第123話 魔女からのケジメ
「真乙が心配で来たに決まっているじゃない?」
「いや……けど姉ちゃん、『零課』からダンジョンに潜るなって止められているんだろ?」
「状況にもよるわ。フレイア達が行方不明になり【聖刻の盾】が捜索するとなれば、必然的にドックスと関わることになるでしょ? 案の定、大変な目に遭ったみたいじゃない? 真乙の格好が物語っているわ」
美桜が指摘するように、俺の『
鎧としての機能はほぼないだろう。
買い替えるか迷ったが、愛着のある鎧なのでアゼイリアに頼み修復してもらうことにしている。
また借金が増えるけどな……はぁ。
「まぁ色々とね……今回はちょっとやばかったかな。事情はゼファーさんから聞いたのか?」
「ええ、今朝になってね。もう少し早く言えっての……あの男、ブツブブ」
それで半強制的にダンジョンへ乗り込んだらしい。
結局間に合わなく、ここで合流することになったわけか。
ん? 待てよ、今朝だと?
俺はスマホを取り出し時刻を確認する。
「げぇ! もう昼過ぎじゃないか!? どうりで腹が減ったと思ったら……」
一応、各自用に非常食(お菓子メイン)は所持して摘まんでいたとはいえ、すっかり時差ボケ状態だ。
予定時間を遥かにオーバーしていたらしい。
それだもん、美桜も心配して乗り込んでくるわ。
「この度は本当に真乙様、いえ【聖刻の盾】の皆様には助けられましたわ」
「……フレイア。ゼファーから色々聞いたけど、ドックスがヘマやらかしたとはいえ『隠しダンジョン』にハマるなんて、あんたらしくないわね?」
美桜は柔らかい笑みを浮かべて見せてくる『氷帝の魔女』に向け、キッと鋭い眼光を浴びせている。
「姉ちゃん、フレイアさんはちっとも悪くないよ。眷属の兄さん達がエロ本に釣られてやらかしただけで……」
「いえ、これは『総督』である、わたくしのミスですわ。この度はご迷惑をお掛けしました」
フレイアは言葉を遮り、美桜に向けて頭を下げて見せる。
その潔く健気な姿勢に、つい俺はぎゅっと胸が絞られてしまう。
「ふぅ……まぁ【
随分と酷い言いようだ。
けどフレイアも表情を変えずニコニコと笑ったまま動じていない。
逆に違和感を覚えた。
「……久しぶりに二人の心理戦が始まったねぇ。フレイアは潔く非を認めることで、美桜はそれ以上言及ができなくなる。すれば余計、優しいマオッチがフレイアを庇う構図になるからね。だから美桜は受け入れつつ、心奪われがちなマオッチに苦言を入れたってところだねぇん」
「流石、香帆様。実況がわかりやすいですなぁ! 」
「これが噂の『三大極悪勇者』同士の駆け引きか……俺がユッキなら怖くて失禁しているぞ」
「間に入って、マオトくんも大変ねぇ。助けてあげたいけど、あの中に入るのは無理だわ……」
パーティ仲間達がガヤ芸人ポジで何んか言っている。
つまり俺は二人のマウントの取り合いに巻き込まれているってのか?
てか、なんのマウントだよ?
【氷帝の国】の眷属達は全員目を反らしているし、何かしらの陰謀を感じてしまう。
「――こりゃ、皆様。よくご無事で……へへへ」
今回の戦犯こと『露店商業ギルド』ギルドマスターのゴザックが部下を引き連れヘコヘコと頭を下げながら近づいてきた。
途端、【氷帝の国】全員の顔つきが変わる。
思いっきり敵意、いや殺意に満ちた形相だ。
ゴザックと部下達は「ひぃぃぃ!」と悲鳴を上げ、その場に座り込み土下座を披露する。
「そ、その節は大変申し訳ございませんでしたぁぁぁ! 何卒お許しくださいませぇぇぇ!!!」
「……わたくし別に怒ってなどいませんわ。ただ貴方達のせいで、【氷帝の国】の評判が落ちてしまったのは事実。本来、生かして捕えるべきだったドックスを始末してしまうことになったのも、間違いなく貴方達のミスですわ」
偽りのないフレイアの主張が正しい。
あれだけ万全な準備をした上で取り逃がされ、挙句の果てに『隠しダンジョン』の
「フレイア様の仰るとおり、弁明の余地もありません、はい」
「確かゴザックさん、貴方を『分岐点』のギルドマスターに任命したのはゼファーでしたわよね?」
「へ、へえ」
「ではゼファーにクレームを申し付けて、貴方の解任を要求しますわ」
「そ、それだけは、どうかご勘弁を……あっしには妻と五人の子供を養う必要があります故」
豪華な自宅と別荘を持っていやがるけどな。
「駄目ですわ。貴方も冒険者の端くれならケジメをお付けなさい」
もろ足を引っ張られたフレイアが憤る気持ちはわかる。
