第151話 闇勇者とのヤバイ関係

 部下にパワハラ最悪上司と呟かれた、『零課』の黒騎士ゼファー。

 フルフェイスの仮面越しで「チッ」と舌打ちする。


『見ての通りだ。宮脇、お前は不覚にも容疑者に存在がバレてしまい返り討ちにあってそのザマだ……まぁ相手の正体が「伝説の闇召喚士サモナー」であればやむを得ないが』


「ええ、予定通りに誘い出したまでは良かったのですが……逆に罠に嵌められてしまい、つい。申し訳ありません」


『ああ、だがその分、【聖刻の盾】が、マオト君達が頑張ってくれた。灘田楠子……いや、ジーラナウを再起不能にしてくれたからな。まったく大したものだ』


 ゼファーは言いながら、倒れ伏せているジーラナウに向けて人差し指を翳している。

 インディはゆっくりと立ち上がり、俺達に向けて微笑を浮かべた。


「ありがとう、真乙くん。それにみんな……すっかり助けられちゃったね」


「いや……インディさんは大丈夫なの?」


「ええ、不意を突かれ強力な《眠り魔法スリープ》で眠らされただけよ……『零課』対策の人質としてね。あと細かい怪我はヤッスくんがHP回復薬エリクサーで治してくれたから問題ないわ。ありがとね、ヤッスくん」


 そうか、なら良かったけど……。

 後々知ることになるが、ああ見てもインディさんはレベル58の上級冒険者らしい。

 職種や異世界で何をしていたかまでは教えてくれなかった。


 そんなインディでも、レベル70でカンスト扱いのジーラナウ相手では歯が立たなかったようだ。

 したがって俺達の後ろ盾があったにせよ、レベル39で勝利した美夜琵の実力は本物だと思った。


「礼には及びませぬぞ、インディ殿。本当なら白魔法で治癒したかったのですが、《屍鬼名匠アンデッドマスター》発動中は光属性魔法と同様に使用できない縛りがありますので……それに『おっぱいソムリエ』としてバスト88のEカップを守るのは僕の使命です」


 お前のことだからそう言うと思ったけど、本人の前で言ったら間違いなく引くぞ。

 思惑が女性の胸だけ守るってどうよ?


「サッちゃん、よく少数で300匹の鋼鉄の蜂スティール・ビーを斃すことができたな? 美桜さんの力か?」


 ガンさんが思っていた疑問をアゼイリアに訊いている。

 俺もそう思っていたところだ。


 ちなみに召喚士サモナーを完全に斃さない限り、召喚されたモンスターは強制的に消滅することはない。

 ジーラナウの場合、九割殺しで辛うじて生きているので鋼鉄の蜂スティール・ビーとスキル効果は継続されている筈だろう。

 

 アゼイリアは首を横に振るって見せる。


「結界が破られてから、ここまで来るのに何体かは斃したけど全部じゃないわ」


「結界が破られただと?」


『――俺が破ったんだ、ガルジェルド』


 ゼファーがしれっと言ってきた。

 そういや姉ちゃんも同じようなこと言っていたぞ。


「どうやったんっすか?」


『ああ、真乙君。至極シンプルな方法だ。ミオ達とは反対側の場所で待機していた俺は、この結界の存在に気づいてな。《鎧化》し地面を掘って地中から侵入したんだ』


「地中!?」


『そうだ。俺も異世界で魔王城の守護衛兵ガーディアンとして鋼鉄の蜂スティール・ビーを飼い馴らしたことがある。鋼鉄の蜂スティール・ビーの《無窮の営巣地インフィニティ・コロニー》の結界は、自分達が見える範囲だけに限られる。つまり地表から上空までの範囲のみだ』


「お姉ちゃんが連絡したのよ。こいつも呑気に別の部下と連絡待ちでくつろいでいたようだからね」


 姉ちゃん達だって思いっきり旅館や温泉を満喫してたじゃねーか。

 とは言えない。


『……ミオ。俺だって灘田の正体を知っていたら直接出向いていたさ。話を戻すが、それで地中から侵入することができた俺は結界を張っている鋼鉄の蜂スティール・ビーを数匹撃破し、スキル効果を無効化させた。そしてスマホで美桜達とやり取りし、お互いに左右から火の粉を払う形でここに辿り着いたというわけだ』


