第185話 狂乱の勇者

 レベル35の俺如きじゃ余裕だと思っているのだろう。

 岩の上で立ち尽くしたまま、勇者カズヤの余裕じみたニヤつき顔が鼻につく。


「マオトと言ったな? 『刻の勇者タイム・ブレイヴ』の弟よぉ」


「気安く呼ぶなよ。懺悔の言葉なら聞かねーぞ」


 俺は少しずつ奴との距離を詰めようと歩み寄る。

 何かを仕掛けてくる前に、奥の手である《フレイム・モード》で瞬殺してやろうと隙を伺っていた。


「オメェ、俺のユニークスキルを知りたがってたよな? 調教師テイマーじゃねーのに、どうしてモンスターを従わせられるのか。ここまで辿り着いたんだ……約束通り教えてやってもいいぜ」


「なんだと?」


 カズヤの思わぬ言葉に足を止めてしまう。

 すると奴は何を思ったのか、堂々と自分のステータスを開示させ見せてきた。



【カズヤ】

種族:人間

職業:勇者ブレイヴ

レベル65


HP(体力):1450/1450

MP(魔力):785/785


ATK(攻撃力):1350

VIT(防御力):1020

AGI(敏捷力):950

DEX(命中力):880

INT(知力):670

CHA(魅力):350


スキル

《槍術Lv.10》……槍を使用した時に攻撃力ATK+300、敏捷力AGI+200補正

《短剣術Lv.10》……短剣を使用した時に攻撃力ATK+100、敏捷力AGI+300補正

《鞭術Lv.10》……鞭を使用した時に攻撃力ATK+200、敏捷力AGI+200補正

《瞬足Lv.10》……疾風の如く素早く移動できる。敏捷力AGI+100補正

音速マッハアタックLv.9》……戦闘中に一度だけ音速を超えたダメージを与える。攻撃力ATK+250、敏捷力AGI+450補正

《恐喝Lv.8》……脅すことで80%の確率で相手を混乱状態にする。

《貫通Lv.10》《狡猾Lv.10》《不屈の闘志Lv.10》《不屈の精神Lv.10》《鑑定眼Lv.10》《索敵Lv.10》《統率力Lv.7》《隠密Lv.6》《挑発Lv.5》

 etc……《アイテムボックス》


魔法習得

《上級 呪術魔法Lv.5》

《中級 四大魔法Lv.10》※炎・水・風・土属性

《中級 雷系魔法Lv.9》


ユニークスキル

狂乱の聖祭典フレイジー・フェスティバル


〔能力内容〕

・攻撃した対象(敵)を狂乱状態にさせ自在に命令し操作する。

・狂乱状態では一種の狂戦士バーサーカー状態となり、本来の能力値を超えた力を手にする。ATK+500、VIT+500のバフ効果

・狂乱状態では不死に近い体となり能力が解除されない限り、術者の指示に従い動き続ける。


〔弱点〕

・狂乱化にできる制限時間は約3分間。能力者の任意で途中解除も可能。

・防御力の高く物理的攻撃が通じない相手には効果を与えられない。

・複数の対象を狂乱状態にできるが、その度に自信の体力値HP魔力値MPが-50ずつ消費される。


〔補足〕※後に進化して追加された能力など。

・知能の低いモンスターの場合を狂乱化させず、「洗脳状態」として能力者の指示に従わせることができる(その場合、制限時間なし)。

・ただし自爆や自害など指示することはできない。

・能力者から1キロ以上離れると洗脳は解除されるが、最後に指示を受けた内容は果たすまで残されている。


称号:狂乱の勇者フレンジー・ブレイヴ CHA+300補正


装備

高速の槍スピード・スピア:ATK+500、AGI+300

《魔力付与》

・攻撃を与えた敵のAGI-300、VIT-200にする。


蜘蛛の短剣スパイダーダガー:ATK+300

《魔力付与》

・攻撃を与えた敵を10秒間停止させ、尚且つAGI-300にする。


毒蛇牙の鞭コブラウィップ:ATK+750、AGI+600

《魔力付与》

・攻撃した敵を《混乱状態》にさせ、AGI-300、DEX-200にする。



 以上



 クソォ、ムカつくが勇者だけのことはある。

 高い攻撃力ATK防御力VITは勿論、基本的な能力値アビリティがバランス良く、技能スキルから魔法に至るまで特に弱点が見当たらない。

 まさしく勇者職ブレイヴならではのオールラウンダーだ。


 注目すべき傾向として、カズヤは敏捷力AGI強化に力を入れている。

 香帆のような高速戦闘を得意とするタイプに違いない。

 しかも評判通り、敵の敏捷力AGIを低下させるなど攻撃とデバフ効果を同時に与えるという、勇者として異質で独特の戦闘スタイルのようだ。

 

