第154話 地獄の死神大鎌

 『零課』の二人から異世界の「黒歴史」ぶっちゃけられ、鬼灯ほおずきこと美夜琵は恥ずかしそうに俯いている。


 俺の姉ちゃんも弟を超溺愛してくるけど、冒険者として対等に扱ってくれるし寧ろ厳しいくらいだ。

 おかげでギルドの冒険者達からも、『美桜の弟、すげーっ』って感じだもんな。

 

 そう比べてしまうと、美夜琵が置かれている環境は本人にとっては劣悪かもしれない。

 これぞ異世界における親ガチャと言うべきか……。

 実姉のディアリンドも心配になり、俺達に相談してくるわけだ。


「……だから、ワタシは【聖刻の盾】に入りたいのだ。こんな自分を変えるために!」


 拳を握りしめ屈辱に耐えるように、そう呟いていた。

 実力はある冒険者なのになんだか可哀想だ。

 この子なら是非にウチで面倒をみたい。


「――あんた達、無駄話している余裕はないわ! もうじき3分よ! メリリムの奴、そろそろ攻撃してくるわ! 気を引き締めなさい!」


 美桜は夜空を見上げたまま指摘してくる。

 もうじきタイムリミットか……作戦タイムというより、ほぼ雑談が多かった気がする。


 まぁいいや。

 どの道、俺達であの悪魔デーモンを食い止め斃す!

 それしか杏奈と学校のみんなを守る方法はないんだ!



 数秒後。

 ゼファーが施した《闇側の憂鬱ダークサイド・ブルース》の能力が解除される。

 漆黒の霧が晴れ、周囲の景色が元の状態に戻った。


 と言っても、まだ深夜だ。

 周囲は薄暗く、月明かりが一帯を仄かに照らしている。


『見つけたぞぉぉぉ! この場で貴様ら全員を殺す! レイヤの所には決して行かせないぃぃぃ!! 覚悟しろぉぉぉぉぉ!!!』


 ジーラナウの意志が宿る悪魔デーモン、メリリムが雄叫びを上げる。

 まさに女の情念が宿った禍々しい存在と化していた。


 しかし、それほどまでに、レイヤのことを想っていたのかよ……灘田先生。

 教師と元生徒の禁断の愛……いや、ただ互いの孤独を埋め合っていたのかもしれない。

 俺にはよくわからない男女間だが、二人とも現実世界では相当酷い目に遭っていただけに奇妙な共通点により惹かれあったのだろうか。


 唯一その点だけは理解できる。

 俺もタイムリープ前じゃ散々だったからな。

 けど、それを理由に邪神を復活させ現実世界を滅ぼしていい理由には一切ならない!


『我が眼光により滅せよ――《死の単眼デス・モノアイ!》』


 メリリムの胸部に埋め込まれた単眼がより紅く不気味に発光し、地上にいる俺達へと向けられた。

 奴のユニークスキル、《死の単眼デス・モノアイは見たもの全ての体力値HP魔力値MPを3分おきに-100ずつ消費させ、「0」になった者を絶命させるという呪術魔法に似た効果を持つ。

 しかも魔法ではないので、回復魔法による《呪解》が不可能な点が非常に厄介だ。


 だが既に打開策は見出している!


「させるかぁぁぁ、《無双盾イージス》!!!」


『《闇側の憂鬱ダークサイド・ブルース》!!!』


 俺は上空に向けて『魔法陣の盾』を展開させ視界いっぱいに巨大化させる。

 続いてゼファーが『闇』を出現させ、夜空に浮かぶ《無双盾イージス》全体を覆い尽くしていく。

 漆黒色に染まった《無双盾イージス》は、言わば紫外線を防ぐ『日傘』のような役割を果たし、《死の単眼デス・モノアイの効果を無効化させた。


『バ、バカな!? 我がスキルが破られただと!?』


「伊達にテメェのステータスを見ていたわけじゃない! 俺達を舐めるな!」


『よくやった、マオト君! これより作戦を開始する! 宮脇、ガルジェルド、鬼灯、行けッ!』


 ゼファーの指示で、三人は頷き戦線を離脱した。

 人質になり得るだろう旅館の人達を避難誘導させるためだ。


 ちなみに敷地外には他の『零課』が自衛隊を引き連れて待機している。

 そこまで杏奈達を誘導すれば、とりあえずみんなの安全は確保できる筈だ。


「ほんじゃ予定通りに行くよぉん! ヤッスゥ、目一杯バフかけてぇ!」


【香帆様、お任せを――《攻撃強化アタックアップ》×4、《身体堅固化フィジカルソリッド》×4!】


 ヤッスは最後の『MP回復薬エーテル』を飲み干し、最速唱による付与魔法エンチャントを注ぎ込んだ。

 香帆の攻撃力ATK防御力VITがカンストMAXまで向上する。


「うぉぉぉっ、力が漲ってきたぁ! サンキュ、ヤッスゥ! これぞスーパーリエンちゃんモードだねん!」


 スーパーリエンちゃんモードって何よ?

