第141話 刀剣術士の戦闘力
「……私、なんか酔っちゃった」
体験実習後、秋月は船酔いで口元を押さえている。
あれから、なんとか無事にゴールできた。
けど美夜琵ったら、その後も加減知らずに漕ぐもんだから、俺とガンさんで呼吸を合わせ軌道修正したようなものだ。
おかげで最後尾だったのに、真っ先にゴールしてしまった。
「……すまない、みんな。つい熱くなり些か調子に乗りすぎてしまった」
「わたしは大丈夫だよ、霧島さん。気にしないでね」
「にしても凄い腕力だよね……大学生、ドン引きしてたよ。流石、剣道で全国優勝しただけのことあるわ」
謝罪する美夜琵に、心優しい杏奈はフォローし、秋月は顔色が悪いながらも感心を示している。
けど、ちゃんとした剣道家だって、あれだけ重いホールを一人でブンブン振り回すのは簡単じゃないと思う。
てか安易に異世界の力を解放させんなよな。
そりゃ来年、『零課』から剣道を辞めるよう言われるわ。
寧ろ懸命なナイス判断だ。
「本当にすまない……色々と鬱憤が溜まっていてな。集中すると、つい力が入ってしまう」
鬱憤って異世界の母上勇者のことか?
その過保護ぶりせいで、美夜琵は思うように戦えないまま異世界から帰還したらしいからな。
どうやらガンさんとは違った「異世界トラウマ」を背負っているようだ。
「もう大丈夫だよ、美夜琵……けど、あれだ。あんま羽目を外すと、
「ありがとう、真乙殿。気をつけよ――ん!?」
突如、美夜琵は切れ長の双眸を吊り上げ雰囲気を変える。
と同時に俺の《索敵》スキルが反応した。
(こんな場所で敵だと!? モンスターなのか!?)
はっきりとはわからないが人間じゃない。
明らかに異質な気配と殺意だ。
「――ヤッス。秋月、調子悪そうだから先に戻っていてくれないか? 杏奈も一緒に頼むよ」
「……わかったよ。宮脇先生とマスター達には僕から連絡しておくぞ」
ヤッスも俺の意図に勘づき、会話を合わせてくれる。
「うん。わたしはいいけど、真乙くんどうしたの?」
「さっき大学生の人達に迷惑かけたろ? 何人か目を回していたようだし、だから大丈夫かなって……少し美夜琵と様子を観に行ってくるよ。ガンさんも一緒にいい?」
「ああ、わかったよ」
ガンさんは快く引き受けてくれる。
美夜琵と二人きりだと、また辺に勘ぐられ誤解されてしまい兼ねない。
なので、割と女子達に信頼されている無害なガンさんが間に入ってもらうことで調和を図ってみた。
美夜琵も自分のクラスメイト達に「そういうことだ。すぐに戻るから先に行っていてくれ」とお願いし、生徒達は離れて行く。
しばらくして俺達三人だけとなった。
「――距離、200メートルくらいか? 俺の《索敵》だと、あそこの茂みから感じるぞ」
俺は少し離れている広範囲の木々で覆われた林の方に人差し指を向けた。
「ああ、ユッキの言う通り間違いなくモンスターだ。一匹だけのようだが、サイズがデカい……移動速度や歩調からして大型の獣系タイプか? それに相当なプレッシャーだ」
ガンさんは臆病な性格が幸いしてか、《索敵》スキルがカンストしているらしい。
したがって俺より抜群の精度を誇っていた。
それはそうとだ。
「どうして、こんな所にモンスターが現れるんだ? どこかの隠しダンジョンから出て来たのか?」
「う~ん……『キカンシャ・フォーラム』で、稀にそういう現象はあると書き込まれていたが、大抵そういった類はスライムとか一般人でも斃せそうな低レベルモンスターだからな。だがこいつは違う……明らかにヤバイやつだ」
ガンさんの言う通りだ。
近づいてくる奴は、間違いなく俺達よりレベルが上のモンスター。
ボス級とまでいかないが、少なくても『中界層』以上で遭遇するクラスだ。
案外、魔法支援が必要なタイプだとしたら、ヤッスを行かせたのは失敗だったんじゃないか?
