第149話 煉獄なるフレイム・モード

 俺が駆け出したと同時に、《アイテムボックス》から『MP回復薬エーテル』の小瓶二本を取り出した。

 まずはそのうちの一本を服用し、消耗した魔力MPを全回復させる。


【――《魔力値釣上マジックポイント・フィッシング》!】


 続いてヤッスが付与魔法エンチャントを唱えた。

 《魔力値釣上マジックポイント・フィッシング》は対象者が基準とする魔力値MPを+30のバフを与える魔法だ。


 俺は《鑑定眼》を発動させ、自身のステータスを確認する。



 MP(魔力):170/170→200/200



「おっし! これで『アレ』が使えるようになった!」


「何か仕掛けるつもりね、闇の翼竜ダーク・スカイドラゴン! 幸城君を近づけちゃ駄目よ! 《炎吐攻撃ブレス》と《貫通》スキルで足止めにするのよ!」


 ジーラナウは指示し、闇の翼竜ダーク・スカイドラゴンは長い首の喉元を大きく膨らませる。

 喉元から頬へと膨らみが移り、大きく開口されたと同時に激しい炎を吐き出した。


 俺の体を余裕で覆い尽くす《炎吐攻撃ブレス》が、火炎放射器を彷彿させる勢いで直線上に襲い迫ってくる。

 さらに炎は《貫通》スキルによって、俺の防御力VITを持ってしても何割かのダメージが与えられてしまう。


「だがな、俺の《無双盾イージス》も成長してんだよ!」


 そう言い放ち、さらに《無双盾イージス》を拡張させた。

 さらに巨大化した魔法陣の盾は迅速に移動し、闇の翼竜ダーク・スカイドラゴンの眼前で止まった。


 その結果、



 ――ギャアァァァァァァ!!!



 《炎吐攻撃ブレス》は反射し四散され、逆に闇の翼竜ダーク・スカイドラゴンの顔面に浴びせられる。

 思わぬ反撃のオウンゴールに、闇の翼竜ダーク・スカイドラゴンは顔全体と両目を焼かれ苦しみ悶えた。


 ちなみに俺とは距離が離れているため、《貫通》スキルの影響を受けていない。

 これも今までの戦いの中で身に着けたスキル対策だ。


「そんなバカな!?」


「まだ驚くのは早いぜ、ジーラナウ! ここからが真骨頂だ――《フレイム・モード》!」


 俺は《無双盾イージス》を解除し、新しく得たスキルを発動する。


 全身に纏う『黒炎の鎧ブラックフレイム・アーマー』の形状が変化する。

 各部位の装甲が展開され、そこから青みを帯びた黒炎が放出され新たな戦闘形態となった。


 それは全てを燃やし尽くす、灼熱の炎「ゲヘナの火」だ。

 最上級の炎属性魔法効果を生み、攻撃力ATK+2000補正に防御力VIT+1500となる。

 魔力値MP:-200を代償に、約60秒間使用可能となる究極形態モードであった。


「くっ、ヤバイ! いっ、意識が……」


 反面、全ての魔力MPを使い切ってしまったため、精神消失状態マインド・ロストに陥りそうになる。

 ここで気を失っては元も子もない。

 すかさず手にしていた『MP回復薬エーテル』を飲み干し、三割ほど魔力MPを回復させた。


「しゃあ! 一撃で決めてやるぜ――竜殻りゅうかく剣+雷光剣!」


 俺は《アイテムボックス》から二刀の愛剣を取り出し両手に携える。

 さらに加速し、闇の翼竜ダーク・スカイドラゴンとの距離を詰めて跳躍した。

 超強化された攻撃力も相俟って、その高さは上空にいる竜の頭上までに達する。


「――《ダブルフレイム・スラッシュ》!!!」


 俺は二刀の刃を振るい、闇の翼竜ダーク・スカイドラゴンに連続の斬撃を浴びせた。

 落下を利用し、頭部から下腹部にかけて鋼鉄な鱗と肉体を紙切れの如く斬り裂いていく。

 すると斬撃を与えた箇所から『ゲヘナの火』が噴出され、瞬く間に竜の巨体は業火の炎に覆われ包まれていく。



 ――ボウッ!



