第119話 モロク戦、決着

 とにかく徳永さんはただの置物マッチョ執事じゃないことだけはわかった。

 けど、そう驚愕ばかりしていられないだろう。

 急造チームとはいえ、俺達B班がモロクを斃さなければならない。


 徳永さんとディアリンドがここまで大ダメージを与えてくれたんだ。

 あともう一押しだと判断し、覚悟を決めて追い打ちをかけてやる。

 そう決意を滾らせ、俺は再び駆け出した。


 ついに攻撃可能な距離まで近づく。

 このまま魔法攻撃と思考を過らせたが、モロクは炎を操る屈強の悪魔デーモンだ。

 同じく炎属性魔法しか覚えていない俺では相性が悪すぎる。


 ならばと『竜殻りゅうかく剣』を手にし、直接攻撃を与えてやろうと踊り出た。

 とはいえ、備わった魔力付与も炎攻撃効果なので結局は同じだ。

 しかし『竜殻りゅうかく剣』には、その高い攻撃力に加えて「自己修復機能」ある。ヒルト部分が健在であれば、剣身ブレイド部分が破損しても自己修復できる。以前の『雷光剣』と違い、万一溶かされても大丈夫だと判断した。


「グオォアァァァァァァァ――!」


 モロクは再び咆哮を上げる。

 技能スキルや魔法ではなく苛立ちによる雄叫びに聞こえた。

 あれほどの損傷を与えられ、ついにブチギレたのか?

いや違うぞ――!

 俺がそう感じた直後だ。


 モロクの隆々とした太い両足が複雑に組み重ね合い変形し始める。

 それは超巨大な円型の『窯炉』だ。

 僅か2秒足らずで下半身を青銅の窯炉に変身させた。


「これはまさか!?」


 気づいた瞬間、窯炉の鉄扉が甲高く軋む音を立て開かれていく。

 俺は抗う暇もなく身体が引っ張られ、強制的にその中へと押し込まれてしまう。


 間違いない! 

 モロクのユニークスキル、《塵芥滅焼却炉ガーページイン・シネレーター》だ。

 対象者を窯炉に誘い「ゲヘナの火」にて焼き尽くす能力だ。


 閉じ込められた青銅内には筒状の放射器が覆い尽くすようにびっしりと無数に並 び、全て俺のいる方に四方八方と銃口の如く突きつけられている。

 そして一斉に炎が放射された。

 中央にいる俺を目掛けて超高熱を宿した業火が襲ってくる。

 まるで焼却処理される塵になった気分だ。


 確か俺の防御値VITなら絶命こそないも、攻撃を受けてしまったなら強制な効果により9割のダメージを負ってしまうとか。

 やれやれだ。先程までドックスの《呪殺術カース》で残り体力値HP:10でギリギリだっただけにマジで勘弁してほしい。


 しかしだ。


「俺はそれを覚悟で、わざわざお前に近づいたんだぜ――《無双盾イージス》!」


 咄嗟に右腕を翳し、半透明の魔法陣で構成された『スキル盾』を出現させた。

 襲ってくる炎攻撃を受け止め一切寄せ付けない。

 また左腕に装備していた『黒鋼の悪魔盾メタル・デビルシールド』を構え、反対側から迫る炎攻撃を防いだ。

 俺はさらに体を回転させ二枚の盾を操作する。

 こうして、あらゆる角度から強襲する灼熱の炎から完璧に防御した。


「これぞダブルシールドだ! 『黒鋼の悪魔盾メタル・デビルシールド』は攻撃してきた敵の体力HP魔力MPを50%の確率で半分奪う魔力付与を持つ! いざって時は俺が奪われた9割の体力HPはそれでガバーすればいい! だがその前にこの時を想定してずっと使用しなかった、あのスキルで終わらせてやる――」


