第106話 奈落のNPCキャラ

「ちょっとこれ、シャレにならないわよ。ミオちゃんが必要なレベルの相手じゃない?」


「サッちゃんの言うとおりだと思う。みんなで力を合わせれば勝てるかもしれないけど、とても『下界層』の捜索まで持たないじんじゃないか?」


 アゼイリアとガンさんが危惧するのも無理はない。

 この死霊王ネクロキングと戦ったら、たとえ勝てたとしても俺達の消耗も激しくて下層に行くのが困難となってしまう。

 少人数パーティだから、ここは力を温存しておきたいところだ。


「チッパイ殿、【氷帝の国】はこやつと戦ったのでありますか?」


「片眼鏡の魔法士ソーサラーめ、もうチッパイゆーな、なのです。ええ、フレイア様と徳永さんがいれば秒殺なのです。まぁメルとストライザさん以外の眷属は皆さん戦闘力が高いので負けることはないのです、えっへん!」


 そりゃ高レベル揃いの集団クラウン規模のパーティだからな。

 俺達とは違って余裕なのだろう。


 しかし自慢していたメルが不思議そうに首を傾げ始める。


「どうした、メル?」


「いえ、マオたん様……あの死霊王ネクロキング、明らかにフレイア様が斃した奴より強いのです。メルが知る限りレベル48でスキルも魔法もあそこまで充実しなかったのです! それに『特性』なんてなかった筈なのです!」


「ってことは、また『奈落アビス』の悪戯……あるいは試練かなぁ? ねぇマオッチ」


 香帆は意味ありげにじぃっと見据えてくる。

 まるで「俺のために用意されたモンスターじゃね?」と言いたそうだな。

 てか、相変わらず顔が近いなぁ……このエルフ姉さん。


「だとしてもだよ。アゼイリア先生とガンさんじゃないけど、今はこんなのと戦っている暇はないよ。なんとかスルーできないかな?」


 幸い死霊王ネクロキングは俺達に気づいていない。

 ヒュドラもそうだったが、ある程度近づかないと気づかないという制約みたいなルールがあるようだ。


 ぶっちゃけ、ヤッスが超進化を果たしたっぽい奴だ。

 見た目からして戦いたくない。


「遠回りになりますが、壁際を移動すれば大抵の中ボスはやり過ごせる筈なのです」


「なるほど、じゃあそうしよう」


 俺の指示でみんなは頷き、壁際に沿って歩くため全員が部屋へと入った。

 直後、扉がバンと勢いよく勝手に閉められた。


〔――待たれ、冒険者よ。我と戦うがよい〕


 死霊王ネクロキングは窪んだ髑髏の双眸を赤く光らせて言い放った。


「しゃ、喋った!? モンスターでもボスなら喋れるのか!?」


「いや、魔王や魔族ならともかく、モンスターが人の言葉を話すわけがない!」


「ええ、異世界でも存在しない筈よ!」


「信じられないのです!」


「どれ、レアっぽいから動画に撮って美桜に自慢してやろぅ」


 ガンさん、アゼイリア、メルの異世界転生組は驚愕している。

 やはりモンスターが喋るなんて通常はあり得ないことなのか。

 てか、香帆はスマホ片手に何してんの? 悪いけど緊張感持ってくんない?


「……ユッキ、言葉が通じるなら逆に戦わなくて済むよう交渉もできるんじゃないか?」


 おお、ヤッスの言うとおりだ。

 知力INT値が高いだけあり、たまに鋭く名案を導きだしてくる。


 よし、ここは【聖刻の盾】サブリーダーとして俺が交渉してみよう!


「俺は真乙、このパーティの実質リーダーだ! あんたとは戦いたくない! 悪いが通してくれないか!?」


〔待たれ、冒険者よ。我と戦うがよい〕


「まぁモンスターのあんたならそう言うかもな! けど俺達も先を急いでいるんだ! 他の冒険者を相手にしてくれよ、な?」


〔待たれ、冒険者よ。我と戦うがよい〕


「しつけーな! だから戦わないって言ってんだろ! 頼むから通してくれ!」


〔待たれ、冒険者よ。我と戦うがよい〕


 ……あれ?

 こいつなんか可笑しくね?


「まるでオウムのように同じ言葉を繰り返しているようだぞ?」


「そうだな、ユッキ。僕が思うに、あの死霊王ネクロキング……ひょっとしてNPCキャラじゃないのか?」


 ヤッスの疑念に、俺も頷き同調する。


「おーい。今、何時ですか?」


〔待たれ、冒険者よ。我と戦うがよい〕


 やっぱりだ。

 こいつ、何を話かけても同じことしか言わないように設定されている。

 まさしく『奈落アビス』ダンジョンがプログラミングしたみたいに……。

 

 香帆じゃないけど、俺のために与えられた試練用なのか?

 ダンジョンが? なんのために?

 けど今そこを考えている暇もない!

