第117話 狂戦士救出作戦

 俺はモロクという悪魔デーモンに宿った脅威の能力値アビリティに驚愕してしまう。

 攻撃力と防御力の数値が四桁に達しており、習得したスキルも炎属性を持つ攻撃力主体とデバフ効果を持つ特殊系ばかりだ。

 おまけに装備も充実し、ユニークスキルもかなり強力でヤバすぎる。


 唯一、目立つ弱点は敏捷力AGIが低いところだ。

 特に業火の戦鎚ヘルファイヤハンマー青銅の鎧ブロンズアーマーは攻撃・防御こそ抜群に高いも、その分敏捷力AGI-350と代償も大きく払っている。


 事実上、モロクの敏捷力AGI:16と超動きが遅く致命的な欠点だ。

 ガンさんも理性を失いながらも、攻撃を躱しながらカウンターの斬撃を与えている。

 けど全身に見られる焼け爛れた皮膚といい、裂傷も多いように思える。

 それでもパワフルで勇猛果敢な戦う姿勢は狂戦士バーサーカーならではか。

 しかし、よくあれだけ動けるものだ。



「……あのままだとガルシュルドさん、確実に死にますね」


 俺達と一緒に眺めていた回復術士ヒーラーのストライザは呟く。


「どういうことですか?」


「彼、ユニークスキルで狂戦士バーサーカーとなっているから、ああして元気に動き回り戦えていますけど、もうじき限界を迎えますね。現に残りHPも一桁しかありません」


 なんだって!? クソッ、まるで見抜けなかった!

 ガンさんってば用心深い性格からか、他のレベルダウンしたスキルと違い《隠蔽》スキルだけはカンストしたままなんだよな。

 狂戦士化バーサーク状態でも完全にロックされているから余計に気づけなかった。

 それに俺のレベルじゃいくら《鑑定眼》のスキルレベルを上げても、格上の冒険者がカンストさせた《隠蔽》を掻い潜ることは容易じゃない。


 要するに狂戦士化バーサークを解いたら、ガンさんは即HPを失い死んでしまうかもしれないということだ。

 

「しかしストライザ殿、今すぐ回復魔法ヒーリングを施せばHPを回復させることができるのではありませぬか?」


「いえ、ヤッス君。狂戦士バーサーカーは状態異常やデバフ効果が与えられないように回復魔法ヒーリングも受け付けない筈です。何せ、あれは一種の『呪い』のような力ですからね」


 言われてみればそうか。

 強力なユニークスキルほど何かしらの大きな弱点を持つ。

 《《異能狂化の仮面ベルセルクマスク》でレベルを爆上がりさせる分、理性を失うだけでなくそういったリスキーな部分もあるってことだろう。

だからガンさんは滅多にあのスキルを使わなかったんだ。


 今回、俺を確実に行かせるため、あえてドックスのトラウマとなっている狂戦士バーサーカーとなることを選んだんだ。


「クソォ! 俺がドックスの《呪殺術カース》に陥ったばかりに……ガンさん!」


 俺はみんなのおかげで無事に解呪できて助かったのに、心優しき親友は死に直面しようとしている。

 なんて皮肉な話なんだ……どうにかならないのか!?

 あまりにも罪悪感と無力感で、俺は胸が押し潰されてしまいそうになる。


「――それは違いますわ、真乙様」


 フレイアが毅然とした口調で言い切る。


「え?」


「真乙様はメルを庇ってくれたおかげで彼女は救われました。もしメルが《呪殺術カース》に侵されていたのであれば、わたくしの下に辿り着く前にタイムリミットを迎えていたかもしれませんわ。そしてガルジェルドさん達は真乙様を救うために自ら現場を引き受けたのです。その英断は見事に叶い、わたくしと真乙様のラブラブパワーでこうして無事にここに来られ合流できたではありませんか?」


 ラブラブパワーとは違うけど、互いに異性として意識したことで『隠しダンジョン』の脱出条件を満たして元いた階層に戻れたのは本当だ。


「確かにそうだけど何が言いたいの、フレイアさん?」


「わたくし達がここにいるということで、ガルシュルドさんを救う手立てを導き出されたということですわ。そうですわね、リエンさん?」


 言いながら、チラっと香帆を見据える。


「まぁ、ちょっとだけ賭けだったけどね……」


「どういうこと?」


「リエンさんなら、いつでも彼の狂戦士化バーサークを解くことができた筈ですが、あえてそうしなかった。それはわたくし達が来るのを待っていたってことですわね?」


「そっだよ、アゼイリア先生に言われたんだぁ。あれだけのダメージを受けて狂戦士バーサーカーじゃなくなったら、ガンさんは死んじゃうって……なら、マオッチとヤッスゥがフレイア達を連れてくるのを待つしかないと考えたんだよぉ」


「ええ、だから私と香帆ちゃんでこうして離れずに遠くから見守っていたのよ。いざとなったら、香帆ちゃんだけ逃がして私は王聡くんと運命を共にしようと思ったわ……大切な幼馴染だしね」


 まさかそんな事態になっていたなんて……何か一つ歯車が狂っていたなら、【聖刻の盾】崩壊の危機だったかもしれないってことじゃね?

