第170話 風神乱舞のメンバー

 異世界の時差ボケとやらで、すっかりおばちゃん化した涼菜。

 だからだろうか?

 押し掛ける形で俺についてきた姉の美桜が率いる【聖刻の盾】に対しても、その懐深く柔軟な寛大なノリであっさりと受け入れてくれた。


 現在、俺は涼菜のパーティ【風神乱舞】と合流するために彼女と共に移動している。

 背後で美桜達がしれっとついて来ているが、俺的にはなんだか友達と遊ぶのに、オカンがついて来てしまっている気分だ。

 そんな姉ちゃん達を拒めない俺も問題だと思う。



「――おお、真乙殿! お待ちしておりましたぞ!」


 受付の前で顔馴染みの美夜琵が手を振って招いてくれた。

 既に冒険者である「鬼灯」の姿をしている。


「やぁ、おはよう……ごめん、姉ちゃん達もついて来たんだけど」


「ああ、母上から連絡があって聞いている。臨時加入したワタシとしては大歓迎であり、物凄く光栄だ! 今度はちゃんとワタシの戦いをミオ殿に見て貰えるからな!」


 思った通り、美夜琵はウェルカムだ。

 俺は安堵しつつ、彼女の後ろに佇む集団に目を向ける。


 全員が冒険者の姿をした九人ほどの男女。

 この人達が【風神乱舞】のメンバーか。


 弱体扱いされているわりには圧が半端ないな。

 特に美夜琵の真後ろで佇む三人がやばい……相当の手練れと見た。


 俺が見据えていると、涼菜が間に割り込み「みんなぁ、お待たせーっ!」と声を上げた。


「紹介するねぇ! 彼が今日から【風神乱舞】に臨時加入した、幸城 真乙君でーす! おばちゃん中学の卒業式で、彼に告白して見事にフラれちゃいまさいた~ん、アハハハハ!」


 自虐ネタのつもりなのか、涼菜は余計な補足を加えてきた。

 おかげで俺の中での「挨拶マニュアル」が覆され、なんて答えていいのかわからなく戸惑ってしまう。


「と、とりあえずよろしくお願いします!」


 うわちゃ……とりあえずって何よ?

 涼菜のせいで思いっきり変な挨拶をしちまったじゃないか。


時雨しぐれだ。ギルドで話題の『鋼鉄の盾役フルメタル・タンク』と共にダンジョン探索アタックできることを誇りに思う。よろしくな」


 時雨と名乗った巨漢の『侍』が俺に握手を求めてきた。

 長い髪を後ろに縛った筋肉隆々で全身が甲冑姿の男性。背中には大きな刃を持つ槍斧ことハルバードを携えている。

 よく見ると頭頂部に二本の突起が見えていた。人族じゃないようだ。

 美夜琵の捕捉では【風神乱舞】のサブリーダーで、「鬼人族」という妖魔族にあたる種族らしい。年齢は24歳だと言い、地味にガンさんより年下の兄さんだった。


 俺は差し出された時雨の手を強く握り締め、「よろしくお願いします!」と挨拶を交わした。


仙郷せんきょうです。よろしく」


 淡々とした口調で名乗ったのは、白い布で目元以外の顔を全体的に覆い隠し、平安時代の束帯に似た服装の人物だ。

 甲高い声質から若い女性のように思われるが、切れ長の双眸から男性のようにも思えてしまう。年齢も不詳だ。

 なんでも『陰陽師』という極東でもレアな職種らしい。


「……白夜びゃくやよ。イジメないでね」


 呟くように小声で名乗ってきた少女。

 前髪が長く左目を隠しており、晒した右側も瞼が半分降りた眠たそうな瞳をしている。

 乳白色の肌に整った可愛らしい容貌であるが、おどおどとした弱々しく幸の薄そうな印象だ。

 片手には錫杖を持ち、尼層のような恰好をしている。

 職種も『僧侶』であり回復役を担当していると言う。年齢も現実世界では15歳だと聞いた。


 以上で俺が感じた最も圧の強い三人だ。


「真乙です。よろしくお願いします……あと白夜さん、俺はそういうタイプじゃないので安心してください」


「時雨君と仙郷さんと白夜ちゃんは、私の眷属で【風神乱舞】の古参だからね。あと一人いたけど、その子は異世界人だったからあちらで留まっているわ」


 涼菜が嬉しそうに説明してくれた。

 ということは、この三人が彼女と共に三回の災厄周期シーズンを戦い抜いた“帰還者”ってことか……どうりで圧があると思った。


 それ以外の六人のパーティメンバーは全員若い女性らしく、別の災厄周期シーズンの“帰還者”ばかりだとか。

 美夜琵曰く「あの者達は母上と同様、時差ボケした井戸端会議仲間だ。志があるのかどうかわからん。基本、愛想をふりまいていれば無害だ。一方で戦力外でもあるがな」と教えてくれた。


 所謂、おばちゃん仲間ってやつか?

