第127話 凱旋後の天使との約束

 俺はディアリンドから、彼女の妹である『霧島きりしま 美夜琵みやび』という“帰還者”の臨時加入を依頼される。

 なんでも、その美夜琵という子は俺達と同じ黄昏高の一年生だとか。


「はぁ、評価して頂けるのは光栄ですけど、【聖刻の盾】に入ったからといって上手くレベルアップできる保証はありませんよ」


「無論だ。しかしヤッス殿という例も目の当たりにして期待もしている。僅か数ヶ月でレベル21……『エリュシオン』でも最速ルーキーとして話題になっているからな」


 ええ、ヤッスが? 変態紳士なのに?

 んなカッコイイ感じで話題になってんの!?

 嘘だろ!? なんかイラつくんだけど!


「ヤッスはウチらに愛されているから成長が早いんだよぉ。本当に凄いのはマオッチだからね! 今回、こうしてみんなでお湯に浸かれているのも、マオッチのおかげだよん!」


「俺もそう思う。ユッキがいなければ【聖刻の盾】は成り立たん」


「王聡くんの言う通りね。鍛冶師スミスの私も、マオト君だからパーティに入ったようなものだし」


「ディアリンド殿、僕とて同じですぞ。ユッキのおかげで、こうして美女達の乳を生で拝め……ぶほっ! いえ今の僕が存在すると思っております。勿論、みんなの足を引っ張らないよう、相応の努力はしているつもりですぞ」


