第128話 次なる手といきなりの勧誘
「――レイヤ。やっぱりドックス、死んだわね」
古びたアパオートっぽい一室。
スマホの画面を眺めていた女性が声を発した。
背中越しで顔こそ不明だが、声質から艶のある随分と大人であることが伺える。
「ですね、ジーラナウさん。そこは想定内ですが、【聖刻の盾】と【氷帝の国】が意外な連携力を見せたことが想定外でした。まさか僕が育成した最上位
「幸城 真乙……姉の美桜も相当ヤバイけど、統率力は姉以上のようね。あの癖の悪い【氷帝の国】をまとめ上げるなんて……他人を引き付けるカリスマ性かしら?」
「その上、姉の美桜と『零課』のゼファーが加われば、もう僕らじゃ歯が立たないでしょうね……たとえ残りの子達を差し向けてもです」
どこか投げやりなレイヤの口調。
その反応にジーラナウと思われる熟女は、バンと力強く卓袱台を叩いた。
「じゃあ、メネーラ様の復活儀式はどうするのよ! まさか、このままお蔵入りするつもりじゃないでしょうね!?」
「……まさか」
不意にレイヤの顔つきが変貌する。
穏やかそうな優男から、ドス黒い狂気を滲ませた鋭い眼光。
「ここまで来てそれはないですよ。あくまで客観的な戦力を見定めた上での見解です。必ずメネーラ様を現実世界で復活させ、僕らは意地でも異世界に戻ります。異世界に戻りさえすれば、この世界がどうなろうと知ったことじゃないですからね」
「そ、そうね。私も
レイヤの返答に、ジーラナウは安堵した様子を見せつつ声を強張らせる。
利害と目的を同じとする仲間の筈だが、その内側から溢れる負の魔力に畏怖したからだ。
――まるで深淵の闇。
背筋が凍る感覚を抱きながら、ジーラナウはそう思えていた。
そのレイヤは話を続ける。
「正直、吾田さんとドックスさんを失い、人材不足な点は否めません。しかし既に手を打ってあります。アンジェリカが新たな人員の補充に動いてくれていますよ」
「例のブラックリスト入りしている“帰還者”のこと?」
「……いえ。きっとゼファーがボクの動きを予想し、何かしらの対策を講じているでしょう」
「じゃあ仲間の補充は無理じゃない?
「いえ、こちらもタイムリミットがある以上、多くの
「だったらどうするつもり?」
「“帰還者”を仲間にすることが無理なら、異世界の力を身に着けた仲間を新たに作ればいいんです――僕が勇者なのをお忘れですか?」
「仲間を作る……眷属契約ね?」
「そっ。元クラスメイト【聖刻の盾】の
「……なるほど。ましてや
「ええ。以前パラノイド施して操った大野達は
「……相変わらず悪魔ね。眷属=捨て駒って意味じゃない?」
「優秀な人なら一緒に連れて行きますよ。それしか役に立たない人材ならって意味です。
「そうね、あの子の《
「ですね。あとジーラナウさん、二学期になったら気を付けてくださいよ。ゼファーが何かしら仕掛けてくる可能性があります……大好きな『先生』に何かあったら、ボクが悲しいですからね」
「……わかったわ、ありがとうレイヤ。どうやら既に刺客を送り込んでいるみたいだけど、こっちにも考えがあるわ。上手くいけば『幸城 真乙』達ごと葬れるかもしれない……見てなさい」
ジーラナウの言葉に、レイヤは「そうですか、期待しています」と呟き笑みを浮かべた。
◇◇◇
杏奈との約束した日。
彼女と待ち合わせした俺は、大型ショッピングモールに訪れていた。
こうして二人で来たのは「カラ勉デート」以来だな。
あの時は途中で、ヤッスが下着コーナーから出てきたところで鉢合わせしてドン引きしたところで終わったんだ。
今回はそういうことがないよう、事前に奴の動きを把握している。
なんでもヤッスの奴、今日は秋月と「ジャスティスピュアーズ」の映画を観に行っているらしい。
顔を合わせれば喧嘩ばかりだが、なんだかんだ昔の仲を取り戻している感じだ。
にしてもヤッスの奴。
あれほどリア充を呪っていた野郎が、今じゃリア充を満喫しているっぽくてムカつくな……。
まぁどうでもいいや。
俺は俺で自分のリア充を満喫してやる。
そう思い胸を高鳴らせながら、隣に歩いている杏奈の横顔を見つめた。
……いつ見てもかわいい。
相変わらず繊細な美貌を誇っている。
信頼されているとはいえ、俺なんかが一緒にいて良いのかと思えてしまう。
「真乙くん、今日は買い物に付き合ってくれてありがと」
杏奈は言いながら屈託のない笑顔を向けてくれる。
「ううん、俺が誘ったことだからね。天気のせで海は残念だったけど、今から花火大会が楽しみだよ」
これから買いに行く浴衣、それを着用する彼女の姿を勝手に思い浮べてしまう。
そして、杏奈と打ち上げられる花火を見つめながら……告白。
やべえ!