 なんか面倒なので、あの六人は『おばちゃんズ』と心の中で命名した。


「スズ、後ろの方々が【聖刻の盾】の方々だな?」


 時雨が問うと、涼菜は「そうよ」と頷いた。


「そして偉そうに両手を組んで威嚇している眼鏡のJKが、あの『刻の勇者タイム・ブレイヴ』ミオさんだよ!」


「悪かったわね、偉そうで。別に威嚇してないわ……時差ボケ勇者が統率する弱体パーティにしては眷属達がまともで関心を示していたところよ」


 相変わらず姉ちゃんは毒を吐き散らしている。

 しかし超マイペースの涼菜が特に乱されることなく、「仕方ないねー」とおばちゃん独特のどこか諦めた口調で流した。


 それから美桜を含む【聖刻の盾】のメンバーも簡単な挨拶を交わして受付に向かう。

 

 週末だけあって受付場は冒険者達で溢れて混雑していた。

 しかし、美桜の姿を見た途端、全員がサッと左右に分かれて道を開けてくれる。

 その光景を涼菜と仲間の「おばちゃんズ」六人が感嘆の声と共に握手していた。


「凄い、ミオさん! 今度、私達と演歌ライブに行きましょ! ショッピングモールに花岡ハナトが来るのよ! ミオさんがいれば場所取りも楽勝でいーわ! 」


「行かないわよ! 誰よ、花岡ハナトって!? そもそも演歌は聞かないわ!」


 うおっ、涼菜って演歌が好きなのか。

 いや別にいいんだけどね……けど俺が描いていたイメージがまた崩れていく。

 余談だが「花岡ハナト」とは熟女の間で人気の若手演歌歌手である。

 てか、姉ちゃんの影響力はエリュシオンに限られるけどね。


「あっ、マオトくん、おはよう。皆さん先日はどーも」


 受付場のインディさんが笑顔で挨拶してくれる。

 今日は『零課』の作業班ではなく、真っ当な受付嬢だ。

 なんだか顔を見ているだけでホッとしてくる。


「おはよう、インディさん。多分、知っていると思うけど、今日は【風神乱舞】のメンバーとして探索するんだ。まぁ姉ちゃん達も一緒だけどね」


「ええ聞いてます。【風神乱舞】の皆さんは初界層の20階層まででしたね? 一方の【聖刻の盾】の皆さんは下界層の46階層まで到達していますから、メンバーのレベルを考慮して35階層辺りが無難でしょうか」


「ねぇ、受付嬢のお姉さん。【風神乱舞】は私と眷属の子達だけに絞るなら、もっと下層まで潜れるんじゃない?」


 不意に涼菜が言い出してきた。

 ということは、眷属以外の仲間である「おばちゃんズ」を置いていくという考えなのか?


 問われたインディは「う~ん」とタブレットで何かを調べながら考えている。

 彼女も見た目こそ、異世界風の緑髪美人なので近代的な代物を持っているだけで違和感しかない。


「――はい、スズナ様。レベルが足りない方も何名かおりますが、皆さんのこれまでの実績であれば50階層の『紡ぐ者クロートー』まで制覇できるかと思います」


「マジで!? インディさん!」


「ええ、あくまでデータベース上ではありますが……ただし通常であれば、鬼灯さん、ガルジェルドさん、マオトくん、ヤッスくんのレベルだと無理だと言わざるを得ません」


 なんだよ、ほぼ俺達【聖刻の盾】の男達ばかりじゃん。

 超頑張っているのにショックなんだけど……。


 インディは話を続ける。


「ですが、鬼灯さん以外の方は異世界・現実世界共に実績がある方ばかりなので不可能ではないと考えられます。ですが無茶は禁物ですからね」


 そうか……考えてみれば、レベル20~40代で下界層に到達した冒険者なんている筈ないもんな。

 これまでの探索と戦いから、ギルドでも俺達の評価がそれだけ高く得られているってことだ。


「ということは、『紡ぐ者クロートー』を制覇すれば【聖刻の盾】の階級も上がるかもね……」


「ん? 姉ちゃん、階級って?」


「あれ、言ってなかったっけ? ギルドで定められたパーティ階級よ。ラノベのタイトルでもあるでしょ? 『~級パーティから追放された、なんちゃらのスローライフ』的な。アレと同じよ」


 ラノベ情報はどうでもいいとして、そういや各パーティにランク制があることは以前から聞いている。

 漠然とした感じだったけどね。


「良かったら、私が説明するわ――」


 美桜の代わりに、インディさんが説明してくれた。

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