第103話 失踪した魔女達
メルの話によると、逃走したドックスを追跡するため下層に移動中にフレイア達をはぐれてしまったようだ。
「……メルを先頭に50名の部下と共に『下界層の
彼女のユニークスキル《
そして聞くところによると、46階層に入り探索している最中で見失ってしまったようだ。
「でも部下50名って、ドックス一人を追跡するのに随分多くね? いくらレベル58相手とはいえ……フレイアさんなんてもっと高レベルだろ?」
「はい勿論なのです。フレイア様を始め、団長の徳永さんと副団長のディアリンドさんならソロでも十分に勝てる範囲なのです。三バカ……いえ、他の眷属達も戦闘力だけは高いのでまず負けることはないのです」
「それじゃどうしてそんな大所帯を連れているんだ?」
「……はぁ、まぁ。フレイア様、得意の嫌がらせなのです。大人数で押し寄せ追い込む恐怖をドックスとやらに味わわせるための……数の暴力で戦意を喪失させ袋叩きしようと目論んでいたのです」
け、結構、陰湿だなフレイアさん……。
なるほど、これが美桜と同じ勇者でありながら『氷帝の魔女』と呼ばれる所以か。
俺が軽く引いていると、メルは「誤解しないでくださいなのです! まだ一つちゃんとした理由があるのです!」と付け加えてきた。
「――それは闇勇者レイヤがテイムした新たな
「なんだって!? それは本当なのか!?」
「はい、『零課』のゼファーさんがそう示唆していたのです。だからフレイア様はこれまでの余罪と様々な可能性を考慮して遠征という形で探索に乗り出したなのです。これでも人数を最小に控えた方なのです」
確か【氷帝の国】は150人規模の
機動力も考慮して、あえて三分の一に分けたということか?
「それで50人の部下はどうしているんだ?」
「メルと一緒に29階層の『分岐点』まで戻り待機しているのです。メルはマオたん様【聖刻の盾】が来られていると聞き、藁にも縋る思いでこうして助けを求めに……ぐすっ」
次第にメルの大きな瞳からぽろぽろと涙が零れ落ちていく。
気丈に振舞っているも、一人で取り残されてしまい不安が募り溢れてしまったに違いない。
おまけに50人の部下達を導く羽目になったんだからな……“帰還者”とはいえ、そこは小さい女の子だ。
「しかし、チッパイ殿。些か奇妙な話ですなぁ? まるで、お化け屋敷で友達を怖がらせるため、あえて身を隠している糞ガキと同じ手口ではありませぬか?」
「……片眼鏡の
メル、悪いけどあんま説得力ないぞ。
でも後方で控えていて突然姿が消えるっていうのもな……。
仮に不意を突かれモンスターに襲われていたとしても、フレイアなら返り討ちにし そうだし、彼女の周囲には屈強の眷属達で守られていたんだろ?
他、考えられるとドックスの仕業か……?
「香帆さん、どう思う?」
「う~ん……三バカ眷属くん相手には平気でやり兼ねない悪戯だけど、メルを泣かすようなことはしないねぇ。ディアリンドもそういうの嫌う性格だし、まず乗ってこないと思うよん」
「俺もその線はないと思うなぁ。フレイアさん、『キカンシャ・フォーラム』でも初見の俺を気遣ってくれたし、評判ほど悪い子には見えないんだけど……」
ガンさんも悪戯の線はないと思っているようだ。
「じゃあ、何かの事件に巻き込まれたとか? けど離れていたとはいえ、《索敵》や《探索》スキルの高い
「俺は奴のこと覚えてないからな……ヤッスはどう思う?」
「ドックスという輩について気になっていることが一つある。ギルド登録できない奴が、どうして『
「……意見を合わせるのは悔しいですが、片眼鏡の
必死で懇願してくる、メル。
ここは冒険者として見過ごすわけにはいかない。
「わかったよ、メル。俺もフレイアさんには助けられたこともある。みんなで一緒に探しに行こう!」
「マオたん様、ありがとうなのです!」
どの道、「下界層」に行く目的だったからな。
探索能力の高い香帆もいるし、ヤッスも何か気づくかもしれない。
俺の賛同に仲間達も頷き了承した。
「マオトくん、その前に『零課』のゼファーに相談してみれば? 確か彼の連絡先、知っているわよね?」
「うん、知っているけど。先生、どうして?」
「『
なるほど、アゼイリアの言うとおりだな。
俺は《アイテムボックス》からスマホを取り出し、ゼファーに連絡してみた。
地上はすっかり夜だから勤務外で寝ているかもしれないけどまぁいいか。
『――俺だ。どうした、マオト君?』
「すみません、ゼファーさん。こんな夜分に……実は緊急事態がありまして」
俺は一連の内容を説明する。
『……そうか。あの「腐れ魔女」がそう簡単にどうにかなるわけがない。「タイガ」も傍にいたんだろ? だったら尚更、モンスターやドックスに不意を突かれたとかはないな』
「タイガ?」
『ああ、【氷帝の国】の団長だ。本名は「徳永 景虎」というが、フレイアは異世界でも「徳永」と呼んでいたな。奴は眷属ではなく、フレイアとは現実世界からの主従関係だと聞く。普段はあの女の専属執事で置物のように無口な男だが“帰還者”の中では間違いなく最強に位置し、そして最も危険な男だ』
「最も危険ですか?」
『そうだ。フレイアに心酔し同時に崇拝している。あの女が白と言えば、たとえ真っ黒だろうと意地でも真っ白に塗り替えようとする男だ。フレイアが囁かれる悪評の半分はタイガによるものだと言える』
なんかヤバそうな団長じゃね?
けどもう半分はフレイアによるものだから、どっちもどっちか。
ゼファーの話は続いている。
『探索能力に特化したメルですら見つけられないということは、ドックスを追っているうちに別の場所に誘われ迷い込んだ可能性がある』
「別の場所?」
『――隠しダンジョンだ』
隠しダンジョン!?
やはり『
前に聞いたけど未開拓領域の場所をそう呼んでいるんだよな。
けど可笑しくね?
「ゼファーさん、誘われたってどういう意味ですか? まるで隠しダンジョンがフレイアさん達を神隠しに遭わせたように聞こえますけど……」
『大体は合っているよ、マオト君。隠しダンジョンには探索者が訪れたことのない未開拓利用域と、「
「不意に出現する階層ってことですか? つまりその階層にフレイアさん達は入ってしまったと?」
『あの女が自分から入ったとは思えん。きっと眷属の誰かが『
「それで入口は? 探し出すことは可能ですか?」
『46階層で姿を消しているのなら、そこに入口があるだろう。ただし《探索》スキルでは難しい。《
「わかりました、ゼファーさん」
『それと万一、ドックスと遭遇し戦うことになったら「粛清」を許可する。“帰還者”に法律は適応しない。相手も法を無視して襲ってくる以上は躊躇せずキルしろ』
そう告げると、ゼファーさんは「俺は寝る。明日も早いんだ」と一方的に通話を切った。
この辺が、姉ちゃん達が言う「人使いが荒い奴」と言われるところのようだ。
超貴重な情報をくれたのはありがたいけど、まさかキル許可まで下されるとは思わなかった。
少し複雑な気分だが今は考えている暇はない。
「よし! それじゃ、フレイアさん達を探しに『下界層』を目指すぞ! ヤッスも頼むぞ!」
「任せろ、ユッキ。師匠の期待に応えるためにも、美しき白雪姫ことフレイアさんを必ず探し出してみせよう!」
「……片眼鏡の
こうして
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