第143話 鋼鉄の守護者

 移動中、美夜琵と合流した。


「真乙殿、いざ実戦となるとドキドキするな……」


 経験の浅い彼女は声を震わせている。

 と言っても昼間の戦いを見ている限じゃ、勇者パーティ入りした“帰還者”の間ではだ。

 実際、美夜琵はユニークスキル持ちで強い。

 したがって十分に戦力になる逸材だと評価している。なんやかんや俺らよりレベル上だしな。


「美夜琵なら大丈夫さ。だけど、昼間言った通り暴走だけは控えてくれよ」


「あいわかった……だが相手が悪で外道だと、言葉よりつい手が先に出てしまうかもしれん。外道に論破など不要と思う性分なんでな……その時はすまない」


 もろ姉貴そっくりじゃねーか。

 ディアリンドも口より手を出す方が早いって、三バカ兄さん達が言ってたわ。



 間もなくして指定場所に辿り着いた。

 旅館の敷地内にある「神社」だ。

 近くには川辺があり、そこに宮脇先生と灘田がいるらしいのだが。


「……誰もいねーじゃん」


 人っ子一人おらず、冷たい夜風が肌に染みる。


 宮脇先生、まだ来てないのか?

 灘田を連れて来るのに手間取っているのだろうか?

 それならそれで連絡くらいくれても……。


 いや、まだ不可解な点があるぞ。


「――姉ちゃん達も来ていない。どうなってんだよ?」


 俺はスマホを取り出し連絡しようとする。

 

 だが、


「――電波がないだと? おいおい、ここ旅館の敷地内だぞ!?」


 当然、ネットも繋がらない。

 まるで意図的に電波が遮断されたようで奇妙だ。


「この気配、魔力……いや、スキルか!? ユッキ、ここ一帯が妙な力に包まれているぞ! クソッ、僕としたことが美夜琵殿のGカップのお乳様に見惚れて気づかなかった!」


 ヤッスは『魔眼鏡』を片目にかけ、《看破》スキルを発動させて知らせてくる。

 しかも当然の如く、そして何故か悔しそうに女子の胸を見惚れていたとほざいていた。

 この男、どうでもいいけど正直に言えば許されると思っているのだろうか?

 

 とはいえだ。


「スキル効力だと!?」」


「――貴方達、こんな所で何しているの?」


 不意に聞こえてきた女性の声。


 神社の入り口から、担任教師の『灘田 楠子』が歩いて来る。

 宮脇先生の姿はないようだ。


「な、灘田……先生?」


「もう就寝時間よ。生徒達は旅館に戻りなさい」


 普段、物憂げでやる気のない糞教師なのに、やたら真っ当な指摘をしてくる。

 ところで何故、こいつ一人なんだ?


「……先生はどうしてここにいるんですか? 見たとこ一人のようだけど?」


「副担任の宮脇先生に誘われたのよ。酔い覚ましに夜風に当たる目的でね。神社付近まで一緒だったんだけど……」


 なんだって?

 てことは、宮脇先生……いやインディだけはぐれたってのか?

 

 灘田の口振り、誤魔化しているようには聞こえない。内容も一応は筋が通っている。

 姿を消した宮脇先生を探している中、俺達と遭遇したって感じか。


 スマホが通じないことといい……ヤッスの言動から既に何かしらの攻撃を受けているに違いない。

 灘田、あるいは別の誰かから……だとしたら、ここに居るのはヤバくないか?


 しかし連絡は取れない状態だけど、もうじき姉ちゃん達が来る筈だ。

 それまで灘田を足止めして時間を稼ぐべきか。

 

 などと思考を凝らしていた時。



 ブーーーーーン



 やたらと鼓膜を刺激する大きな羽音が聞こえてくる。

 それは上空からだ。

 俺は視野を向けると、そこには恐ろしい光景が広がっていた。


 夜陰に浮かぶ六つの機影、いや生物だろうか。

 月明りにより光沢を発する鋼の装甲板のボディ、そのシルエットからして昆虫の「スズメバチ」のようだ。

 しかもサイズが桁外れに大きく、どれも成人男性並みである。

 背中の大きな羽を高速に振動させ、その煌々と赤く光る眼で俺達を見下ろしていた。


 明らかに異世界のモンスター、けど俺は見たことのないタイプだ。

 今のところ、そいつらから殺意は感じられない。

 何やら俺達を見張って待機している。そんな感じに思えた。


「――鋼鉄蜂スティール・ビーだ! 何故こいつらが、こんなところに!?」


「うむ、疎いワタシでも知っているぞ……最終決戦で遭遇したことがある。魔王城の結界役として重宝された凶悪な衛兵、『鋼鉄の守護者』と呼ばれ恐れられた大型昆虫モンスターだ」


 異世界の“帰還者”組である、ガンさんと美夜琵が説明してきた。


「鋼鉄の守護者だと? あのでっかいスズメバチが?」


「そうだ、真乙殿! 奴らは見た目通りの獰猛で高い防御力に加え、その集団性を活かした強固なユニークスキルを持つ恐ろしい側面もある!」


 ユニークスキル持ちのモンスターだと!?

