第85話 破格の買い物

 それは『黒鋼ブラックメタルセット』と同色の黒銀であり、身の丈を覆うほどの大盾だ。

 バフォメットの角を素材にしているだけあり、至る箇所にゴツゴツした棘のある禍々しいデザインをしている。

 けどカッコイイ! 少し悪ぶった感じが逆にいいのよ!

 オタク心をくすぐられるわ!


 俺は《鑑定眼》を発動し、大盾の性能を見てみる。



【装備】

黒鋼の悪魔盾メタル・デビルシールド

 ・防御力VIT+550

 ・敏捷力AGI-30

《魔力付与》

 ・攻撃してきた敵の体力HP魔力MPを50%の確率で半分奪う。

 ・奪った体力HP魔力MPは自分あるいは仲間に分け与えることが可能。



 おおっ! 防御力VITが+550もあるぞ!

 その反面、重量の問題で装備したら敏捷力AGI-30になってしまうが仕方ないか。


 けど《魔力付与》効果がやばい!

 敵から奪った体力HP魔力MPを自分だけじゃなく、仲間にも分け与えるなんて凄くね!?

 所謂、吸収魔法ドレインスキルってところか。


「これからより下層を目指すなら装備を充実させ強化する必要があるわ! 得に私達のような少数パーティはね!」


「ありがとう、アゼイリア先生! 大切に使わせてもらうよ!」


「え? マオトくん、何言ってるの? 誰もあげる・ ・ ・なんて言ってないわ」


 一緒にテンション上げてくれていたのに突然クールダウンする、アゼイリア。

 俺も目を見開き、「え? え? え?」と鈍感系主人公並みに首を傾げた。


「売ってあげるって言っているのよ。これだけ貴重素材を使用し魔力付与を持つ大盾よ、定価なら4千万円する代物だけど、マオトくんは同じパーティ仲間だし、【聖刻の盾】のサブリーダーとして頑張っているから、特別に2千万でいいわ」


「にぃっ、2千万!?」


 やべぇよ、この先生! とんでもねぇ金額を提示しやがった!

 いや、4千万に比べれば半額だし相当安くしてもらっているよ……うん。

 けど高校生相手にあーた、んなアホな……。


「サッちゃん……確かに異世界じゃ十分すぎるほど良心的な値段だけど、ここは現実世界でユッキはまだ高校生だ。ダンジョン探索を職業にしているコンパチさん達とは違う。もう少し安くできないのか?」


 ガンさんが助け舟を出してくれる。

 先生とは幼馴染の間柄だけにとても心強い味方だ。

 ここにきて普段、イラつくのを我慢して彼のメンタル面を支えてきた甲斐があるぞ。


 アゼイリアも理解を示し「言われてみればそうね……ごめんね、マオトくん」と言ってくれる。

 周りの冒険者達から『ぼったくりじゃじゃ馬BJアゼイリア』と陰口を囁かれているけど、俺達のパーティ間では心優しい先生だ。


「……じゃあ、1千万円でどう?」


「う~ん……」


 それでも高ぇ。いや2千万の半額で、元々の4千万にくらべりゃ遥かにお得感満載だ。

 あれ? なんだか金銭感覚が麻痺しかけてね? フル装備の国産車を買うより高い買い物だよ?

 挙句の果てに、教師が高校生相手に1千万円を要求している異様な状況じゃん。


 けど今の俺は冒険者だ。

 それくらいのリスキーがなければ、とても偉業なんて達成できない。


「さぁ、マオトくん! 買いますか? 買いませんか?」


「買いま――……あっ、先生、とりあえず20年ローンでいいですか? 支払いの目処が立ったら一括で払いますので、ね?」


「うん、最初からそのつもりだから大丈夫よ。けど毎月の支払期限過ぎたら、仲間内でも容赦しないから気を付けてね」


「……御意。買いまーす!」


 こうして俺は1千万円の借金をして『黒鋼の悪魔盾メタル・デビルシールド』を入手した。

 まぁ、なんとかなるだろう……他の支払いもないし。


「あとマオトくん、他の装備も素材さえあれば《融合素材フュージョンレシピ》で、今の状態からグレートアップできるわよ。どうする?」


「今は遠慮します。まずは堅実に稼ぐとするよ……うん」


 どうせ超高額だろ?

 いくらなんでもこれ以上の借金はできないっすわ。


「美桜、ウチらの災厄周期シーズンで装備のアップデートっていくらぐらいしたっけ?」


「職種や素材にもよるけど私の場合フル装備で、この世界でいう2億くらいかな? 全部、国王に出させたけどね」


 ほら見ろ! 嘘みたいな金額じゃねーか!

 もう新たに買い足した方が早えじゃん!