 

死霊王ネクロキングが敵意を見せている以上、奴と一戦交えるしかない! 速攻で斃して、フレイアさん達を探しに行くぞ!」


 本当は俺が盾役タンクとして引き付けている間に仲間達だけ突破させるか、あるいは二組に分かれて戦闘と捜索を同時に行うべきか迷った。


 きっと人の良いみんなの性格だと前者は完全否定されてしまいそうだ。

 けど後者だと、これ以上人数が減ってしまうと「下界層」の探索自体が難しくなる。


 やはり全員で挑み、速攻キルを目指した方が無難だろう。

 強いが決して勝てない相手でもないしな。


 俺の意見に全員が力強く頷いてくれる。

 不思議だな……相手は死霊王ネクロキングだというのに。

 さっきまでスケルトンにすら、びびって怯えていたのに。

 気持ちが高揚し力が溢れてくる。


 仲間達は俺を信頼してくれる。

 俺も仲間達を信頼している。


 だからどんな相手だろうと戦えるんだ!


「前衛は俺に任せろ――《無双の盾イージス》!」


 俺は先手必勝と言わんばかりに、死霊王ネクロキングへと突撃する。

 左腕を翳し前方にユニークスキルで構成された無敵の盾を出現させた。


 ヤッスは速攻魔法で全員にバフを施していく。

 奴も知力INT値が上昇している分、攻撃力と防御力が大幅に向上した。


〔待たれ、冒険者よ。我と戦うがよい〕


 バカの一つ覚えのようにまだ言ってくる、死霊王ネクロキング

 だがマヌケな台詞とは裏腹に、奴の殺意が突進してくる俺に向けられているのがわかる。

 早速、魔状を掲げ暗黒系の上級攻撃魔法|闇魔の破壊砲《ダークネス・バースト》を撃ってきた。

 しかもヤッスと同じほぼ無詠唱だ。


 死霊王ネクロキングも《速唱》スキルを持っているから、どんな高レベルで強力な魔法だろうと簡略化した詠唱のみでタイムロスなく繰り出すことができる。

 おまけに知力値INT魔力値MPも三桁越えなので、圧倒するほど強力な破壊力を持ち、またそう簡単に魔力が尽きることもない。


「だが、それがどうしたぁ!?」


 俺が展開させた《無双の盾イージス》が闇の波動エネルギーを弾き封殺した。

 如何に強力だろうと貫通性のない魔法攻撃では通すことは絶対にない。


 背後から香帆とガンさんがそれぞれの武器を掲げ追随してくる。

 同時に銃声音がなり響き、俺の頭上を音速で過ぎ去った。

 アゼイリアが撃った『魔銃』による弾丸だ。

 だが弾丸は死霊王ネクロキングに着弾することなく、奴を取り巻く周囲の空間が歪み弾道が反れてしまう。


「やっぱりね! 特性の《不死王ノーライフキングタイム》よ! 105秒間は直に攻撃するしかないわ!」


 アゼイリアがそう叫び、俺達前衛の三人は「了解ッ!」と頷いた。


「食らえ――《シールドアタック》!」


 俺は《無双の盾イージス》を展開させたまま突貫する。

 死霊王ネクロキングの瞳孔が妖しく光った。

 直後、奴の周囲から突風が吹き荒れる。

 突進する俺の動きが鈍り、寧ろ押し戻されていく。


「風属性の《強烈突風ブラスト》だ! ユッキ、気を付けろ!」


 ヤッスが大声で忠告してくる。

 それは強風で対象者を吹き飛ばす中級クラスの攻撃魔法だ。

 幸か不幸か。

 《シールドアタック》で攻撃を繰り出していた俺は飛ばされることはなく、ただ減速され足止めされるに至った。

 勿論ノーダメージだ。


 俺の後方に潜む香帆とガンさんは魔法効果が薄れるのを見越し、身を乗り出して強襲を仕掛けに行った。

 すると死霊王ネクロキングは俊敏な動きで魔杖を上に掲げる。

 刹那、頭上に落雷が降り注ぎ骸骨の全身が光輝を発し放電された。


「眩しっ! これじゃ近づけないよぉ!」


「雷系上級魔法の《青天の霹靂サンダーボルト》だと!? いくら死霊王ネクロキングだって自爆行為だぞ!」


 攻撃に転じた二人は立ち止まり身構える。

 下手に触れてしまえば感電し死に至るかもしれないからだ。


 ガンさんが言った通り一見すれば玉砕戦法だ。

 だが今の死霊王ネクロキングは特性の《不死王ノーライフキングタイム》で一切の魔法攻撃を受け付けない状態。

 奴はそれを計算し接近戦対策として意図的に自分の体を放電させに違いない。


 クソッ!


 思った通り強いじゃないか。

 こりゃ一筋縄ではいかなそうだ。

 

 だが俺達にも秘策がある。

 今に見てろよぉ……骸骨野郎。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る