第144話 鋼鉄蜂との戦闘

 ずっと上空で待機していた、6匹の鋼鉄蜂スティール・ビーの眼がより赤く発光した。

 隊列を組み替え、俺達を囲み始める。


 この動きまさか……。


「《無窮の営巣地インフィニティ・コロニー》とかいうユニークスキルか!? 新たな結界で俺達を閉じ込める気だ! させるか――着装ッ!!!」


 俺は《アイテムボックス》を展開させ、冒険者の姿となる。

 新装備である『黒炎の鎧ブラックフレイム・アーマー』を纏った。

 瞬間、鎧の溝部分からボッと炎が放射される。


「あちぃ! ユッキ、場所を考えて装着してくれ!」


 既に蛮族戦士バーバリアンの姿となった、ガンさんが二の腕を擦っている。

 上半身が露出されている筋肉隆々とした半裸状態なので、直に炎が接触してしまったようだ。


「ごめん、ガンさん。てか、ヤッスと美夜琵のように露出の少ない装備にした方が良くね?」


 言いながら、チラっと同じく冒険者の姿となっている二人に視線を向ける。


蛮族戦士バーバリアンはこういう仕様なんだよ。力強さアピール的な? 逆にフル装備だったら職種も違うしカッコつかないだろ?」


 ビビリの癖に何見た目にこだわってんの?