彼女も【氷帝の国】という
他の冒険者に舐められないためにも、ゴザックの責任を問うのは当然と言える。
逆に気性の荒いディアリンド辺りが殴りに行かないだけまだ理性的だ。
ゴザックは地面に額を擦りつけながら「どうかお許しを!」と懇願していた。
このオッさん達の土下座もいい加減見慣れてきたけど、オッさんなりにフレイアにために手柄を上げようと早合点してしまったところもある。
まっ、このオッさんには世話になっている部分もあるし助け船くらい出してみるか。
「フレイアさん、気持ちはわかるけどその辺で赦してあげたらどう? こうしてみんな無事に合流できたことだし」
「真乙様……貴方様も被害者のお一人だと言うのになんて寛大でお優しいのでしょう。わかりましたわ。真乙様に免じて、ゴザックさん貴方の解任要求は致しません。ゼファーへの苦言のみと致しましょう。ドックスを失った件を【氷帝の国】の責任にされてもイラつきますからね」
「へ、へぇ、ありがとうございます」
「ですがギルドマスターとして、貴方へのケジメはしっかり付けさせて頂きますわ」
「え? あっしに何を?」
ゴザックの問いに、フレイアは形の良い顎に指を添えて「そうですわね……」と考え込む。
「ではこうしましょう――今日一日、この『分岐点』にある全施設をわたくし達【氷帝の国】と【聖刻の盾】に無料提供すること。勿論、食事付きですわ。あとアイテムなどの備品も通常の金額にとしてお売りなさい」
フレイアの要求に、ゴザックは「え!?」と顔を上げる。
目線で俺達の人数を計算している様子がわかった。
「(美桜様も入れて13人か……なら問題ない。それで穏便になるなら安いもんよ、へへへ)はい、フレイア様もご要望通りといたしやしょう!」
「では成立ですわ。ちなみに【氷帝の国】は眷属達の他に50名の配下も含みますので、よろしくお願いいたします。また本日、配下達が使用した宿代や食事代もお詫び料と致しますので、どうかそのおつもりでご配慮を」
「え? へ、へい(げぇ! 結局とんでもねぇ赤字じゃねぇか!? やっぱ『氷帝の魔女』だぁぁぁ!! 超怖えぇぇぇぇぇ!!!)、わかりやした……フレイア様」
ゴザックは憔悴し項垂れながらも承諾した。
まぁクビにならないだけ良かったんじゃね?
「丸く収めたところで俺達はどうする? 姉ちゃんもいることだし、このままギルドに戻ろっか?」
「せっかくフレイアがお姉ちゃん達も無料にしてくれたんだから、一晩泊まってもいいんじゃない? 夏休み中だし、お母さんには連絡しておくわ」
まぁ急ぐ用事がないから俺は別にいいけど。
強いて言えば、杏奈を別のデートに誘いたいくらいだけど連絡ぐらいならここでもできるか。
「わかったよ。みんなはどうする?」
「あたしも美桜と一緒にゆっくりするよ~ん。メイド喫茶のバイト休んでも店長に文句言われる筋合いないしね」
「僕は当然マスターと行動を共にする。滅多にない機会だからな」
「私も泊めさせてもらうわ。アイテムや素材も通常価格なら絶対に買いよね」
「俺だけ独りという選択はない。寂しいから集団心理で泊まるとするよ」
かくして俺達【聖刻の盾】は満場一致で一泊することにした。
それからフレイア達も待機していた50名の配下達と合流し、ある提案をしてくる。
「真乙様達もよろしければご一緒いたしません? お互いの親睦を深める意味も込めましてですわ」
「え? うん、俺達はいいよ。けどそんな大人数が泊まれる宿なんてあるの?」
「ゴザックより200名まで宿泊可能なVIP用の宿を用意させましたわ。どうかご安心を」
そんなところがあるのか?
俺達は同意し、彼女に促されるまま一緒について行く。
広大な29階層の最奥側にある高台に目的の宿屋はあった。
『エリュシオン』の宿屋とは異なり、高級旅館のような純和風テイストの造りだ。
なんでも日本政府のお偉いさんが視察目的で泊まることもあるとか。
「ここの名物はなんといっても温泉でさぁ。露天風呂もありやす。皆さん、ごゆっくりしてくだせぇ」
「「「お、温泉!!!?」」」
ゴザックの説明に、ギロデウスとジェイクとストライザの三人が過剰に反応する。
温泉好きな美桜や女子達ならまだしも、どうしてこの兄さん達がテンション上げているの?
ぶっちゃけ嫌な予感しかしないのは俺だけか?
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