第161.5話 掲示板:前夜祭の決起集会ですわ3

【キカンシャ・フォーラム】


雑談スレ:前夜際の決起集会ですわ



286.ゼファー

 その通りだ

 神が生誕する聖夜を狙っているのだろう

 やらんとしていることは、おそらく召喚儀式の《魔宴サバト》に違いない



287.フレイア

 A子とは乙女として決着をつける必要があります

 レイヤ如きの手に下っては面白くありませんわ


>ジーラナウ

 それで、残る二名について何か手掛かりはありませんの?



288.ゼファー

 俺が答えよう

 はっきり言ってない

 何せ一般人だからな……今の時代、闇側に惹かれてしまう人間なんぞ五万といる



289.フレイア

 伊能市の人口はそんなにおりませんわ

 役に立ちませんね

 では、その元モデル男を洗って情報を引き出すしかなさそうですわ



290.ゼファー

 すまんが頼む

 ちなみに、『零課』で既にモデル男の存在は把握している


 名前は、木下 陽翔

 年齢:20歳


 住所は不定、孤児院出身だ

 レイヤとは別の施設らしいが、互いの共通点により意気投合したのだろう

 ちなみにマオたんとA子との面識もある

 ショッピングモールで彼らに絡んだそうだ

 それから間もなく事務所を辞め失踪扱いとなった


 俺としてはマオたん達に絡んだのは意図的だと思っている。

 木下陽翔は悪ぶった腕っぷし自慢だったようだが、それは事務所が売り出したキャラであり、実際は温厚で決して誰かに絡む性格ではなかったようだ



291.フレイア

 住所不定とは?



292.ジーラナウ

 ゼファーは下ネタ嫌いだから、今度は私が答えるわ

 木下は事務所の女社長の愛人だったのよ

 だから女社長名義で提供されたマンションで暮らしていたってわけ

 事務所を辞めて行方を晦ましたのも、完全に縁を切りたいという理由からね



293.フレイア

 なるほどですわ

 

>ゼファー

 捕虜にして取り込んだ元敵にフォローされるなんて情けなくてメシウマですわwww



294.ゼファー

 黙れ腐れ魔女


 それとジーラナウが言うには

 眷属のスカウトマンとして、その最後の協力者が動いているそうだ

 木下陽翔とあさることで、案外そいつも浮上するかもしれん


 さっき伝えたように最後の協力者については『零課』が【聖刻の盾】の協力下で対応する手筈だ

 お互い、捜索する中で合流することもあるだろう


>三バカ

 くれぐれも足を引っ張るなよ

 何かやらかしたら逮捕じゃすまないからな



295.ギロデウス

 相変わらず酷ぇ

 パワハラな上にモアハラまで含んでいるぞ



296.ストライザ

 ガチ最悪

 流石、三大極悪勇者の一角ですわw



297.ジェイク

 てかなんでワイらだけ名指しやねん?

 ワイらほど貢献している庶民はおらんで



298.フレイア

 貴方達には幾つも前例がありますからね

 『零課』だけに信頼度:0ですわw



299.ディアリンド

 流石は我が主

 上手いですなw



300.ギロデウス

 上手くねーよ!

 自分らの幹部が脅迫されてもフォローないんかい!?



301.ジーラナウ

 噂以上に凄惨ね、【氷帝の国】って

 利用し合っていただけとはいえ、まだ闇堕ちした側の方が結束力は高かったわw



302.ジェイク

 言われてるやん

 もう弁明の余地なしやわw



303.ディアリンド

>三バカ

 元を正せば全て貴様らの素行だろ!?

 誰も間違ったことは一言もいっておらんぞ!



304.フレイア

>ディアリンド

 それなw

 したがっていくら訴えようと、わたくしの凍てついた心にはヒビ一つ入りませんわ



305.ストライザ

 もう散々言われて、私らケバブの刑まで受けてますわ

 そろそろ水に流してキボンヌ



306.ゼファー

 まぁ、そういうわけだ


>氷帝の国

 それじゃ頼むぞ

 また何かあったら連絡しよう



307.フレイア

 わかりましたわ

 ただし、二度とハッキングは止めてくださいね!



308.ゼファー

 ……割と侵入するの好きだったんだがな

 善処しよう



309.ジーラナウ

 じゃあね、魔女さん

 また会いましょう


>三バカ

 とんでもない集団クランに入ってご愁傷様ね

 いっそ私のように魂だけになって、事が終えたら一緒に異世界に転生しない?

 あっちの方が楽しいわよ



310.フレイア

>ゼファー

>ジーラナウ

 こいつら最悪ですわ!

 とっとと帰れですの!




