第160話 思わぬ協力者

『――こんばんは、幸城君。昨日はどうも』


 突如、スマホ越しでインディとは異なる声が聞こえた。

 しかもつい最近、どこかで聞いたことがあるような……。


「……あんた誰だ?」


『元、貴方の担任教師だった「灘田 楠子」よ。けど死亡扱いらしいから、これからはジーラナウって呼んでね』


「ジーラナウだと!? テメェ生きていやがったのか!?」


『そんなに警戒しなくても大丈夫よ。もう危害を加えるつもりはないわ……いや、できないと言った方が正確かしら?』


「……テメェ、何を言っているんだ? 今度は何を企んでいる? 何故、しれっと電話に出ているんだよぉ!?」


『ごめんなさい、マオトくん』


 今度はインディの声だ。

 どういう状況なのかさっぱりわからん。

 まさか物真似か? 超似ているけど、だったらタチ悪くね?


「どういうこと、インディさん? ジーラナウは生きていたってのか? けど肉体は消滅したよな? 実は俺達を騙すため、『零課』のフェイクだったとか?」


『まさか、有能な協力者である【聖刻の盾】の皆さんを騙したって『零課』にメリットはないわ――本人が言うように「灘田 楠子」は確かに死んだわ。あの時、肉体を消滅させてね』


「それじゃ……」


『今、喋ったのはメリリムの「魔核石コア」に宿っていた残留思念よ。シェルローズが搾取し復元させ、こうして魂に変換させ「水晶球オーブ」に封じ込めているのよ。会話くらいなら普通にできるわ』


 シェルローズか……あの幼女の死霊魔術師ネクロマンサーだな。

 そういや、そんな話だったわ。

 まさか、本当にやってのけるとは、なんて末恐ろしい幼稚園児だ。


「……ってことは、そのジーラナウから、渡瀬の情報を引き出せると? けどそんな奴、信用できなくね? だって渡瀬と男女の関係を持っていたわ、あの野郎のために自分の身を犠牲にしたような奴だよ?」


 俺の問いかけに、インディは『ちょっと待ってね、本人と変わるわ』と告げてくる。

 なんだかシュールだな。いったいどんな状況でやり取りしてんだ?


『レイヤへの義理は全て果したわ。こうなってしまった以上は、「零課」に協力した方が得策でしょ、幸城君?』


「ってことは『零課』の司法取引に応じたってことか? けどお前、渡瀬のこと好きだったんだろ? 一時でも愛し合っていた関係だろうが?」


『……好きよ。けど恋愛とは違うかな? 生前、話したでしょ? 互いの寂しさを埋める関係だったって……今、思えば彼に対する母性本能かもしれないわ』


「知るかよ。いったいどんな取引したんだ? 協力したら異世界に送還させるって約束か?」


『そうよ。女神アイリスに頼んで異世界に転生してくれるって条件よ。しかも、このまま意識を保持したまま種族や性別も、私が望むままにしてくれるって。私は「魂」だけの存在だから、ゼファーが裏技で女神に直接頼めば容易にできるらしいわ。どう? 美味しいでしょ?』


 異世界の女神に直接たのめる『零課』のトップって何よ?

 姉ちゃんやフレイア達といい、その災厄周期シーズンの“帰還者”、皆やべーな。


「邪神メネーラは? お前、使徒として忠誠誓ってんだろ?」


『あくまで肉体があった生前の話よ。流石に「魂」まで捧げてないわ。こうして全てリセットされたことで契約も消滅したから、ゼファーとの取引に応じることにしたのよ』


 あれだけ頑なだったダークエルフの闇召喚士ダークサモナーが、まるで掌を返したかのように柔軟な姿勢を見せている。

 口振りといい、俺達に怨みはないようだ。。

 それに、渡瀬との関係も吹っ切れた感じに思える。


 しかし、なんだかな……。


「インディさんに代われよ」


『私よ、マオトくん』


「……悪いけど、やっぱ俺、そいつ信じられないんだけど。毛嫌いとかじゃなくてさぁ。なんか胡散臭いんだよねぇ」


『まぁ、キミの気持ちはわかるわ。昨日の敵は今日の味方って、そう簡単に割り切れないわよね? けど、今のジーラナウは文字通り、私達の掌の中にいるわ。仮に彼女が協力したフリをして私達を騙したとしたら、この水晶球オーブを壊してしまえば、彼女は終わりよ』


