第110話 ドックスの戦闘力

 敵であるドックスからの証言で、フレイアに仕える眷属の三人が自ら墓穴を掘る形で主ごと『隠しダンジョン』に誘われたことが判明した。

 そういや、ゼファーもそうじゃないかって言ってたっけ。


 にしてもエロ本のトラップって……なんか雑じゃね?

 てか仕掛ける『奈落アビス』って結局なんなのよ?

 意志を持つだが知らないけど、「中界層」ボスのNPCキャラっぽかった死霊王ネクロキングといい、いちいちやることが人間っぽいんだよな。


「ひぃ~ん、マオたん様に【聖刻の盾】の皆さん、ごめんなさいなのですぅ! 三バカのせいでとんだトラブルに巻き込ませてしまったのです! この落とし前はメルが必ず三バカの命で償わせてやるのですぅぅぅ!!!」


 メルは泣き崩れ、俺達に向けて地面に額を擦りつけ謝罪している。

 挙句の果てに仲間の命を差し出すという物騒なことまで言い出した。


「……いいよ、メル。何もキミが落ち込むことないだろ? 気にすんな」


「そうですぞ、チッパイ殿! このヤッスとて、三バカとやらの気持ち痛いほどわかる! 万一地面におっぱいが転がっていたら、つい触ってしまい感触を確かめたくなるもの! 悲しきかな、つい魔が差してしまうものですぞぉ!」


 まぁお前はバフォメットのおっぱいに欲情していた猛者だからな。

 必ずそうなるだろうぜ。

 ところで地面におっぱい転がっているとか、それこそあり得ないだろ?


「おい! 落ち込んでいるとこ悪いけどよぉ、ガルジェルドと幸城から先に呪い殺すけどいいか!?」


 几帳面に待っていてくれたのか、ドックスは『魔槍ダイサッファ』を構えキル宣言をしてきた。

 こっちも『零課』のゼファーから「粛清」の許可は下りている。

 まだ割り切れない部分はあるけど、こいつは渡瀬に協力して「杏奈」を邪神メネーラの生贄にしようと目論んでいる以上、俺も躊躇している場合じゃない。


「ねぇ、オッさん。レイヤから貰った『悪魔デーモン』は使わないのぅ?」


 弓矢を構える香帆が訊いている。

 どうやから彼女を警戒して、ドックスは襲って来なかったようだ。


「『死神の疾風ゲイルリーパー』、切り札は最後に使うもんだぜぇ! いくらレイヤのスキルで俺の言うことを聞くようにしてくれているからってよぉ、あんな超ヤバイのなんて滅多に出せるわけねぇだろ!」


「ふ~ん。つまり一度出したら引っ込められないってわけぇ?」


「ああ、その通りだ! だからどうせ解き放つなら、29階層の『安全階層セーフポイント』にして、あの階層を支配してやろうと思っていたんだけどよぉ! あそこの連中、思いの外早く俺の存在に気づきやがったばかりか、【氷帝の国】まで追って来てんじゃねーか! んで追跡を用心して、しばらくここに潜んでいたってわけだ! これ以上の下層に降りるのは、俺でさえソロじゃあまりにも危険すぎるからな!」


