第155話 最強でエグい姉達

「やったぁ、香帆さん! やっぱ強ぇ!」


 既に俺は地面に着地していた。

 遥か彼方の上空で善戦している、暗殺者アサシンネェさんを称賛する。


 香帆はメリリムに強力な斬撃を与えた後も、果敢に『地獄の死神大鎌デス・ヘルサイズ』を振るい攻めていた。

 まだバフ効果が有効であり、レベル70の悪魔デーモンだろうと互角以上に戦っている。


「真乙、香帆がやってくれたわ。もうスキル解除してもいいわよ」


 地上で待機している美桜が指示してきた。

 俺は「了解」と頷き、夜空に広げていた《無双盾イージス》を解除させる。

 魔法陣の盾を覆っていた、ゼファーの『闇』スキルも同じように消失した。


 これで最も脅威だった《死の単眼デス・モノアイを完全に封じることができたが、メリリムは速攻で広範囲の強襲攻撃を得意とする悪魔デーモン

 したがって、まだ油断は禁物だ。


「……流石、香帆ちゃんね。試運転なしに、もうあの武器を使いこなせているわ」


 制作者の鍛冶師スミス、アゼイリアが呟いた。

 先程から《アイテムボックス》を開いては、何か大きな筒状の機器のような代物を地面に設置させている。


 それは、打ち上げ花火の『煙火筒』に似ていた。

 一つ設置終えると、別な場所に駆け出しては同じ作業を繰り返している。


「……先生、何してんの?」


「さっき言っていた『対竜撃用』の武器をセッティングしているのよ。もうじき終わるわ」


 確か上空のモンスターを地上に引きずり下ろす武器だっけ?

 まるで鋼鉄蜂スティール・ビーの結界スキル《無窮の営巣地インフィニティ・コロニー》みたいに大きな円を描くように取り付けている。

 かれこれ8個目の設置となる。いったいどんな武器なんだ?


 ちなみに、ヤッスはありったけの魔力を香帆とデュラハンのバフに与えたことで、魔力切れを起こして倒れていた。

 ゼファーが自分の『MP回復薬エーテル』を分けて飲ませている。

 漆黒の厳つい鎧姿の『零課』トップと、変態紳士の『おっぱいソムリエ』という奇妙な組み合わせだが、一応は謎の師弟関係らしく見えた。


 それは良しとして。


「アゼイリア先生。香帆さんの武器だけど……彼女、メリリムに『呪い返す』とか言っていたような気がするけど、それってどういう意味?」


「そのままの意味よ。前に話したわよね? 『魔槍ダイサッファ』を素材に《融合素材フュージョンレシピ》魔法で錬成しているって」


「ああ、制約の部分は削除して呪殺カース効果は残しているって……そういうことなの?」


「ええ、その通りよ。しかもベースが《死神大鎌デスサイズ》だから、よりエグイ感じに仕上がっているわ――」


 アゼイリアは作業を終えると、『地獄の死神大鎌デス・ヘルサイズ』の性能と効力が記されたステータスバーを出現させ俺に見せてくれた。



【装備:武器】

地獄の死神大鎌デス・ヘルサイズ:ATK+1450・AGI-100(ただしアイテムにて無効化可能)補正。


《魔力付与》

・DEX+500

・VIT+400


《スキル付与》

呪殺の弦月刃カース・クレセント


〔能力内容〕

・刃に触れた者に対し敏捷力値AGI:-400与え、《呪殺術カース》魔法を施すことができる。

呪殺カース効果として1分経過ごとに体力値HP:10%ずつ消費され「0」になると死に至る(10分後に呪殺される計算)。

・相手が習得する《不屈の闘志》や《自己再生》などのスキルを無効化する。


〔弱点〕

・ただし発動時、自身の体力値HP:-100、魔力値MP:-50が消費される。

・高度な回復魔法で《呪解》されてしまう場合がある。



「こ、攻撃力+1450!? 超高ぇじゃん!?」


「元々、《死神大鎌デスサイズ》の攻撃力ATK自体が高いからね。備わっていた魔力付与もその継続させているわ。まぁ敏捷力値AGI:-100ってのは痛いけど、香帆ちゃんは『武装の指輪フィットリング』を装備しているからデットウェイトの影響は受けない筈よ」


 アゼイリアが言う『武装の指輪フィットリング』は、全武装を自分の好みの重量に調整できる補助アイテムだ。


「それに《呪殺の弦月刃カース・クレセント》は魔法じゃなく、俺の『黒炎の鎧ブラックフレイム・アーマー』と同様の付与されたユニークスキルか? 効果も『魔槍ダイサッファ』より強力になっている気がする……」


 1分経過ごとに体力値HP:10%ずつ消費されるってことは、どんなにタフな体力値HPを誇る敵だろうと10分以内で呪殺するってことだ。

 まぁストライザ並みの回復術士ヒーラーなら《呪解》が可能らしいけど。


「そうね、作った私が言うのもなんだけど渾身の逸品よ。香帆ちゃんだって伊達に3億5千万の借金を覚悟に依頼してないわ」


「さ、3億5千万!? あの武器がぁぁぁ!!!」


 俺の鎧の倍以上じゃねーか!?

