第186話 岩石守護兵との戦い

 自分で戦おうとせず密猟したモンスターを仕向けるという卑劣な手段ばかり講じる、『狂乱の勇者フレイジー・ブレイヴ』カズヤ。

 俺は普段から姉ちゃんや他の勇者達を見てきただけに、ムカつくあまりに「冒険者スイッチ」が入った。


 といってもブチギレて冷静さを失ったわけじゃない。

 昂り闘志こそ湧いてくるが、頭の中は至極クールだ。


 まずは目の前で向かってくる、巨人モンスターの戦闘力を見定めるため、《鑑定眼》を発動した。



岩石守護兵ロックゴーレム

レベル57

HP(体力):1000/999

MP(魔力):500/500


ATK(攻撃力):1250

VIT(防御力):1400

AGI(敏捷力):105

DEX(命中力):280

INT(知力):95


スキル

《自己再生Lv.10》……損傷した体の部位を再生することが可能。

《ボディアタックLv.10》……体当たり攻撃。ヒットする度にダメージ率+100補正。

岩石拳撃ロックパンチLv.10》……拳攻撃。ヒットする度にダメージ率+100×2補正

《貫通Lv.10》……相手の防御力を無視して60%のダメージを与えることができる。

身体強化ビルドアップLv.10》……一度の戦闘に10秒間のみ攻撃力ATK+500、防御力VIT+500、敏捷力AGI+500補正


習得魔法

《上級 土属性魔法Lv.10》


状態:《狂乱状態》ATK+500、VIT+500



 流石は51階層ということか……。

 出現するモンスターも強くなっている。


 通常なら単身で戦っていい敵じゃない。


 最も脅威的なのは、抜群に高い攻撃力ATK防御力VITだ。

 いや基本的な能力値アビリティ上なら、俺ならなんとか戦える範囲だと思う。

 しかし厄介なのは《狂乱状態》であること。

 さらに岩石守護兵ロックゴーレムのスキル、《身体強化ビルドアップ》が加われば+1000が上乗せされることになる。


 したがって単純に計算しても、


 攻撃力ATK:2250

 防御力VIT:2400


 ということになるんじゃね?

