第84話 夏休み初日の探索
あれから大きなトラブルがなく、平穏な学校生活を過ごしていった。
クラスで浮いていたリア充グループも、本人達は無自覚のまま次第に普段の調子を取り戻していく。
ただし秋月との距離は置いたままの状態であり、半ばグループから抜けた形となってしまった。
その分、以前より杏奈の傍にいるようになり、何故かヤッスとよく言い争う姿が見られるようになる(なんか典型的なラブコメっぽい光景でムカつく)。
俺も杏奈とより親交を深めており、時折お互いの家に遊びに行き来するまでの仲となった。
しかし進展の手応えを感じる一方で、特に香帆が「マオッチ! キスまで許すから、それ以上はまだ早いからね!」と突っかかるようになる。
おまけに美桜まで便乗し「杏奈ちゃんと進展あったら、お姉ちゃんに報告するのよ!」と言ってくるようになってしまった。
なんだろ……昨日の味方が最悪の敵になった気分だ。
二人とも、俺の恋路を応援してくれるんじゃなかったのかよ?
だが俺も挫けることはない。
杏奈の保護者である叔母さんこと『春乃さん』に、すっかり気に入られ打ち解けた間柄だしな。
特に春乃さんから、俺の知らない彼女のことが聞けて凄く楽しい。
なのでそろそろ、杏奈に告白して付き合っても……当然そう思うが、肝心の場面で臆病風に吹かれつい遠のいてしまう、シャイな自分もいたりする。
いくら別ルートで二回ほど付き合ったという事実を美桜から聞かされているとはいえ、やっぱり緊張する時はするし、そう簡単に一歩を踏み出せない。
前周とは違い、今の自分に自信を持っている筈なのに……。
きっと杏奈が素敵すぎる子だから……より大切だと思ってしまうのか?
けど、このままってのもアレだ。タイムリープした意味がない。
なんとかクリスマス・イブまでには……いやできれば夏休み中にバッチリ決めていきたい今日この頃。
勿論、自分のレベルアップも兼ねて――。
ともあれ期末テストも無事に終え、夏休みを迎えることになった。
「――ユッキ、喜んでくれ! ついに僕は『白魔法』を覚えたぞ!」
「嘘、マジで!? ヤッス、お前何したの!?」
夏休み初日。
早速、本日から『
期末テストもあって、ろくにエリュシオンに行ってない筈なのだが……こいつ、いつの間に?
「実はこっそりエリュシオンの道具屋で魔導書を購入して覚えたんだ」
「え? 魔導書で覚えたって……姉ちゃんの話じゃ結構な金額するよな?」
「うむ、1千万円はした。勿論、一括では払えないので20年ローンさ」
胸を張ってしれっと答える、ヤッス。
やべぇよ、こいつ……確かまだアゼイリアにも装備品の借金が残っている筈だ。
売れっ子の動画配信者が檄レア破格のトレーディングカードを購入する並みに、お気軽感覚で買いやがって……バカなのか?
とにかく気合が半端ねえ。
ちなみに市販の魔導書は一度読んだら文字が消えてしまい二度と読むことができない。読んだ者の記憶に詠唱が永遠に刻まれ魔法を覚えていくとか。
そしてヤッスが覚えたという『白魔法』は主に回復系、光属性の攻撃と防御なども行使する強力な魔法である。
しかもヤッスはほぼ無詠唱だから、速攻で
「い、いやぁ凄ぇよ、ヤッス……一度、覚えたらレベルを上げて進化することもできるから、一生モノだよな?」
「ああ、まだ魔法Lv.1だが、僕のような
なるほど、そういう自己強化方法も有りだな。
特に俺の場合、
けど高校生が1千万円も借金するってどーよ?
「マオッチ。悪いけど、あたし時折、探索休むからよろ~」
ソファーでくつろぐ美桜の隣で、スマホをいじる香帆が軽い口調で言ってくる。
「うん、用事がある時は仕方ないけど……理由聞いてもいい?」
「期間限定でバイトすることになったのぅ。メルッチとね」
「メルッチ? ああ、
「喫茶店の店員だよぉ。明日オープンするらしいから遊びに来てよね~。あと夜なら融通が利くから大丈夫だよぉ」
夜のダンジョン探索か……そういや行ったことないや。
夏休み中なら一度くらい行ってもいいだろう。
昼間と何か違うのかな?