 時折、香帆のテンションにはついていけない部分もあるが……まぁいい。

 俺は自分の役目を果たす!


黒鋼の悪魔盾メタル・デビルシールド!」


 まずは《アイテムボックス》から黒銀の大楯を取り出し装備する。

 さらに、


【――迸る力の解放、燃え滾る脈動の熱火、《加熱強化ヒートアップ》ッ! 我を導く情熱となり燃焼せよ、《点火加速イグナイトアクセル》ッ!】


 補助魔法にて肉体強化と移動速度を向上させた。


「準備OKだ、香帆さん!」


「りょーかい。んじゃ行くよん、デュラハンくんもフォローよろ~!」


 香帆のふわふわ口調に、デュラハンは片手に抱える自分の頭部を上下に振るい了承したアイズを送る。

 ちなみに、このデュラハンも香帆と同時に、ヤッスの付与魔法エンチャントによってバフで強化されている状態だ。


 俺は真っ先に上空で展開された《無双盾イージス》の範囲外へと出た。

 その際、メリリムの《死の単眼デス・モノアイ》を見ないよう予め『黒鋼の悪魔盾メタル・デビルシールド』を掲げ視界を隠す。


 続いて香帆とデュラハンが、俺が翳している大楯の上に飛びつき乗った。


「今だよ、マオッチ!」


「了解した――《シールド・アタック》!」


 そのまま俺は強化した肉体を駆使し、圧倒的な速さで跳躍した。

 スキル技の効力もあり、俺達は一瞬で上空へと飛翔する。


 こうしてメリリムに接近を試みたが、まだ奴との距離はほど遠い。

 いくら強化しても、俺一人では届く位置でなった。

 しかし、それも想定内だ。


「あんがとマオッチ、大好きだよん! そんじゃキメるよぉ、デュラハンくん!」


 限界ぎりぎりで、大楯に乗っていた香帆がデュラハンと共に跳躍した。


 なんだろ?

 どさくさに告られた気もするが……まさかな。


 限界まで飛んだ俺は、そのまま引力によって落下していく。

 一方で離脱した香帆とデュラハンはバフで強化されたこともあり、猛スピードでメリリムの頭上を飛び越えていた。


 未だメリリムは満月を背に地上に向けて、胸部の単眼スキルを放っている。

 つまり、香帆達から背後を晒した体勢であり《死の単眼デス・モノアイ》の範囲外となっていた。


『小癪な蠅が無駄だぁぁぁ!』


 しかし、メリリムもレベル70のカンストした悪魔デーモン

 瞬時に反応し、手に持つ騎馬槍ランスに意識を切り替えた。

 騎馬槍ランスを頭上に突き上げて、100%クリティカルヒットを発生させる《大堕撃》を繰り出した。


「ごめんね、デュラハンくん……なんちゃって盾役タンク頼むよぉ!」


 香帆の言葉にデュラハンは反応し、落下しながら彼女の前へと移動する。

 自らあえて、メリリムの猛撃へと身を乗り出した。

 そして突貫する騎馬槍ランスが、デュラハンの腹部を穿つ。


 致命傷のダメージを受け、デュラハンはあっけなく消滅した。


 だがこれも作戦通りだ。

 デュラハンは召喚されたモンスターの役目を見事に果たした。

 それは簡易的な盾役タンクとして、主あるいは仲間をその身を挺して守ることにある。

 モンスターにしてはいい奴っぽかったから、少し可哀想だけどな……。


「さんきゅ! キミの行動、必ず活かしてみせるよん!」


 デュラハンが犠牲になったことで攻撃射程から外れた、香帆。

 彼女は落下速度を速め騎馬槍ランスの間を掻い潜り距離を詰める。


 ついにメリリムの懐に入った。


『こ、このエルフがぁぁぁ!』


「ウチらの連携を甘く見過ぎたね、新武装――地獄の死神大鎌デス・ヘルサイズ!」


 香帆は《アイテムボックス》を開き、新しい武器を取り出した。

 

 それはドックスの『魔槍ダイサッファ』を素材に錬成し改良された大鎌だ。


 見た目こそ以前から使用していた『死神大鎌デスサイズ』だが、フレームの各所に呪文語が刻まれたディテールから禍々しい負の魔力が放出されている。


「逆に呪い返してあげるよん――《呪殺の弦月刃カース・クレセント》!!!」


 香帆が振るった『地獄の死神大鎌デス・ヘルサイズ』の曲刃が、メリリムの胸部にヒットした。


『ギャアァァァァァァ――!!!』


 絶叫する、メリリム。


 斬撃は鎧の装甲と埋め込まれた単眼を斬り裂いただけに限らず、深々と肉体まで達していた。

 強烈な一撃により、悪魔デーモンの巨漢は後方へと仰け反れていく。

 あわや巨大なサーフボートから落ちそうになるも、メリリムは踏み留まり体勢を整えて持ち堪えた。


 大ダメージであるが致命傷に至らなかったようだ。

 しかし《死の単眼デス・モノアイ》のスキルを封じることに成功した。

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