第97話 カリスマ総長からの指示

「マオト君、協力してくれることは非常に有難いが、何か考えがあってのことかい?」


「ええ、最近じゃメールのみですけど、俺のもう一つの仲間というか……以前、結成した自警団がありまして『赤き天使の鐘レッドアンジェラス』というんですけど」


「ああ、元半グレの『赤い小悪魔レッドインプ』だったな。一年前、マオト君がたった一人で連中を更生させたという。そいつらがどうした?」


「彼らは今も伊能市の治安を守るため、繁華街を中心にほぼ毎日パトロールしています。だから一般人として鳴りを潜めている、ドックスって奴の情報が得られやすいかもしれません」


「なるほど……確か構成員が増え、今では150人規模だったな? 下手に警視庁の捜査員に委ねるより、捜索範囲も隅々まで及び遥かに効率が良いかもしれん」


「あれ? ゼファーさんも警視庁の公安部ですよね?」


「違うよ、俺は警察庁の警備企画課指導係に属している……『チヨダ』、あるいは『ゼロ』と言えばわかるかな?」


「え? ああ……ドラマとかでよく登場する係でしたっけ? けどゼファーさんは『零課』の人なんですよね?」


「俺は“帰還者”でもあるから、他の『ゼロ』と異なり特殊ポジでね。基本は『零課』の作業班のみ直接指示することしかできないが、その代わり『異能者』犯罪に関しては相応の権限を持っている。したがって必要なら作業班の宮脇インディと共に任務をこなし、こうしてキミ達のような信頼に値する冒険者に容易く素性を明かして協力を求めることも可能というわけだ」


 つまりゼファーはそれだけ俺とヤッスを評価してくれているということか。

 誇りに思う反面、何か踏み込んではいけない領域に巻き込まれそうな不安も過ってしまう。

 まぁ、美桜も絡んでいるなら、そう無茶ぶりの依頼はこないと思うけど……。

 けど彼はイケメンだが、人使いが酷く荒い男として有名だ。


「……ユッキ、そんな不良連中と付き合いがあったのか? 引くな~」


「お前にだけは言われたくないぞ。昔は色々あったが、今は伊能市の平和を愛する赤き天使達だ」


 まぁ、ヤッスがドン引くのも無理はないけどね。

 俺が強制的に更生させなきゃ、きっと今でもしょーもないことばかりしていた連中だろうし。


「その辺は警察側こちらの落ち度もある……しかし背景には“帰還者”関連の事件が多いのも事実だ。並みの警察では対処のしようがない、だから俺達『零課』が存在するんだ」


「わかっていますよ、ゼファーさん。だから『赤き天使の鐘レッドアンジェラス』の連中には、トラブルがあった際は自分達だけで対処しようとせず、必ず警察に頼るよう指示していますから」


「そのようだな――ではマオト君、その『赤き天使の鐘レッドアンジェラス』を介して、レイヤとドックスの潜伏先などを探ってくれないか? 勿論、無理のない範囲で構わない……キミとヤッス君は正真正銘の未成年だからね」


 ゼファー曰く、“帰還者”には未成年犯罪の刑事責任能力云々など存在しないと言う。

 中には小学生で異世界へ転生あるいは転移し、数十年かけて災厄周期シーズンを終えて帰還している者もいるからだとか。

 美桜達もそうだが、災厄周期シーズンを終えると転生前の時代に戻されてしまう。

 おまけに異世界で習得したレベル、スキル、魔法、さらには知識や思想もそのまま継承され現実世界でやりたい放題となり、それこそ世界の秩序と均衡を崩しかねない事態なってしまうのだ。