 パーティの仲間全員が俺を立ててくれる。

 こういう場面で日頃の気苦労が報われていると実感するわ。


 ディアリンドは自分の事のように微笑み頷いて見せた。


「うむ。益々気に入った、マオト殿――頼む! 二学期からでも良いので、美夜琵みやびに一度声を掛けてもらえぬか!?」


 必死で懇願するディアリンドに、俺はチラッと美桜の方に視線を送る。

 姉は「真乙がいいなら別に構わないわ」と頷いてくれた。


「わかりました。けど無理強いはしませんからね」


「ありがとう感謝する! 妹のことで何かあればいつでも連絡してくだされ!」


 まぁ俺達も丁度、『下界層』をアタックするための新メンバーを募集しようとしていたところだ。

 どんな職種で実力を持っているのかわからないけど、世話になっているディアリンドの頼みとあれば無下に断れない。

 話かけるだけやってみるか。



 かくして少し真面目な話をしつつ、俺達は露天風呂から上がった。

 嬉しくて恥ずかしいけど、みんなと交流できて良い思い出となったと思う

 今回、最後のご褒美と言うべきか……まさかこんな展開になるとは予想できなかった。


 俺達が男湯に戻ると、まだ三バカ兄さんと配下達は壁からロープで吊るされ、団長の徳永さんからボコボコにされている。


「マオたん、助けてぇ!」


「ワイらが悪かったわぁ、堪忍や!」


「お願いですからご慈悲プリーズ!」


 正直、俺とガンさんは兄さん達に助けてもらった恩はあるけど、こればかりは止めようがない。

 所詮パーティ内の問題だし、そもそもこの人達の見境ない行動が原因だし完璧な自業自得だからな。


「「「……すみません。無理です」」」


 俺とヤッスとガンさんは揃ってそう告げて浴場を後にした。



 夕食を終え、用意された部屋で寝ることになる。

 旅館同様、思いっきり畳の部屋だ。

 日本人として和のテイストは、ほっとするが窓から外を覗くと中世時代風の街並みとダンジョンの外壁で覆われているので違和感しかない。


 それから、なんだかんだ美桜と香帆とアゼイリアが部屋に遊びに来て、今回の探索の件で面白おかしく語り合った。

 反省点は多々あるも、終わってしまえば笑い話にもなるものだ。


 だがいつの間にか、フレイアが俺の布団に隠れて寝ていたりなんてことがあった。

 そして美桜達が激怒し、危なく二極勇者パーティ同士の争いに発展しそうになったので俺が必死で止めに入ったのは言うまでもない。


 こんなドタバタしたことばかりだけど、なんだかんだ楽しかった。

 まるで修学旅行のような気分だ。

 特にタイムリープ前の学生時代が、あまり良い思い出がなかっただけに余計そう思えてしまう。


「そういや、杏奈をデートに誘うの忘れてた……」


 ようやく解放され布団に入った直後、ふと思い出してしまった。

 まだ夏休みはある。明日、連絡するようにしょう。




 次の日。

 午前中には『奈落アビス』ダンジョンを抜け出した。


 ギルドに行き、獲得した『魔核石コア』を換金してもらうと、なんと総額1億5千万円となる。これまで得たことのない破格であり、五人で山分けしても3000万円だ。


「高レベルのモンスターばかり狩りまくったとはいえ……嘘だろ?」


「夜のモンスターは『魔核石コア』の価値が上がるからね。けど死霊王ネクロキングやデュラハンでいい値になったんじゃない?」


 唖然とする俺に、香帆が平然とした表情で言ってきた。

 ちなみに上級悪魔デーモンモロクの『魔核石コア』は『零課』に預け、後日換金され【氷帝の国】と山分けすることになっている。


 あれだけの大きさだと2億円越えはしていると言われた。

 まさしく「ダンジョン・ドリーム」だな。

 おかげで装備代の借金が完済でる目処が立ったぞ。

 つーか返すわ。


「マオトくん、鎧の修復の件、夏休みの終わり頃になるけどいい?」


 アゼイリアは申し訳なさそうに伺ってきた。


「うん、あそこまでボロボロにされたから仕方ないよ。先生に任せます」


「まぁ修復だけなら三日もあれば余裕なんだけど、バージョンアップ以外にも色々と考えているのよ」


「色々って?」


「今は秘密かな。どっちにしても素材がないと話にならないわ……『零課』も調べるため、一週間以上は預かるようなこと言っているし」


 不満そうなに呟く、アゼイリア。

 てことはモロクが残した素材かドックスの『魔槍ダイサッファ』辺りか?

 果たして俺の新たな鎧にどう活用されるのか今から楽しみだ。



 探索を終え無事に自宅へと帰宅した。

 たった二日ばかりなのに随分と長く潜っていた気がする。


 まぁいい、とにかく杏奈に連絡だ。


『あっ、真乙くん。どうしたの?』


「いきなり連絡してごめん……よ、良かったら明日にでも海に行かない?」


『え? う、うん……いいけど、ニュースで明日から週末まで天気悪いって言ってたよ』


 なんだって!? マジかよ!?


 俺はすかさずテレビのリモコンを操作し天気予報をチェックする。

 本当だ……夏休みの最終日前に開催される、花火大会まで天気が悪いようだ。


 これじゃ海水浴には行けそうにない。

 市民プールも屋外だからな。

 それに人も大勢いるだろうし、俺の求めるロマンが……。

 

 クソォ、杏奈の水着姿。超期待してたのに……。


『……だったらね、花火大会に行かない?』


 不意に杏奈が切り出してきた。


「うん、勿論いいよ。けど、まだ日にちがあるし……」


 何せ花火大会まで一週間もあるからな……。

 俺としては、ぶっちゃけ今すぐにでも会いたい。


『だったら明日、一緒にショッピングモールへ買い物に行かない? わたし浴衣とか持ってなくて』


「ガチで!? 行く行くぅ~! うぉっ、やった!」


『フフフ、真乙くん面白い……それじゃ明日ね』


 杏奈は声を弾ませスマホの着信を切り、一時の幸せなやり取りを終わらせた。


「よぉし! 明日、杏奈に会えるぞぉぉぉ! それに浴衣かぁ、いいんじゃなぁい!?」


 杏奈の浴衣姿……しかも一緒に花火大会を観に行ける約束もしたぞ!

 これぞまさに定番テンプレデート展開ッ!

 うん、夏休みのエンディングに相応しいじゃね!?


 ここで一気に彼女との距離を詰めて……そして、いざ告白!


 うほっ。


「いける! 今回はいけるぞぉぉぉ!! 夏休み中にバッチリ決めて、二学期から杏奈とラブラブになってやるぞぉぉぉぉぉ!!!」


 もう完全にダンジョンの疲れが吹っ飛んだね!


 クリスマスに向けて杏奈を守り抜くためにも、必ず花火大会イベントを成功させてやるぜ!

 にしても明日のショッピングモール・デートも楽しみだなぁ。

 もう杏奈と会えるなら何でも楽しいわ!


 あっ、そうだ。

 またヤッスと姉ちゃん達の邪魔が入らないよう気を付けよっと。




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