けど今はそれよりも。
「へ~え、喫茶店ね……けどアルバイトなら『
「ぶっちゃけそうなんだけどね……お金じゃなく、『貸し』を作るのが目的かなぁ。美桜にもOK貰っているしぃ」
「【
「姉ちゃん、奴って誰よ?」
俺が訊いたと同時にインターフォンが鳴った。
ガンさんと紗月先生が迎えに来てくれた。
「マオトくんにヤッスくん。エリュシオンに行ったら話があるんだけどいい?」
黒塗り高級ワゴン車の運転席から、紗月先生が顔を出して手招きしている。
「紗月先生、話って何?」
「車内で説明するのはね……ギルド内で説明するわ。決して悪い話じゃないから安心してね」
随分ともったいぶった感じだが良い話なら問題ないか。
俺達はワゴン車に乗り込み、エリュシオンに向かった。
「いらっしゃい【聖刻の盾】一同様」
ギルドにて、受付嬢のインディが挨拶してくる。
先日まで副担任の『宮脇 藍沙』だっただけに違和感を覚えてしまう。
俺的にはこちらの方が身慣れているけど。
「おはようございます、インディさん。今日は『中界層』の階層ボスを目指そうと思うんだけど」
「ということは、45階層ね? う~ん、でも探索メンバーで一級冒険者はファロスリエンさんだけだから……流石にまだ早いんじゃない?」
「紗月、いやアゼイリア先生は? レベル60だよ?」
「アゼイリアさんは
そういや、アゼイリアも同じことを言っていたな。
通常、
特にアゼイリアのような一流の腕を持つ
「一般的にはインディさんの言う通りね。けど私はその辺の冒険者よりも断然強いわよ」
アゼイリアは言いながら、ホルスターから『魔銃』を抜いて見せる。
「ははは、それを見せられると何とも……目指すのは構いませんが、決して無茶だけはなさらないでください。危険を察知したらすぐに徹底すること。危機回避も冒険者にとって必要なことですから」
「うん。わかったよ、ありがとう……あっ、そうだ。アゼイリア先生、俺とヤッスに話って何?」
「ええ、向こうで話をしましょう」
アゼイリアに促され、俺達は少し離れた待機場所に向かった。
他の冒険者達も大勢いたが、リーダーである美桜の姿を見るや一斉に散って離れていく。
やはり俺達【聖刻の盾】は一目置かれている一方で、敬遠されるパーティのようだ。
とはいえ俺達も気にせず、しれっと空いた円卓席の椅子に座る。
アゼイリアは話を切り出してきた。
「マオトくんって、確かインディさんの助言で
「一応、称号も『
その後、すぐアゼイリアと知り合いって『
「じゃあ、別に盾を持つのに拘りはないってわけね?」
「まあね。デビューしたては持っていたからね」
「そう、実は新しい『盾』を造ったのよ……ようやく『零課』から返却してもらった、バフォメットの角を素材の一部としてね」
「え!? バフォメットの角で盾を……って、そんなのできんの!?」
「錬金術で他の素材と混合させたってところかな。特にこれがあれば不可能じゃないわ」
アゼイリアはそう言うと、豊満でセクシーな胸元からペンダントを取り出した。
何やらトップ部分が2匹の蛇が巻きついた短い杖の形を模している。
以前、見覚えがあるデザインだ。
「それってまさか……バフォメットが所持していたケーリュケイオン?」
「そっ、
何でも『ケーリュケイオン』は「聖なる力を持つ」とされ、医術系から商業系、発明や錬金術などといった様々な奇跡をもたらす魔力があるとか。
特に《
「これが《
アゼイリアは《アイテムボックス》を出現させると、魔法陣から一枚の大型盾が姿を見せた。
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