 そして最もヤバそうなのは《狂乱の聖祭典フレイジー・フェスティバル》というユニークスキル。

 攻撃した相手を狂乱状態にするスキルか……また知能の低いモンスターを従わせる能力もあるらしい。

 おそらく怪鳥ロックを操っていたのは、このスキルによるものだ。


 反面、重要な弱点もある。

 特に「防御力の高く物理的攻撃が通じない相手には効果を与えられない」とう文言だ。

 それって俺のことじゃんって感じ。


 だから、香帆と時雨は俺を単身で戦わせようと推してきたわけだな。

 下手に仲間がいればそいつが狂乱状態となってしまう可能性がある。

そうなれば敵、あるいは人質に成り得てしまうだろう。

 したがって俺の最強防御力VITなら完全に無効化できる筈だ。


 このアホ勇者め。

わざわざ自分からステータスを見せびらかしたおかげで勝算が見えてきたぞ。

 大方レベル35の俺に力の差を見せつけて絶望させる心理戦だろうが生憎だったな。


 ということは、カズヤは俺のレベルとか職種や素性は《鑑定眼》で見られるけど、それ以外の能力値アビリティやスキルに関しては見えていない。

おそらく俺の《隠蔽》スキルが制御プロテクトになり、全て閲覧できていないのか。


 そして圧倒的なレベル差だけを見て勝ち誇り、ああして余裕ぶっているに違いない。

 まぁ普通、半分もレベル差があれば相手にならないと誰でも思うわ。

 

 ――けど生憎だったな。


 俺はその辺の盾役タンクとは違げーんだよ!

 今度は俺の防御力VITとスキルを見せて絶望させてやろうか?


(……いや、待てよ)


 俺は《狡猾》スキルが発動する。

 このまま雑魚のフリして、カウンターでブッ飛ばすっていう方法もある。

 その方が奴に敗北感を植え付けられるだろう。


(カズヤから依頼者クライアントの情報を聞き出す必要がある……)


「どうしたマオトちゃんよぉ? ガチ勇者のステータスにビビっちまって声も出せないってかぁ?」


 カズヤがニヤついたまま嫌味っぽく言ってくる。

 こいつ、頭いいと思っていたけど案外バカ勇者だ。


「……レベル差が30もあるんだ。当然だろ?」


 ぶっちゃけテメェの攻撃で俺にダメージを与えることはないと確信したけどね。

 唯一、怖いのは《貫通》スキルだが、俺には《パワーゲージ》という貫通用のカウンタースキルがある。

 受けたダメージは数倍にして返してやんよ!


「そりゃそうだ。普通・ ・ならそういう反応になる」


「何が言いたい?」


 急に声のトーンを変えてくるカズヤに、俺は眉を顰める。


「マオト、オメェがただのレベル35の盾役タンクなら問題ねぇ。だがオメェはギルドで話題の『刻の勇者タイム・ブレイヴ』の弟であること、そしてあのファロスリエンが一目置き【聖刻の盾】のサブリーダーを務めていること……さっき、怪鳥ロックの攻撃も妙なシールドを出現させ防いでいたよな?」


 フン、なんかバレ掛かっているな。

 ただ俺をナメていただけじゃなく低レベルの癖に得体が知れないと判断し、あえてステータスを晒すことで、こちらの反応を観察していたってことか?


 別にバレたって構わない! こいつが絶望するだけだ!


「オッさんの癖にごちゃごちゃうっせーぞ! このままブチのめす!」


「――やはりな」


 カズヤは呟くと、足元の岩に槍の鉾先を突き立てる。

 刹那、岩が突如として盛り上がり膨れあがった。


「な、なんだ!? 何しやがった!」


「――《狂乱の聖祭典フレイジー・フェスティバル》! 目覚めろ、岩石守護兵ロックゴーレム!! そいつをブッ殺せぇ!!!」


 カズヤの声に反応し、岩はさらに肥大化し人型と化している。

 全身が強固な岩石で構成された武骨な巨人のモンスターとなった。

違和感の正体がわかったぞ。

どうやら、ずっとカズヤと一緒に移動していたようだ。

 

 そして、こいつが岩石守護兵ロックゴーレムなのか?

 《鑑定眼》によると、レベル57もあるぞ!


 ゴーレムは双眸を紅く不気味に発光させ、威圧するように迫り襲い掛かってくる。


「……カズヤ、汚ねぇ真似ばっかりしてきやがって。お前、本当に姉ちゃん達と同じ勇者なのか? だったらよぉ、その存在を全否定してやるぜ! 掛かって来いよ!!!」


 俺の中で冒険者スイッチが入った。

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