第133話 装備強化と待ち合わせ

「新しい武器?」


 俺の問いに、ガンさんは頬を染めて頷き《アイテムボックス》を展開させる。

 ところで、どうして恥ずかしそうにデレているんだろう?

 厳つい見た目だけに、ちっとも萌えないぜ。


 ガンさんは《アイテムボックス》から、身の丈以上の巨大な剣を取り出した。

 形状はいつも使用している、モンスターの骨を加工したような棘つきの感じだ。

 だが全体的に漆黒色であるが、溝の部分が溶岩のような黒とオレンジが混合した色合いを帯びている。

 しかもメラメラと空気を歪ませるほどの熱量を発していた。


 なんだ……見たことがある感じだぞ。


「まさか、それもモロクの素材か? 奴の武器、『業火の戦鎚ヘルファイヤハンマー』?」


 俺の問いに、アゼイリアが頷いた。


「ええ、そうよ。『零課』にせっついて回収してもらったの。その一部を加工して、王聡くんの大剣に《融合素材フュージョンレシピ》魔法で錬成したってわけ」


 マジかよ……相変わらずなんでもありだな。

 『零課』もあれだけの巨大ハンマーをよく回収できたもんだ。

 アゼイリアのカスハラぶりが目に浮かぶわ。


 とりあえず、どんな性能なのか《鑑定眼》で調べてみるか。



【装備:武器】

業火の巨大骨刃剣ヘルファイア・グレートソード:ATK+1300・AGI-30補正


《魔力付与》

・地面に叩きつけることで広範囲に及ぶ炎攻撃が可能。

・攻撃範囲、方向は使用者が自在に設定することが可能。

・ただし使用する度に魔力MP値:-30消費される。



 げぇ、攻撃力ATK:1300だと!?

 ドックスの『魔槍ダイサッファ』より高けぇじゃん!


 やはり付与された魔法効果は同等のようだ。

 ただし攻撃範囲や方向を設定できる点は、《融合素材フュージョンレシピ》魔法で強化された部分だろう。


 難をいえば使用する度に魔力MPが消費されることと、敏捷力AGI値:-30となってしまうことか。

 まぁ乱用しなければいい話だし、低下したアビリティはアイテムや支援魔法でいくらでも補える。


「超すげーっ! 攻撃力大幅アップだぜ、ガンさん!」


「ありがとう、ユッキ。異世界でもこれだけの高性能の武器を持つのは勇者くらいだからな……嬉しいよ。この俺が早くダンジョン探索に行きたいと思えるくらいにな。思い切って2億も借金して正解だったよ」


 え? に、2億ぅ!?

 その剣に2億円も借金したの!?

 さらりと言っちゃっているけど、俺の鎧より高けぇじゃん!?

 先生ってば、幼馴染相手でも容赦ねーっ!


 俺は信じられない面持ちで、アゼイリアを凝視した。

 いつも『BJアゼイリア』と囁かれようと意に介さず堂々としているのに、珍しく申し訳なさそうな表情を浮かべている。


「……まぁ、その大剣に関しては『業火の戦鎚ヘルファイヤハンマー』の回収費用もあるわ。急がせた分、『零課』から多額の請求されたのよ。それでもね、王聡くん割引で三分の一の金額よ。錬成に手伝ってくれたバイト料込でね」


 なら通常は6億円以上もするのか……いい加減、頭が可笑しくなるわ。

 

「真乙、基本1000越えする装備品は億越えが当たり前だからね。小規模パーティで装備している冒険者はまずいないわ」


 美桜が捕捉の説明をしてきた。

 勇者の姉ちゃんが言うと、【聖刻の盾】は特別でラッキーなパーティだと伝わってくるから幸いだ。


「……まぁ、アゼイリア先生には感謝しているよ。ガンさん、一緒に借金返えそーぜ!」


「ああ勿論だ、ユッキ。これで俺も億越えの借金仲間だな。これまで疎外感があっただけに感動だよ」


 嘘だろ、そんな仲間いらねーよ。

 何、喜びを分かち合う的な感じに捉えているんだ?

