向けて近づける。
「受け入れるのは貴方だけです――《
そのまま、カズヤの額に触れ魔法陣を押し当てた。
すると魔法陣はスッと額の中に入り消失してしまう。
「――なっ何をするんだ、レイヤ君!? 闇堕ちする儀式か何かなのか!?」
「いえ、今のがボクのユニークスキル《
「疑似体験させるスキルだと? どうして俺にそんな真似を……」
「カズヤさん、ボクが闇堕ちした勇者だって知っているということは、ボクが異世界でどんな目に遭ってそうなったか大体のことは知ってますよね?」
「く、詳しくは……ただ裏切られた仲間に不意打ちが原因で瀕死となり、処刑される寸前で脱出して逃げ切って後に復讐したってことくらいで……ま、まさか!?」
「流石、カズヤさん。よく頭がキレる……そっ、ボクの《
「なんだって!? 俺の意識を乗っ取り操るってのか!?」
カズヤの問いに、レイヤは首を横に振るい否定した。
「いえ、カズヤさん。貴方にはこの場で死んでもらいます。それほどの傷にボクが瀕死に追いやられたダメージを加えれば間違いなく即死でしょう。それが狙いです、ハイ」
「な、何がハイだ! テメェ、俺を仲間として受け入れるって言ったじゃねぇか!? この嘘つき野郎がぁぁぁ!!!」
「狂乱の貴方がどの口で言っているんです? ボクが受け入れると言ったのはサンブーさんだけですよ。彼はレベル55もあります。今の眷属の子達と一緒に鍛えれば、すぐレベル65に達してくれるでしょう。それに回避能力も素晴らしいと評価したスカウトです」
「ふざけるな! こんな役立たずの糞ブーより、俺の方が遥かに優秀だぞ! 俺は現役のレベル65の勇者だぞぉぉぉ!」
「ええ、カズヤさん……貴方は凄く優秀な勇者だ。だからこそ邪魔なんです」
「なんだって?」
カズヤは言っている意味がわからず難色を示す。
突如、飄々としていたレイヤは雰囲気を変えた。
間近に顔を寄せて、ドス黒く濁った眼光をカズヤに向ける。
「――ボクは自分以外の勇者は信用しない」
刹那、カズヤの様子が一変する。
「ギャアアアァァァッ、いっいぃぃ痛えぇぇぇぇぇ――!!!」
全身に猛烈な激痛が襲い、地面に倒れ伏せて悶え始める。
「それほどの火傷とダメージを負っても、まだ痛覚はあるでしょ? それが、ボクが異世界で受けた痛みと苦しみですよ。我ながらよく脱出して逃げ切ったと思っています。ね? 信じていた連中に裏切られて闇堕ちしたくもなるでしょ?」
「がぁぁぁぁ、赦さねぇぇぇぇ、殺してやるぅぅぅぅ!!!」
「肉体の痛みだけじゃない。追い詰められることで精神も病んでいきます。世界中が敵、全てが害虫としか思えなくなる……あっ、サンブーさん、そいつから離れた方がいいですよ。悪足搔きに、貴方に《
「わかったんだな、レイヤ様。こっちに来んなよ、ゴミカスめ!」
サンブーはカズヤから離れ、足で踏みつけようと威嚇した態度を見せる。
「く、糞ブー、テ、テメェ!」
「オデ、前らかお前のことが大嫌いだったんだな! ようやく本音を言えてスカっとしたんだなぁ!」
「まだサンブーさんは優しい白熊ですよ。何せ眷属の責任を果たして勇者の貴方をここまで連れて来てくれたんですから。ボクがいた異世界の眷属共は信頼させておいて平気で背後から刺しにきましたからね」
「ちくしょうぉぉぉぉぉぉ、うがぁぁぁぁぁ――……」
カズヤは散々苦しみ抜いた挙句、プツンと事切れたかのように動かなくなった。
◇◇◇
〇ユニークスキル紹介
《
使用者:
[能力]
・自分が受けてきた痛みと経験を敵に放ち再現させるスキル。
・肉体的ダメージだけでなく精神的ダメージを与えることが可能であり、レイヤが受けてきた経験によっては耐久力のない者なら深手負ったまま死に至るか、あるいは発狂死する可能性もある。
[発動条件]
掌に魔法陣を出現させた状態で、敵の頭部に接触すること。
[応用]
・自分の経験(記憶や人格も含む)を対象者に与え植え付けることで、その者は自分が「渡瀬 玲矢」だと思い込ませ操ることできる。さらにレイヤにとって都合のワードを削除するなど記憶の改竄が可能。
・また過去の戦闘経験を自分に想起することで、常に100%のクリティカルヒットを繰り出すという応用技もできる。
[弱点]
・発動に至るプロセスの難易度が高く、予め警戒している敵や格上が相手だと条件を満たすのが難しい場合がある。
・レイヤの経験を拠り所にしているため即キルするほど効果は発揮されない(深手や致命傷を与えたり、錯乱や精神崩壊させることは可能である)。
・思考力のない生物やモンスターにスキルを施せられない。
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