第91話 バケモノじみてきた盾役

「……夕方頃には引き上げようと思っていたけど、まだ時間もあるしアイテムも充実しているからなぁ。ギリギリまでアタックしてもいいと思うけど」


「んじゃ、階層ボス戦まででいいよね~。もう目的果たしたんなら単独じゃなく、パーティで挑んだ方が早く終わるよん」


 香帆の言う通りだ。

 おかげで無理して危険を冒す必要もなくなったことだしな。

 とりあえず「中界層」をクリアして、今後に勢い付けるのもありだと思う。


 かくして俺達【聖刻の盾】パーティは、さらに下層を目指すことにした。


 俺は戦闘で消費した魔力MPを『MP回復薬エーテル』で回復させながら、ステータスを更新することにする。

 久々の作業に、思わずテンションが上がってしまう。



【幸城 真乙】

職業:盾役タンク

レベル:27

HP(体力):235 /235

MP(魔力):130/130


ATK(攻撃力):470

VIT(防御力):1250

AGI(敏捷力):160

DEX(命中力):180

INT(知力): 150

CHA(魅力):80


SBP:0(-600)


スキル

〇新技能スキル

《金剛ノ壁Lv.1》……《鉄壁Lv.10》の効果を継続し、さらにレベル値が上がる度にVIT+100補正される。

《貫通Lv.1》……敵の防御力を無視し、攻撃の10%の物理的ダメージを与える。

※格上のモンスターを2匹以上同時に斃すことで習得する。


(その他)

《鑑定眼Lv.10》《不屈の闘志Lv.10》《毒耐性Lv.9》《剣術Lv.8》《盾術Lv.10》《隠蔽Lv.8》《不屈の精神Lv.8》《シールドアタックLv.10》《狡猾Lv.6》《統率Lv.8》《隠密Lv.5》《索敵Lv.6》

《アイテムボックス》


魔法習得

火炎球ファイアボールLv.10》

加熱強化ヒートアップLv.10》

点火加速イグナイトアクセルLv.8》

火炎壁ファイアウォールLv.5》

火炎嵐ファイアストームLv.1》


ユニークスキル

無双の盾イージス


特殊スキル

《パワーゲージLv.3》


称号:鋼鉄の弐盾持ちフルメタル・ダブル・エクスワイア:VIT補正+50

鋼鉄の無盾持ちフルメタル・ノー・エスクワイア:VIT補正+50

猪突猛進レックスラッシュ精神的マインド補正有



 獲得したSBP:600は防御力値VITを+200、攻撃力値ATKを+100に振り分け、他の能力値アビリティを+50ずつ足してみた。

 おかげで一回り成長した感じがする。


 技能系スキルでは以前の《鉄壁Lv.10》が進化し《金剛ノ壁Lv.1》となった。

 なんでもレベルが上がる度に+100補正されるのでカンストした頃には+1000補正されることになる。

 《鉄壁Lv.10》の効果もそのままだし、盾役タンクとして無敵に近づいたのではないだろうか。

 また気が付けば、今まで泣かされていた《貫通》スキルも覚えていた。

 このスキルもカンストすることで、美桜とガンさんが持つ《穿通》へと進化していく筈だ。


 そして新しい魔法、《火炎嵐ファイアストームLv.1》も覚えた。

 この魔法は、炎の嵐を呼び起こし範囲内に居る者を焼く多数戦向きの攻撃魔法だ。

 きっとこの先に活用する場が増えるに違いない。

 にしても、俺って炎系魔法しか覚えられないようだ。


 最後に称号が新しく『鋼鉄の弐盾持ちフルメタル・ダブル・エクスワイア』となった。

 おそらく戦闘時に『黒鋼の悪魔盾メタル・デビルシールド』と併用して使うようになったからだと思う。

 さらに防御力値VITの補正が付くらしい。


 ということは、装備、スキル、称号を含めると総合の防御力値VIT:13400となるわけだ。

 我ながら凄いな……きっと上級冒険者でも、こんな防御力値VITを持つ奴はいないんじゃね?


 俺はそんな感じでステータスを更新している中、背中から冷たい視線を感じる。

 何故かパーティの全員がジト目で見つめていた。


「どうしたの、みんな? 何か問題でもあったのか?」


「……いやぁ、別に。マオッチってば次第にバケモノじみてきたなぁって思ってねぇ」


「異世界でも、これほど防御力VITに特化した冒険者はいないと思う……最早、物理的攻撃なら邪神ですら傷つけられないんじゃないか?」


「……いいんじゃない。仲間だし、マオトくんだし……ローンさえ払ってくれれば……私はそう思うわ」


「益々ユッキが遠く感じる……僕とて『停滞期』を突破しても、その境地に達することはないだろう」


 なんだよ、それ?

 みんな俺を異質な目で見てんのか?


