第182話 恥ずかしいノリの追跡

「――こんなこともあろうかとね!」


 アゼイリアが《アイテムボックス》を展開させ、色々と機材のような代物を沢山取り出し設置している。

 その中には以前披露した、『回転式機関魔銃砲マナ・ガドリングガン』と『魔力装置の拘束針金マナユニット・ワイヤー』があった。


「先生……それって?」


「ええ、マオトくん! 全て飛行用モンスター対策で準備してきた代物よ! こんなこともあろうかとってね! 見て、『魔力式対空砲マナ・クラフト・ガン』も用意したわ!」


 アゼイリアは「じゃん!」と言いながら、俺に設置した高射砲を見せてくる。

 砲身が突き上げるように長く車輪つきの火砲、それが三基ほどあった。

 これ全部自分で制作したのか?

 何故だろう……鍛冶師スミスなのに次第にマッド臭がしてきたぞ。


「アゼッチ先生、武器は多い方がいいかもしれないけど、一人じゃ持て余すだけじゃね?」


 香帆が正論で訊いている。


「人員が必要であれば、私の『式紙しきがみ兵』達で補いましょう。狙い撃てという単純な指示であれば操作も問題ありません」


 白装束の陰陽師こと仙郷が言ってくる。

 確か一枚の紙から『式紙しきがみ兵』を多量に生産し戦わせる、数の暴力こと《式海戦術しきかいせんじゅつ》というスキルだ。


 やべぇ、もう軍隊規模の戦力じゃん。


「あとは敵を捕捉する方法だけね。まず上空の霧をなんとかするしかないわ」


「ミオさん、私の《空宙演舞エア・ダンサー》なら一定空間に限られますが上空の霧を掻き分けることが可能です。ただ空気が薄いので攻撃に転換することは不可能ではありませんが、些か時間が掛かってしまいます」


「なるほどね、スズナ。それで難色を示していたのね……だったらそう言えっての。ロックが上空で飛んでいる間は、アゼイリア先生と仙郷に任せましょう。そして、白夜だっけ? この結界の範囲を広げたり、天井にだけ穴開けるとかって可能なの?」


「……可能です(この人、性格がキツいから、なんだかイジメられそう)」


「なら、そうして頂戴。二人が怪鳥ロック共を地面に引きずり降ろしたら、私が連中の時間を奪うわ。あとは全員でフルボッコよ!」


 美桜の指示で対策チーム全員が頷く。

 どうやら勝算を見出したようだ。


「じゃあ、姉ちゃん達は大丈夫みたいだな。俺達は予定通り【覇道のキメラ】を追うぞ! 白夜さん、前方の結界を開けてもらっていい?」


「……わかった」


 白夜が頷くと、結界の一部が自動扉のように開かれる。

 汎用性が高いだけに器用なことができる能力だ。


「それじゃマオトくん、これを持っていって!」


 アゼイリアが俺にロープの束を手渡してくる。


「先生、これは?」


「普通のロープよ! この霧でしょ? 追跡するあまり、移動中に互いがバラバラになってしまう可能性があるわ! これで輪を作って中に入り移動すれば、皆迷うことなく追跡に専念できるって寸法よ!」


 えーっ、それってなんか電車ごっこみたいなノリじゃん……なんだか恥ずかしいな、俺ら高校生だぜ。

 もうちょっと他に手がないのかよ、先生。


「んじゃ、《探索》スキルがカンストしている、あたしが先頭で運転手だねん。先生、ホイッスルとかあるぅ?」


「あるわ、香帆ちゃん! はい!」


 アゼイリアは香帆に普通のホイッスルを渡した。

 何、このシュールなやり取り?


