第122話 魔槍の後始末
それから全員でモロクが残した素材の回収作業を行う。
奴が身に纏っていた『
しかしやはり『
「わたくしの方でゼファーに依頼し、『零課』で回収するようにいたしますわ。このまま放置するのもダンジョン修復に支障をきたすでしょうから、一端凍結させますね」
フレイアは言いながら《
凄ぇな……まったく末恐ろしいユニークスキルだ。
ちなみに『零課』が回収した後、アゼイリアの下に渡るよう手配すると約束した。
ところで、こんなの工房に置けるのか?
「なぁ、ユッキ……見てもらいたいモノがあるんだが」
回収作業が続く中、ヤッスが声を掛けてきた。
やたら神妙な顔をしていたので、まさかまた『隠しダンジョン』の罠でおっぱいが転がっているんじゃないかとドキっとしてしまう。
何せ冒険者の強い願望を具現化させ、『転移用の
ヤッスや三バカ兄さん達のような煩悩の塊だと、すぐに出現してしまいそうだ。
俺は「わかった」と返答し、ある場所まで連れて行かれる。
そこには地面に深々と刺さった漆黒の槍があった。
「おい、まさかあれって……『魔槍ダイサッファ』か?」
ドックスの武器じゃないか?
そうか、奴は
「このまま放置するわけにもいかないだろうし、回収するべきか破壊するべきか、サブリーダーのユッキに相談したくてね」
ヤッスにしては珍しく真面目な相談だったようだ。
悪かったな。てっきり、いつものおっぱいネタとばかり思ってたわ。
「『魔槍』っていうくらいだから呪いの武器だろ? 確かに迂闊に触りたくないな……一応、アゼイリア先生に相談してみるか」
俺は遠くで楽しそうに回収作業している、アゼイリアを呼んだ。
彼女は『魔槍』を見るや「へぇーっ」と興味深そうに見入っている。
「触らなくて正解ね。『
「やっぱりな……ヤッスの判断は間違ってなかったか。
「それもあるが、『魔眼鏡』からも禍々しい魔力しか溢れてなかったからな。おかげで道端に転がっている野良犬の糞のように小枝で突っつく気にもならなかったよ」
普通にばっちいけどな。
今時、野良犬も見かけねーけど。
「んじゃ放置するわけにもいかないし、この場で破壊しちゃう?」
「待って、
ん? 先生てば何か面倒くさいことを言い出してきたぞ。
いくら『BJアゼイリア』だからって欲はいかんよ、欲は。
そうやって魅了され、『魔槍』に取り込まれるっていうテンプレパターンじゃないの?
ヤッスも同じ空気を感じたのか、「もう一人専門家をお呼びしよう」と言い、【氷帝の国】の
「なんやねん、マオたん?」
「あのぅ、これどうしたらいいと思います? ジェイクさん使ってみますか?」
「嫌やわ、そんなもん! あかんって、やめとき! ばっちいから早よ捨てや!」
真っ当な
俺も惹かれるところはあるけど、相当痛い目に遭った呪いの武器だけに同じ意見だ。
「捨てるにしてもな。やっぱ破壊しなないか……」
このまま放置して他の冒険者やモンスターが手にしたら、今度はそいつが所有者になってしまう。
死に際に立たされた身として決して座視できない。
「えーっ、壊しちゃうのぅ? 先生、嫌だなぁ……先生ね、リサイクル精神ってとても大切だと思うの? マオトくんはそう思わない?」
こういう時に限って教師に戻る、アゼイリア。
しかも豊満すぎる両胸をやたら強調させて揺さぶってくる。
大人の魅力でついそそられてしまうだけに、なんか卑怯だと思う。
案の定、ヤッスは「その通りですなぁ、クィーン!」とあっさり手の平を返して陥落した。
「だとしたらどうするの、先生? 確かに持ち帰る方法はあると思うよ。フレイアさんに凍結させてもらって《アイテムボックス》に入れりゃいいだけの話だからね。けど、こんなの危険すぎて売り物にならないし、加工だって触れられなきゃ無理でしょ?」
「マオたんの言うとおりや。欲張ったらあかん、悪いことは言わんで。あんさんも
「――まぁ手はなくはありませんわ」
不意にフレイアが割って入ってきた。
ちなみに彼女は回収作業を眷属達に任せ、自分は参加せずに簡易用の椅子で腰かけて優雅に紅茶を嗜んでいる。
その脇には執事の徳永さんが背筋を伸ばし佇んでいた。
「フレイアさん、どういうこと?」
「ゼファーなら呪われることなく『魔槍』を回収し、呪術が込められた魔力付与のみを排除することができますわ。彼の『鎧』にはそういった効力を持ってらっしゃるので……」
鎧? ああ渡瀬の家で見かけた『漆黒の甲冑』か。
元魔王側の魔族だっただけに、それっぽい怖そうなデザインだったな。
「それじゃ、ゼファーさんに回収を依頼して、それまでの間は他の冒険者やモンスターが手出しできないよう凍結するって感じでいい?」
「うん、それでいいわ。ありがと、マオトくん。ヤッスくんもね」
「真乙様のお頼みとあれば、わたくしも協力は惜しみませんわ。あの人使いの荒い男(ゼファー)に回収を依頼しましょう」
アゼイリアは納得し、フレイアも面倒ごとを快く引き受けてくれた。
ふう……これで問題は綺麗に解決させたぞ。
大変だな、サブリーダー。
これで大体の素材回収作業は終了し、やっと落ち着いた感じだ。
そろそろ引き上げても良いだろう。
「よし、クエスト終了だ! みんな帰ろう!」
こうして初の『下界層』アタックは終わりを告げた。
46階層を出て上層を目指して行く。
行きと異なって、【氷帝の国】の幹部フルメンバーが揃っているだけありスムーズだった。
いや、ほとんど俺達の出る幕がなかったかもしれない。
出現するモンスターの大半をフレイアの眷属達が速攻で斃してくれた。
それに気のせいか、行きほどモンスターが現れていないような気がする。
「フレイアさん、ひょっとして【氷帝の国】の皆さんってモンスターを寄せ付けないスキルとかアイテムとか持っているの?」
「はい、真乙様。どちらも所持してなくもないですわ。しかし、これも修練である以上は余程の状況でない限り使用を禁止しておりますの」
なんでも団長の徳永さんの意向で、レベリングの妨げになるスキルや魔法は使わないよう徹底されているらしい。
流石、『エリュシオン』最強に位置するパーティと言ったところか。
それに鬼教官こと副団長のディアリンドのしごきにより、眷属である幹部以外の配下達も高レベルの冒険者が多い
「真乙様ではありませんが確かに妙ですね。『
「どういう意味ですか?」
丁寧な口調で呟く徳永さんに、俺は疑問を投げかける。
「ええ、ドックスが放った
確かに俺もそうだと思った。
ゼファーからも「抜け出したとしても別の階層に転移されていることが多い」と言われていただけに、どこか都合の良さを感じていたんだ。
意志を持つダンジョンと言われる『
だったら普段から妙なモンスターばかり出現させないでほしいんだけど……。
そんな会話をしながら、俺達は順調に29階層の『分岐点』に到着した。
ここまで来れば安心だ。
俺達、【聖刻の盾】だけでも十分に帰れるだろう。
「――真乙、大丈夫だった?」
不意に聞き覚えのある声がする。
振り向くと、姉の美桜が立っていた。
純白の鎧姿であり勇者の装いだ。
「姉ちゃん……どうしてここに?」
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