 それを言うならさぁ……。


 どこまでもレベルを隠し続ける、謎のスゴ腕暗殺者アサシンエルフの香帆さん。

 狂戦士化バーサークして能力値が爆上がりする、蛮族戦士バーバリアンのガンさん。

 鍛冶師スミスとしての実力は勿論、やたら高い戦闘力とお金にがめつくシビアな、アゼイリア先生。

 なんだかんだ速攻魔法で役に立つ、未知数の可能性を秘めた変態紳士こと魔法士ソーサラーのヤッス。


 ほらな。

 みんなだって、あんま変わんねーじゃん。

 勇者の美桜を含む【聖刻の盾】は少人数だけど一騎当千ばかりなんだよ。


「そんなことないだろ? このパーティで『深淵層』を目指すには他の冒険者より抜き出ている必要があるからな。俺もようやく『停滞期』を突破したことだし、これからだと思っているよ」


 俺はさらりと受け流し先へと進む。

 それからも、遭遇したミノタウロスを何匹か斃して30階層をクリアした。



 下層へ降りること、35階層。

 

 今までは石ブロックで整備されていたのに、石灰岩で覆われた「初界層」を彷彿させる鍾乳洞へと変わっていた。

 しかし、より魔力が溢れているのか全体の岩が青白く煌々と輝いている幻想的な空間で視界は良好だ。

 反面、通路が狭く足場が非常に悪い。

 陥没した穴が幾つも見られ、さらに一歩でも踏み外してしまうと断崖により落ちてしまう箇所もある。

 底は奥行きが見えないほど漆黒の暗闇に包まれ、見ているだけでも吸い込まれてしまいそうだ。


「流石にこういったエリアでは、モンスターもそれほど出てこないか……唯一そこだけは幸いかな」


「けど気を付けた方がいいよぉ。特に崖や穴から落ちたら、わけのわかんない階層に飛ばされるらしいからねぇ」


「え? 普通そのまま下の階層に落ちていくとかじゃないの?」


「いやユッキ、『奈落アビス』では常識は通じないらしいぞ。崖から落ちたら転移的な力でランダムに飛ばされてしまうと【キカンシャ・フォーラム】でマジレスされているからな」


 流石は生きているダンジョンってところか。

 悪質なトラップみたいでエグイぞ。


 香帆とガンさんの話を聞いて、より慎重な足並みで進み40階層へと到達した。


 依然として鍾乳洞っぽく、うねるような傾斜が多い景色。

 しかし穴や崖などの危険個所は見られないだけマシだろうか。


 ただし、これまで比較的に鳴りを潜めていたモンスターが頻繁に現れるようになった。

 それもレベル40代ばかりであり、より狂暴さが増していると実感する。

 無論、今までもこいつら以上に高レベルのモンスターを相手にしたことはあるが、 こうも出現頻度が多いと流石に疲れてしまう。

 少数故のデメリットもあり、アイテム消費も激しく危なくなってきた。


 そんな中、巨大な体躯を持ち緑色の皮膚に醜悪な容貌した獰猛なモンスター、トロールを撃破する。

 レベル42もある強力な敵だった。その手には大木のような棍棒が握られている。


「みんな無傷で余力はあるけど、その分『MP回復薬エーテル』の消費が多いな……これからは俺の『黒鋼の悪魔盾メタル・デビルシールド』で補うようにするよ」


 魔力付与効果で、攻撃した者の体力HP魔力MPを50%の確率で半分奪い、味方に分け与えることができる。

 少しでも回復薬ポーションの節約ができればいいと考えた。


「私の場合、飛び道具系だから手持ちが不安になってきたわ……まぁ弾丸ブレッドはモンスターとその辺にある魔力石を素材にして錬成できるけどね」


 アゼイリアは言いながら手慣れた動作で魔銃に弾丸込めている。

 超一流の鍛冶師スミスである彼女は錬成術に長けているようで、素材さえあればその場で武器や防具が造れるらしい。

 無論、通常は工房でなければ不可能な事だが、彼女を良く知るガンさんによると、それがアゼイリアのユニークスキルでもあるとか。


「帰る時も視野に入れた方が良さそうじゃないか? 僕なんか特に魔力の消費が激しく、すぐ『MP回復薬エーテル』を使用してしまう。そうユッキにばかり頼れないと思うし……」


 ヤッスは懸念の表情を見せる。

 こいつも『黒山羊の指輪バフォメット・リング』を装備して魔力MP+300と増えてこそいるが、こうも格上で高レベルのモンスターばかりを相手にすると、それだけ強力な魔法を連続して使用してしまう場面も少なくない。

 俺も配慮して奪った魔力MPをヤッスに与えているも、それでも補えずに『MP回復薬エーテル』を使わざる得ないため底を尽きかけている様子だ。


「先生とヤッスはボス戦まで待機していた方がいいかもな。これまで通り俺が前衛で壁となるから、香帆さんとガンさんで仕留めてくれ」


 それが盾役タンクの役割であり、物理的攻撃で俺にダメージを負わせるモンスターはそうはいないだろう。


 こうして作戦を立て、俺達【聖刻の盾】は階層ボスがいるとされる「45階層」を目指して行く――。

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