第173話 謎めいた覇道のキメラ
「覇道のキメラ? 確か『勇者カズヤ』の束ねるB級のパーティで割と大きな規模の
「あたしも
「そうね……冒険者層の厚さといい実績もあるから、エリュシオンでも定評がある
美桜と香帆とアゼイリアが各々の見解を述べている。
なんでも過去10年前、『
「へい、皆さんが仰る通りギルドでも古くから存在するパーティなんですがね……華やかな栄光の裏でキナ臭い噂もありまして……」
「キナ臭い噂?」
美桜の問いに、コンパチさんは重々しく口を開いた。
「……あくまでここだけの話にしてくださいよぉ。【覇道のキメラ】の連中、なんとダンジョンからモンスターを捕獲して地上に売りさばいているって噂っすよ」
「なんだって!? それって駄目なヤツだよね!?」
「勿論よ、真乙……明らかに違反であり『零課』の粛清対象になる行為よ。ゼファーは知らないのかしら?」
「いえ、ミオ様。『零課』のガサ入れが何度か入っているみたいですよ……ただ証拠がないから粛正に至ってないみたいです。まぁ同じ【覇道のキメラ】メンバーでも関わっているのは極少数らしく、おそらく勇者カズヤと眷属達に限られているんじゃないですかねぇ?」
その噂が本当だったらガチの悪人じゃないか?
「してコンパチ殿、その噂の出何処はどこからなのです? それと仮にモンスターを地上に持ち込んだとして、いったい何を目的としているのでしょうか?」
ヤッスが《看破》スキルを発動させたのか、真っ当な事を訊いている。
確かにモンスターを地上に出したって何の活用法があると言うんだ?
「さぁな……俺も詳しくは知らねぇが富裕層に密売していると聞いたことがある。あるいはストレスの捌け口とかよぉ……モンスターなら、いくらキルしたって罪にはならねぇからな。あと、噂の出何処はそこにいるズズちゃんからだぜ」
コンパチさんの証言に、俺達全員が涼菜に視線を向けた。
「やぁだ、なーにー? みんなして見つめちゃ恥ずかしいでしょ?」
「母上、知っていたのですか?」
「うん、ホオちゃん。あの六人からの情報でね。お茶請け代わりにコンパチさん達や他の人達に、ママから話したことがあるよ。勿論、『零課』に密告したのも、この私ぃ」
あの六人とは同じパーティである『おばちゃんズ』か。
一見、涼菜同様の時差ボケメンバーだけど情報収集に特化しているのは本当のようだ。
「それで『零課』が動き、ガサ入れしても証拠が出なかった……でも少人数での犯行なら隠蔽は可能ね。色々な“帰還者”を気前よく受け入れているのもそれが目的かもね」
「木を隠すなら森みたいな?」
香帆の問いに美桜は首肯して見せる。
「ええ、自分らは潔白だと周囲にアピールするためよ。けどゼファーなら、その程度のことは気づいているわ。だからボロを出さないかマークしている筈だけど、一つだけ頭を抱えている筈よ」
「頭を抱えるってなんだよ、姉ちゃん?」
「簡単よ、真乙。犯行が60階層の『
「なるほどそうか……けど涼菜の『おばちゃんズ』、あっいや、六人の仲間はどこで情報を仕入れたんだ? 想像の範囲じゃ『零課』だって真に受けて動かないだろ?」
「私が答えるわ、真乙君。勇者カズヤの眷属が、エリュシオン郊外の居酒屋で漏らしていたそうよ。それでウチのメンバーが何気に近づき、お酒を奢ったら『最近いい取引先が見つかった』って気分良さそうに語っていたみたい。皆、おばちゃんだから聞き出し上手ってやつね」
いや涼菜、別におばちゃんは関係ないと思う。
けど確かにエリュシオンで話したらバレバレだけど、それ以外の場でうっかり漏らしても一般人なら理解しようがない話だな。
おそらく、そこに油断が生じポロったに違いない。
通常なら、ただの妄想や戯言程度だと思われ流れてしまうところだろう。
だが俺達のような冒険者にとって敏感なワードだ。
一般人の飲み仲間として近づき、酒を進めさせればより口も滑りやすくなる。
そんな感じで情報を引き出したってところか……『おばちゃんズ』やべぇ、ガチの工作員じゃん。
「その口を滑らした間抜けな眷属って誰よ?」
「ええ、ミオさん。サブリーダーの獣人、
スキンヘッドの情報はいらねーっ。
けどサブリーダーが真っ先に情報を漏らすってどーよ?