「よし! そんじゃみんな行くよーっ! マオッチはあたしの後ねん! あとはてきとー」


 何故か香帆はノリノリで「ピーッ」っとホイッスルを鳴らしている。

 俺達は渋々と輪の中に入り、普通のロープを持つ。

 もろ冒険者の姿だから違和感満載だ。


「真乙、こっち向いて~っ。お姉ちゃんが記念に撮ってあげるからん。いつか杏奈ちゃんに見せてあげる」


「やめろ! スマホで撮るなよ、姉ちゃん! あと杏奈には絶対に見せんなよ!」


「ホオちゃんも可愛い~! ねぇ、恥ずかしがらずに笑ってぇ!」


「母上、やめてください……黒歴史です」


 美夜琵も涼菜にスマホを向けられ顔を伏せている。


 クソォ、過保護勇者達がウゼぇ。

 つーか自分達の戦いに集中しろっての。


「ピーッ、これより出発進行~っ! シグレッチ、最後尾だから車掌よろしくね~ん!」


「……わかった、リエン殿」


「香帆さん、さっきからどうしてノリノリなんだよ? 頼むから普通に追跡しよーぜ」


 俺のツッコミを他所に、香帆は「ガタンガタン」とやたらとリアルなボイスパーカッションを口ずさみ前へと進み出した。

 オマケに後方でも、ヤッスとガンさんが何故か運転手に合わせる形で、「ガタンガタン」と真似ている。


 もうヤバくね? 俺ら【聖刻の盾】……。



 結界を潜り抜け、香帆を先頭に移動して突き進む。

 みんな鍛え上げた冒険者だけあり、ふざけた方法の割に駆け足で移動している。

 けど霧が濃すぎて、ほとんど前が見えない状態だ


 一方で怪鳥ロックの追撃がないのが幸いだった。

 美桜達も上手く連中を引き付けて戦ってくれているのだろう。

 まぁ遠くで激しい銃声や爆撃音が鳴り響いているけど、俺達が気にしている場合じゃない。


 移動してから、しばらくして。


「ピッ、ピッ、ピッ。これより登り坂~、登り坂~。各自、足場に注意して、しっかりロープを握り締めてぇお進みくださ~い」


 わざわざ声質を変えて知らせてくる、運転手の香帆。

 面倒くさいから、あえてツッコまないことにした。


「しかし連中はどこに逃げたんだ? やっぱり60階層の『不可避の者アトロポス』に向かったのか?」


 情報によると【覇道のキメラ】は60階層まで到達した実績を持つ、冒険者の中でも数少ないパーティだ。

 一方の俺達は、ここ51階層の「運命の図柄を描く者ラケシス」でさえ初探索アタックときている。

 おまけに戦力が分断され、肝心のリーダーである美桜と涼菜の勇者二人がいない状況だ。

 きっと怪鳥ロックを全滅させてから、俺達のところに駆けつけてくれるだろうけど、それまでこのメンバーで大丈夫なのか。

 ついそんな不安が過ってしまう……。


「ガタンガタン……ユッキ、僕は連中がそこまで逃げられるとは思えないのだが」


「どういう意味だ、ヤッス?」


「ガタンガタン。であれば何故、51階層で遭遇したのかだ。それに60階層まで到達したのは過去の話だと聞く。きっと今の【覇道のキメラ】にそこまでの能力はないのだと思うぞ、ガタンガタン」


「なるほど……それで奴らは妥協し、51階層でモンスターを捕まえていたっていうことか?」


「ああ、きっとそうだと思う、ガタンガタン」


 てか、ヤッスよ。さっきからガタンガタンうっせーっ。


「ガタンガタン。じゃあ、ヤッス。【覇道のキメラ】はどこに逃げたんだ? 上層に行くには、俺達を通り抜けなきゃ無理だぞ? 他に隠し通路とかあるってのか、ガタンガタン」


 ガンさんまで、ガタンガタンはいらねーっ。

 けど言っていることは的を得ている。

 行き慣れた初界層ならまだしも、下界層で都合よく隠し通路を見つけられるとは思えない。

 遠回りするといっても、俺達に見つかるリスクがあるだろう。

 

 ヤッスの仮設が正しければ、【覇道のキメラ】は追い詰められていることになる。

 あるいは仲間の中でそういった逃走スキルに長けた奴がいるかだ。


「ピッ、ピッ、ピッ。マオッチ、マオッチぃ~、考えられるパターンは二つほどありまーす」


「香帆さん、頼むから普通に話してくれない?」


「……ごめんねぇ。一つはマオッチも考えていると思うけど、連中にそういったスキルを持つ仲間がいるって線だねぇ。けど仮にいたとしても、そいつは【覇道のキメラ】じゃないと思うよん」


「根拠は?」


「だったら、51階層でウチらと遭遇したって点に矛盾があるからねん。仮にそういったスキル能力に特化した奴がいるとしたら、そいつは【覇道のキメラ】の一員じゃないよ。モンスターの捕獲とは別の存在じゃね?」


「つまり他にパーティ以外にも仲間がいると……そういや『取引先』の小娘ってのは、どうやってモンスターを地上に持ち込もうとしているんだ?」


「うん、きっと連中を逃がせる人物がいるとしたらそいつだねん、ピッ、ピッ、ピッ」


 確かに『取引先』の小娘ってのは、そういったスキル能力を持っている可能性があるかもしれない。

 だから捕えるだけでいいっていう条件だったのか。

 であれば辻褄が合い、これまでの疑問が解けるってもんだ。


 そういや、その小娘も別勇者の眷属かもしれないんだよな……どうなっているんだ、今時の勇者は。


「して、香帆殿。もう一つのパターンとは?」


 俺の真後ろで美夜琵が訊いている。


「――逃げるってのはフェイクだねぇ。きっと、この先の山頂でウチらを待ち伏せていると思うよん。あたしの《探索》と《索敵》も、そこで反応しているからねぇ……ピッ、ピッ、ピッ」


 な、なんだってぇ!?


 てか香帆さん、もうホイッスル鳴らすのやめてくれる?

 頼むから緊張感もとーぜ。

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