第184話 仲間達の導き

 狂乱の勇者カズヤ。

 調教師テイマーでもないのに、怪鳥ロック三羽を従わせ俺達に襲わせてきた。

 しかも俺に対して挑発めいたことを言ってくる。


「マオッチ、あいつの挑発に乗ってやればぁ? ロックはあたしが一人で斃すよ。他のみんなは、マオッチのフォローと雑魚の相手をお願いねん」


「ちょっと待ってくれよ、香帆さん。それって俺が一人でカズヤと戦う感じなの?」


「え? まさか、マオッチってばびびってるぅ?」


 香帆は青い瞳を丸くし、きょとんと首を傾げて見せる。

 ちくしょう、やっぱ可愛いなぁ。こんな時に反則なエルフ姉さんだ。


「……いや、別にそいうわけじゃ。ただ相手は勇者でレベル65もある……俺なんて、まだレベル35だし普通に考えても無理ゲーじゃねって感じ」


「まぁレベル差で言えばね。けど能力値アビリティ上なら、マオッチなら相性がいいなかって。シグレッチもそう思うしょ?」


「ああ、リエン殿の言う通りだ。時間がないから詳しく説明できんが、あの勇者カズヤのユニークスキルに対抗できる冒険者は、この中ではマオト殿だけだと思う」


 慎重そうな時雨も同じ意見のようだ。

 そうか。どうやら高レベルの二人は、《鑑定眼》で勇者カズヤのステータスの詳細が見えていたってわけか。

 だから唯一対抗できそうな俺が戦うべきだと推しているわけだな。


 俺の力を信じてくれた上で……ならびびっている場合じゃない!

 期待に応えてやろうじゃないか!


「わかった、俺は二人を信じて戦うよ!」


「やっぱ、マオッチだねん! 大丈夫、キミなら絶対に負けないよ……あたしが信じているんだからね」


「えっ? 香帆さん、何か言った? 最後のほうだけ聞き取りづらかったんだけど?」


「な、なんもないよん! ほんじゃ、いっちょ言ってくるわ~!」


 香帆は長い両耳を真っ赤にし、フッと姿を消した。

 気づけば頭上の《無双盾イージス》を踏み台にし、空高く跳躍しては『地獄の死神大鎌デス・ヘルサイズ』を振るって、怪鳥ロックに斬りかかっている。


 相手は三羽もいるのに、まるで後れを取っていない。

 寧ろ身のこなしの速さと大鎌の攻撃力を活かして互角以上の戦いを見せている。

 やっぱり彼女は単独でも強い。

 美桜に全面的な信頼を得られているだけはあった。


「ロックはリエン殿に任せれば十分だろう。俺は雑魚20人を相手にする。鬼灯とヤッス殿とガルジェルド殿の三人は、サンブーと戦ってほしい。間抜けそうな白熊だがレベル55は侮れない、心して対応してくれ」


「わかりました、時雨殿。其方も気をつけてくだされ」


「ご安心ください。美夜琵殿のGカップはこの安永がお守りいたします」


「ぶっちゃけ怖くて膝が震えてますが頑張ります」


 時雨の指示に、指名された三人は了承し頷いた。

 特にヤッスは相変わらずの変態紳士ぶりだ。てか、おっぱい以外に守る箇所は沢山あると思う。

 おまけにガンさんまで豆腐メンタルの無駄筋肉チキンぶりときている。

 正直、美夜琵以外は不安でしかないんですけど……。


 かくして作戦が決まり、俺は《無双盾イージス》を解除した。

 皆、それぞれ目標に向かって駆け出し行動に移していく。


「――《挑発》ッ!」


 時雨はハルバードを地面に突き立て、技能スキルを発動する。

 20人いる【覇道のキメラ】のメンバー全員が武器を掲げ、一斉に「おおおっ!」と雄叫びを上げながら時雨に向けて突撃した。


 真っすぐに走る俺達は、迫って来る20人の間をすり抜けて疾走する。


「おい、お前ら! 何そいつらを見過ごしている!? 他にも敵はいるんだなぁ! 何一人相手に全員で向かっているんだなぁ!? 赤マントをチラつかせられた牛じゃねぇんだぞ、オイ!」


「チッ、カンストした《挑発》か。あの鬼侍め、防御力に特化してんのか? 糞ブーとチョリス! こっちに向かって来る低レベル共を殺せぇ!」


 勇者カズヤは眷属のサンブーに指示する。

 ん? チョリスって誰だ?