 感動する場面じゃねーし、ただ普通に借金返すだけだぞ。


「あれだけ巨大な武器だけに、『業火の戦鎚ヘルファイヤハンマー』のパーツはまだ残っているわ。いつかマオトくんの武器に錬成してあげるからね」


「ありがとう、先生……まず課せられた借金を返します」


 何せ1億5千万の借金だ。

 ヤッスとガンさんは金銭感覚がイカれているから、俺だけでも緊張感を持たないとな。


「ところでクィーン、『魔槍ダイサッファ』はどうしたのです?」


「ええ、ヤッスくん。フレイアちゃんの提案に沿って『零課』のゼファーに回収してもらって預かってもらっているわ。まだ警視庁の方で呪解中よ」


 やっぱ回収したのか。

 ゼファーが纏うオリハルコンの鎧なら『呪殺カース効果』も寄せつかないと言う。


「先生、それも素材として使うの? それとも槍として売るのかい?」


「素材として使うわ、香帆ちゃんに頼まれてね。彼女の『死神の大鎌デスサイズ』に錬成するつもりよ」


「え、香帆さんが? まぁ、『呪解』された状態なら攻撃力が高い槍だからな。素材として使う部分はありか」


「まぁね。けどマオトくん、『呪解』は魔槍としての制約部分や危険な『呪殺カース』部分だけにするよう、ゼファーに頼んでいるわ。使えそうな機能は素材として残して使用するつもりよ。香帆ちゃんにもそう依頼されているしね」


「へぇ……まぁ香帆さんはベテランだし、危なくなければいいんじゃない?」


 俺は言いながら、チラっと相棒である美桜に視線を向ける。

 姉は「今でも十分の癖に何考えているのやら……」と難色を示している。

 どういう意味かわからないけど腑に落ちない様子のようだ。


 ってことは、香帆も億越えの借金をすることになるのか。

 案外それでメイド喫茶のバイトを引き受けたかもしれない。


 どの道、我が【聖刻の盾】はリーダーと鍛冶師スミス以外のメンバー全員が億越えの借金を抱えるパーティとなってしまった。




◇◇◇



 翌日の夏祭り当日。

 待ちに待った花火大会だ。


 俺はキャサリンさんから貰った男用の浴衣を着用し、待ち合わせ場所にいる。

 心躍らせながら、杏奈が来るのを待っていた。

 だけどね。


「なんで姉ちゃん達までいんの? 可笑しくね?」


「いいじゃない。祭りなんだし、みんなで楽しまないと」


「美桜の言う通りだよ~ん。一緒に楽しもうねぇ、マオッチぃ。浴衣に似合っているよん」


 気づけば、美桜と香帆がついて来ている。


 美桜も普段と異なり、後ろ髪を丁寧に結った浴衣姿だ。

 高校生にしては大人っぽく、かなり艶っぽい。

 通り過ぎる男達の視線を奪っていた。


 夏帆も浴衣姿だが、綺麗な脚線美を露わにしたショート丈のドレス風で如何にもギャルっぽい。

 花の髪飾りを頭につけており、とても可愛らしく見える。


「あざーす。てかパーティメンバーが勢ぞろいってどうよ?」


 続けて隣にいる、甚平姿のヤッスとガンさん、それに浴衣姿のアゼイリアこと紗月先生に視線を向けた。

 特に紗月先生は教師姿と異なり、抜群のスタイルを誇る大人の女性だけに浴衣がとてもよく似合っている。


「いいんじゃない? 教育者として生徒を見守る義務があるわ」


 けど先生。『エリュシオン』じゃ、冒険者達から「ぼったくりじゃじゃ馬BJアゼイリア」って呼ばれてんじゃん。


「約9年ぶりの夏祭りか……楽しみだな、ユッキ」


 ガンさん、その通りだけど男なんだから、俺に便乗しないで紗月先生を誘って二人で行けばいいじゃん。

 最近、いい雰囲気なんだし絶好のチャンスじゃねーか。


「……いやぁ、ユッキが一緒にいてくれて助かったよ。秋月に誘われた時は、どうリアクションして良いのかわからなかったからな。まぁ、こうしてマスターと行動を共に出来て幸いですがな」


 ヤッスの場合、秋月に誘われたものの俺と一緒の条件という理由で祭りに行くことにしたらしい。

 女の子から声を掛けてもらえるなんて、ヤッスの癖に糞羨ましいじゃねーか。

 あまり姉ちゃんに呆けていると、秋月と喧嘩になるぞ。

 

 んで、秋月が友達の杏奈を誘って、またWデート+おまけ達って展開になり、こうして待機しているってわけだ。

 もうじき二人が来るはずだけど……。


「……まぁ、いいや。事前に言っておくけど花火が始まったら、みんなと少し離れるからよろしく」


 お祭り自体は大勢いても問題ない。

 緊張もほぐれるし、準備運動だと思えばいい。


 ――問題は花火大会だ。


 俺はそこで杏奈に告白しようと決めている。

 大切なパーティ仲間だが、この時だけは邪魔でしかない。


 俺の言葉に、美桜を含む全員は「ふ~ん」とか言ってスルーしている。

 大丈夫か? 頼むぞ、ガチで。

 

 ちなみに妹の「清花」は中学の友達グループと一緒に祭りを楽しんでいる。

 いつの時代も、妹はリア充だ。てか、この子が普通なんだけどね。


 そうこうして待っていると。


「――お待たせ、真乙くん。待ったでしょ?」


 おおっ、ようやく俺の天使様が舞い降りたぞ!

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