異世界から帰還した姉に鍛えられタイムリープした俺は最強の盾役《タンク》となり隠しダンジョンを無双する～豚と蔑まれた元社畜がレベルアップで二度目の人生を逆転させた

第89話 逆恨みと高級素材ゲット

「――フレイアがね～。きっとゼファーの依頼で情報を集めているんだろうねぇ」

「香帆さん、そのドックスっという“帰還者”も渡瀬の協力者だと言うのかい？」

「レイヤと似た胡散臭そうな奴だし、そっだと思うよん。特に名倉って奴の仲間だったんなら、イワッチだけじゃなくマオッチにも怨みがあるかもしれないねぇ。気を付けた方がいいんじゃね？」

「俺に怨みだって？　奴らの銀行強盗計画を阻止したからか？　そんなの逆怨みじゃないか……俺はただ犯罪に巻き込まれそうだったから断っただけで、そもそも向こうから戦闘を仕掛けてきたんだからね」

「ああいう連中に真っ当な理屈は通じないよん。まぁフレイアが動いているなら見つかるのも時間の問題だろうけどねぇ」

　香帆の言う通り、フレイアは『零課』に頼りにされるほど実力と組織力を兼ね備えているようだからな。彼女自身は相当ゼファーを毛嫌いしているけど……。

　でも吾田のように気づけば捕えてくれそうだ。

　そして今度こそ、渡瀬の潜伏場所さえ判明すれば全て解決できるかもしれない。

「ドックスか……駄目だ、思い出せない。サッちゃんは……わかるわけがないよな？」

「そうね。私は最終決戦じゃ魔王の罠で分断された状態だったから、居合わせた幹部の存在なんて知る由もなしって感じよ」

　未だガンさんは必死に記憶を辿っているが、まったく思い出せないでいる。

　狂戦士化（バーサーク）する前にチラ見くらいしているかもしれないけど、そいつの印象が薄かったのか記憶にすら残ってないようだ。

　だが俺とガンさんも互いに無自覚で、さらに別々の世界を跨いで同じ人物から怨みを買われているなんて、とても不思議な感じがする。

「しかし話を聞く限り、足が付かないようあえて戸籍を消して浮浪者に紛れ込んでいるとは厄介な奴だ。暗殺者（アサシン）ではないようだが、姿がわからない以上は気を付けた方がいい。ギルドやダンジョンでも、他の冒険者に成りすまして近づいてくる可能性もある……二人とも初見相手には《鑑定眼》を発動させ、予め身元を調べた方がいいぞ」

　ヤッスが珍しくまともな意見と助言をしてくる。

「……ああ、渡瀬絡みである以上、そうフレイアさん達ばかりに任せてられないだろうぜ。とっくの前に覚悟はしているさ」

　前回の大野達を操っていた件もあるからな。

　今後は学校に潜伏するとされる他の協力者と結託して仕掛けてくる事もあり得る。

　煩わしくムカつく限りだが、杏奈のためにも徹底的に戦ってやるぞ。

「マオッチ、カッコイイねぇ。けど今は、自身のレベリングを目指すことが先決だと思うよぉ。キミが強くなれば、それだけアンナッチのこと守れるからねぇ。もちあたしらも協力するからよぉ」

「うん、香帆さんありがとう」

　彼女の言う通り、俺は強くなって杏奈を守る為に『奈落（アビス）』ダンジョンで冒険者しているんだ。

　なんとか偉業を成し遂げ『停滞期』を突破してやる。その為には45階層でボス戦に挑まなければならない。

　そういや、ずっと美桜に施されている《強制試練（ギアスアンロー）》を解除して、レベルアップする方法もある。

　しかし姉ちゃん曰く「レベル30か40代まで奥の手としてそのままにしておいた方がいい」と言われていた。

　なんでも『停滞期』は自分の力でクリアすることが、冒険者としての質が問われるそうだ。

　それから食事を終えて館を出る。

　30階層に向けて出発しようとする中、ゴザックはガンさんを呼び止めていた。

「ガルジェルドの旦那、また立ち寄ってくだせぇ。今度はキレイどころを集めて接待いたしますんで……あとウチはピンク店も充実してますんでご利用の際はお安くしておきますぜ、へへへへ」

　女子達に聞こえないよう、耳元でこんな内容を囁いていた。

　なんとも卑下衆で卑猥な会話だが、精神年齢30歳の俺には少しそそるものがある。

　いや、俺は杏奈一筋だからね。

「……一応、年齢は26歳の成人だが身分は高校一年生だ。そういうのは遠慮するよ」

　純情な心を持つガンさんらしく、きっぱり拒否している。

　それに長年密かに想いを抱いている幼馴染でもある、アゼイリアの前ってこともあり操を立てるのは当然だ。

　断られたゴザックは俺とヤッスの方をチラ見してくる。

「そうっすか残念でさぁ……真乙坊ちゃんと片眼鏡の兄さんはどうっすか？」

「いや、俺らも高校生だし未成年ですから、そういう店は無理です」

「僕も『おっぱいソムリエ』として、女性のバストを聖域として称えておりますが、あくまで服越しで鑑賞して評価することをポリシーとしている……たとえ商売で合意の上だろうと、正当なお付き合いなしで行為に及ぶのはNGとしております」

