第168話 乙女達の思惑

 話し合いの末、【聖刻の盾】に美夜琵の臨時加入が決まった。

 その代わりとして、俺が【風神乱舞】へと臨時加入することになってしまう。


 まぁ異世界では『極東最強』と称えられたパーティだ。

 現実世界は燃え尽き症候群っぽく自堕落化してしまったみたいだけど、他所のパーティを知るのも勉強かもしれない。


 などと前向きに思うようにしとくわ。


「もうやだ、こんな生活! 死ぬ、帰る!」


 久住さんは何故か大声を張り上げブチギレている。

 その駄々をこねる姿はとても同級生とは思えない、完全におばちゃんだ。

 まだ俺の母さんの方がまだ若々しい。


「だから誓約書にサインしろって言っているのよ! まず私が作っておくから、そっちの条件と照らし合わせましょうって話よ!」


「これも互いに公平にしようとする、ミオさんなりの妥協案ですわ。後々互いのパーティに問題が生じないよう、ルールを設けるのは当然ではありませんの?」


「いや、めんど! そんな堅苦しくしなくていいじゃないですか? 若い人達の間でも流行っているでしょ? レンタルなんちゃらって。おばちゃん、そういうノリでいいと思うんだけどなぁ」


「嫌よ、あんたみたいないい加減な勇者が務めるパーティなんかに、一時でも大切な弟を預けるんだからね! きちんとガチガチにルール化しないと安心できないわ! 見てなさい、電話帳バリに分厚い契約書にしてやるんだから!」


 ね、姉ちゃん……そりゃ久住さんも拒むよ。

 ほぼタチの悪い嫌がらせじゃん。


「ミオさん。万一、スズさんが決まりを破るようであれば、真乙様を【氷帝の国】にお預けするという文言を記入してくださいませ」


「誰が書くか、アホなの!? てかフレイアは関係ないでしょ!? どいつもこいつも、弟に盛るメス犬ばかりねぇぇぇ!! 法の壁さえなければ、真乙はお姉ちゃんのモノなのにぃぃぃ!!!」


 美桜がブチギレるあまりに壊れ始める。

 何どさくさに口走ってんだよ、姉ちゃん!


 もうここに、まともな女子は一人もいねぇや。

 いや、一人だけいたわ。


「すまない、勇者の方々! ここはワタシに免じて収めてくれぬだろうか!?」


 美夜琵が声を張り上げ制止を呼びかけた。

 思いが通じたのか、みんな口を閉じ彼女に注目する。


「真乙殿が【風神乱舞】に参加している時は、このワタシが責任を持ってお守りしよう! 決して母上のいいようには致しません! 武人として約束いたします!」


「……お言葉ですが、鬼灯さん。貴女、そのスズさんをお一人では説得できないから、このような場が設けられたのではないですの?」


「うっ、フレイア殿……そ、それは」


 見事に痛いところを突かれてしまう、鬼灯こと美夜琵。


 だが美桜の反応は違っていた。

 怒り心頭だった表情がスッと冷めて、普段の知的でクールさを取り戻し始める。


「……美夜琵ちゃんが言うなら信じるわ」


「かたじけない、ミオ殿」


「いいわ、これからもよろしくね」


 なんだ、この柔軟な姿勢は?

 急にどうしたんだ、姉ちゃん?


「あの三大極悪勇者のミオさんに信頼されるなんて……ホオちゃん、大きくなったね。ママ嬉しいよぉ」


「大きくなったって……今では同い年ではありまぬか? お願いですから母上は黙っていてくだされ!」


 見た目は美少女同士だが、会話上は母親と思春期の娘とのやり取りだ。

 

 けどなんだか知らないけど事が収まって良かった。

 これで不毛な話合いもようやく終わる。

 早く杏奈と合流しよっと。


 そう俺が楽観的に思っている隣で、フレイアだけが煙たそうに顔を歪めている。


「……厄介なことになりましたわ」


 小声で呟き親指の爪を噛んでいた。



 それから生徒会室を出た俺達は仲間達と合流する。

 ディアリンドの案内で大学の方まで見学に行っていた筈だ


 だからか?