 したがって子供だろうと犯罪者であれば容赦なく粛清対象となる背景があった。


 ちなみに眷属の俺が仮に罪を犯した場合、その責任は勇者である美桜にも降りかかるとか。

 ヤッスなんて変態だけに危ないんじゃね? 頼むぞ、ガチで……。


「わかりました、ゼファーさん。やってみます」


「師匠、この僕も可能な限り協力いたしますぞ」


 承諾した俺とヤッスは、ゼファーと握手を交わした。

 特にヤッスは彼のこと「師匠」と呼び始めている。



 話を終え「お屋敷」へと戻ると、場は異様な盛り上がりを見せていた。

 舞台ステージでミニライブが行われているようだ。

 香帆とメルを中心にメイド達が可愛らしく歌い踊っている。

 その光景をご主人様達がペンライトを振り回し大歓声で応援していた。

 まるでアイドル並みの熱狂ぶりだ。


「あっ。幸城、安永、おかえり~」


「真乙君、執事さんと何を話していたの?」


 カウンター席に戻ると、秋月と杏奈の二人だけで座っていた。

 二人とも流石にあの群衆に入る度胸はないようだ。


「ん? まぁ執事バイトの勧誘かな……断ったけど。あとヤッスとメルの件は両成敗で落ち着いたよ」


「へ~え、執事か……幸城は気遣いあってカッコイイからね。安永は……変態を除けば雰囲気だけかな」


「ふん、秋月が言ってろ。僕はついに自分を認めてもらえる『師匠』に出会えたのだ。それだけでも大収穫さ」


 ヤッスの言動に秋月は「またいつもの厨二病ね。仕方のない奴」と軽く流している。

 彼女も小学生からの付き合いだけあり、変態紳士の取り扱い方も熟知しているようだ。


「……真乙君の執事姿、見てみたい気もするなぁ」


 言いながら恥ずかしそうに頬を染める、杏奈。


「え? 本当?」


「うん、けど半分は冗談だから……あまり気にしないでね」


 いや、杏奈の希望なら俺は喜んで執事になるよ。

 てか、いっそキミの王子様になりたいと願う今日この頃。



「マオッチにみんなぁ、ウチらのライブどうだったぁ?」


「とても緊張したのですぅ、マオたん様!」


 ミニライブを終えた香帆とミルが戻って来る。

 

「ああ、後半頃からだけどね。香帆、いやリエン・ ・ ・ちゃんとミルも歌とダンスが上手で驚いたよ」


「えへへ、あんがと。人使いの荒い店長のパワハラを受けながら頑張って練習した甲斐があるよん。ゼファーあいつ、変なところで凝り性だからねぇ」


「まったく鬼の如き指導だったのです」


 え? まさか、あの歌と踊りを考えたのはゼファーなのか?

 厳格そうなキャラの癖に意外とファンシーなセンスを持っているんだな……あっ、“帰還者”だからか。


「それと、あたしとメルでCDも出しているんだぞぉ。ヤッスゥご主人様ぁ、買いますか買いませんか?」


「買います!」


 ヤッスは即答で購入した。こういう奴は良いカモだ。

 てかCDまで出しているんだ……ガチの徹底ぶりじゃね?

 なんだか潜入目的ってのが胡散臭く思えてきたぞ。



 こうして意外な展開もあったけど、初メイド喫茶体験とWデートは楽しく終わった。

 本音を言えば、もう少し杏奈とイチャ……いや親交を深めたかったが仕方ない。


 夏休みも始まったばかりだし、まだまだこれからだ。

 ダンジョン探索に恋愛と、前周ではあり得ないくらいの青春を満喫していこう!




**********



 その日の夜、集合場所の神社にて。


 伊能市最大の自警団組織、『赤き天使の鐘レッドアンジェラス』のカリスマ総長こと、『幸城 真乙』から指示が下った。



>真乙

 おひさです

 実は皆さんに二つほどお願いがありましてメールしました(めんご)


 パトロールついでに俺の同級生で一学期から行方不明の同級生を探してくれませんか?

 名前、「渡瀬 玲矢」といいます


(顔写真の画像送付)


 見かけたら即、俺に報告してください

 くれぐれも本人に話かけずスルーしてね


 あと「ドックス」という名を耳にしたら俺に教えてくり

 こいつの本名と顔は不明です

 つい最近まで浮浪者していた男です

 パチンコ店や競馬場に入り浸っていたことから、多分おっさんです


 万一怪しい男と遭遇したら、なるべく声を掛けないでスルーすること

 速攻で逃げてください

 

 これ約束だよん(お願い)



「――おっつしゃぁぁぁ、真乙さんから指示が下されたぞぉぉぉ! やい、テメェーラ!! 早速、『渡瀬 玲矢』というガキと『ドックス』って野郎を伊能市中の隅々に至るまで徹底的に探すぞ、コラァァァ!!!」


 副総長の『景山 亮太』が全ての構成員に向けて激を飛ばす。

 集まった総勢150人の男達から「ウェーイ!」と鬨の声が上がり足並みを揃えた。

 解散後、各自は散らばり伊能市中を駆け回って行く。


 これも真乙の《統率力》スキルが影響したのか、『赤き天使の鐘レッドアンジェラス』達は警察を凌ぐほど忠実かつ徹底的だ。

 その勢いはまさに破竹の如く、町中の隅々に行き渡るほど捜索範囲が広げられた。 

 中には団員ではない友人や恋人、コンビニ店員に至るまで『渡瀬 玲矢』の画像が拡散され、あらゆる角度から目を光らせるという事実上の厳戒態勢となる。


 しかし『ドックス』に関しては迷子猫と勘違いした者もいたようで、何故か建物の隙間から自動販売機の下、さらにゴミ箱の中などあり得ない場所に至るまで捜索されていた。


 こうした執念は何かしらの形で実を結び、徐々に対象者を追い詰めることへと繋がっていく。

 それが偶発的な接点となり、停滞していた事態を急速に進めることもあり得なくもない。


 この時、まさに『赤き天使の鐘レッドアンジェラス』達による必死の捜査網が一人の対象者を特定するとは、指示した真乙ですら予想できなかった。

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