第178話 対立と共同の決意
モンスターの密猟集団【覇道のキメラ】と対立すると決めた、リーダーの美桜とサブリーダーの俺。
あとは【聖刻の盾】として行動するため仲間達の意志を確認して行動に移すのみだ。
「――と、意気込むのはいいけど、そうなると冒険者同士で戦うことになる。つまり相手は人間ってことだ……みんなはそれでもいい?」
「マオッチ、ウチらに気を遣う必要はないよん。異世界でも闇落ちした人族と何度も戦ったことがあるからねん。あと気に食わない野郎はよくブン殴ってやったしぃ」
「そうだ、ユッキ。俺もよく山賊達を容赦なく薙ぎ倒したものだ(……まっ、大抵は
「ええ、勿論よ。モンスターを地上に持ち込むなんて現実世界の均衡を崩すだけだわ。同じ“帰還者”として見過ごすわけにはいかないもの」
香帆とガンさんとアゼイリアの“帰還者”組は特に抵抗なく頷いている。
考えてみれば彼女達は異世界で百戦錬磨の冒険者達だ。
寧ろ俺よりも戦う覚悟ができている……ガンさんは怪しいけどな。
「ヤッスはどうだ? 人間と戦った経験がないだろ?」
「ああ無論、緊張している……本来の僕はラブ&ピースをモットーにしている平和主義者だ。本来、ガチでブッ飛ばしていい輩はNTR系エロ漫画の勝ち誇った寝取り野郎だけだと思っているくらいだからな」
お前の口からラブ&ピースとか平和主義者なんて初めて聞いたわ。
あと後半の内容はまったく関係ないだろ? ブッ飛ばしたい気持ちはわかるけど……。
そんなヤッスが話を続けてくる。
「とはいえ、ルールが定められている以上、違反者は見過ごせない。そういう輩とは時に武力を持って律する必要があるのも現実だと思う。だから仲間である皆が戦うなら僕も戦おう……あと視姦だけで捕まることはないらしいから、僕の『おっぱいソムリエ』としてのテイスティングはグレーゾーンだそうだ」
やっぱ後半の部分はまったくいらねーっ。
要はヤッスなりに戦う覚悟があるってことで理解した。
「美夜琵はどうする? 臨時加入メンバーとして一緒に来るかい?」
彼女の目的はあくまで『
一応、下界層には潜ることになるけど
まぁ前回のジーラナウとの戦闘じゃ思いっきり関わってもらったけどね。
溺愛する義理母こと涼菜の手前もあるし建前上ってやつかな。
それに正義感の強い美夜琵なら、
「無論、ワタシも参戦する! 真乙殿、どうか気にせず同行させてほしい!」
思っていた通りの返答をしてくれる。
「よし、決まりね! やっぱ【
美桜はわざとらしく自分のパーティを持ち上げて、煽るように涼菜に振っている。
それイコール「あんた達も巻き込まれなさいよ」と遠回しに言っているように聞こえた。
「……正直、ミオさんポジになっちゃうのは嫌なんですけどね。『零課』に気に入られたからって温泉施設の割引券が貰えるわけないし……別にお得感ないというか」
「ですが母上、正義は全うせねばなりませぬ! それに相手が同じ勇者である以上、勇者は多い方が有利な筈ですぞ!」
「ホオちゃんはお嫁に行っちゃったから、小姑側の味方になっちゃったのね……ママ、あれだけ愛してたのに悲しいわぁ」
何故か急にゴネている、涼菜。
ただ流れで美桜に従うのが嫌なのか、それともおばちゃんの気まぐれで面倒くさくなっただけなのかは不明だ。
てか美夜琵はどこにも嫁いでないぞ。
しかし仲間は多い方が断然いい。
先の戦闘でも涼菜と【風神乱舞】なら、敵と戦わなくても奴らを制圧することも可能な筈だ。
「涼菜、一緒に戦わないか? 俺達にはキミの力が必要なんだ」
「……真乙君、それって臨時加入メンバーとして? それともキミ自身のお願い?」
え? どういう意味?