 さらに他のスキルと魔法が加われば、より上回ってしまう。


「どうした、マオト! イキっていた割には顔が引きっているぞ!? 俺をブッ飛ばすんじゃねぇのか、ハハハーッ!!!」


 岩石守護兵ロックゴーレムの肩に乗っていたカズヤは高笑いし、後方へと飛び降りた。

 常に自分は安全圏にいる。だから余計に調子に乗っているんだろうぜ。


「……うぜぇオッさんだな。お互いやることは決まっているんだ。とっとと来いよ」


 俺は動じずに手招きし挑発して見せる。

 その態度に、カズヤのニヤつき顔が初めて消えた。


「ああ!? レベル35如きの盾役タンクが生意気言ってんじゃねぇぞ、糞ガキが! 岩石守護兵ロックゴーレム、そいつをブッ殺せぇ!」


「オオオオオオオッ!」


 カズヤの指示で、岩石守護兵ロックゴーレムは唸り声を上げて両腕を掲げる。

 案の定の《身体強化ビルドアップ》スキルで攻撃力ATK防御力VIT敏捷力AGIを大幅に向上させた。

 加えて掲げた拳を振り下ろし、《岩石拳撃ロックパンチ》を俺に目掛けて打ち下ろす。


「フン――『黒鋼の悪魔盾メタル・デビルシールド』!」


 俺は《アイテムボックス》から武骨の黒銀盾を取り出し、迫り来る攻撃を受け止めた。

 ガキィィィンと甲高く鼓膜を刺激する音が鳴り響くも、一ミリたりと後退することなく完璧に防ぎ切る。


「う、嘘だろ!? ユニークスキルでもないのに、レベル35の盾役タンクが防げる攻撃じゃねぇぞ!」


「慎重ぶっていた癖に情報不足じゃねーのか!? その程度の攻撃じゃ俺は無傷だぜ!」


 嘘だけどな。

 岩石守護兵ロックゴーレムは《貫通》スキルを持っている。

 おかげで60%はもろにダメージを受けてしまった。


 しかし俺の『黒鋼の悪魔盾メタル・デビルシールド』は攻撃してきた相手の体力HP魔力MPを50%の確率で半分奪う能力がある。

 奪取に成功し、失った体力MP値分をそれで補ったのだ。

 まぁ仮に失敗しても、《パワーゲージ》で跳ね返して無効化させるけどな。


 ともあれ今度は俺の攻撃ターンだ。


【――迸る力の解放、燃え滾る脈動の熱火、《加熱強化ヒートアップ》ッ! さらに我を導く情熱となり燃焼せよ、《点火加速イグナイトアクセル》ッ! 】


 まず俺は防御しながら魔法の詠唱を行い、能力値アビリティを向上させる。

 そのまま受け止めていた拳打を押し返した。


 思わぬ反撃に、岩石守護兵ロックゴーレムは体勢を崩される。

一、二歩ばかり後退りした。

 俺は《点火加速イグナイトアクセル》の効果で素早く移動し、巨人モンスターの懐に向けて飛翔する。


「一気に決める――《無双盾イージス》! くらえ《ダブルシールドアタック》!」


 両腕に魔法陣の盾と黒銀の盾を装備し、岩石守護兵ロックゴーレムに特攻を仕掛けた。


「オオオオォォォォ――……!」


 ぽっかりと胸部中心に大きく打ち砕かれた、岩石守護兵ロックゴーレム

その勢いも相俟って、奴の巨体は仰向けに大の字になって倒れ込む。

 岩石で構成された全身が故に激しい衝撃と地響きが鳴り渡る。


 俺は着地すると魔法効果が続いているうちにと、すぐさま高々と跳躍した。


「『魔核石コア』は胸部になかった! てことは頭部か!? このまま《自己再生》させる時間を与えねぇぞ! もう一度くらえぇぇぇ――!!!」


 そう叫び、二度目の《ダブルシールドアタック》を発動させる。

 頭部を目掛けて急降下した。


 今度はしっかり手応えを感じたぞ。


 猛烈な二枚の盾による圧倒的の体当たり攻撃で、岩石守護兵ロックゴーレムの顔面は押し潰され、ガラス細工のように砕け散る。

 同時に内蔵されていた『魔核石コア』を打ち砕き、岩石の巨体は塵と化して消滅した。


「バ、バカな!? 狂乱化した岩石守護兵ロックゴーレムが、たったの二撃で斃されただと!?」


 流石のカズヤも動揺を隠せないでいた。

 奴が見据える先に、土煙と砂埃が漂う中で俺は佇んでいる。

 ただじっとカズヤに向け、鋭い眼光を浴びせていた。


「――クズ野郎とはいえレベル65の勇者なんだろ? そろそろタイマンで決着つけよーぜ」


「う、ぐっ……糞ガキがァ! 岩石守護兵ロックゴーレムを斃したくらいで、いい気になるなよ! 俺とのレベル差が30もあること忘れてんじゃねーぞ、コラァ!」


 カズヤは槍を構えて吼えた。

 ようやく自分で戦う姿勢を見せたようだ。


 きっとまだ、どこかに数匹のモンスターが捕獲されているに違いない。

 だが密猟者の奴らにとって売り物である以上、無駄に失うわけにもいかない事情がある。

 ましてやカズヤにとって、俺はあくまで格下の相手だ。

 そんな雑魚にイモ引いたら仲間達に示しもつかないわ、勇者としての矜持だって失い兼ねない。


 心理戦で俺を追い詰める筈が、逆に自分が追い込まれたってわけだ。


「へっ、やっとその気になったのかよ……」


 俺はニッと口端を吊り上げ、《無双盾イージスを解除して右腕を翳した。


【――全てを灰に変える猛る炎よ! 我が手に集い来たれ敵を穿てぇ、《炎の槍フレイムランス》ッ!】


 新たな魔法が完成する。

 右手に灼熱の炎が噴き上がり集約され、燃え上がる『炎の槍』と化した。

 《炎の槍フレイムランス》は投擲し敵を穿つだけじゃなく、武器として装備することができる。

 技能レベル3なので攻撃力ATK:650に、装備した際の持続時間は180秒だ。


 俺は左腕の『黒鋼の悪魔盾メタル・デビルシールド』を構え、右手に握る《炎の槍フレイムランス》を掲げる。

 カズヤが何かしらの攻撃を仕掛けてきても、この盾で防げば奴の体力HP魔力MPを奪い、また反撃に転じることも可能だ。


 俺が見せる攻防一体の姿に、カズヤは「チッ」と舌打ちした。


「雑魚がぁ、望み通りにブッ殺してやんよぉぉぉ!!!」


 そう勇者らしからぬ台詞を吐いたと同時に疾走する。

 槍の穂先を俺に向けて突撃した。

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