 ゼファーが言うには、今でも何十匹かの鋼鉄の蜂スティール・ビーが上空に潜んでいるらしい。


「ここまでゼファーさん一人っすか? 確か仲間の死霊魔術師ネクロマンサーを連れて来るって聞いたんですけど?」


「ああ、万一に備え結界が張られていた外側の場所で待機させている。宮脇や俺に何かあれば別の仲間を呼ぶか、最悪は軍隊に出撃要請も視野に入れての配置だ」


「ぐ、軍隊? 流石に嘘でしょ?」


「いやガチだ。現実世界の秩序を守るため、『零課おれ』と日本政府はそこまでやる。それに相手は多次元の外来種。別に戦争するわけじゃないから、国内の自衛のため容赦なく対処するだろう。ほら怪獣映画とかでもあるだろ? あれと同じだからな」


 最後はいらねぇ情報だ。

 しかし、モンスターが地上に出るということはそれほど脅威という意味だろう。

 だったら闇の翼竜ダーク・スカイドラゴンが出てきた時はやばかったんじゃないか?

 真っ先に斃して正解だったな……下手したらここに爆弾を落とされてしまい兼ねない。

 そうなれば旅館にいる杏奈達だってただじゃすまなかった筈だ。


「ウチらも頑張って鋼鉄の蜂スティール・ビーの数をかなり減らしたからねん。もう大掛かりな結界を張ることはできないと思うよん」


「とはいえ、確実なのは召喚士サモナーに元の世界に戻させるか、手っ取り早くこいつをキルするかの二択でしょうね」


「キルしちゃえば、美桜? あいつ教師の風上にも置けないよぉ……実の生徒を殺しにかかるなんて、ガチでクズ先生だねぇ」


 美桜と香帆が蔑む眼差しでジーラナウを凝視する。


 まぁ実際は、俺達と戦うのを躊躇っていた様子もあったけどな。

 でなければ圧倒的に優位な立場から、わざわざ自分から交渉を提案するなんてしない。

 そこだけは唯一、灘田としてジーラナウの良心であり教師らしさだったのではないか?


『ミオにリエン、そのダークエルフをキルすることは俺が許さんぞ。せっかくマオト君達が生かしてくれたんだ。そいつの身柄は『零課』で預かる。頭部を解体し、脳から直接情報を引き出す』


 またグロイことを平然と言ってくる、黒騎士ゼファー。


「いやぁ、ゼファーさん。それは勘弁してもらえないですか?」


『何故だ、マオト君? まさかこんな奴に情か?』


「……そう思われても仕方ないですね。けどそいつ、異世界じゃ悪党じゃなかったようですし、ただ強すぎたために女神アイリスの独断で現実世界に無理矢理帰還させられて闇堕ちしたって言ってました。だから本人が望むように異世界へ戻すよう取引きすれば、ジーラナウから情報引き出せるんじゃないでしょうか?」


『司法取引ってわけだな? まぁ悪くないかもしれん……異世界への送還は、日本政府から女神アイリスに依頼すれば済むだろう。そもそもあの駄女神が招いた事態だ。責任は取ってもらう』


「そうね。相変わらずハタ迷惑な駄女神ね」


「変わらないねぇ、駄女神ちゃん」


 ゼファーに続き、何故かやたらと同調する美桜と香帆。

 そういや異世界で女神アイリスを脅迫して、妖精型の分身体アバターをパシリにしていたと聞いたことがある。

 女神をパシリにする勇者ってどうよ?


 ゼファーはカシャカシャと足音を鳴らし、倒れているジーラナウに近づく。


『――おい。クズ教師、どうせ聞いているだろ? マオト君からの提案だ、仕方ないから司法取引してやる……優しい生徒さんで良かったな」


 もう少し言い方があるんじゃね?

 間違ったことは言ってないけど。


 ジーラナウは微かに目を開き、「ぐふっ!」と血反吐を吐く。

 どうやら全身の骨が砕かれ、一部が内臓に刺さっているようだ。


 したがって辛うじて生かされている状態、まさしく九割殺し。

 美夜琵のユニークスキル半端ねぇ。


「……ありがと、幸城君。こんな私なんかのために……もう少し教師らしくしとけば良かったわ……けどね、先生は彼を裏切ることはできないの」


『彼だと? レイヤのことか?』


「そ、そうよ……黒騎士さん。私は身も心も彼に捧げた身よ」


『彼に? 邪神メネーラじゃなくてか?』


「メ、メネーラ様は使徒としての忠誠よ。そういう意味じゃないわ……貴方も大人なんだら察しはつくでしょ?」


『え? え? 嘘……お前、仮にも教師だろ? 元とはいえ生徒と……え? いや、マオト君、どうしよう? これって児童生徒性暴力防止法に反しているぞ』


 ゼファーさん。

 何故、未成年の俺に聞く?

 法律に反しているなら、警察官のあんたがどうこうすりゃいい話じゃないか。


 何、ごっつい鎧姿でキョドってんの、この人?

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