 大方、ゼファーの予想通りだ。

 運良くフレイア達からの追跡は逃れたが、まだメルと30人の配下は残っていた。

 だから、この46階層で身を隠して新たな追跡がないか様子を見ていたらしい。


 そしてあわよくば29階層の『分岐点』に戻り、レイヤに託された『悪魔デーモン』を放って支配を目論んでいたようだ。


 つまりそれが可能なほど、強力な『悪魔デーモン』だということ。

 どうやら早々に決着を付ける必要があるぞ。


 調べられるのかわからないけど、一応鑑定眼でドックスのステータスを見てみる。

 意外にも《隠蔽》スキルは身に着けてないのか、ブロックされてなくすんなり閲覧することができた。


 これが以下の内容だ。



【ドックス】

職業:魔王の幹部(槍術士ランサー

レベル58

HP(体力):620/620

MP(魔力):395/395


ATK(攻撃力):888

VIT(防御力):358

AGI(敏捷力):497

DEX(命中力):565

INT(知力):117

CHA(魅力):67


スキル

《傲慢Lv.10》……謎の自信を見せることで敵のDEXを低下させる。

《瞬足Lv.9》……疾風の如く素早く移動できる。レベル上昇と共にAGI+10補正

《攻撃誘導Lv.7》……敵1体の攻撃を任意箇所に誘導する。レベル上昇と共に成功率が上昇する。

《邪眼Lv.6》……敵1体を10秒間だけ混乱させる。レベル上昇と共に成功率が上昇する。

《三連撃Lv.5》……《二連撃》スキルの進化系。レベル上昇と共に成功率が上昇する(失敗した際は《二連撃》となる)。

《槍術Lv.10》《鑑定眼Lv.10》《隠密Lv.9》《索敵Lv.8》


魔法習得

《中級 暗黒魔法Lv.1》

《初級 風系魔法Lv.8》


装備:武器

〇魔槍ダイサッファ:攻撃力ATK+1250

《魔力付与》

・刃に触れた者に対し敏捷力AGI-300与え、《呪殺術カース》魔法を施すことができる。

呪殺カース効果として1分経過ごとに体力HP値-10ずつ消費され「0」になると死に至る。

・相手が習得する《不屈の闘志》や《自己再生》などのスキルを無効化する。

・装備中は他の武器や防具を装備することはできない縛りがある。



 ぐぬぅ、中ボスは伊達じゃないか。

 ガチの高レベルで強敵だと判明した。


 全能力値アビリティと習得した技能スキルから、接近戦主体なのがよくわかる。

 最も気を付けなければならないのは、やはり『魔槍ダイサッファ』だ。

 刃に触れただけで呪われてしまうのか?

しかも《スキル》を無効化までされるとは……。

 あの軽装も魔槍を装備する上での制約が理由のようだ。


 とにかく接近戦闘はやばい。

 幸い、香帆が弓矢で威嚇してくれて俺達との距離は置かれている。

 この位置をキープして戦うのがベストだ。


「そこまで聞けば十分だ! ドックス、最後に警告する! 大人しく拘束されるなら『零課』に突き出すだけで勘弁してやるぞ!」


「バカか、幸城ッ! 切り札も出してねぇのに投降するわけねぇだろ!? 言っとくが『死神の疾風ゲイルリーパー』以外は敵じゃねぇんだよぉ! お前ら全員、ブッ殺してやんよぉ、ウラァ!」


 だろうな。

 そう言うと思ったけど一応の警告だ。

 正直、一人相手に大人数っていう構図は卑怯っぽくて好きじゃない。

 したがって良心を傷めないための建前ってやつさ。


 それに相手は仮にも魔王の部下で中ボス級だ。

 サブリーダーとして仲間の安全を守る意味でも、ここはモンスターと同等の存在と割り切って徹底してやる。

 幸い悪魔っぽい姿だから、そう思い込むのは簡単だ。

 

 それに今のドックスは、香帆にしか警戒心を抱いていない。

 自分と同じ『災厄周期シーズン』の“帰還者”であり、勇者パーティだったアゼイリアの存在に気づいていないようだ。

 案外、鍛冶師スミスのアゼイリアは戦力外と思っているのか。あるいは彼女の《隠蔽》スキルで香帆と同等クラスの高レベルだと気づいてないのか。


 どの道、この状況は今の俺達にとって絶好の勝機だ。


「――香帆さんは臨戦態勢を維持、ヤッスは魔法でバフでかけてくれ! そしてアゼイリア先生、そこから思いっきり一気にやっちゃってぇ!」


 俺からの指示により各自は頷き作戦行動に出る。

 ヤッスは速攻魔法により全員に向けて能力値アビリティを上昇させた。


「了解よ! 食らいなさい、『魔撃手榴弾マナグレネード』!」


 後方でアゼイリアは『手榴弾もどき』を投擲する。

 バフにより全能力値アビリティが強化されたこともあり、『魔撃手榴弾マナグレネード』は勢いよく高々とかつ正確に軌道を描いていった。

 俺は攻撃に巻き込まれないようにするため、『無双の盾イージス』を前方に展開させて仲間達を守る。


「お、おい! まさか、う、嘘だろぉぉぉぉ――ぶほぉぉぉ!」


 けたたましい爆発音に爆風が鳴り響き、ほぼ同時にドックスの悲鳴が木霊する。

 発生した砂塵が俺達の視界を覆った。


「やったか!?」


 俺は前方に掲げる半透明のスキル盾から《索敵》スキルで敵の生存を確認する。

 反応はあった。流石は中ボス、そう簡単には終わらないか。

 だがどんな状態で損傷を受けているのかわからない。


 砂埃が止むまでここで待機していた方が無難か。

 俺はそう判断し、みんなに指示を伝えようとする。


 が、


「マオたん様。ドックスがどうなったか、メルがこっそり見にいくのです!」


 メルがそう告げ、単身で防御ラインから抜け出してしまう。


「おい、待て! まだ早い――クソォ!」


 瞬間、《索敵》がより大きく反応した。

 まずい、何か仕掛けてくる気だ!


 俺は《無双の盾イージス》をその場に固定させ、自分だけ駆け出した。

 すると予想通り、無数の何かが迫ってくる気配がある。

 今なら、まだ間に合う!


【――紅蓮の炎よ! 烈火の如く燃え盛り灼熱たる障壁と化せ、《火炎壁ファイアウォール》ッ!】


 俺は移動しながら腕を伸ばし呪文語を詠唱した。

 

 メルの前方に炎の壁が出現する。

 彼女が立ち止まっている隙に、追いついた俺はメルを強く抱きしめた。


「マオたん様!?」


「動くな! 攻撃が来る!」


 刹那。


 炎の壁を突き抜けくる無数の何かが、俺の背中を突き刺した。

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