 まぁ勇者の姉ちゃんと違い、俺の場合もう少し安価かもしれないけど……。

 結局、冒険者として成功を収めないと話にならないようだ。


「クィーンよ。その話の流れだと、僕にも何か装備をご用意されているのでしょうか?」


 ヤッスが何食わぬ顔で尋ねている。

 俺の後でよく自分から話題を切り出せるな、こいつ。

 お前だって魔導書買って、既に1千万の借金あるだろうに……それ以前に装備のローンも払い続けているってのに。


「ええ、ヤッスくん。キミにはこれを――」


 アゼイリアは再び《アイテムボックス》から何かを取り出し始めた。

 今度はとても小さいサイズ。

何やら奇妙な形をした黒色の指輪だ。

 ブロングに挟まれる形で、赤々と燃えるように揺らいでいるストーンが嵌め込まれている。


「バフォメットが所持していた『知性の松明』の炎を《融合素材フュージョンレシピ》で石に封じ込めた指輪――『黒山羊の指輪バフォメット・リング』よ! 炎には使用者に黒魔法を与える効果があるわ!」


 なんだって? 黒魔法だと?

 確か悪霊を呼び出したりとか、敵の能力値アビリティを下げたりなど呪術デバフ系の魔法が多いと聞く。


 早速、《鑑定眼》で調べて見よう!



装飾品アイテム

黒山羊の指輪バフォメット・リング

 ・魔力MP+300

 ・知力INT+50

《魔力付与》

 ・黒魔法Lv.1を覚えることができる(一度覚えた黒魔法は指輪を取り外しても使用と強化が可能)



 げぇ! 魔力MP+300に知力INT+50だと!?

 今のヤッスにとって、倍以上のレベルアップとなるじゃないか!

 しかも魔導書同様、一度覚えた黒魔法は装備しなくても永続して使用できるようになるようだ。


「素晴らしいアイテムですぞ、クィーン! してお値段は!?」


「お値段据え置き価格で本来なら3千万は頂くけど、ヤッスくんもパーティ仲間だから50%OFFの1千5百万でいいわ!」


 やっぱ高ぇ……元の値段だけに良心的かつお得だろうけど。


「……サッちゃん。さっき移動中の車内で聞いたんだけど、ヤッスも《回復魔法》を習得するため魔導書を購入して覚えてくれたらしい。なんでも回復師ヒーラーのいない俺達【聖刻の盾パーティ】のために1千万円も借金をしてくれたそうだ。まだサッちゃんからの装備費用ローンも残っているし……なんとか安くできないだろうか?」


 ガンさん、あんたって超いい人やん!

 厳つくごっつい大男だけど、なんか天使に見えてきた!


「そうだったの……仕方ないわ。なら1千万ぽっきりでいいわ! もってけ魔法士ソーサラーッ!」


 なんか泥棒とか言いたげだけど、まぁ500万円も安くなったからいい方か。


 にしても凄ぇよ、ガンさん! 値引き交渉の達人じゃね!?

 伊達に『BJアゼイリア』と幼馴染の間柄じゃないぞ!

 これからもチョコスティック並みに折れやすいメンタルを俺が支えていくわ!

 

 けど購入するかどうかは、ヤッス自身だ。

 何せ既に1千万以上の借金がある男……割り引いてくれたとはいえ、さらに1千万の借金を背負うことになる。


 保守的な性格の俺なら絶対に嫌だ……。

 もう少し我慢して返済の目処が立ってから購入していきたい。

 アゼイリアに頼めば、しばらくストックくらいしてくれるだろう。


「さぁ、ヤッスくん! 買いますか!? 買いませんか!?」


「買いま――――――――…………すぅ!」


 かぁ、買いやがったぁ!?

 しかも「す」までの間が長くてウゼぇ!


「ヤッス、大丈夫か!? お前、合計で2千万以上の借金を背負うことになるぞ!?」


 俺なら杏奈と二人で暮らせる中古物件を探すね。

 まだ付き合うどころか、告白すらしてないけど……。


「心配してくれてありがとう、ユッキ。僕は大丈夫だ、逆に気合が入るってものさ……早くみんなに追いつきたいからね。【聖刻の盾】メンバーとして、この偉業(借金完済)を成し遂げてみせるよ」


 なんて男だ、こいつ……チャレンジャーだ。

 無謀だけど、頑なに熱い意志を感じてしまう。

 借金することが偉業なのかは別として、ある意味冒険者として必須な姿勢かもしれない。

 だからヤッスの奴、普段からレベルアップが早いんだな。


 俺も保守的になってばかりもいられない!

 今回の探索で頑張って偉業を成し遂げてみせるぞ!


 けど借金したくねーっ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る