第146話 闇召喚士の交渉

 ジーラナウの口から、レイヤこと『渡瀬 玲矢』の名が出きた。

 その瞬間、俺は怒りが湧き上がり鋭い眼光を奴に向ける。


「……渡瀬が決めたってどういう意味だ、コラァ!」


「幸城君のせいでしょ? 聞いてない? 彼は二択を考えていたってこと」


「ああ聞いている……一つは杏奈を異世界に連れて行くってことだろ? だが俺が彼女と親密になったことで、もう一つの『邪神メネーラ』の生贄にするって話だよな?」


「そっ、メネーラ様が復活すれば、レイヤを含む使徒達は再び異世界に行くことができる。だから私は『協力者』になったのよ。黄昏高の入学式で、彼から声を掛けられてね……」


「んで、杏奈を闇堕ちさせるため、彼女が苛められても見て見ぬ振りに徹していた……そんなところか?」


「ん? 野咲さん苛められてないじゃない? 確かにそんなプランはあったようだけど、幸城君達のせいで、レイヤが自ら姿を消す羽目になったのよ」


 やべぇ、そういやそうだった。

 それはタイムリープ前の話だったわ。


「……まぁ、そういう意図なんだろって意味だぜ。だが、たとえ渡瀬にそそのかされたからって、そんな理由で闇堕ちして悪事に手を染めようとするなんて……テメェはそれでも教師か!?」


「そうね。自分でもそう思う時があるわ……どうして教師になったんだろうって。きっと、二度と私のような生徒を作らないため、そういう気持ちもあったんでしょうね」


「だったらよぉ!」


「――けど無理よ。現実世界ここは腐っている。帰還してから改めて実感したわ。まるで災厄周期シーズンのように同じことの繰り返し……うんざりするくらいにね。歳も取っちゃうし……だから見限ったのよ! こんな世界、とっとと滅ぼされちゃえばいいんだわ!」


「現実世界を滅ぼす? どいう意味だ?」


「知らないの? そっか、宮脇先生からそこまで聞かされてなかったのね? 教えてあげる――レイヤはこの現実世界で『邪神メネーラ様』を復活させようとしている! そうなれば、この世界は確実に終わるわ! それと同時に私達、使徒だけ異世界に戻るって算段よ!」


「なんだと!? じゃあ邪神メネーラが現実世界を支配するってのか!?」


「支配なんかしないわ。ただ破壊し終わらせるだけ……惑星ごとね。そのエネルギーを利用して受肉されたメネーラ様も異世界に行くことができるってわけ」


「もっと最悪じゃねぇか! させねーぞ、コラァ!」


 俺がいきり立ち、前に踏み出そうとする。

 こいつは教師なんかじゃない。

 渡瀬と結託する犯罪者、テロリストだ。


「――待ちなさい、幸城君! ここからが交渉よ!」


「交渉だと? 今更なんのだ?」


 俺が訊いた直後、ジーラナウは指を鳴らした。

 すると上空に漂う、2匹の鋼鉄の蜂スティール・ビーが連携してロープで括られた何かをぶら下げてくる。


 それは一人の女性だった。

 しかも見覚えのある女性。


「――インディさん!?」


 そう、副担任として潜入している『零課』の宮脇 藍紗。

 今の彼女は緑色の髪をした異世界の姿、ギルドの受付嬢であるインディだ。


 俺の呼びかけに、インディは返答なく微動だにしない。

 両腕をロープに縛られ脱力した状態。そのまま吊るされて宙に浮かんでいた。


「ふ~ん。異世界じゃインディって言うのね? この女……『零課』の作業班」


「おい、彼女に何をした!?」


「気を失わせているだけよ。『零課』だけに腕はそこそこだけど、単独じゃ『生きた伝説』と謳われた私の敵じゃないわ……まぁ、幸城君のお姉さんかゼファーが相手なら脅威だけど。あと『氷帝の魔女フレイア』もヤバイ女ね」


「ユッキ。おそらく宮脇先生、いやインディ殿は人質に捕られているようだ。熟女教師が交渉とか言っていたから、きっとその材料だろう」


「流石、賢者職の魔法士ソーサラーね、安永君。そういうことよ。あと強いていうなら、旅館の敷地内にいる全ての人間が人質だと言えるわ。幸城君の大好きな野咲さんと顔馴染みの生徒達も含めてね、フフフ」


「何が可笑しいんだ、ジーラナウ! テメェ、それでも担任教師か!?」


 俺の恫喝に、奴は笑みを崩さない。

 主導権を握ったと言わんばかりに余裕の態度だ。

 

「教師よ、幸城君。だから交渉のチャンスを与えたのよ。生徒のよしみとしてね。先生だって教え子と戦うのは本意じゃないわ」


「どういう意味だ!?」


「――私の仲間になりなさい。安永君と岩堀君もね。そうすれば一番厄介な美桜は手を出せなくなる。一緒に異世界に連れて行ってあげるわ」


「何を言っている!? 仮に仲間になったとして、杏奈を見逃してくれる保障があるのか!?」


「……さぁ、どうかしら? 野咲さんに関してはレイヤ次第よ。彼女の心が幸城君に傾いている限り、レイヤは生贄にするでしょうね」


 んじゃ駄目じゃん。

 つーか、最初っから交渉するつもりねーし!