 すると、俺達の前に巨漢の重戦士ファランクスサンブーが立ちはだかる。


「お前ら雑魚の相手はオデ達がやるんだなぁ!」


「そうでゲスよぉ!」


 不意にサンブーの背後から声が聞こえた。

 巨体の背中からよじ登る、小柄で緑色の魔法服リーブを着用し、前髪が揃えられたあどけない少年の姿。片手には魔杖スタッフが握られている。

 いや、あいつは【氷帝の国】の盗賊シーフメルと同じ小人妖精リトルフ族だ。

 

 《鑑定眼》で調べてみると、チョリスという魔法士ソーサラーらしい。

 実年齢は35歳で結構なオッさんであることが発覚する。

 しかもレベル45もあるぞ。

 不味いな、こいつの情報はなかった……想定外だ。

 

 思わぬ伏兵の存在に、俺達の足が止まってしまった。


「おい、チョリス。こいつらオデ達にびびっているんだなぁ!」


「ああ、ブーさん! オイラ達の連携プレイでギッタギッタにしてやるゲスよぉ!」


 どうやらチョリスという小人妖精リトルフ族は語尾に「ゲス」がつく喋り方なのか。

 だが妖精族で魔法士ソーサラーは非常に珍しい。

 大抵の魔法系職は精霊術士エレメンタラー召喚士サモナーだからな。

 ある意味レアであり、ある意味ではじかれ者。

 流石はどんな“帰還者”だろうと受け入れる、【覇道のキメラ】ならではのメンバーか。


「僕と同じ魔法士ソーサラーか……同じ魔法を極める者として外道に堕ちるとは嘆かわしい」


 ヤッスが前へと出てくる。


「なんだ、この片眼鏡野郎は? お前……まさか【聖刻の盾】に所属する最速ルーキーの魔法士ソーサラーゲスか?」


 チョリスの問いに、ヤッスは素直に頷いてみせる。


「如何にもだ、とっつぁん坊や。貴様の相手は、この僕がしてやる!」


「誰が、とっつぁん坊やゲスか!? お前、正気ゲスか!? デビュー半年たらずでレベル25は確かに驚異だが、レベル45の熟練した魔法士ソーサラー相手にタイマンで勝てるわけねぇゲスよぉ! ギャハハのハーッ!!!」


 嘲笑うチョリス。サンブーの背中からひょいと軽快に地面へと降りた。

 そしてヤッスを向き合い、「ハァァァァァ」とか言いながら見せつけるかのように体内から魔力を放出させる。


 迸り漲る魔力、こいつ口先だけじゃない。

 明らかにヤッスより格上の魔法士ソーサラーだ。


 しかし、ヤッスは動じない。

 寧ろ『闇夜月型の魔杖ダークムーン・スタッフ』をチョリスに向けて掲げ、戦う姿勢を見せた。


「フン、戦いにおいて魔力の量が絶対とは限らない。そして我ら【聖刻の盾】のメンバーはレベル差など関係なく最強であると証明してやる!」


 やべぇ、変態紳士がカッコ良くたくましく見えてしまう。

 どうした、ヤッス!?


「おい無理すんなよ、ヤッス……なんなら二人で、とっつぁん坊やをブッ飛ばしてもいいんだぞ」


「別に無理はしてないさ。僕はいつもユッキには支えてもらっているから……たまには僕が前に出て支えてあげたいんだ。それが親友ってやつだろ?」


 やべぇ、ヤッスの癖に泣けてきたわ。

 初めてこいつから真面目な理由で親友だと言ってくれた気がする……それだけに感動してきた。


「わかった。そいつはお前に任せるぞ、ヤッス!」


「ああ。それと美夜琵殿とガンさんは、禿白熊の方を頼む。すぐに終わらせて、二人のフォローに入りますぞ」


「任せろ、ヤッス殿。ワタシとて【聖刻の盾】のメンバーだ。あんな奴に後れなど取はせん!」


「ヤッスゥ、せめてバフかけてくれよぉ。相手はレベル55もあるんだ。いくら美夜琵さんと一緒だからって、俺はレベル41……きっと俺って『こんな戦いとっとと終わらせてやるぜ』とかイキったものの真っ先にやられてしまう噛ませ犬タイプだと思う」


 ガンさんのネガティブ妄想が炸裂する。

 てかバフなくても、いざって時は狂戦士化バーサークしちゃえば、余裕で奴のレベルを上回るじゃねーか?


 俺はガンさんを無視し、「頼むぞ!」と告げて再び駆け出した。


「なっ!? あいつ盾役タンクの癖に一番に逃げる気なんだな! しかも足、やたら速ぇ!?」


「ブーさん、ちげぇでゲスよ! オイラ達を無視して、カズヤさんのところに行こうとしているんでゲス! 行かせねぇでゲ――うわぁ、危ねぇ!?」


 チョリスが俺に気を取られている隙に、ヤッスは《火炎球ファイアボール》を放ち、わざと奴の目の前を通過させた。


「このヤッスの前で脇見など厳禁ですぞ、とっつぁん坊や!」


「ああ、クソガキがぁ! ナメんなゲスよぉ! (こ、こいつ……いつ魔法を完成させていた? 詠唱していたゲスか?)」



 そして数分後、最頂上にて俺はようやく勇者カズヤと対峙する。

 奴はまた小高い岩の上に立っている。


 あの岩……見覚えがあるぞ

 いや、そんな筈はない気のせいか。


 カズヤはニヤついたまま口を開く。


「――仲間を踏み台にラスボスまで到着するとはよぉ。随分と熱い展開じゃねーか、ええ!?」


「クズ勇者がふざけるな。テメェなんて中ボスにもならねーよ」


 俺はそう吐き捨てる。

 ただ闘志を滾らせ前進した。

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