第93話 討伐後のデート
「ヒュドラといえば『凍氷魔法』が弱点ね! ならばこれで――」
アゼイリアは二丁の
12発の弾丸が胴体と尻尾に命中すると、その部位から冷気が発生し一瞬で氷結状態となる。
氷は侵食するかのように範囲を広げ、巨躯の胴体から尻尾が氷漬けと化した。
アゼイリアが言うには、この手の特殊魔法弾は予め上級の
特に凍氷魔法は、【氷帝の国】のフレイアに依頼しているようだ。
「よし! 流石だ、サッちゃん――《
ガンさんは技能系スキル発動した。隆々とした全身の筋肉が膨張し、より逞しく引き締まっていく。
《
レベルが高いほど抜群の攻撃力と効果を生むらしい。
強化されたガンさんは疾走した。厳つい体躯とは思えない軽快な動きを見せる。
身の丈程の巨剣を軽々と掲げ、氷漬けで動けないヒュドラに向かって高々と跳躍した。
「固定されれば、この技が有効だ――――《
ガンさんの剣撃が炸裂した。
しかしヒュドラは、先程と同様に八つの首を絡ませ巨大盾を作り攻撃をガードする。
刹那――巨大盾が粉砕され砂状となり崩れさった。
ガンさんが繰り出した《
氷漬けにより胴体と尻尾が固定された分、衝撃範囲は拡張されていく。
《
だがヒュドラも易々と斃されまいとする生存本能と覚悟が見られた。
中央の頭部が大きく仰け反り横薙ぎに振るわれ、巨大盾と化した八つの首を切り離したのだ。
このことにより、弱点であり生命線である中央の頭部だけが残され辛うじて命を繋ぐこととなった。
おそらくカンストした《自己再生》スキルを持つヒュドラは、そこを計算に入れていたのだろう。
「――けど、ウチらもおたくがそうするだろって読んでたよん」
香帆がいつの間にかヒュドラの背後で飛躍していた。
大きく振り翳された
「《
鮮烈な光輝が放射され一瞬視界が奪われた。
激しい衝撃音と地響きが発生したと同時に視界が戻る。
既にヒュドラの首は刎ねられ、地面に伏している状態だ。
そして灼熱と化した斬撃により、切断部位から炎が発生し全体へと燃え広がっていく。
地獄に誘う業火の如く燃え盛り、ヒュドラの頭部は塵灰となった。
最凶と呼べる香帆の必殺技。
相変わらず末恐ろしい破壊力だ。
やがて氷漬けになっていた胴体と尻尾の残骸は消滅する。
跡形もなくなった地面には、これまで見たことのない巨大サイズの
「おっし! ヒュドラを斃したぞ!」
「ふぅ……終わったか。正直、僕の
「みんなで力を合わせての勝利は気分がいいな! 大分、異世界の勘を取り戻してきたよ!」
「本当、このメンバーなら負ける気がしないわ! それにしても香帆ちゃんは流石ね!」
「うぃす! アゼッチ先生も
階層ボスを攻略し、みんなテンションが高い。
「いや香帆さん。俺一人だったら危なかったかもしれない……やっぱりみんなのおかげだよ。ほらヤッス、俺はアイテムに余裕があるから分けてやる」
言いながら《アイテムボックス》から『
目的も果たしたし、これで次回から「下界層」を目指せるだろう。
その次は「深淵層」……そう思うととても感慨深い気持ちになった。
ここまで来るのに長かった気がする。
癖の強すぎるメンバーばかりで、最初は何度「駄目だこりゃ」と思ったことか。
けど今は違う。
俺達【聖刻の盾】は最強パーティだ。
はっきりとそう言い切れる。
「おっ? レベル28に上がったぞ。やっぱ『停滞期』をクリアしてから、レベルが上がるようになった気がする」
けど技能系スキルはそのままのレベル値が多い。
なんでも『停滞期』を過ぎてからは上がりづらくなる傾向があるとか。
ただしガンさんのように一度レベルダウンにより低下したスキルはその限りではないようだ。
かくして勝利の余韻を残し、俺達は引き返すことにした。
ダンジョンお決まりの展開からか、進む時とは異なり帰りはモンスターの出現率が低いと感じる。
これも『
