第104話 スリップストリーム(嘘)
「マオトお坊ちゃま、どうか気を付けてくだせぇ」
「ああ、わかったよ。ゴザックさん、【氷帝の国】の人達のことを頼むよ」
「へえ、そりゃ勿論……半分はあっしの責任ですから」
いや全部お前が悪いけどな。
俺達【聖刻の盾】は
先にゴザックとやり取りしたように、フレイアが連れてきた【氷帝の国】50人の部下達はこのまま29階層『分岐点』に置いていくことにした。
ヤッスではないが人数が多ければ多いほど、戦力にこそなるが逆に機動力を失い低下する。
状況からして事を急がなければならないので、最小の人数が望ましいと考えたからだ。
いくら俺に《統率》スキルがあるからとはいえ、初めて向かう「下界層」では指揮できるか不安が残る。
50人の部下達も自分達では手に負えないと思ったのか、待機することに納得を見せていた。
「マオたん様、どうかフレイア様のことお願いします!」
「マオたん様、必ずフレイア様を見つけてください!」
「マオたん様、フレイア様を幸せにしてください!」
「マオたん様、男として責任取って頂けるのでしょうか!?」
みんなマオたんってうっせー。
しかも後半、捜索と関係ねぇじゃん。
フレイア様を幸せにしろって何?
男として責任ってどういう意味よ?
あの曰く付きの『キカンシャ・フォーラム』といい、【氷帝の国】で俺はなんと思われているんだろう……。
まぁ彼から大量の
準備を終え、まず30階層へと向かった。
前回と同様、石ブロックで敷き詰められた空間だ。
しかし、そこは夜の『
どこか雰囲気が異なっている。
「なんだか随分と歩きやすくね? 前回は超迷った迷宮状態だったのに……ミノタウロスの姿もないようだけど?」
「メルッチがナビしてくれているからだよぉ。流石、カンストした
「えへへへ、リエンさんに褒められると嬉しいのです。それと夜はミノタウロス以外のモンスターも潜伏しているので、昼間ほど進路をいじられることもないのです」
ミノタウロス以外のモンスターだって?
すると奥の方から、ぞろそろと何かが近づいてくる。
「スパルトイなのです! 皆さん気を付けてなのです!」
それは一見すれば全身に鎧を纏ったスケルトンこと骸骨兵に思われた。
だが両腕には身の丈ほどある
窪んだ髑髏の両眼から煌々と妖しい光が宿されていた。
「ドラゴンの牙で作られたとされる
スパルトイか……レベル30と確かに強い。
それが5匹も一辺に現れるとは……。
おまけに、スケルトンっぽくなんかてキモイよな(怖がり)。
「マオたん様、どうかご指示を!」
先頭に立つメルは振り返り、パーティのリーダーである俺の指示を仰ぐ。
だが、
「……マオたん様?」
俺はしれっとガンさんの逞しい背中に身を隠していた。
「勘違いするなよ、メル。俺は別に怖いわけじゃないんだ。こうして身を隠し、空気抵抗を弱めることで力を蓄え、ゴール直前で一気にブースト仕掛けるつもりだ」
「……いえ、仰る意味がさっぱりわからないのです」
「チッパイ殿、これぞ伝説の『スリップストリーム』ですぞ。レース系ではテンプレ技法ではありませぬか?」
「片眼鏡の
「メルッチ、ごめんねぇ。マオッチってば夜のモンスター相手だとポンコツ化しちゃうんだよぉ」
「また謎の必殺技で『
香帆とアゼイリアは優しさで言ってくれているけど何気に酷い。
俺は女性陣にそんな目で見られているんだと思うとなんだか泣けてくる。
「……なるほど、所謂『萌え』ポイントってやつなのです! メモってフレイア様に教えて差し上げるのです!」
やめてぇ! 理解してくれるのは嬉しいけど、そんなの萌えじゃなく痴態を晒しているだけだから!
俺推しのフレイアに教えて幻滅されたら、それはそれでヘコむから!
