第177話 モンスター密猟集団

 涼菜の脅迫により、二人の男達はベラベラと喋り始める。


 やはり【覇道のキメラ】は噂通りのことをしていた。

 『奈落アビスダンジョン』でモンスターを生け捕りにし、地上で売りさばいていたのだ。

 主に買い手は富裕層であり海外にも横流しをしているとか。

 目的も様々で奴隷以下の扱いから、ストレスの捌け口や欲求を満たすことは勿論、相手がモンスターとはいえ聞く耳に絶えない内容ばかりだった。


「――それで、どうして私達を襲うように仕向けたの?」


 美桜は拘束された男達に顔を近づけて尋問している。

 知的系眼鏡美少女とはいえレンズ越しの眼光が鋭く何より圧が半端ない。

 大の男達でさえ「ひぃ……」と呻き震え上がらせるほどだ。


「……カ、カズヤさんの指示です。今までも『狩り』の邪魔になりそうなパーティに向けて、何度も『モンスター行軍マーチ』を引き起こし、押し付けてましたので」


 カズヤってのは【覇道のキメラ】のリーダーで勇者職ブレイヴの“帰還者”だ。

 やっていることは勇者と思えないゲス野郎だけどな……。


「……勇者カズヤね。私は名前程度しか聞いたことないけど、涼菜は知っている?」


「直接は会ったことはありませんけど、パーティ仲間(おばちゃんズ)情報だと、私達が活動した遥か以前の災厄周期シーズンで活躍した“帰還者”で、勇者の中でも熟練されたオジさんって話ですよ。なんでも物理攻撃とデバフを含むマインド崩壊系を組み合わせた戦いが得意だと聞いています」


 物理攻撃とマインド崩壊系を組み合わせる?

 いったいどんな戦闘スタイルなんだ?

 響きからして渡瀬と同じ闇勇者なのか?


「ゴザックなら、そういった裏事情に詳しいんじゃないか?」


「へい、ガルジェルドの旦那……あっしも小耳に挟んだ程度ですが、なんでも勇者カズヤは裏稼業の間じゃ『狂乱の勇者』と呼ばれていたようですぜ」


「狂乱の勇者? どういう意味ですか?」


 俺が問いに、ゴザックは「へい、マオト坊ちゃん」と頷いた。


「先程、スズナ様が仰った通り、勇者カズヤは独特の戦闘スタイルを持つことに加え、性格も残忍なところがありやして……転移した災厄周期シーズンでも、魔王を斃すことに多大な貢献こそしやしたが、目的のためには民の犠牲も厭わないことを平然としておりやしたそうです」


「それで『狂乱の勇者』って呼ばれているのね?」


「へい、アゼイリアの姐さん。その通りですわ」


「けどぉ、よくそんなんで闇堕ちせず帰還したよねぇ? それって明らかに『零課』のブラック認定でしょ?」


「ええ、ファロスリエン様、勿論ですぜ。まぁ現実世界に帰還できたのは、魔王を斃したことによる女神アイリスとの契約上のことですが、帰還早々から『零課』でもマークはされておりやした。しかし、勇者カズヤも年の功か。そう簡単にボロを出さない性格と、あとは【覇道のキメラ】自体の思想は他の“帰還者”にウケていたってこともあります……特にあっしらのようなワケあり連中にはね」


「確かどんな“帰還者”でも受け入れるパーティでしたな。一見、平等主義を唱えているようですが、裏を返せば無法者でも有りということですな?」


「ああヤッス坊、簡単に言やぁそういうことだ。そういった連中に限って、やたら仲間意識や連帯性が強い……まぁこいつらのように、都合が悪くなりゃすぐにゲロする薄っぺらい仲間意識けどな。けど密かに庇う連中が多いのも事実だぜ。現にこいつらが29階層ウチに逃げてきたもの、匿ってもらうことを期待してのことだ」


「ゴザック、あんたまさか【覇道のキメラ】と結託してモンスター密猟を手助けしているんじゃないでしょうね? だったら今すぐキルするわよ」


「ちょ、ミオ様! 冗談はよしてくださいよぉ! あっしは『零課』からここを任されているギルドマスターですぜ! 色々制限されているとはいえ、地上の家族を路頭に迷わすような真似なんざしやしねぇっす! 信じてくださいよぉ!!!」


