第139話 林間学校の始まり
「――いつぞやの逆襲ッ! 今度はヤッスがババ引きましたぁっ! 上がりぃ!」
「ウェーイ、ヤッスの負けぇ」
「ハッ! バカ言ってんじゃないよ、キミ達! まだ三回戦目じゃないか!? ここからは僕の本気モードだからな!」
あれから数日後。
俺達は林間学校で実習する場所へと向かうためバスで移動していた。
こうして学生らしく、実習で組むグループ班でトランプを楽しんでいるところだ。
珍しくガンさんがババ抜きでヤッスに勝ち、ドヤ顔でマウントを取っている。
「安永が負けると、なんかテンション上がるわぁ」
「どんなテンションだ、ギリCめ!」
お前が秋月のことそう呼ぶからだろうが。
しかし《看破》スキルを使えば楽勝に勝てるものの、あえて使わないところがヤッスらしい正々堂々としたフェアプレイ精神だ。
ちなみにグループ班は男女混合であり、男子は俺とヤッスとガンさん、女子は杏奈と秋月となっている。
本来なら四人編成なのだが、ガンさんが……。
「どうせ皆、俺をヌッケにするつもりだろ? 何も言わなくていい、わかっているんだ……昔から俺は余され者だったからな。遠足や中学の修学旅行でもそう、フォークダンスの時も同じく余された男子としか踊った記憶しかない。その頃、サッちゃんとは別クラスだったからな」
などと延々とネガティブな愚痴を漏らしていた。
仕方ないので俺から担任の灘田に「先生、俺らの班だけ五人でいいっすか?」とお願いしたというわけだ。
灘田も日頃から適当な教師なのであっさりと了承した経緯がある。
「真乙くん、ババ抜き強いね。連続で一位だよ」
杏奈が楽しそうに微笑を浮かべている。
うん、ジャージ姿も超可愛い。
「読み合いは慣れているというか……まぁ経験値の差かな? たまたまもあるけどね」
これも普段、【聖刻の盾】のサブリーダーとして癖の強いパーティ達のフォローをしている賜物だろう。
スキルを使わなくたって、ヤッスとガンさんの思考なんぞ手に取るようにわかる。
こいつら基本、おっぱいとネガティブだからな。
問題は杏奈と秋月だけど、別に女子には負けてもいいと思っているので、欲をかかず普通にやっていたらなんか勝っちゃったって感じ。
したがって一位になれたのは半分くらい運だ。
「見てろ。次こそ、日頃から鍛えている観察眼で見抜いてやるぞ」
「安永の観察眼って女子の胸ばっかでしょ? トランプ関係ないじゃん。ねぇ、幸城」
秋月が楽しそうに俺に振ってきた。
この二人も喧嘩しつつ、すっかり昔の仲を取り戻しているように見える。
そんな秋月はグループ班を決める際、ずっと仲が良かったリア充の大野達に声を掛けられた。
だが以前の「上履き事件」が尾を引いたのか丁重に断り、杏奈を誘って俺達と同じ班として合流してきた経緯がある。
ヤッスも不満を漏らしながらも満更そうじゃなかった。
なんだかヤッスの癖にラブコメみたいなノリでムカつくけどな……まぁ、俺的には杏奈と同じ班だから別にいいや。
とまぁ和やかな雰囲気は良いとして、忘れてはいけない重要なことがある。
――疑惑の担任教師、灘田 楠子の件だ。
奴が“帰還者”で渡瀬の協力者か否か。
それを見極めなければならない。
俺はチラっと教師が乗っている座席に視線を向ける。
灘田の隣には、副担任の宮脇先生ことインディがいた。
彼女の指示で、俺達【聖刻の盾】は動く手筈となっている。
必ず尻尾を掴み、正体を暴いてやるぜ……。
俺はそう決意しながら仲間達と交流を楽しむ。
――この先、予想だにしない事態が待っているとも知らずに。
◇◇◇
宿泊先は山間部にぽっつんと立つ古びた旅館だった。
「……姉ちゃん達はもう到着しているのか」
俺はスマホのメールを確認して呟く。
姉の美桜と香帆と紗月先生の三人は、『零課』の手配で学校を休んでいる。
この付近にある別の旅館に到着していると知らせが入っていた。
しかも俺らが泊まる宿より新しく豪華で、しかも温泉までついている。
おまけに旅費など全て『零課』持ちなので、ムカつくったらありゃしない。
「――真乙殿」
バスから降りた直後、別クラスで同級生の『霧島 美夜琵』から声を掛けられる。
彼女は剣道では有名な女子であるだけに周囲から注目を浴びやすい。
しかも普段から凛とした佇まいに美しい容貌はファンが多く、特に多くの女子達から支持を集めていた。