「大丈夫だ、ユッキ! 俺の任せろ! ヤッス、バフを頼む!」
「了解した、ガンさん! 【
ヤッスは魔法を施し攻撃と防御のアビリティを上昇させた。
ガンさんは果敢に突進し、歪な大剣を振るいスパルトイを薙ぎ払う。
「やるねぇ、ガンさん! あたしも負けてられないよん!」
「本当、見違えて嬉しいわ、王聡くん!」
香帆とアゼイリアもテンションを上げて加勢に向かう。
結果、俺だけがぽっつんと取り残される羽目になった。
うん、完全に立場が逆転されているぞ。
こうして俺を抜かした華麗なチームワークで、5匹のスパルトイは殲滅された。
「流石は【聖刻の盾】の皆さん! 実に見事なのです! メルも出る幕がなかったくらいなのです!」
戦闘後、メルは仲間達の武勇を褒め称えている。
あの険悪なヤッスにさえ「変態野郎ですが
そして何気に俺の方をチラ見してくる。
「……マオたん様、大丈夫なのです。人間には得手不得手があるのです。ここは皆さんに委ねてもいいと思うのです」
なんか神妙な顔で慰めてもらった。
俺が読んだラノベとかなから「マオたん様、なんだかダサいのです! メル、幻滅なのです!」と揶揄され、仲間を持ち上げておいて俺だけ見下されるパターンだが、この子は毒舌だが性格は良い子なのでそういうことは言わない。
そこは救いであり、けど逆に胸に突き刺さるものがある。
「メルちゃんの言うとおりだ、ユッキ。こういう時くらい俺達に任せてほしい。なぁヤッス」
「ああ、僕達のレベリングにもなるし一石二鳥とはこのことだぞ、ユッキ」
「こういう時は休んでね、マオッチ」
「そうよね、香帆ちゃん。マオトくんは、いつも誰よりも頑張っているんだから遠慮しなくていいのよ」
みんなも俺を気遣い労ってくれる。
パーティ達こそ、「
そんな仲間達の優しさが凄く嬉しい反面、いつまでもびびっている自分がやはり情けなくなる。
クソッ、このままじゃ駄目だ……精神的にも強くならなければ。
俺はぐっと拳を握り締める。
「よぉぉぉし! 『スリップストリーム』終了ッ! 力も温存したから、ここからは全開に前に出まくってやるぜ! みんなぁ、期待してくれ!」
「「「「だからいいって! 頼むから無理すんなって!」」」」
え? なんで!?
どうして全否定!? どうして半ギレで頼まれるの!?
「……どうやらマオたん様、29階層に来られるまでの間、皆さんがドン引くほどの凄い戦いを見せてきたようなのです」
なんだと?
じゃ何か? 俺の「必殺、目を瞑りゃなんとかなるぜアタック」が原因だってのか!?
それからも下層へ進むためのダンジョン探索は続く。
あれから少し話し合い、ミノタウロスやリザードマンとかのモンスターが出現した際は俺が全面に戦うことにて辛うじて面子を保つことにした。
先程と同様、それ以外の苦手なモンスターはみんなが率先して戦うことになる。
まったく夜のダンジョン探索は厄介だ。
一度訪れた筈の階層でもモンスターの質がガラリと変わってしまう。
鎖を引き摺り鋭い角とかぎ爪を持つ、怨念の集合体とされる赤目の黒犬バーゲスト。
全身が包帯に覆われた屍鬼であり、包帯の触手で相手の動きを封じる呪帯男マミー。
死体を貪り喰い、喰らった分だけ肉体を強化し再生させる食屍鬼グール。
etc
これまで見たことのない強力なモンスターと遭遇し、戸惑い苦戦しながらも何とか撃退するに至った。
「もうじき46階層に到達する。その前に45層で『中界層』のボス戦か……」
44階層を探索する中、俺は緊張を隠しきれないでいる。
きっと夜だとボスも異なっているんだろうなぁ……そう不安が過っていた。
そして、あながち間違いではないことを思い知る。
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