 それだもん。俺とフレイアが抱擁した状態で出現したもんだから、目の当たりにした二人が余計にムカついたに違いない。

 お前ら何呑気にイチャコラしてんだよって感じで……そりゃそうなるわ。


「フレイアさんなら、ガンさんを助けられるの?」


「わたくしはあくまで支援けするだけですわ。実際に助けるのはリエンさんとストライザです。あとギロデウスとジェイクも手伝いなさい」


「わかりました、フレイア様。我が親愛なる女帝の仰せのままに」


「ワイらに任せてや。マオたんに助けられた分の礼はきっちり返したるで」


「勿論です。また回復術士ヒーラーとして僕の株が上がりそうですからね。もう復讐モノとやり直し系でしか活躍できないラノベのネタ職だなんて言わせませんよ」


「三バカがガチモードなら確実だねぇ。あたしも気合入れて仲間のガンさんを助けるよ」


 同じ『災厄周期シーズン』の転生者である香帆も眷属三人組の実力を高く評価しているようだ。


「では、わたくしがこの場を仕切らせて頂きますわ。まずチームを二組に分かれましょう。ガルシュルドさんを救出する『A班』とモロクを討伐する『B班』としますわ」


「つまり、さっきの名指しメンバーがA班で、俺を含む残りがB班だね?」


「その通りですわ、真乙様。それでは作戦開始ですわ!」


 フレイアは柔らかい微笑を浮かべ、檄を飛ばす。

 軍服姿の司令官っぽい格好なので凄く様になっている。

 俺達【聖刻の盾】メンバーは「了解」頷き、【氷帝の国】メンバーは「イエス、マム!」と返答した。

 

 B班は俺、真乙とヤッス、アゼイリア、メル、ディアリンド、タイガこと徳永さんの六名だ。

 特に最強の“帰還者”と言われる徳永さんに、『裁きの矢を射る者ジャッジメント・アーチャー』と呼ばれるディアリンドには期待大だ。


 一方でA班は速攻で動きを見せていた。

 槍術士ランサーのジェイクがその場から姿を消し、まるで瞬間移動したかのようにモロクと戦っているガンさん前に出現した。

 何でも《神速》というスキルで、《瞬足》の進化系だとか。


「ガァァァア!」


 不意に現れた黒豹獣人族に、理性のないガンさんは新たな殺意を向けてジェイクに斬り掛かっている。


「おお、めっちゃヤバイやん! けどそう簡単にあたらへんで」


 パワーは圧倒的にガンさんが上だが、身のこなしとスピードではジェイクが上回っていた。

 軽快な動きで寸前に躱し切り、ガンさんをモロクから引き離すため誘導を行っている。

 すごい、彼らってレベルいくつなんだ?


 モロクは自分への攻撃が収まったこといいことに、ガンさんとジェイクに向けて容赦なく戦槌を振り下ろそうと高々と掲げ始めた。

 あの業火の戦鎚ヘルファイヤハンマーという武器は危険だ。

 たとえ直撃を外しても、広範囲に及ぶ炎攻撃でダメージを受けてしまう。


「――マオト殿、これよりジェイクを援護するがよろしいかな?」


 不意にディアリンドが許可を求めてくる。

 何故、唐突に言ってきたのか意味がわからず怪訝してしまう。


「ええ勿論です。けど、どうしてわざわざ俺に聞くんです?」


「我はB班のリーダーは其方が適任だと思っている。【聖刻の盾】という癖の強いメンバーを統率できているのは事実上、マオト殿だとお見受けしたまでだ」


 だから俺にこのチームのリーダーをしろってのか?

 いや可笑しくね?

 【氷帝の国】の団長である徳永さんもいるし、ディアリンドだって副団長だろ?

 レベル的にもあんた達の方が適任じゃないのか?


「……マオたん様、団長は滅多に場を仕切ることはないのです。【氷帝の国】は常にフレイア様の一存で動いていますので……副団長も統率力は抜群なのですが何分、脳筋キャラなのです。すぐ部下に神風特攻させたがるので、フレイア様より作戦指揮を禁じられているのです」


 メルが小声でパーティの内情を教えてくる。

 つまり【氷帝の国】はフレイア以外、まともに仕切れる人材はいないってことか?

 確かにイエスマン団長に、自爆同然の特攻を好む副団長じゃ誰もついて行きたくないわな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る