 俺が着地したと同時に、闇の翼竜ダーク・スカイドラゴンは上空で爆発した。

 肉体は欠片も残らず、火の粉だけが宙を舞い漂っている。

 ドスンと地響きを鳴らし、大きな菫青色アオハライトの『魔核石コア』が地面に突き刺さった。


「どうよ、新必殺技で撃破成功ッ!」


 勝利を確信した俺はガッツポーズする。

 間もなく60秒が経過し、《フレイム・モード》が解除され元の形態に戻った。

 補足だが新必殺技とする《ダブルフレイム・スラッシュ》は、久しぶりに厨二病が疼き即興で考えたオリジナル技だ。


「……まさか本当にで闇の翼竜ダーク・スカイドラゴンを斃してしまうなんて、しかもレベル30そこそこ……幸城君、貴方はいったい?」


 ジーラナウが俺から離れた場所で身を震わせ戦慄している。

 この女め、いつの間に移動したんだ?

 魔法系の闇召喚士ダークサモナーとはいえ、俊敏なエルフ族だけあり高い移動力を持っているようだ。


 それはそうと。


先生・ ・よぉ、俺にばかり気を取られていいのかい?」


「なんですって――くっ!?」


 俺が放った言葉と共に、ジーラナウの表情が歪む。

 既にガンさんと美夜琵が迫っていたからだ。


 闇の翼竜ダーク・スカイドラゴンを斃したのを見計らい、仲間達は行動に移していた。

 これぞパーティならではの、阿吽の呼吸ってやつだぜ。


 ジーラナウは「チッ」と舌打ちすると、バックステップで後退する。

 やはり熟女でもダークエルフだ。

 高い俊敏性を活かし、まるで脱兎の如く距離を空けていく。


 いや、それよりも何か口元が動いていることが気になった。

 

「こいつ逃げながら呪文を詠唱しているのか!? 気をつけろ、二人共! 魔法攻撃が来るぞ!」


【気づくのが遅いわ、くらいなさい――《闇の破壊砲ダークネス・バースト》!】


 闇夜の魔杖ダークナイトロッドを掲げ、尖った先端部から暗黒の魔力が凝縮された破壊エネルギーが放出される。


 最大級の攻撃魔法として知られる《闇の破壊砲ダークネス・バースト》。

 ジーラナウのカンストした知力INTに伴い、まともにヒットしてしまえば即キル間違いなしの破壊力だ。

 おそらく塵すら残さず肉体が消滅されてしまうだろう。


 しかもジーラナウは、あえて自分を囮にして十分に引き付けた絶好のタイミングで攻撃を放ちやがった。

 美夜琵でさえ回避しきれないであろうカウンター魔法だ。

 ガンさんでは間違いなく直撃を受けてしまう。


 あの糞教師め、異世界では542歳も長生きしていないだけあり戦い慣れしてやがる。

 だがよぉ。


「問題ない、射程距離だ――《無双盾イージス》!」


 俺はユニークスキルを発動させる。

 二人の目の前に、魔法陣の盾を出現させた。

 自分の視界内であれば、どのような場所でも任意に展開させる能力を持つ。


 そして《無双盾イージス》は《闇の破壊砲ダークネス・バースト》の魔力エネルギーを完全に防ぎ切る。

 阻まれた暗黒の魔力は飛沫と化し散開した。


「なっ、クソォッ! 幸城 真乙ッ! あんたって生徒はどこまで――」


「サンキュッ、ユッキ! 流石、【聖刻の盾】最強の盾役タンクだ!」


「……まったく惚れてしまいそうだ。真乙殿、感謝する! 後はワタシが決めよう!」


 褒め称えてくれるガンさんの横で、美夜琵が言い放つ。

 けど、どさくさに気になるワードを言ったような気もするが今はいいや。


 その美夜琵は攻撃が終わったのを見計らい、《無双盾イージス》を掻い潜り疾走する。

 苦渋の表情を浮かべるジーラナウに向けて突撃した。


「小娘がぁ!」


 ジーラナウは悪態をつき、再び軽快なバックステップで後方へと退く。

 だが刀剣術士フェンサーの美夜琵も速さに関しては定評がある。


「もらった、弐ノ刃――《孤月こげつ》!」


 美夜琵は刀剣を縦に振るい、剣身から扇状の真空刃が飛翔した。

 真空刃は加速し、ジーラナウへと襲撃する。


「この程度で殺らないわ――《攻撃誘導》ッ!」


 ジーラナウはスキルを発動させる。

 真空刃は進路を変え、美夜琵の下に跳ね返される形で向かって行く。


「なんだと!?」


「暴走娘がァ! 自分の能力で斬られて死になさい!」


 ジーラナウは勝ち誇ったように吐き捨てる。

 奴の《攻撃誘導》はLv.8でカンストこそしてないが、レベル差もあって格下の相手なら自在に攻撃を操作することが可能のようだ。


「チィッ! 展開した《無双盾イージス》をあの位置まで移動するには間に合わないぞ!」

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