「でも言葉巧みに誘導して、その水晶球オーブとやらが渡瀬の手に渡る可能性だってあるよね? 俺、アニメや漫画でそういう展開見たことあるよ。そいつ案外、それ狙っているんじゃねーの?」


 ジーラナウは相当なキレ者でもあったからな。

 インディだって痛い目見てんじゃん。


悪魔調教師デビルティマーのレイヤじゃ、この水晶球オーブを手にいれたとしても成す術がないわ。ただの喋るオブジェですもの。はっきり言うと、シェルが魔法を解除したら、ジーラナウの魂が消滅する仕組みなの。無論、シェルに何かあってもアウト。邪神とて二度と復元は不可能よ』


「なるほど、つまりジーラナウは取引に応じるしかないってことか? 本人が望む『異世界に戻れる』という最高の条件を餌としてぶら下げておくことで……」


『そういうことよ。ゼファーさんからも「ジーラナウはとにかく頭がキレる奴だ。逆に俺達はそれを利用すればいい。何が最良なのか、本人が一番良くわかっているだろう」っと言っているわ』


 まぁ、あのゼファーがそこまで言うのなら、俺からとやかく言う話じゃないか。

 しかしまんまと敵を手中に収める、ゼファーの手腕が半端なくエグい。

 下ネタが弱点の兄さんだけどな。


「わかったよ……でも、どうして俺に話してくれたの? 結構、機密情報だよね?」


『勿論、超機密情報よ。だからしばらくは誰にも言わないでね。お姉さんにもよ』


「……わかったよ」


 言えねーっ。

 姉ちゃんに知られたら、逆に俺がブチギレられそうだ。


『あとマオトくんに教えたのは、ジーラナウからの要望よ。ゼファーさんからも許可を貰っているわ』


「ジーラナウの要望? どうして?」


『だってキミ、彼女をキルするのに抵抗を感じていたでしょ? ジーラナウなりにそのことが嬉しかったみたいね。あとマオトくんには生徒として、これから先の人生で尾を引いてほしくなかったみたい』


 そうなのか?

 最後の最後で教師らしさを示してくれたってのか……複雑な心境だけど。

 てか『魂』だけになってからって、超遅すぎじゃね?


 どちらにせよ。


「今更感もあって何とも言えないけどね……そんな状態なら、渡瀬にとって邪魔でしかないか。案外、ドックスのように持て余してしまうかもな」


『ジーラナウも同じこと言っているわ。闇勇者レイヤはそういった気性があるってね。だから取引に応じる気になったようだけど……』


「けど?」


『メリリムを斃した際、ジーラナウの思念が削れたこともあって、闇勇者レイヤに関する記憶に曖昧な部分があるのよ……例えるなら記憶データの一部が損失してしまい復元が難しい箇所があるってことよ』


「曖昧な部分って、どういうところ?」


『人物の名前と顔よ。現在、レイヤの正式な協力者は1人のみだとわかったわ。後は仲間を募集しているみたいね。眷属として、何名か育てているみたいだわ』


「なんだって!? 野郎、また何か企んでいやがるのか!?」


『ええ、そのようね。ジーラナウが召喚した悪魔デーモンは残り三体。そのうち、二体が眷属のレベリングと訓練用としてあてられているようなの』


 大方、強力な悪魔デーモンと戦わせることで経験値を稼ごうとする魂胆か。

 渡瀬の場合、他にも色々モンスターをティムしているようだから、わざわざ『奈落アビスダンジョン』に潜らせる必要もない筈だ。


「けど邪神メネーラが復活する『12月24日クリスマス・イブ』というタイムリミット期間を考えると、その眷属とか言う奴らは間に合いそうにないな。少なくても俺達の的じゃないしょ?」


『そうね。問題は最後の1人よ。ジーラナウの情報からも、黄昏高校の生徒だってことはわかったけど、名前と顔までは記憶から抜けてしまって聞き出せなかったわ』


「わざと隠しているんじゃね、そいつ?」


『シェルに確認させたけど、それはないわね。けど、そいつの職種とユニークスキル能力は判明したわ』


 な、なんだって!?

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