「どっちもかな……今は俺の考えで頼んでいるのは確かだよ」
「ふ~ん、まぁ一緒に戦った方が
「そ、そう……ありがとう」
その気になってくれたのは嬉しいけど、惚れ直すって理由としてどうよ?
なんでもいいけど別れた元彼扱いはやめて。
そもそも付き合ったことねーじゃん。
「……やっぱムカつく女ね。けど『狂乱の勇者』対策には、こいつの能力は必須だわ。眷属達も有能ばかりだしね。それとあんた達、もう一度聞くけど『取引先』の正体は知らないの? 些細なことでもいいわ」
美桜は愚痴を零しながら、再び二人の男達に問い詰める。
「……は、はい。俺ら下っ端のパシリなので具体的には聞かされてません。けどカズヤさんとサンブーさんの口振りから依頼主は女であるイメージを持ってました。二人の会話から何度か『あの小娘』と口にしてましたので……」
「それと『
強力なモンスターを必要とする小娘と勇者?
なんだ? 妙な組み合わせだ……けど何かが引っ掛かる。
「で、あんた達が捕えたモンスターをそいつらはどうやって地上に持ち込もうとしているの? そのルートや手段は?」
「「さぁ、そこまでは……すんません」」
声を揃える拘束された男二人。隠し事をしている様子は見られない。
どうやら下っ端から聞き出せる情報はここまでのようだ。
間もなくして、もう一人の男が目を覚ます。
同じように尋問するが似たような回答しか得られなかった。
予定通り密猟犯の三人はこのままゴザックが『零課』に引き渡すことにしている。
粛正されるかどうかはゼファー次第だと言う。
またゴザックよりギルド内部で共犯者か協力者がいないか、ゼファーにガサ入れしてもらうと話していた。
『零課』から委託された『露天商業ギルド』にとっても、このまま信頼を失うわけにはいかないので、意地でも身の潔白を証明したい思いがあるようだ。
こうして俺達は準備を整え、下層を目指すため出発した。
30階層の迷宮エリアも、時雨が「面倒だろ? このまま突き進むぞ」と言いハルバードを振り回して潜んでいたミノタウロスごと壁を突き破って突進していく。
両角のある鬼人族だけあり、その様は闘牛よりも闘牛らしかった。
この人、侍の職種だよな? いったいレベルいくつなんだ?
その後もモンスターが現れるも、ほぼ時雨と仙郷で危なげなく斃していく。
特に陰陽師の仙郷は階層ごとに『
おかげで俺達の出番がなく、目的であった美夜琵とヤッスのレベリングになりゃしない。
ただ物臭の美桜だけは高評価し、「ねぇ、ウチに来ない?」と何度も誘って断られていた。
それから最短ルートで突破し、あっという間に45階層に到達した。
両開き式の古びた大きな鉄の扉に前に立つ。
中界層のボスこと『ヒュドラ』がいる部屋だ。
「ここは俺の見せ場だな」
ガンさんは自慢げに言いながら、引いて開ける扉をあえて押して強引押しこんだ。
結果、恒例の如く馬鹿力により鉄の扉が破損し倒れてしまったのは言うまでもない。
ところで「俺の見せ場」って何よ?
まぁ来るたびにブッ壊しているけどな。
そして階層ボスのヒュドラが現れた。
九つの首をもつ巨大な大蛇だ。
しかもガンさんのせいで既に目を覚ましており、初っ端から俺達に向けて「シャアアアア!!!」と威嚇している。
《鑑定眼》で調べてみると……レベル45だと?
俺が戦った時、レベル48もあったのに低くないか?
そういや『
今回は、美桜や涼菜といった激ヤバ系の勇者がいるのでそういったイベントはないのか?
あるいは【覇道のキメラ】の横暴ぶりに業を煮やし、イージーにしてくれているのか?
意志を持つダンジョンと言われているがよくわからないところだ。
「皆さん。及ばずながら、ここはワタシが単身で階層ボスの相手をしてもよろしいですかな?」
美夜琵が前に出て戦うアピールしてくる。
しかもやたら鼻息が荒い。
おいおい、まさか戦闘狂スイッチが入ったのか?
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