 必死な形相で説明する、ゴザック。

 もう涙まじりで半ベソかいている。


 まぁ地上じゃ別荘持ちで裕福な暮らしをしているようだからな。

 おまけに元読者モデルの美人奥さんに五人の子供にも恵まれているときている。

 脅迫でもされない限り、そんな幸せな暮らしを投げ捨てるような愚かなオッさんじゃないだろう。


「……わかった、信じてあげる。けどあんたが白でも部下や住民質はって線があるわよね? それで、こいつらが期待して逃げて来たんでしょ?」


「へい、ミオ様。あっしもそう睨んでおります……何分、癖の悪いのもおりやすので。ですから部下は勿論、住民達には、ギルドマスターのあっしが警笛を鳴らしておきやす。この三人の身柄もあっしが引き取り『零課』から厳正な処分を受けてもらうようにいたしやす」


「そうね、任せるわ。それとあんた達、最後に質問していいかしら?」


 美桜は身を屈め、再度男達に鋭く凝視する。


「は、はい……なんでしょうか?」


「――【覇道のキメラ】のサブリーダー、白熊族ホワイトベアのサンブーが『最近いい取引先が見つかった』と漏らしているって情報があるわ。その『取引先』について何か知っている?」


「ええ、聞いております。今回の仕事もそちらの依頼によるものですから……」


「けど、俺達は下っ端なので詳しい内容は知らないです。ただ……」


「ただ?」


「今回はモンスターの捕獲だけでいいって……普段は地上に持ち帰るまでが仕事なんですが、それでカズヤさんとサンブーさんが『いい取引』だって喜んでいました」


 男達の話では、本来モンスターを捕獲し地上まで持っていく作業は相当骨が折れる重労働であるらしい。

 一つは、商品であるモンスターをほぼ無傷で捕えなければならないこと。

 致命傷でも与えた場合、すぐ『魔核石コア』になってしまい密猟が成立しなくなる。

 

 もう一つはそのモンスターを地上へ挙げるまで他者に見られてはならないこと。

 大概は誰にも知られていない未開拓の秘密ルートを使うようだが、上記が理由もあり下階層に降りるほどに困難となってしまう。


 したがって下層にいる強いモンスターほど高く売れる分、人手や手間などでの関係で割に遭わないそうだ。

 なので普段は手っ取り早く、初界層の低級モンスターの捕獲と密売がメインの仕事になっているとか。


 だが今回、勇者カズヤとサンブーとやらが喜んだ『取引先』は、捕縛するだけの依頼なので、二つの厄介な部分を気にする必要がないと言う。

 

 であれば、より強力で高値で売れるモンスターを追い求めて下界層で探索するのは、連中にとって必然の心理だ。

 そんな中で『零課』と繋がりがある美桜と、弱体化したとはいえ実力が衰えていない『極東最強』の涼菜という二人の勇者が共同して『奈落アビスダンジョン』に探索しているのだから、勇者カズヤにとっては邪魔でしかないと思ったに違いない。


 だから下っ端の部下に指示し、下界層から作為的に『モンスター行軍マーチ』を誘発させ襲わせたのだろう。


 何故なら、このメンバーの実力なら必ず下界層で必ず自分達とカチ合うと予想したからだ。

 実際、俺達は下界層目指していたからな。


「……大分、話の筋が見えてきたわね。どちらにせよ、今からゼファーに報告しても、私がダンジョンにいる以上は【覇道のキメラ】の勇者カズヤ達を捕えるよう指示されるのがオチね……面倒くさ!」


「前々から思ってたけど……姉ちゃんって、ゼファーさんに何か弱みでもあるの? 涼菜じゃないけど報告だけして帰るってこともできるんじゃないか?」


 別に連中と戦うのが怖いというわけじゃない、いやマジで。

 ただ依頼もされてないのに、美桜が積極的に首を突っ込む姿勢に疑念を抱いている。

 普段から厄介ごとは面倒がる姉なだけに尚更だ。


「ん? 別に弱みなんてないわよ、真乙。ただ『零課』に貸しを作って損がないだけ。エリュシオンで活動する上で色々と融通が利くようになるからね。【氷帝の国フレイア】だって、あれだけ険悪同士なのに協力的する理由はそこよ」


 所謂、ウィンウィンというやつか。

 まぁ『零課』とは渡瀬の件でも目的を共にする同士だからな。


「わかったよ。俺達【聖刻の盾】で【覇道のキメラ】の犯行現場を押さえ、あわよくば捕えて『零課』に引き渡すようにしょう! 受けた嫌がらせは倍以上にして返してやろうぜ!」


 こうして俺と美桜は、モンスター密猟集団【覇道のキメラ】を対立する決意を固めた。

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