 いったいなんなんだ、それは……。


 俺は浮遊する大型昆虫モンスターに向けて《鑑定眼》を発動させた。



鋼鉄蜂スティール・ビー

レベル40

HP(体力):650/650

MP(魔力):95/95


ATK(攻撃力):100

VIT(防御力):650

AGI(敏捷力):700

DEX(命中力):250

INT(知力):10


スキル

《硬質化Lv.10》……肉体強化にてVIT+500補正。体当たり系のスキルと連動した際、ATK+200補正される。

《連携攻撃Lv.10》……同種と連携することでATK+300補正。

《ボディアタックLv.10》、《高速移動Lv.7》


魔法習得

《中級 風魔法Lv.8》


ユニークスキル

無窮の営巣地インフィニティ・コロニー


〔能力内容〕

・同種同士で協力し合い結界領域テリトリーを造り、外部からあらゆる侵入を完全に遮断する効果を持つ。

・約10メートルごとに同種を「柱」として囲む形で配置することで、その中心が最強の結界となる。


〔弱点〕

・群衆型スキルであり、同種が最低6匹以上で一帯を囲まないと結界が作れず、単独では発揮できない。

・結界の範囲が広いほど、同種の数が必要となる。

・領域を作る者である「柱」を失うと結界は消滅されてしまう。

・ユニークスキル発動中は魔法や技能スキルが使えない。


装備(身体として備わっている特性を含む)

・《猛毒針》……敵を猛毒状態にする。放置するとHP-30ずつ消費され死に至らしめる。



 うおっ、レベル40か!

 下階層に出現しても可笑しくないモンスターだ。


 防御力VITが高い上に敏捷力AGIも高い。

 一見、攻撃力ATKは見劣りするけど、スキルや魔法で補うことができる。

 しかも見た目が蜂なだけに毒針を持っているのが厄介だ。


 それに《無窮の営巣地インフィニティ・コロニー》というユニークスキル。

 集団性のモンスターだからか、複数で同じスキルを発動するタイプは初めて見た。

 

 どうやらスマホが通じない現象も、こいつらが「柱」となって結界領域テリトリーを張っているからに違いない。

 そして、姉ちゃん達も近づけないでいるようだ。


「おい、ユッキ……これって凄くヤバくないか?」


 ヤッスが声を震わせながら訊いてくる。

 

「何がだ?」


「連中のユニークスキルは、約10メートルごとに同種を「柱」として囲む形で配置することで結界領域テリトリーを完成させると言う……であれば、鋼鉄蜂スティール・ビーは目の前にいる6匹だけじゃないということだぞ」


「なんだと!? つーことは旅館の敷地内中にモンスタ―がいるってことか! これだけの敷地を囲むって……少なくても100匹以上いるってことだぞ!」


 それはまるで、『奈落アビスダンジョン』の「モンスター行軍マーチ」を彷彿させる事態だと言えるだろう。

 

「な、なんなのよ、あれぇぇぇ! 蜂なの!? 嘘でしょぉぉぉ!!!?」


 一方、灘田は顔を歪ませ動揺している。

 酷く取り乱して叫び散らしていた。


「――《睡眠魔法スリープ》」


 ヤッスが灘田の目の前で手を翳し、眠り系の魔法を仕掛ける。

 灘田は「うっ……」と声を漏らすと、その場で倒れ込み仰向けで眠ってしまう。

 ヤッスはしゃがみ込み、灘田の状態を確認した。


「こんなにあっさりと眠りに入ってしまうとは……このEカップ熟女、抵抗力レジストが弱い証拠か」


「つまり一般人ってことだろ? 灘田先生は『協力者』じゃなかったってことだ。そうじゃないか、ユッキ?」


 ガンさんの問いに、俺は迷うことなく首肯する。


「みたいだな……まだ釈然としないが。けど、灘田が『白』だとしても、渡瀬の協力者はこの近くにいることは間違いない。ビックベアを差し向けた奴と同一人物――召喚士サモナーだ!」


 だがそれよりも最悪なのは、俺達が置かれているこの状況だ。

 100匹以上のモンスターに囲まれているかもしれない最悪な事態。


 美桜達や『零課』も不在の中、俺達だけで対抗できるのか……?


 クソォ! どうする!?

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