第180話 紡ぐ者のチート探索

※今更ですがタイトル変更しました。

───────────────────


「……すまん、白夜殿。感謝する」


 ようやく興奮が収まった、美夜琵。

 明らかに年下っぽい僧侶の少女に向けて丁寧に頭を下げてみせる。

 なんでも異世界では叔母と姪の間柄だったとか。

 

 育ての母親とする同学年の涼菜といい、“帰還者”同士って複雑だと思った。


「ホオちゃんは超初心だからね。だから真乙君、手を出したら駄目だからね! 弄ぶのは私だけにしてね!」


「しねーよ! てか俺は何もしてねーじゃん!」


 妙な難癖をつけてくる涼菜に、俺は猛反論する。


「まったくウチの弟は魅力値CHA上げすぎるからいけないのよ……いい加減、お姉ちゃんだって焼き餅焼いちゃうんだからね!」


 姉よ、あんたまで何言っているんだ?

 勇者ってどいつも視野と思考が偏っているのか?

 そういや、俺って魅力値CHAが異性の方に傾きやすい傾向があるんだっけな。

 きっと前周じゃ30歳の童貞社畜で、その反動がこうして現れているんだろう。


 こうして二人の勇者に言いがかりをつけられ、俺達は46階層へと向かった。



「――おっ、ダンジョンが元に戻っているぞ」


 俺は二度目に訪れた、46階層「紡ぐ者クロートー」の景色を見渡してみる。


 前回、上級悪魔デーモンモロクとの戦闘で焼け野原に成り果てていたエリアだが、今では元の密林ジャングルに戻っていた。

 『奈落アビスダンジョン』には自己修復能力が備わっているが、ここまで完璧だと逆にその過程が気になってしまう。

 ますます不思議な場所だ。


「《索敵》スキルは反応するけど、モンスターばかりだねぇ。勇者カズヤはここにはいないようだよん」


「香帆ちゃん、【覇道のキメラ】って、60階層の『不可避の者アトロポス』まで到達しているんでしょ? だったらそこにいるんじゃない?」


「アゼイリア先生の言う通りだわ。ここからは私達、【聖刻の盾】が戦うから、スズナと【風神乱舞】は休んで回復に専念してなさい。美夜琵ちゃんもよ」


 美桜の指示で、【風神乱舞】のメンバーは「わかりました」と頷いている。

 ただ美夜琵だけは「美桜殿、失礼ながらワタシはまだ戦えます!」と足元をふらつかせて豪語する。

 けど結局、美桜にスルーされて回復組に降格させられた。


 ただ一人、彼女だけは違った。


「やりぃ! おばちゃん、楽しちゃおっと。時雨君、おんぶしてぇ」


 涼菜はくるりと回転しながら、時雨の隆々とした背中に向けて飛び跳ねる。

 サブリーダーの時雨も忠実なサムライ職だからか、嫌な顔こそするが断りきれない様子だ。


 せ、先生! 一人だけ元気な癖に楽しようとする、おばちゃん勇者がいます!


「……真乙、スズナあいつはスルーよ。こっちのペースが乱されるだけだから、今は放置よ」


 軽蔑した眼差しで見入っている俺に、美桜が耳元で囁いてくる。

 確かに下手に関わってもグダグダ展開になるのがオチだ。

 無難な判断だと思う。



 それから下層にむけて、俺達【聖刻の盾】を中心に探索アタックが開始された。


 やはり下界層は伊達じゃない。

 見たことのない強力なモンスターが頻繁に現れる。


 中界層で遭遇したカプロスは勿論、単眼の巨人サイクロプス、大型の蟷螂に蠕虫ぜんちゅう系のモンスターことワームだ。

 ワームといえば、渡瀬の家で魔改造された「人面ワーム」を思い出すが、こちらは純粋なモンスターである。

 習得スキルこそ少ないが、レベル45と中々侮れない戦闘力を持っていた。


「面倒ね――《時間軸タイマー》」


 美桜は聖剣の切っ先を地面に突き立て、スキル能力を発動した。

 地に足をつけていた全モンスターが一斉に動きを止める。

 しかも連動性があり、一匹の動きを止めるのに10秒ずつ停止時間がプラスされるという反則ぶりの効果を持つ。


 結果、8分間の時間停止に成功した。


「さぁ、みんな狩るわよ! この状態で攻撃するとクリティカルヒットを与えられる筈だから、レベル差があってもワンキルできる筈よ! 経験値も獲得できるからね! 特にヤッスくんは、とっとと『停滞期』を脱するために頑張るのよ!」