強かなのに間抜けなパーティっぽいぞ。
「なるほどね。それでも『零課』がガサ入れして証拠が出てこなかったところを見ると、眷属は間抜けでも勇者カズヤはそうでもない人物のようね……それでコンパチさん、そのカズヤが今『
「ええ、その通りです。早朝、他のパーティから聞いた話ですが……だからミオ様、もし下界層に探索する際は気をつけてください」
「ありがとう、そうするわ」
美桜がにっこりと微笑み感謝すると、コンパチさんは気を良くし「それじゃ俺達はこれで」と告げ、仲間の【熟練果実】達と共に標的のモノスを追い求めて去った。
「……嫌な予感がするわね。私がついて来て正解かも……いやこれも案外
「あの男ってゼファーさん?」
「そうよ、真乙。勇者カズヤの不正を暴かせようと見越して、私の
「店長ならあり得るねぇ。証拠がない以上、自分じゃ動けないからもの。警察官は事件が起きないとってやつだねん……まぁスズッチもいるわけだし、この面子なら【覇道のキメラ】とカチ合っても対抗できると見越したんじゃね?」
「香帆の言う通りね、ガチ最悪ッ! こんなことなら、フレイアも連れてくれば良かったわ!」
仮にこの場でフレイアを呼んだら、それこそ『白雪学園祭』の二の舞になると思うぞ、姉ちゃん。
「じゃあ帰ろ。私、若い人達のごたごたに巻き込まれるの嫌いなの。帰って一緒に温泉に入ろ、ね、真乙君」
涼菜よ、何故俺を名指しにする?
てゆーか、エリュシオンの温泉施設は混浴じゃないと聞くから。残念ながら一緒には入れないぞって……俺まで何を残念がってんだ?
「そういうわけにはいかないわ! ゼファーのことよ、このまま連中を放置したら、その火の粉は絶対に私に降りかかるに決まっているんだから! 私、面倒ごとはちゃっちゃと終わらせたいタイプなのよ! だから真乙、終わったらお姉ちゃんと温泉に入るわよ!」
姉よ、あんたまで何を言っているんだ?
溺愛してくれるのは嬉しいけど周囲の目もあるからブラコンは控えてくれ。
「ユッキ、両パーティのリーダー同士の意見が分かれた場合、俺達はどうすればいいんだ?」
ガンさんは美桜と涼菜を交互に見つめて訊いてくる。
心優しく正義感が強い一方で、びびりの小心者である彼としては「正義を貫く」か「逃げて帰りたい」という気持ちで揺れ葛藤している様子だ。
「あとはサブリーダーの意見になるんじゃね? 俺は姉ちゃんに賛成だ。涼菜には悪いけど、ルールを侵す悪党は放置できない。時雨さんは?」
「俺もマオト殿と同じ意見だ。そのカズヤという男、勇者とは思えぬ不届き者だ」
「決まりね。良かったわ、眷属はまともで……時雨さん、ウチに来る? 他の二人も受け入れるわよ。美夜琵ちゃんも含めてね」
「ミオ殿、お気持ちは大変有難いことなのだが、俺は侍として大将であるスズに仕えている身……今はこんなんだが異世界では何度も命を救われた恩義があるのだ」
時雨だけじゃなく、仙郷と白夜も似たような理由で首を横に振るい断っていた。
「そう残念だわ……(フレイアのところのタイガやディアリンドといい、主がポンコツに限って有能な部下の忠誠心がやたらと厚いのよね? 何故かしら?)」
姉ちゃんは頷き理解を示しつつ、内心では失礼なことを考えていると弟の俺は察した。
「いいわよ、別に。若い人達だけでパリピーポーしていればいいんだわ。おばちゃんはいつも蚊帳の外……あ~あ、昔は良かったなぁ。パラパラが懐かしいわぁ」
涼菜は頬を膨らまし不満と愚痴を漏らしている。
つーか、パラパラって80年代後半頃のダンスじゃねーか!
どうして同学年の女子高生が懐かしむんだよ!?
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