「やぁ、美夜琵。来週よろしくな」
来週末に『白雪学園』で文化祭があり、俺は彼女の育ての母親こと“帰還者”の女子に、美夜琵を【聖刻の盾】に臨時加入する許可をもらいに行くこととなっている。
「ああ、こちらこそだ。あの後、姉上伝手でフレイア殿に話を通してある。『真乙様のためにも協力は惜しみませんわ』と言って頂いたそうだ。頑固な母上とはいえ、あの方が間に挟んでくれれば何も言えんだろう」
「そうか、フレイアさんが味方になってくれるなら心強いな」
何しろ美夜琵の母上勇者は超がつくほどの過保護であり、異世界じゃ彼女を戦わせまいと最終決戦日まで、まともな実戦経験をさせなかったそうだ。
それまで美夜琵は、こっそりとソロの『
「うむ、そのこともあるが、今日の実習も別クラスだが重なることもあるだろう。その時はよろしく頼む」
「こちらこそ……ああ、そうだ」
《狡猾》スキルが発動したのか、俺はふと閃く。
――灘田の件だ。
これから同じパーティになるわけだし、美夜琵にも伝えた方がいいだろう。
「何かな、真乙殿?」
「いや、後で連絡するからメールを確認してほしいんだ」
「あいわかった。それじゃワタシはこれで失礼する。ヤッス殿とガン殿も、また後でな」
美夜琵は他の二人にも手を振って、自分のクラスに戻って行く。
その毅然とした姿に、クラスの女子達は「素敵ぃ~」と目がハートマークだった。
確かに男前というか、ヅカ系の女子ではあるわな。
「何、幸城ッ! 霧島さんと知り合いだったの!?」
ミーハーな秋月が食いついて尋ねてきた。
「ん? ああ、知人を通して知り合ったんだ。これからツルむこともあるから、仲良くしてやってくれ」
「……ふへぇ。幸城って、お姉さんだけじゃなく交遊範囲もヤバいね。てか、ガンさんは良しとして、どうして安永まで仇名で呼ばれてんの? あんな素敵でカッコイイ女子に……変態の癖にイラっとするんだけど」
「何故、お前がイラっとするんだギリCめ。こう見ても僕だってとある場所なら、それなりに一目置かれているんだからな!」
確かにこいつ『エリュシオン』のギルドじゃ、最速ルーキーの
秋月じゃないが、ヤッスの癖にと思えてしまう。
それは良いとして。
こうして、俺が美夜琵を巻き込もうとしているのは意図がある。
――冒険者として彼女の実力についてだ。
何せ職業が『
そもそも冒険者は無暗に自分のステータスやスキルを教える者はまずいない。
姉ちゃんを始めとする、香帆や
そして美夜琵の場合、レベル値は問題ないとして実戦経験は乏しいと言う。
だから実際どこまで戦えるのかわからない。
案外、最初の頃のガンさんみたいに、レベルとスキルだけはいっちょ前で戦えない筋肉ダルマって可能性もある。
万一、灘田が『黒』で戦闘になった際、サブリーダーとして美夜琵の戦闘力を見極める必要があるだろう。
言わば、【聖刻の盾】採用試験ってやつだ。
まぁ、仮にダメダメだったとして見限ったりしないけどね。
世話になっているディアリンドの依頼もあるけど、何より凄ぇ性格のいい子だからな。
「杏奈も、美夜琵のことよろしく頼むよ」
「うん、勿論。けど……真乙くんってやっぱり凄いね」
「えっ、俺が? そ、そうかな……」
考えてみりゃ、好きな子に他の女子を紹介するのってズレた感覚なのか?
別にそこに恋愛感情はないんだけどな……俺はあくまで杏奈一筋だし。
「うん、凄く優しい……だからいいなって」
杏奈は照れたように頬を染めながら満面に笑って見せる。
やっぱり天使だ。めちゃかわいい。
しかも邪推せず、俺の思いをちゃんと汲んでくれているのが嬉しい。
今回はフレイアもいないことだし、いっそ今日告白するか?
「みんなぁ、集まって! 今から実習内容を説明するよーっ!」
宮脇先生が俺達生徒に向けて招集を促していた。
ところでなんで副担任がメインで呼びかけてんだよぉ。
肝心の灘田は一人で青空を眺め、呑気に煙草を吹かしてやがる。
相変わらずのやる気の無さ。最低教師め。
だが今に見てろよ……。
テメェが『黒』だったら容赦しねぇからな。
けどやっぱり今回も、杏奈への告白は無理っぽそうだ。
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