 時折、妙なところで先輩風吹かせるから困ったもんだ。


「……ユッキ、ガンさん。呑気に話している場合じゃないんじゃないか? もう敵の陣形が整っているぞ」


 ガンさんのせいでヤッスに指摘を受けてしまう俺。

 まさか変態紳士に言われる時が来るとはな。


 しかしだ。


「わかっているさ、こっちも連中が攻撃するタイミングを計っていたんだよ――」


 俺は鋼鉄の蜂スティール・ビー1匹に向けて片腕を翳す。


【――我が手に燃え滾る炎よ、敵を穿ち貫け、《炎の槍フレイムランス》ッ!】


 掌から《炎の槍フレイムランス》が出現し投擲する。


 狙い定めた鋼鉄の蜂スティール・ビーにヒットし吹き飛ばした。

 だが、中級攻撃魔法とはいえ覚えたばかりのLv.1。

 防御力の高い鋼鉄の体を貫くまでにはいかない。


 しかし、それで十分だ。

 陣形を乱したことで、連中のユニークスキル《無窮の営巣地インフィニティ・コロニー》の発動を阻止した。


「確か6匹揃わないとスキルが使えないんだろ? おまけに発動時は他のスキルと魔法が使えない――それがテメェらの弱点だ!」


 俺に吹き飛ばされた鋼鉄の蜂スティール・ビーは、こちらへと迫って来る。

 再び陣形を整え、スキルを発動させようとする意図が見え見えだ。


「ヤッス! 全員にバフをかけてくれ!」


【了解した、付与魔法エンチャント――《攻撃強化アタックアップ》×3】


 ヤッスは新装備の闇夜月型の魔杖ダークムーン・スタッフを掲げる。

 それは魔力値MP:+1000と知力値INT:+500も増加されるという、強力な魔杖だ。


 ちなみに知力値INTが向上すると魔法効果に影響する。

 つまり同じ魔法でも威力が増大されるのだ。

 そのバフ効果を三連続に施されたことで、俺達の攻撃力ATKは爆上がりした。


「よっしゃ! これだけ攻撃力が上がりゃレベル40のモンスター相手だろうと単独で戦えるだろう! みんな各個キルで行くぜ!」


 俺は仲間達に呼びかけ、雷光剣と竜殻りゅうかく剣を両手に携え跳躍する。

 続いて、ガンさんと美夜琵も同じように鋼鉄の蜂スティール・ビーに攻撃を仕掛けた。


 ほぼワンキルで斃すことに成功する。

 一方で完全に虚を突かれた残りの鋼鉄の蜂スティール・ビーは戸惑い動けないでいた。

 こいつらは知力値INTが低いだけに、不測の事態に対する咄嗟の判断と対応に欠いているようだ。


「残りは俺が斃す――『業火の巨大骨刃剣ヘルファイア・グレートソード』ッ!」


 ガンさんはカスタマイズされた新武器の大剣を地面に叩きつける。

 破壊された地面から激しい炎柱が噴出し、残り3匹の鋼鉄の蜂スティール・ビーが覆い尽くされた。

 攻撃力ATK:1300の威力は伊達ではなく、バフ効果も相俟って鋼鉄の体は溶解し蒸発していく。


 こうしてオーバーキルで殲滅され、菫青色アオハライトの『魔核石コア』が地面に落ちて転がった。


「……うわっ、エグ。ガンさん、狂戦士化バーサークしなくてもヤバイな」


「あくまでヤッスのバフがあっての成果だよ。けど、この新武器は気に入った……流石、サッちゃん。いい仕事をしてくれる」


 その分、億単位の借金を背負っちまったけどな。

 まぁ、三割引きにしてくれたからいい方なんだけどね。


「うむ、これぞパーティ戦! 連携し協力し合ってこその仲間だ! いいなぁ、【聖刻の盾】! 是非、加入を求むぞぉぉぉ!!!」


 美夜琵は刀剣を掲げ、妙なテンションになっている。

 なんでも彼女が所属する【風神乱舞】は、リーダーの母上勇者が過保護すぎてまともに戦わせてくれなかったとか。

 その鬱憤が、こうして暴走ぎみの女子として現れているようだ。


「ああ、美夜琵なら歓迎するよ。そうだ、この調子で『柱』の鋼鉄の蜂スティール・ビーを斃せば、《無窮の営巣地インフィニティ・コロニー》の結界が解除され、スマホが繋がるようになるし、姉ちゃん達も入って来れるんじゃね?」


「うん、ユッキの言う通りだ。たとえ敵が100匹超えようとも、これだけ広い敷地ならそう易々と囲まれることはないからな! 寧ろ、僕達から迅速に移動することで『柱』のモンスター達を叩き、マスター達と合流できると思うぞ!」


 ヤッスもパーティの参謀役ブレーンらしく、俺の意見に賛同してくれる。


「おっし! エンジン掛かってきたな! ヤッス、今度は移動力を上げるバフを与えてくれ! 速攻で結界を解除してや――」


「――させないわ、そんなこと!」


 俺の言葉を遮る形で誰かが横槍を入れてきた。

 それは聞き覚えのある女性の声だ。


 この声、まさか……。


 俺達は振り返ると、さっきまで気を失い地面で寝ていた筈の教師が起き上がり立っていた。


 そう、担任の『灘田 楠子』だ。


「……灘田先生? あんた、やっぱり……」


「そっ、“帰還者”よ。貴方達流に言えば、『闇勇者レイア』の協力者ってところね」


 開き直ったかのように、堂々と暴露する灘田。

 俺は動揺を見せずに顔を顰める。


「なるほど、これで謎が解けたわ。召喚士サモナーの癖に《隠蔽》スキルがカンストしていたってわけか? それで今まで一般人を装っていたってわけだな?」


「《隠蔽》だけじゃないわ。《偽装》スキルもカンストしているのよ。それで自分のステータスを書き換えていたってわけ。全部、『零課』対策でね。にしても幸城君、あんまり驚いていない様子ね? 安永君と岩堀君も?」


「フン! 普段からあんたの奇行教師ぶりを目の当たりにしてりゃ、闇堕ちしているだろって納得するわ! 寧ろ一般人ならカウンセリング進めているっつーの!」


「ぶっちゃけ、Eカップのお胸様以外は一切尊敬しておりませぬぞ」


「サッちゃんと違って、あんたは全く教師らしくなかったからな。俺より病んでいる人間がどうして生徒を導く立場なのか、ずっと疑問に思っていたくらいだよ」


 自分の教え子達の生声に、灘田は顔を引きつらせている。

 

「……あんた達にどう思われようとどうでもいいわ。そちらの女子は、隣クラスの霧島 美夜琵さんね? 私が召喚したビックベアをたった一人で斃すなんて流石ね。けど異世界では『極東最強の勇者パーティ』とまで謳われた【風神乱舞】の貴女が、どうして【聖刻の盾】とつるんでいるの?」


 あのビックベアを召喚しただと?

 やっぱり、こいつ召喚士サモナーか?


 灘田に問われ、美夜琵は首を横に振るう。


「極東最強とはあくまで異世界での話だ。現実世界ここでは、『地に堕ちた風神』と揶揄されている……母上のせいでな。だからワタシは己の腕を磨くと共に、それら負の汚名を払拭するため、真乙殿に懇願し【聖刻の盾】に臨時加入すると決めたのだ!」


「……そう。あの女勇者、『刻の勇者タイムブレイブ』並みにバカ強い癖に、ふわふあして頭悪そうだったからね」


「育ての親とはいえ、我が母を悪く言うことは許さ……ん? 貴様、何故に母上のことを知っている? 貴様もワタシ達と同じ災厄周期シーズンの転生者なのか?」


「教えないわ、ただ一つ訂正するわよ! 私の職種はただの召喚士サモナーじゃない――最上位職である『闇召喚士ダークサモナー』ジーラナウよ!」


 灘田は言い切ると頭上から《アイテムボックス》を出現させ、瞬時に冒険者の姿へと変貌した。

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