 みんなの両手には、さも屋台で買いましたと言わんばかりに沢山の食べ物をぶら下げている。

 特にヤッスとガンさんに至っては、なんかのキャラクターのような丸い耳のカチューシャを頭につけている程のはしゃぎぶりだ。

 どうやら向こうは高等部のような圧政ぶりがなかったのだろう、

 

 俺達が必死な思いで交渉しているってのに少しイラッとしてきた。


「……真乙くん、終わった?」


 杏奈が安心した表情で近づいてくる。


「まぁね。楽しんできたかい?」


「うん。これね、おみやげだよ……そのぅ真乙くんと一緒に食べよっかなって思って」


「杏奈、ありがとう……嬉しいよ」


 ええ子や。ガチ天使だ。

 杏奈がいてくれるからこそ、俺も理不尽な目に遭っても頑張れるんだ。


 俺が気持ちをほっこりさせている中、ヤッスが近づいてきた。


「僕もユッキにおみやげを買ってきたんだ。ほら、このカチューシャ、『スノーマウス』という白雪学園限定のマスコットキャラらしい。今後、友情の証としてガンさんと三人で、お揃いで頭につけようじゃないか?」


「いらねーよ! ここでしか、つけられねぇじゃねーか! パクリっぽいし恥ずかしーわ!」


 まぁ、こいつなりに気を利かせてくれた部分は素直に嬉しいけどね。


「幸城君その女の子、誰?」


 背後から久住さんが訊いてくる。

 ついドキっとしてしまった。


「え? いや、さっき言っていた子だよ。杏奈、彼女は『久住 涼菜』さん、中学時代の同級生で美夜琵の知り合いなんだ」


「へ~え、貴女が野咲さんね。幸城君から聞いているわ……色々とね」


 どこか含ませたような物言いの久住さん。

 頼むから余計なこと言わないでくれよ……マジで。


「どうも久住さん、初めまして」

 

「ふ~ん、貴女が幸城君の……案外、普通なのね。お菓子食べる? もらい物だけど」


「いえ、結構です(なんか同い年に見えない……ある意味、フレイアさんと同じ匂いがする)」


 険悪とまでいかないが、互いに何かを警戒し探り合っているように見えてしまう。

 

「フレ、いえ不和生徒会長」


 ギロデウスとストライザとジェイクが駆けつけて来る。

 中等部の制服を着た、メルの姿もあった。


「あら皆さん、お揃いで」


「フレイア様ぁ、『マオたんハートゲッチュ♡』作戦はどうでしたか?」


 メルが何やら小声で訊いている。


「どうもなにも……すっかりスズさんに振り回されてそれどころじゃありませんわ。まったく忌々しい」


「マジっすか? 俺らであれだけ、マオたんに『白雪学園の素晴らしさ』をアピールしまくったのに……」


「散々勿体ぶっていた割には不発とは……これじゃ彼の転入させる作戦は白紙ですね」


「逆に良かったんとちゃうか? だって『気流の勇者エア・ブレイヴ』と同級生やろ? 下手に近づけちゃあかんと思うで」


「主よ、ワタシもジェイクと同じ意見ですぞ。スズ殿はああ見ても隙がない……年の功か、厚かましさの中に強かさを宿しているからな」


「わかっていますわ。本来なら、この場で野咲さんと決着をつけるつもりでしたが、思わぬ強敵に振り回され、それどころじゃありませんでしたの……その件に関しては少し様子見といたしますわ。スズさんの出方次第では、案外野咲さんと徒党を組む必要も視野にいれなければなりません」


 フレイアは眷属と話し込み、妙に深刻な表情をしている。

 会話の内容は聞き取れないが、久住さんを警戒している様子だ。


 考えてみれば今回もフレイアには世話になったな……。

 他パーティ同士のことなのに、場所と時間を提供してフォローまでしてくれた。

 前回の件もあるし……。


「あのぅ、フレイアさん」


「はい、真乙様? 如何なさいましたか?」


 俺の声を掛けられ、彼女はハッと表情を変える。


「今回も色々と配慮してくれてありがとう。この恩は必ず返すから……俺で良ければ【氷帝の国そちら】の協力も惜しまないからね」


「はぁい、ありがとうございますわ! (キャッ真乙様、なんてお優しい! わたくしの活動も無駄ではありませんでしたわ! このまま『できる女』ポジを維持しつつ、いつかマオたんのハートゲッチュ♡ ですわ~!)」


 気を良くしてくれたのか、フレイアは満面の笑みを浮かべてくれる。

 でもどこか、企んでいるように見えてしまうのは俺だけだろうか?


 一方で眷属達から「こんなんで大丈夫か、ウチらの女帝は?」と心配する声が聞かれていた。


 こうして『白雪学園』の学園祭は幕を閉じた。

 ぶっちゃけ俺は楽しめなかったけど、最後にワゴンの中で杏奈と仲良くおみやげを食べれたので満足だ。



◇◇◇



 自宅に戻ると早速、久住さんからメールが届いた。

 次の週末、美夜琵を含めた【風神乱舞】のメンバーと探索しないかという内容だ。

 臨時加入とはいえ俺の一存では決められない部分もあるので、リーダーの美桜に相談してみた。


 が、


「あの女ァ、やっぱり仕掛けてきたわね! もう見え透いているわ! わかった、お姉ちゃんにも考えがあるんだから!」


 突如、美桜はブチギレてしまう。

 そしてスマホを取り出し、誰かに鬼電しまくっていた。

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