 だが、もろインディさんが人質に捕らわれてしまっている。

 それに敷地内中の人間全員が人質とも言っていた。

 言わば交渉というより脅迫だと思える。


「……真乙殿。灘田、いやジーラナウを速攻で斃せばこの状況、なんとかなるかもしれぬ」


 背後から美夜琵が小声で耳打ちしてくる。


「……本当か、美夜琵?」


「ああ、鋼鉄の蜂スティール・ビーは召喚されたモンスターだからな。したがって闇召喚士ダークサモナーのジーラナウという本体を斃せば、そのモンスターは無効化され元いた世界に戻される。それが召喚士サモナーのルールだ」


「美夜琵さんの言う通りだぞ、ユッキ。だが既にレイヤによってティムされた悪魔デーモンは所有者がレイヤになっているので影響は受けないかもしれない」


 ガンさんも捕捉して伝えてくる。

 なるほど、つまり真っ先にジーラナウを斃せば少なくてもこの状況は打破できるってことだな。


 きっとジーラナウは姉ちゃん並みにカンストした“帰還者”だ。

 俺達より格上なのは明らかだろう。


 けど先程のようにヤッスの魔法でバフ効果を与えてもらいつつ、奴にはデバフ効果でレベルダウンさせりゃ、このメンバーなら勝てる筈だ。


 しかしだ……何か違和感を覚える。

 やたら妙な胸騒ぎだ。


 ジーラナウは重要な何かを隠している、そう思えて仕方ない。


(また《隠蔽》や《偽装》で誤魔化されてしまうけど、念のためだ――)


 再び俺は、ジーラナウに向けて《鑑定眼》を発動させる。


 ん? 今度はステータスが見れるぞ……。

 何故だ? もう隠す理由がないから解放したのか?


 まぁいい。

 とりあえず、これらがその結果だ。



【ジーラナウ】

種族:ダークエルフ

職業:闇召喚士ダークサモナー

レベル70


HP(体力):585/785

MP(魔力):1500/1500


ATK(攻撃力):250

VIT(防御力):278

AGI(敏捷力):397

DEX(命中力):765

INT(知力):1230

CHA(魅力):1120 ※モンスターと契約し行使する上で必要。


スキル

魔力吸収マナ・ドレインLv.10》……触れることで相手のMPを吸収し、自分のMPにする。レベル上昇と共に吸収力が早くなる。

《魔力増強Lv.10》……魔法効力を+20ずつ向上させる。

《攻撃誘導Lv.8》……敵1体の攻撃を任意箇所に誘導する。レベル上昇と共に成功率が上昇する。

《狡猾Lv.10》《不屈の精神Lv.10》《鑑定眼Lv.10》《隠密Lv.9》《索敵Lv.10》

 etc……《アイテムボックス》


魔法習得

《上級 召喚魔法Lv.10》

《上級 暗黒魔法Lv.10》

《上級 黒魔法Lv.8》

《上級 精霊魔法Lv.5》


ユニークスキル

魔力代価交換マナ・エクスチェンジ

〔能力内容〕

体力値HP:-10を代償に魔力値MP:+100を獲得する。

体力値HPがある限り連続使用が可能。

・消費した体力値HPは2時間後に自動で全回復する。


〔弱点〕

体力値HPが尽きると死に至る。

・交換で失った体力値HPは『HP回復薬エリクサー』で回復することができない。時間経過による回復のみとなる。


装備

闇夜の指揮杖ダークナイト・タクト:INT+200、MP+300

《魔力付与》

・《速唱Lv.5》スキル効果を持つ。


闇夜の賢者服ダークナイトローブ:INT+300、MP+300

《魔力付与》

・攻撃魔法効果を60%無効化する。


〇闇の召喚魔道書:INT+500、MP+400

《魔力付与》

・闇属性モンスターの召喚に特化した魔導書。

・無所属性モンスターの召喚にも適応している。

・他属性モンスターの召喚も可能だがMP消費率が激しい。


〇禁忌の悪魔書:INT+1000、MP+1000

《魔力付与》

・術者の能力に応じた悪魔デーモンを召喚し行使する。

・MPが残っている限り何体でも召喚可能。

・上位な悪魔デーモンほど特異な儀式が必要となる。

・所持することで、所有者の寿命を半分奪う呪い効果を持つ(ただし永遠の寿命を持つエルフ族は該当しない)。



 ……レベル70だと?

 こ、こいつ、マジか?


 俺は嘗て担任教師だった闇召喚士ダーク・サモナーのステータスを閲覧して絶句した。

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