まだ花火大会まで日にちがあるのに、今からテンション上がってきたわ!
「なぁに、あの尊すぎるカップル……」
「嘘ッ、芸能人じゃない!? 絶対にそうだよぉ!」
「やばい! もうやばすぎじゃない!?」
「そういえばさっき、ファッション誌の撮影やってたよぉ! きっとモデルの子達じゃない!?」
周囲のギャラリー、特に同年代風の女子達が俺と杏奈を見てヒソヒソと囁いている。
カップルか……実際はまだ付き合ってないんだけど、そういう誤解なら是が非にでもしてほしい。
などと願い、チラっと杏奈を見据える。
彼女は特に気にすることなく普通に歩いていた。
そういや、杏奈って少し鈍感なところがあるんだ。
まぁ周囲の言葉を気にせず自分の考えと価値観を持っていると言うか……。
だから別の時代で、太っていた俺なんかと付き合ってくれたんだろう。
本当にいい子だよなぁ。
そして今の俺なら、自分に自信がついているし信頼も得られている。
きっと告白しても上手くいく筈だ。
「ええ! 木下君がまだ来てないですって!?」
「は、はい……とっくの前に到着している筈なのですが。只今、ウチの
「ちょい、マネージャー! 何、モデルの子に探させてんのよぉ! アンタの
「いえ、若葉がどうしても
「嫌よん! アタシにだってスケジュールってもんがあるのよ! それに今日中に編集しなければならないんだから急いでいるのよ!」
「すみません、すみません……」
随分と騒がしくね?
俺は視線を向けると、すらりと長身で細身のイケメン風の兄さんがスーツ姿の男性と口論している。
イケメン兄さんの方はホストっぽい格好をしているが、腰をくねらせ口調もオネェっぽい。
よく見ると、その手にはごっついカメラが握られており、彼の背後にはスタッフらしき男女が立っている。
なるほど、さっきどっかの女子がファッション誌の撮影うんたらとか言ってたな。
おそらくその関係者だろう。
話の内容だと、モデルの人達が行方不明となっているようだ。
ああ、それでか。
俺と杏奈がその人達と間違わられていたのは。
まぁ、どうでもいいや。
などと考え、しれっと通り過ぎようとした時だ。
何気にオネェ兄さんと目が合ってしまった。
ん? 何見てんだ?
「アタシ、今、ピーンと来ちゃったわ♡」
オネェ兄さんはそう言いながら、駆け足で俺達に近づいてくる。
しかも走り方が内股でどこかエモい。
「ちょっと、アナタ達ぃ、高校生? カップルゥ?」
「え? 俺達のことを言っているんですか?」
急に話かけられてきたので、立ち止まり聞き返してみる。
オネェ兄さんは俺と杏奈を見比べながら、ニコっと微笑む。
「うん、悪くないわ! 寧ろイメージ通りよ! ねぇ、アナタ達、今からモデルしなぁい!?」
「「ええーーーっ!!!?」」
甘え口調で勧誘してくるオネェ兄さんに、俺と杏奈は声を揃えて驚愕してしまった。
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