 やべぇよ、香帆さん。あんた何してんの!?」


「真乙、別に驚くところじゃないわ。異世界なら10億以上でも欲しがる冒険者はいくらでもいる筈よ」


 美桜がしれっと言ってくる。


「そうよ。これでも香帆ちゃん割引きで相当安くしているんだからね」


 香帆ちゃん割引きって何よ、アゼイリア先生?

 いつも謎のパーティ割システムだけど、元の値段がエグすぎて安く思えてしまうから不思議だ。

 相変わらずやべぇな異世界……金銭感覚が可笑しくなるわ。


「いくら『下界層』で稼げるようになったからって……そんだけの借金、香帆さん大丈夫なの?」


「いいのよ。香帆が決めたことなんだから……あの子、異世界じゃずっとお姉ちゃんが奢ってきて、それが当たり前だと思っているところがあるから、たまには自分の力で稼がないとね」


 港区女子かよ。

 確かに香帆さん、年上なのに人懐っこくて可愛いからつい甘やかしちゃうよなぁ。


 それで『異世界メイド喫茶リターニー』でバイト始めたのか?

 てか、それを合わせても何十年ローンになるのやら。

 どの道、俺ら【聖刻の盾】メンバーの半数以上が億越えの借金塗れじゃね?

 


『――そろそろ頃合いだな』


 ゼファーが回復さえたヤッスを立たせ、上空を眺めている。


「香帆さんの戦いぶりだと、本人だけで斃してしまいそうですけどね」


『善戦しているのは、あくまでヤッス君が施したバフありきだ。そろそろ効果が切れる頃だろう……それにメリリムとて、リエンが与えた《呪殺の弦月刃カース・クレセント》の効果とやらで、分刻みで命が削られている。次第になりふり構わず行動に出る筈だ』


 ゼファーの言う通りか……。

 おそらく旅館のみんなは、インディさん達が避難誘導を終わらせているだろうけど、メリリムは高い移動能力を持つ。

 最後の足掻きで近辺の町や都市まで行き、自爆を図るかもしれない。

 そうなったら最悪だ。


「こちらのセッティングは終わっているわ! いつでも射出可能よ! タイミングはゼファー、貴方に任せるわ!」


『了解した、アゼイリア――今だ撃てぇ!』


「――『魔力装置の拘束針金マナユニット・ワイヤー』、発射ッ!!!」


 ゼファーの合図で、アゼイリアは手にしていたトリガースイッチを引いた。



 バシュ、バシュ、バシュ、バシュ、バシュ、バシュ――!



 地面に幾つも設置された8個の『魔力装置の拘束針金マナユニット・ワイヤー』という煙火筒もどきから、強靭のワイヤーが高速に射出され夜空へと打ち上げられて行く。


 ワイヤーの先端部には、大きく尖った鋭いモリが取り付けられており、メリリムが乗る矛のようなサーフボードの底に全て突き刺さった。


『な、なんだとぉぉぉ!?』


「そのまま引きずり下ろすわ!」


 アゼイリアが再びトリガーを絞ると、設置された八つのワイヤーが圧倒的な力で引き戻されていく。


『うぉぉぉぉ!? 貴様らなんてことをぉぉぉぉ――!!!』


 メリリムは一瞬で強制的に地上へと引き降ろされた。

 設置された8個の『魔力装置の拘束針金マナユニット・ワイヤー』の中心に、巨漢を誇る悪魔デーモンが動きを封じられ固定された形となる。


「今よ、久しぶりの――《計時器タイマー》!」


 美桜が聖剣を抜き、切っ先を地面に突き刺す。


 すると抵抗しようと足掻いていたメリリムは、その場から微動だにしなくなった。

 

「――そいつの時間を停止させたわ。『魔力装置の拘束針金マナユニット・ワイヤー』の分も含めてね。連動効果で2分間はそのままよ」


 美桜のユニークスキル《時間反逆タイムリベリオン》は、触れた敵の時間を奪い操作する能力だ。

 ああして地面ごと時間を奪い、触れているモノ同士を連動させることで奪う時間を増加させ、より長く停止させることができる。


 美桜が『刻の勇者タイム・ブレイヴ』と呼ばれる所以は、主にこのエグすぎる能力にあり、彼女の代名詞と言えるスキルだ。


 うん、やっぱ俺の姉ちゃん最強だわ。

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