**********



「まったく! 結局、決起集会どころの話じゃなくなったではありませんか!? 毎回、『零課』が絡むとろくなことになりませんわ!」


 不和財閥の豪邸屋敷にて。

 フレイアは広げたノートパソコンに向かって憤慨している。

 その姿を後方で、執事の徳永が背筋を伸ばして微動出せず佇み見守っていた。


 しばらく眷属達とやり取りした後、フレイアはノートパソコンを閉じる。

 それから何度か深呼吸を繰り返し、平静を取り戻した。


「……まぁいいでしょう。やるべき事は決まっていますわ。最大の障害であるミオさんを牽制しつつ、しっかりと真乙様にわたくしをアピールすること。そして、A子……いえ、野咲杏奈さんと勝負ですわ」


「お嬢様、お言葉ですが相手は仮にも一般人。『零課』控えられた方がよろしいかと?」


 普段はイエスマンである徳永が珍しく釘を刺してくる。

 『零課』のゼファーから散々言われているだけに、杏奈に手を出すことは禁忌だからだ。


「何度も言っているではありませんか? 野咲さんとはあくまで『乙女の聖戦』ですわ……そう、愛しの真乙様を賭けて。こればかりは女子として正々堂々と戦う必要がありますの」


「これは大変失礼いたしました。どうかお許しを」


「いえ、よろしいですわ、徳永。現在は野咲さんが圧倒的優位ですが、花火大会でわたくしが発破をかけたことで二人の進展に歯止めをかけることに成功しました。ただあまり時間も残されておりません……12月24日まで決着をつける必要があると判断しています」


「闇勇者レイヤが邪神メネーラを復活させようとする日ですね?」


「ええ……万一、野咲さんに何かあれば、お優しい真乙様のこと。きっと自分を責め、恋愛どころじゃなくなりますわ。つまりあの方の心は野咲さんのモノになってしまう……ですから、わたくし達も野咲さんを守る必要があるのです。そしてわたくしが唯一、真乙様の拠り所であることを猛アピールする。全てはそのための学園祭なのですから……」


「流石でございます、お嬢様。まさしく『マオたん、ハートゲッチュ♡』作戦でございます」


 忠実な徳永に称えられ、フレイアは満更でもなさそうに首肯する。

 しかし表情はどこか曇りを見せていた。


「……伝統ある我が白雪学園の学園祭。実は他にも大きな問題がございます」


「もしや、あの方を指しておられるのですか? 【風神乱舞】の勇者……ディアリンドの妹である鬼灯の育ての母親?」


「はい……あの方も相当癖が強いですからね。真乙様……きっと説得に難航するに違いありません。真乙様のためにも、わたくしが全力でフォローして差し上げる必要があるでしょう」


「……確かに。現実世界こちらでは色々と言われておりますが、『極東最強』と謳われたその力は未だ健在です。まともに遣り合えば私とて危ないかと」


「わたくしもですわ……って言うか、この世の生物であの方と真正面で挑める者がいるのか謎ですわ。幸い良識はそれなりに備わっている方なので、敵対することはありませんが……一応、わたくしとは先輩後輩の間柄ですしね」


「そういえば、あの方……真乙様と同じ中学で互いに面識があるとか?」


「ええ、そのようですわね。しかも色々と因縁があるようで……だから余計に真乙様が心配なのです。見た目こそ、清廉潔白風のお嬢様ですが……中身はああですからね」


「……何しろ三度も災厄周期シーズンを終わらせた英雄でございます。ただ自由気ままにレベル上げをしていただけの、ジーラナウとは明らかに質が異なるでしょう」


「通常、魔王を斃せばおおよそ100年は休息期間が設けられますが、その災厄周期シーズンだけは異例であり、連続して出現された時代だったとか……わたくし達が過ごした、大小問わず幾つも魔王が現れた『魔王戦争』の災厄周期シーズンに似た過酷さだと聞いております」


「しかも、その災厄周期シーズンを【風神乱舞】だけで終わらせたのですから、本来なら我が【氷帝の国】に匹敵する強さを今でも秘めている筈です」


「――どちらにせよです。真乙様の障害になるようであれば、わたくしが赦しませんわ。全力で阻止してみせましょう。そろそろ寝ますわ、徳永」


「はい、お嬢様。おやすみなさいませ」


 徳永は一礼し、静かな歩調で部屋を出て去って行く。


 フレイアは寝巻姿となり、広々としたベッドで横になる。


「……わたくしは誰にも負けません。必ず真乙様をお守りし、あの方の心を奪ってみせましょう」


 そう誓いを立て、氷帝の魔女は眠りについた。

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