　一途の俺はともかく、ヤッスも意外な貞操観念の高さを見せている。

　けどヤッスの場合、ぶっちゃけ厨二病っぽい言動から、さも潔さそうに聞こえるけど要は視姦専門の『変態紳士』じゃないかと思う。

　それでもゴザックは「ここは日本の法律とかあんま関係ないっすがねぇ。異世界じゃ14歳から成人扱いですぜぇ」と、やたら食いついてきた。

「ちょい、オッさん！　ウチらの男子達に変なこと吹き込むなよな！　魂抜くぞ、テメェ！」

「まったくよ！　教師として生徒に不純異性交遊を進める行為は見過ごせないわ！　即射殺モノよ！」

「ひぃぃぃい！　すんません、ファロスリエン様にアゼイリアの姐さん！！　どうか堪忍してつかぁさい！！！」

　香帆とアゼイリアの女性陣に物凄い形相で凄まれ、ゴザックは恐怖で顔が青ざめた。

　その場で飛び跳ね、両膝で着地すると同時に二度目の土下座を披露している。

　まだガンさんにだけ耳打ちで終わっていれば、少なくてもこの二人に聞かれることなかったのにな。間抜けお猿のオッさんだ。

「……不始末のお詫びといたしやして、どうかこれをお納めくだせぇ」

　ゴザックは土下座したまま、指を鳴らすと部下と思われる厳つい男二人組が1枚の大きな鉄板のような物体を持ってきた。

　鮮やかな真っ赤に染まった光沢感の頑丈そうで複雑に編み込まれた金属、あるいは亀の甲羅みたいな形状をしている。

　途端、アゼイリアの表情が緩んだ。

「それって……まさか『竜の鱗』？」

「へい、上級竜（エルダー）クラスの『レッド・ドラゴン』ですわ。本来は『下界層』でしか手に入らないんですが、先日闇ルートから仕入れた素材でして、これを献上いたしやすのでどうか穏便に……」

　なんでも『零課』が不始末を働いた上級冒険者から没収した素材のようで、何かしらのルートを辿り特殊公安警察の協力者であるゴザックに渡ったとか。

　ちなみにドラゴンの鱗はその硬質から武器、防具、鎧の素材に最適とされ、ドラゴンの種類によっては強力な魔力付与も宿しているらしい。

　さらには神に匹敵されるとする最高峰のドラゴン『古代（エンシェント）』級の鱗となると、1枚だけでも数億単位で売買されると言う。

「そんな高価な素材……流石に貰うわけにはいかないわ。上級竜の鱗（エルダードラゴン）なら、それだけで1千万から数百万で売買される貴重な（レア）素材よ。ぼったくりと思われたくないから普通に買うわ、ただし割引してくれたらね」

　アゼイリアは値引き交渉をし始める。

　一応、商売している女性（ひと）だから、ただ金にがめついだけじゃなく律儀な部分もあるようだ。

　けど先生、既に周囲の冒険者から『ぼったくりじゃじゃ馬（B J）アゼイリア』って呼ばれているよ。

「では100万円ぽっきりで」

「買うわ」

　即決するアゼイリア。先程の話を聞く限り相当安い取引らしい。

　しかしここで冒険者していると金銭感覚が麻痺しそうだ。

　アゼイリアはご満悦で《アイテムボックス》を出現させ、購入した『レッド・ドラゴン』の鱗を収納している。

「安く仕入れて良かったな、サッちゃん」

「ええ、これも王聡くん達のおかげよ。この素材を活用して何かしらの形で【聖刻の盾（パーティ）】に貢献するわ」

　鍛冶師（スミス）として、また色々凄いモノを造ってくれそうだ。

　でも、どうせ信じられない高額で売りつるんだろうな……。

「それと、ゴザックを窘めてくれてありがとうって言っておくよ」

「別にいいわ、教師として当然のことしたまでよ。でも正直、【聖刻の盾（パーティ）】で純情なノーマル男子はマオトくんだけだけど、それでもキミ達は大事な生徒だからね」

「……いや、俺も十分にノーマルだけど。てかヤッスと同じように見ていたのか？　なんか酷くない！？」

「こっちはキミに9年間も待たされた身だからね。嫌だったらこれから挽回してよね……幼馴染として期待しているんだから」

「……わかってるよ」

　如何にも幼馴染らしい会話をする、ガンさんとアゼイリア。

　なんだかんだ仲が良いようで羨ましい。密かにピンク色のオーラに包まれそうだ。

　やっぱりいいなぁ、幼馴染。

　まぁ俺も杏奈とはいい感じだし、今更嫉妬することもないんだけど。

「マオッチぃ～なんか丸く収まったっぽいしさぁ、そろそろ30階層に行かね？」

「そうだね、香帆さん。んじゃみんな出発だ――」

　こうして俺達は『分岐点』階層を後にした。

「……あれ？　クィーンとガンさんの話を聞く限り、僕の貞操概念ってノーマルだと思われてないのか？　女性陣にとってどういうポジなんだ、僕は？」

　いやヤッス、お前『おっぱいソムリエ』の変態紳士だろ？

　きっとそう思われているよ。