 俺は《無双の盾イージス》を翳している右手をぐっと強く握り締めた。


「カウンタ―攻撃――《パワーゲージ》発動ッ!」


 攻撃を受け続けることで力を吸収し、自分の攻撃へと変換して撃ち返す必殺のスキル技だ。

 またレベル上昇でカンターの威力が+20補正される。現在は《パワーゲージLv.6》であり、+120の増加分を撃ち返すことになるだろう。


『グギィィィアァァァァァ……!!!』


 窯炉内を反響しながら木霊する、モロクの悲鳴。

 ある意味、無防備の体内での反撃だけに相当な大ダメージを受けたことだろう。

 案の定、容赦なく放射されていた炎は次第に威力を弱め、やがて消失し完全に沈黙した。


「今度は俺の攻撃ターンだ――《ダブル・シールドアタック》!!!」


 二枚の盾を前方に掲げ突撃した。

 レベル上昇で習得したわけでなく、「多分、この状況ならイケるんじゃね?」という安易な発想やってみた技だ。


 けど思いの外、上手くいった。

 てか想像を超える威力を発揮する。

 強固そうだった青銅の壁を発泡スチロール並みに打ち砕き、俺は窯炉から脱出した。


 モロクは「ガァ……」と悲鳴から絶句に変わり、大口を開けたまま前のめりに倒れていく。その巨体と重量により一帯の地面を大きく揺らした。

 どうやら俺が放った《ダブル・シールドアタック》により、モロクの両足は打ち砕かれ立位が保てなくなった様子だ。


 だがまた生きている。

 おそらく残り体力値HPは一桁程度で、顔面を半分ほど削られて右腕を失い、挙句の果てには両足まで砕かれるほどの損傷だ。

 もうモロクに成す術はないだろう。

これまでの悪魔デーモンの中では一番タフだけどな。


「――マオトくん、どいてぇ! 最後は先生がトドメ刺してみせるわ!」


 俺の脱出を見計らい、アゼイリアが遠くから叫んできた。

 何やらとても危険な香りを察知する。

 近くで待機していた徳永さんとメルに向けて、俺は「急いでこの場から撤退しますよ!」と告げ、三人でその場から離れた。


「オーケー、みんな離れたわね! ついにコレを使う時が来たわ!」


 アゼイリアは頭上から《アイテムボックス》を出現させると、車輪の付いた大きな何かを地面に引き降ろした。

 ぱっと見は一門の大砲に思える。

 しかし砲身がまるで異なる代物だ。

 それは6本の砲身が環状に束ねられた形で配置された連装式であり、横には回転式のレバーが取り付けられている。


「アゼイリア先生! それってガドリング砲!?」


 もうビジュアルからして、そうだと理解しながらもつい聞いてしまう、俺。


「そうよ! この日のために生成した『回転式機関魔銃砲マナ・ガドリングガン』よ! 全弾200発で《貫通》性も備わっているから防御不可能の逸品なんだから!」


 なんでも本体だけで2億近くの生産コストとなり、弾丸1発20万円として全弾で4000万円も費やしたとか。

 やべぇ、明らかに需要とコストが見合ってないぞ。

 相変わらず異世界の金銭感覚はガチ可笑しいと思う。

 てかトドメ刺すなら、近くにいる俺達かディアリンドに任せた方が無難かつ無料じゃね?


 そうツッコミたかったけど俺達が不在の間、アゼイリア達がずっと奮闘していた気持ちもわからなくもない。

 特に彼女と幼馴染のガンさんは暴走しながらも死の淵を彷徨っているわけだからな。

 この場はアゼイリアのムカつき、いや意志を汲み取り黙認することにした。


「今までのお礼よ! 王聡くんの分まで食らいなさい!」


 アゼイリアは身動きの取れない、モロクに砲身を向けてレバーを回した。



 ヴヴヴヴヴヴヴ――ッ!!!



 腹部まで響く、『回転式機関魔銃砲マナ・ガドリングガン』の連射音。

 長大な砲身が回転し、6連装の銃口が火を吹く。


 モロクは半分となった頭頂部から、もろに直撃を受けて頭部は散開する。

 しかしそれだけでは終わらず、残りの部位にも弾丸の雨が降り注いでいく。

 そして弾丸一発に《貫通》効果が付与されていることもあって、肉体は勿論のこと青銅の鎧すらも撃ち抜き徹底的に破壊していった。


 気がつけばモロクは消滅し、見たことのない巨大サイズの黒曜石色の魔核石コア』が残されている。

 全弾を撃ち尽くした『回転式機関魔銃砲マナ・ガドリングガン』もカラカラと虚しい音を立て回っていた。


「……うん、まさしくオーバーキルだね。けど俺は先生の気持ちもわかるよ、うん」


 本来なら急造チームのB班だけで、あれほどの強敵を斃したのだから「おっしゃ倒したー!」とテンションを爆発させ、はしゃいでもいい場面だ。

 けど、トドメとか称して無駄に4000万分の弾丸を消費するってどーよ?

 まぁ、アゼイリアのポケットマネーだから別にいいんだけどね。

 てか、そんな羽振りが良いなら俺とヤッスの装備代の借金をなんとチャラにしてほしい。


 そう思いつつ俺は《無双の盾イージス》を解除した。

 ガンさんの対応をしていた筈のA班がどうなったのか気になり状況を確認する。

 ん? みんな遠くで一箇所に集まって蹲っているぞ?



 俺達は駆け足でA班に近づいた。

 横たわるガンさんに、全員が囲む形でしゃがんでいる。

 どうやら《異能狂化の仮面ベルセルクマスク》は無事に剥され、彼は狂戦士バーサーカーから解放されたようだ。


 けどA班全員は沈黙したまま、ずっとガンさんの傍から離れず寄り添っていた。

 特に回復術士ヒーラーのストライザは彼の胸に手を添えて項垂れている。

 香帆は口元を手で押さえ嗚咽も漏らし、フレイアは黙って顔を背けていた。

 ギロデウスとジェイクは「クソッ、なんでだよ……」と呟き奥歯を噛み締めている。


 あれ? この状況って何? やたら湿っぽい雰囲気なんだけど!?

 まさかみんな悲しんでいるのか?


 おい、ひょっとして手遅れだった感じ?

 う、嘘だろ……。


「ガ、ガンさん!?」

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