それでも時折戦闘になるので29階層の「分岐点」に立ち寄り
商業ギルドマスターのゴザックと再会すると「え!? もう階層ボスを斃したんでやすか!? やっぱ半端ないお方達っす……」と驚愕され、割安(と言っても地上と同価格)でアイテムを譲ってもらう。
地上に戻った時にはすっかり夜が更け、エリュシオンの街には幾つも灯りが燈されていた。
よく考えてみたら、この時間に訪れたことがない。
中世時代を模した異世界の街並みは、日中とは別の風情があり心を揺さぶられる何かがある。
「――みんなお疲れ様。目標達成おめでとう」
ギルドにて、待機していた美桜が出迎えてくれた。
どうやらガチで温泉施設に行ってきた様子で、濡れた髪を頭頂部に纏めて牛乳瓶を片手に持っている。
おまけに白肌の頬がほんのりとピンク色に染まっているところが実の姉ながら艶っぽい。
「ありがとう姉ちゃん。ようやく『停滞期』越えして順調にレベルが上がるようになったよ」
「そう、次はいよいよ『下界層』ね。そこから幾つか壁はあるけど、真乙なら大丈夫よ。レベル30になったら、ここぞのタイミングで《
美桜は優しく微笑みかけてくれる。
レベル30となると冒険者として
“帰還者”でない者がその域に達するのは、まずあり得ないとされている。
本場の異世界と違い現実世界ではレベリングする場所が限られているからだとか。
けど俺はタイムリープしてから、この一年で色々なことがあった。
勿論、前周の失敗を繰り返したくない思いで必死に鍛えたところもある。
でもやっぱり【聖刻の盾】の仲間達と出会えたことが大きいと思いたい。
そのガンさんも今回の探索でレベル36となり、ヤッスはレベル18と爆上がりしていた。
特にヤッスの場合、高レベルのモンスターと戦闘を繰り広げたことで経験値が多く稼げたことが要因だ。この辺が当初ソロだった俺と違い、パーティの強みというやつだな(ヤッスの癖に羨ましい……)。
そして最も得られた収穫は、【聖刻の盾】みんなの信頼と自信がつくことでパーティとして結束力が高まったことだと俺は思う。
次の日。
昨日の疲労感もあり英気を養うため、今日のダンジョン探索は休むことにした。
どの道、香帆もアルバイトだかで不在となりメンバーが集まりにくい状況だ。
いや、それよりも俺は、ある正念場に直面しているのでそれどころじゃない。
「――あ、あのさ、杏奈……今日、俺、暇なんだ。よ、良かったらどっか行かない? いや、忙しかったらアレだけど……ど、どうかなぁって」
しどろもどろで片思いの子をデートに誘う、初心な俺。
タイムリープ前じゃ絶対にできない大胆な行動だが、今の俺に迷いはない。
でも緊張するものは緊張する。
いくら鍛えて自信がついても、こればっかりはというやつだ。
『うん、いいよぉ……わたしも真乙くんとお話したいと思っていたから。どこかで待ち合わせする?』
「本当、やった! じゃあ、マンションまで迎えに行くよ! 1時間後でいい!?」
『うん、準備もしたいから助かるかなぁ。じゃあ、待っているからね』
うおっ、ラッキー! 杏奈と二人っきりのデートだぁぁぁぁぁ!!!
俺はガッツポーズでスマホの着信を切った。
直後、ピンポーンっとインターフォンが鳴る。
ドアフォンの映像を確認すると、ヤッスが口を半開きにして玄関に立っていた。
え? 何しにきた、こいつ……今日、来る予定ねーじゃん。
まさか姉ちゃんに会いにきたのか? まだ二階で寝ているけど。
俺は玄関の扉を開けて出迎えてみる。
「よぉ、ヤッスどうした? 俺、今日はとても忙しいんだけど」
「すまん、ユッキ。だが聞いてくれ……我らが伊能市に大変なことが起こったんだ!」
神妙な顔持ちで言いながら、ヤッスは一枚の紙を見せてきた。
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