第86話 機能し始めたパーティ
人生嘗てないほど高額の買い物をした俺とヤッス。
きっと冒険者としてはありふれたことなのだろうけど、現実世界しか知らない俺としては、とても高校生が抱えていい借金額ではないと思った。
でもあんまり気にしていると、俺の倍以上の借金をしながらも平然としているヤッスの「男気」に負けていると思い始めてしまう。
果たしてそれが「男気」なのか、ただ金銭感覚が無頓着な奴のか微妙だけどな。
「とにかく新しい装備も手に入れたことだし、今日こそ階層ボスがいる45階層を目指して行こう!」
俺の勢い任せの鼓舞に【聖刻の盾】メンバー全員が「おーっ!」と片手を上げて賛同してくれる。
みんなノリだけはいいんだよな。
「中界層の階層ボスといえば『ヒュドラ』ね。真乙なら大丈夫だと思うけど、何かあったらお姉ちゃんに連絡してね。それまでエリュシオンの温泉施設でくつろいでいるから」
美桜は「深淵層」にしか探索できないので待機するらしい。
ん? 温泉施設だと? ここにそんな施設があるのか?
かれこれ一年目になるけど知らなかったんですけど。
いいなぁ、姉ちゃん……帰りに寄ろうかな。
三時間後。
『
「俺、ここから下層に探索するの、初めてなんだよね。香帆さんはあるの?」
「ないよぉ、あたしマオッチとしか潜らないもん」
少しカップルっぽいドキッとする言い方だけど、そういえばそうか。
帰還してすぐ俺とパーティを組んで、ひたすらレベリングの協力をしてくれていたからな。
額にもチュウされたっけ……思い出したら余計にドキドキしてきた。
「俺とヤッスも初めてだ。
「私だって『
アゼイリアの言う通りだけど、ここで現実世界のそれを持ち込まれると非常に便利である反面、なんかロマンに欠けてしまうような気がしてくる。
それから25階層をクリアし、より下階層へと潜入した。
蜥蜴人間の「リザードマン」、大型蝙蝠の「ジャイアントバッド」、大型猿獣「モノス」と戦闘になり、チームワークで打ち倒していく。
中には豚の顔を持つ「オーク」や炎を吐く黒妖犬「ヘルハウンド」なども出現した。
ガンさんは俺と共に前線に立ち、俺が防いだ隙に巨剣で強烈な一撃を与えるなど前回と異なり、ナイスなコンビプレーを見せてくれる。
考えてみれば元勇者パーティの
9年間も引き籠ってレベルが下がってしまったけど、戦闘経験は俺よりも格段に上なベテラン冒険者だからな。
呼吸を合わせて攻撃するくらい造作もないのだろう。
要は本人のやる気次第だったんだと改めて思った。
香帆は高レベルの冒険者らしく、柔軟に戦場を自由に駆け回っている。
まさに身軽で素早いエルフ族らしい戦いぶり。
いや、おそらくそれ以上に速いに違いない。
それこそ疾風の如くだ。
ヤッスはアゼイリアと共に後方支援役に徹している。
魔法攻撃で援護しつつ、《付与魔法》で俺達の
アゼイリアから購入した『
さらにほぼ無詠唱だから魔法発動が早く、モンスターが俺達に行きつくまで斃してしまう場面もあった。
まだレベル10代なのに、この活躍……地味に前線でもイケるんじゃね?
などと思い始めてしまう。
アゼイリアも両手に握る二丁の魔銃を撃ち放ち、突撃してくる敵を次々と駆逐している。
また新しく造ったとされる『手榴弾もどき』を放り投げては、大型モンスターをぶっ飛ばしていた。
みんな凄ぇな……けど、ようやくパーティっぽくなった気がする。
「俺も負けてられないぞ――初使用、『
黒鋼の大盾を構え、モンスターの攻撃を真正面で受ける。
当然ながら俺はノーダメージ、寧ろびくともせず完璧に防ぎ切った。
そして備えられた付与効果により《
モンスターの
「吸収した
『
流石は超高額な大盾だ。
これだけの性能なら時価4千万円と言われても不思議じゃないのかもしれない。
寧ろ1千万円のローンを組んで購入できた俺はラッキーだと言える。
けど普通、高校生がしていい借金じゃないけどな。
そのまま俺は
こうして戦闘しながら探索すること、28階層にて。
「次の階層で『分岐点』だねぇ。少し立ち寄って行くぅ?」
《索敵》スキルを発動し先行する香帆が振り向きざまに聞いてきた。
「確か『分岐点』ってダンジョンの中でもモンスターが現れない『
「そっだよぉ。異世界の巨大ダンジョンにも同様の場所が存在していたねぇ。人為的に造られた休憩所だと思えばいいよぉ。現地の道具屋で消耗した武器やアイテムも買い足せるし、ダンジョンで集めた素材を売ることもできるよん。宿屋や公共施設も存在する筈だねぇ」
「けど香帆ちゃん……私が転生した
他の冒険者から密かに『
ダンジョン内での補給は特に難しいだけに足元を見られるらしい。
「美桜の話じゃ、『
つまり異世界のように私利私欲的な店はないってことか?
そりゃ安心して利用できそうだ。
「どの道、少し休憩は必要だな。気分転換に見て回ろうぜ」
「僕も休憩することには賛成だ。ユッキのおかげで『
おい、ヤッス。セーブポイントじゃないぞ。
現実世界じゃそれできないからな。
「しかし『キカンシャ・フォーラム』の情報だと、闇ルートも存在して禁制品も売買しているとか。立ち寄ってもいいが、あくまで休息目的の方が無難じゃないか?」
「ガンさん、地味にフレイアさんの『キカンシャ・フォーラム』のスレに参加したりしてんの?」
「怖いもの見たさに覗くだけだよ。ああいう人を誹謗中傷して茶化したり煽る場は好きじゃない。俺があんなこと言われた日には、傷ついて半泣きでPC殴り壊したくなるからな……」
だったら閲覧しなきゃいいのに……怖いもの見たさって何よ?
まるで怖がりの癖にわざわざ心霊スポットへ足を運ぶみたいなことを。
ちなみに俺も美桜から掲示板の閲覧を禁止されている。
なんでも「ガセネタばかりで、真乙には悪影響でしかないわ」と、エロサイト並みに姉は嫌悪し拒絶していた
一方で、親友の香帆は面白半分で時折スレに参加していると言う。
「ヤッスはどうよ?」
「僕かい? 【氷帝の国】のスレはよく覗いているよ。あのパーティ、よく『マオたん』とう人物を祀り上げられているが、あれはユッキのことじゃないか?」
「ああ? そういや、向こうで俺はそう呼ばれているらしい。てか、どんな風に書かれているんだ?」
「マオッチは気にしなくていーよ。あたしが目を光らせているから安心してぇ。それより、早く『分岐点』に行こーっ」
香帆が割り込む形で話を遮ってくる。
ヤッスも「香帆様でないが知らない方が幸せということもあるか」と妙に納得し理解を示していた。
なんなんだ……いったい?
ともあれ、俺達は出現するモンスターを打ち倒し29階層の『分岐点』こと
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