――などと考えていた時だ。
草木を掻き分け、そいつは立ち上がり俺達の前に姿を見せた。
身の丈、五メートル以上あるのではないだろうか。
顔つきは、熊そのものだが双眸が鋭く獰猛な面貌であった。
漆黒の毛並みに大きく隆々とした両腕。さらに鋭く肥大化した爪を生やした巨大熊だ。
「ビ、ビックベアだ! 『下界層クロートー』で遭遇するモンスターだぞ!」
「なんだって!? それじゃ、レベル40以上は確定しているんじゃね!?」
俺は驚愕しつつ、初めて遭遇するモンスターに向けて《鑑定眼》を発動させた。
【ビックベア】
レベル42
HP(体力):750/750
MP(魔力):75/75
ATK(攻撃力):530
VIT(防御力):450
AGI(敏捷力):180
DEX(命中力):100
INT(知力):25
スキル
《爪撃Lv.9》……連続攻撃で90%の確率で、クリティカルヒットを発生させる。
《ビルドアップLv.10》……肉体強化にてATK+500補正、VIT+400補正。
《咆哮Lv.6》《ボディアタックLv.10》《不屈の闘志Lv.10》《瞬足Lv.8》
魔法習得
《上級 土魔法Lv.2》
《中級 風魔法Lv.9》
装備(身体として備わっている特性を含む)
・《ベア―クロー》……ATK+300補正
・《硬質の体毛》……VIT+200
以上
クソッ、やっぱりレベル42か!
それに見た目通り、攻撃力と防御力の高い野郎だ!
しかもスキルを併用すれば、余裕で1000を超えやがる!
こりゃ単独で斃すのは厳しいぞ!
そのビックベアは二足歩行でゆっくりと近づいて来る。
俺達に向けて、隆々とした両腕を広げ威嚇してきた。
「クマァァァァァァッ!!!」
あっ、こいつ「クマ」って叫ぶのか?
強面で厳つい割に可愛くね?
とか言っている場合じゃないぞ!
「襲う気満々ってか! ガンさん、俺達だけで戦うぞ――着、」
「――真乙殿。ここはワタシに任せてほしい」
黙っていた美夜琵が、俺達の前に立った。
「美夜琵、どういうつもりだ!?」
「ワタシが単独で戦うと言っている。サブリーダーのキミに実力を評価してもらうためにもな」
「いや、そのつもりだけど……しかし、その熊はレベル42もあるぞ。ここはみんなで戦うべきじゃないのか?」
「格上上等。リスクなくしてレベルは上がらぬ。ここには母上もいないことだし、良い腕試しだ」
まぁ、本人がそこまで言うのなら、しばらく様子見でいいか。
ピンチになったら助けに入ればいい。
でも内心じゃ新装備の『
俺の思いを他所に、美夜琵は腕を翳し掌から《アイテムボックス》を出現させる。
魔法陣から彼女の装備が出現し、一瞬で全身に装着された。
ぱっと見は、紫色の袴を模した和装――。
胸部、両肩、両腕、両足など必要箇所に鎧が装着されている。
そして腰元には、鞘に納められた刀剣が備わっていた。
これが美夜琵の、
大抵の冒険者は中世時代を模した西洋風の装備が多いから、非常に珍しい装いだ。
どこか神秘的というか、神聖さを感じてしまう。
「クマァッ!」
ビックベアは立ちはだかる和装少女に容赦なく突進し襲い掛かる。
技能スキル《ビルドアップ》で肉体を強化させ、両腕の《ベアークロー》で斬りつけようと迫ってきた。
しかも《爪撃》スキルでクリティカルヒットを発生させる凶悪ぶりだ。
俺なら無傷で防げるが、美夜琵は大丈夫なのか?
「――《鏡映》」
不意に、美夜琵の姿が揺らめき二重に見えた。
そのまま分裂され、すうっと一体が離れて行く。
まるで蜃気楼のように揺らめく姿は明らかに偽物であり幻影だ。
だがビックベアは進路方向を変え、その幻影に向かって突撃し攻撃を繰り出している
レベルの割に
「……《鏡映》は、敵の攻撃を強制的に誘導させるスキルだ。たとえ偽物だとわかっていても、必ず一度はああして誤認させられる効果があるんだよ」
そうガンさんが説明してくれる。
ただし誘導できるのは一回のみの攻撃であり、触れると幻影は消滅し効果を失うようだ。
現にビックベアの爪が触れると、幻影はあっさりと紙切れのように裂かれ消滅した。
しかし、美夜琵にとってそれだけで十分だったのだろう。
彼女が低い姿勢で身構える間合いに、ビックベアが大きな背中を晒している。
「――奥義、《
美夜琵は閃光の如く刀剣を抜き放ち、ビックベアの背中を一刀両断した。
それはレベル差を感じさせない居合術による神速かつ強烈な斬撃。
あれ? この子……めちゃ強くね?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます