第137話 疑惑の教師と剣道少女

 宮脇先生ことインディの調査により、俺達の担任教師である『灘田 楠子』が“帰還者”であり、渡瀬の協力者である可能性が浮上した。


 確かに、いつもやる気がなく生徒に無関心なイカレ教師だ。

 前周でも、杏奈が苛められていることを知っていた癖に見て見ぬ振りを貫いていた。


 しかし宮脇先生の話を聞く限り、辻褄が合うかもしれない。


 灘田が渡瀬に協力し、杏奈を邪神生贄にしようとしているなら共犯が故に黙認していた可能性がある。

 

「……これもインディさんの言う、『改めて見ると』ってやつかな? 一学期の大野達の対応といい、灘田には疑わしい部分があるぜ」


「だとしたらどうするつもりだ、ユッキ? まさか、これから俺達で灘田先生に直接問い詰めるつもりなのか?」


 ガンさんは巨漢を縮こませ、びびりながら訊いてくる。


「いえ、ガルジェルドさん。さっきも申した通り、レイヤの協力者は他にもおります。その者達に気づかれないよう、内密に行動する必要があるでしょう」


「けどスピードは大事ね。速攻で灘田を捕え、尋問してレイヤの動きと他の仲間の情報を聞き出す必要があるわ。そいつらが呑気に、黄昏高ここに在籍している間に一網打尽にできるチャンスかしら……あくまで灘田が『黒』って話だけど。逆に誤認逮捕フライングだったら最悪だけどね」


「はい、美桜さん。まさしくその通りです(ゼファーさんと同じこと言ってる……流石、無駄に策士な三大極悪勇者の一人だわ)。ですから場所とタイミングは必要です――決行日は『林間学校』当日としております」


「……林間学校? 一週間後か……まぁ校外で行うし、俺ら一年生しか参加しない行事だから目立ちにくいか。仮に灘田が協力者じゃなく“帰還者”でもなければ、その場で土下座して謝りゃいい感じか?」


「そうね、マオトくん。ヤッスくんの《看破》があれば、灘田の正体がはっきりするわ」


「わかりました、宮脇先生。必ずや灘田の正体を暴いて見せましょう。ちなみにあの腐れ教師、バスト89のEカップ。年齢の割には実にいいモノを持っておりますぞ」


 出た、久しぶりの『おっぱいソムリエ』ぶり。

 てか、どんな女性だろうと常にそこだけはチェックしてんだな、こいつ。


「ちょい、待って。林間学校なら、ウチら二年は無理じゃね?」


「そうね、私も二年生の担任だから行けないわ」


 香帆と紗月先生は難色を示している。

 『零課』の宮脇先生がいるとはいえ、俺達一年組だけでは確かに心もとない部分もあるだろうか?


「確か林間学校って週末頃に実施されるけど、平日も挟むわよね? 当日は学校をサボって、こっそり行くしかないわ(密かに真乙の様子も見られるし、お姉ちゃん的にはそっちの方が役得ね)……」


「はい。美桜さんと香帆リエンさん、そして天堂先生の三名はそうなります。ですから、既に協力者である校長に伝え配慮するようにしています。皆さんが宿泊される宿も、私達『零課』で手配する予定です。費用も負担いたしますのでご安心を」


 宮脇先生の話に、三人は「なるほどね」と呟きつつ何故か口端を吊り上げている。


「ならいいわ。あと宿泊先は旅館にしてよね。温泉つきを希望するわ」


「夕食は豪華な料亭風がいいねぇ。朝食はバイキング式でよろ~」


「当然、移動手段は『零課』で手配してくれるんでしょ? 車は貸してあげるから、運転手くらいは用意してよ。あっ、燃料代はそちらだからね」


 ここぞとばかりに注文してくる【聖刻の盾】の女性陣。

 宮脇先生こと、インディさんは表情を強張らせる。


「わかりました。ゼファーさんに、必ずそうするようお伝えします(……タチ悪)」


 こうして打ち合わせが終わった。

 具体的な作戦内容は当日に教えてくれるそうだ。



◇◇◇



「……えーっ、それでは今日の授業は終わります。部活以外の生徒は寄り道せず、とっとと帰ってください、以上」


 帰りのホームルームにて。

 疑惑の担任こと、灘田が言いたいことだけ言って教室から出て行く。

 もう慣れたが相変わらず適当な教師だ。


 生徒に向かって、とっとと帰れって何よ?