「わ、わかりました、我がマスター……」


 美桜は絶対で盲目的なヤッスでさえ、ドン引きするチートぶり。


「久しぶりだねん! 美桜のチートを堪能できるのぅ、やっぱ楽しいぃ! ひゃっほーっ!」


「これならどんな強敵でも余裕で斃せるな……けど、こんな勝ち方でいいのか?」


「メシウマよ、王聡くん。楽できていいんじゃない? 流石、ミオちゃん♪」


 仲間達が各々の感想を述べながら武器を振るい、次々とモンスターを撃破していく。

 確かに楽ゲーっぽく、妙な罪悪感が過ってしまうけどね。

 だから姉ちゃん、ゼファーから深淵層以外で探索アタックしたら駄目だと釘を刺されているんだろう。


 まぁ、これも【聖刻の盾】流のタクティカルと言えばそれまでだ。


「よし! 俺も遠慮なく戦うぞ! レッツ、レベリング!」


 俺は電光剣と竜殻剣を抜き、問答無用でモンスターに斬りつける。

 いずれ戦うであろう、渡瀬玲矢こと『闇勇者レイヤ』との対決に備え、ここぞとばかり力をつけようと思った。

 

 全ては、杏奈を守るため――もっと俺は強くなってみせる!



「……ふ~ん。やっぱミオさん、怖いねぇ。生徒会長といい、『魔王戦争』組の勇者とだけは戦いたくないわぁ」


 モンスターを一掃後、時雨におぶさっている涼菜が感想を漏らしている。

 美桜が近づきながら「フン」と鼻を鳴らした。


「あんたがよく言うわ。どうせ、私の能力を観察しながら戦闘プランを練っていたんでしょ? 同じ勇者だけに思考が読めるわ」


「これも異世界での癖というか習慣みたいなものでしょうか? だから極力、自分の能力を相手に見せない方がいい……信頼できる仲間以外では。あ、ってことはミオさん、私のこと信頼してくれているぅ?」


「ハッ、まさか。あんたが自分のユニークスキルを披露したから、こっちも片鱗を見せたてあげだけよ。それに警告も意味しているわ……弟に妙な真似したら承知しないからね」


「いやだわー、奥さん! 私が真乙君に妙な真似なんてするわけないじゃなーい! もう、おばちゃん下っ腹が痒い!」


「誰が奥さんよ。まったく食えないったらありゃしない……スズナ、あんたはまず時差ボケを直しなさい」


 ふむ、これも勇者同士のコミュニケーションだろうか?

 一見、険悪同士の会話だが所々でお互いの強さを認め合っている感じがする。

 考えてみりゃ姉ちゃん、フレイアとゼファーとも似たようか会話ばかり交わしているよな。


 にしても涼菜のおばちゃん化はなんとかした方がいいと思う。

 昔の清楚で可憐だった「高値の花」に戻ってプリーズ!



 それからも「紡ぐ者クロートー」での戦闘が続いた。


 密林がフィールドだからか、出現するモンスターも爬虫類系や昆虫系が多い気がする。

 だけどリーダーの美桜が率いる【聖刻の盾】にとって敵でなく、遭遇する度に時間停止させられ駆逐し狩りまくった。


「――これぞ、まさに【聖刻の盾】の真価か! くぅ~、たまらん!」


 復活した美夜琵も参戦し、刀剣でモンスターを一刀両断する。

 てっきり楽ゲーすぎて不満を漏らすかと思ったが、案外柔軟に受け止めて寧ろ興奮していた。

 また鼻血を出さなきゃいいけどね。



「ヤッス、どうよ? そろそろ『停滞期』は突破しそうか?」


「ははは、流石にまだ無理だよ。ユッキでさえ、結構な経験値を要したろ? まぁマスターのおかげで……今回の探索アタックでいけそうな気はしているが」


「頑張れ、期待しているぞ。最速ルーキー」


 こんな変態紳士でも親友だからだろうか。

 邪念なく、ヤッスが冒険者として成長してくれることが素直に嬉しい。

 もう前周のような引き籠りのニート野郎にはならないだろう。



 順調に戦果を挙げ、ついに50階層を突破する。


 51階層の「運命の図柄を描く者ラケシス」に到達した。

 別名、「雲路」と呼ばれる57階層まで続くエリアだ。


 「紡ぐ者クロートー」と同様、ダンジョンとは思えないフィールド。

 大半が山岳地帯となっており、辺りには濃霧や雲海に包まれている階層であった。

 とにかく視界と足場が悪い。


「……空気が薄い。ちょっと苦手な階層エリアね」


 『気流の勇者エア・ブレイヴ』こと涼菜が瞳を細め呟いている。

 そういえば水中とか空気のない場所だと彼女のスキル能力に支障があるのだとか。


「――おい、貴様ら! そこで何をしているんだなぁ!?」


 不意に霧の中から、聞き覚えのない男の声が響いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る