 よくクビにならないよな、あいつ。


 改めて見ると、確かに怪しい奴だ。

 しかし前周時代でも、無気力でやる気がないってだけで、特に誰かと揉め事もなく無害と言えばそれまでだった。


 そのことを知る俺としては、灘田が渡瀬と結託しているのか疑わしい気持ちもなくもない。

 確かに黙って観察してもわからない以上、何かしらのアクションを起こす必要がある。


 見てろよ、糞教師め。

 一週間後の林間学校で必ず、テメェの化けの皮を剥してやるぜ。


 この俺がな――杏奈を守るために。


 っとまぁ、意気込むのはこの辺でいいだろう。

 ここから気持ちを切り替えなければならない。


 何しろこれから、【氷帝の国】の副団長ディアリンドとの約束を果たさなければならないからだ。


 ディアリンドの妹にして異世界の“帰還者”である、『霧島きりしま 美夜琵みやび』という少女に声を掛け、【聖刻の盾】のパーティに加入しないか声を掛けることになっている。


 なんでも冒険者として伸び悩んでいるとか。

 既に他のパーティに入っているも、弱小のためレベリングもままならないらしい。

 だから、俺達の【聖刻の盾】に入り、俺やヤッスのような急成長を期待した上での依頼だった。

 したがって臨時加入という形である。



 俺はヤッスとガンさんを連れて、剣道部の道場に向かった。

 美夜琵って女子は剣道部員であり、中学の全国大会で優勝した経験を持つ猛者だとか。

 やべぇ、ちょっとだけ緊張してきた。


 剣道部の道場は活気に溢れていた。

 各部員が防具を身に着け、竹刀で打ち合いをしている。

 気合い入って、独特の緊迫感を覚えてしまう。


 その中で特に異才を放っている剣士がいた。

 真っ白な道着と防具に身を包む者、全体のシルエットと気合の声からして女子だとわかる。


 流れるような足捌き、鋭く性格な剣閃。

 あえて力を抑えているようだが、少なくても只者ではないことがわかる。


(彼女が、美夜琵って子か?)


 道場の入口前で見学する俺はそう思った。

 すると練習は終わり、打ち合っていた者同士が離れていく。

 注目していた白い防具を纏っている女子は、定位置で正座すると被っていた面を脱いだ。


 頭に面タオル巻き、美しくてカッコイイ素顔を晒した。

 真っすぐで凛とした清潔感のある雰囲気を持つ、綺麗系の美少女。

 意志が強そうな太めの眉に切れ長の双眸、細く筋の通った高めの鼻梁と薄く形のよい唇。


 なるほど、こうして見るとディアリンドと特徴が似ているかもしれない。


 剣道少女は練習相手に一礼すると、すぐこちらの方に視線を向ける。

 姉から聞いているのか? 俺達の存在に気づいたようだ。


 彼女がディアリンドの妹、『美夜琵』という女子で間違いないだろう。

 美夜琵は立ち上がると、一人で俺達の下へと近づいてくる。


「――幸城 真乙殿だな? それと安永 司殿と岩堀 王聡殿か?」


 まるで時代劇に出てくる侍っぽい口調だ。

 そういや姉ちゃんも同じ口調だったな。


「ああ、そうだ。キミが霧島 美夜琵さんで間違いないな?」


「うむ、話は姉から聞いている。すまないが少し待ってもらえぬか? 着替えをするので、人気のない場所で話をしよう」


「わかった。それじゃ外で待っているよ」



 10分くらい待っていると、美夜琵が道場から出て来た。

 当然ながら制服姿であり、前髪を横分けにしてヘアピンで止めており、後頭部で縛ったローポニーテールが背中まで流れ靡かせている。

 クールで大人びた印象だが、先程と違った可憐さをもつ大和撫子の女子高生といった印象だ


 しかも彼女、姉ほどじゃないが相当胸が大きい……あとでヤッスに鑑定してもらおう。

 いやいやいや、鑑定するところはそこじゃないぞ。


 さっきから《鑑定眼》で彼女のステータスを見ようとするも、完璧にロックが施されているようで見ることができない。

 それが可能ってことは、少なくても中級以上の実力者だということ。

 伸び悩んでいるようには見えないけど……。


 ちなみに依頼者であるディアリンドからの情報だと、美夜琵の職種は『刀剣術士フェンサー』だとか。

 『刀剣術士フェンサー』とは剣士職のことで、侍のように刀の扱いに長けた攻撃力が高く素早さに定評の高い職種である。


「待たせたな、幸城殿」


「いや大丈夫だよ。人気のない場所となると、理科室とか貸し切れるけどそこでいい?」


「ワタシは構わない」


「そんじゃ行こっか」


 俺達は理科室へと向かった。

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