第82話 変わりゆく関係
あれから間もなくして、どこからか黒スーツの男女が現れた。
どうやらゼファーが呼んだ特殊公安警察の人達だ。
彼らは手際よく、大野と工藤、四人のリア充達を抱きかかえ連れ出そうとしている。
「さっきも説明した通り、彼らを連行しパラノイドを除去する。明日から通常の生活に戻れるだろう。負傷した二人も『零課』に所属する
「「はい、ゼファーさん。どうかよろしくお願いします!」」
俺とガンさんは深々と頭を下げ、ゼファーは部下達と共に去って行った。
美桜は両腕を組み「フン! 国家公務員として当然の義務よ!」と悪態をついており、香帆は「じゃあね~、ゼファー」と軽いノリで手を振っている。
同じ
俺達じゃ絶対に真似はできない。
「あっ、そうだ。そろそろヤッス達を起こさないと」
「そっだねぇ、アンナッチはあたしと美桜で起こすから、マオッチとガンさんはヤッスゥとトワッチの方を頼むね~」
え? 俺、逆がいいんだけど!
俺が王子様として、杏奈を起こす役目で良くね!?
すると、香帆が頬を膨らませ小顔を近づけてくる。
「マオッチ、変なこと考えているしょ~! 言っとくけどあたしも美桜も、まだそこまで認めてないからね!」
認めるって何が?
なんでいちいち香帆と姉ちゃんの許可が必要なんだよ……。
と言いたいけど、
密かに恋路を応援してくれる姉の美桜も、「まっ仕方ないでしょ?」と言いたげに首を横に振って見せている。
俺は咳払いをして、気を失っているヤッスに近づく。
秋月が上から覆い被さる形で、二人重なり合っている。
普段あれだけ険悪の仲だけど、こうして見るとなんかカップルっぽい。
「……あんなに激しく怒ったヤッスを見たのは始めてだよ」
ガンさんがポツリと呟いた。
言われてみればそうかもな。普段、飄々とした変態紳士だけに。
奴が本気で怒るとしたら、バフォメットの巨乳ぶりと豊胸を盛って偽るヌーブラの存在くらいだ。
けど今回は違っていた。
秋月が大野達に蔑ろにされ、悲しむ彼女を見ての激昂。
何しろブチギレ寸前の俺よりも、真っ先に掴み掛かって行ったからな。
まさかヤッスの奴、秋月のことを?
だとしたら日頃からリア充達を目に敵にするのもわかるか。
ヤッスにとって小学まで仲良かった子が離れて行ってしまった元凶だしな。
まぁ、ほとんど逆恨みだけど……。
俺とガンさんで、そっと秋月を引き離し校舎の壁に背を付け凭れさせた。
《アイテムボックス》から『
注がれた聖液が体に浸透し、殴られた頬の傷が回復した。
「う、うん……僕はどうしたんだ? ユッキ、リア充のクズ共はどうした?」
ヤッスが目を覚まして起き上がる。
周囲を見渡して、大野達がいなくなったことに首を傾げた。
「色々あったけど、とりあえず解決したぞ。詳しい事は後で話すよ」
「なるほど……
ヤッスは珍しく、俺とガンさんに向けて頭を下げて見せる。
「気にすんな、俺達仲間だろ?」
「ユッキの言う通りだ。けど、随分とヤッスらしくなかったよな? 秋月さんのためにキレたのか?」
ガンさんはストレートに訊いた。
豆腐メンタルだけど、純粋な心を持っている彼だから聞ける内容かもしれない。
ヤッスは目を反らし「なんともはや……」と照れ臭そうに頭を掻いた。
「まぁ、そのぅ……今は疎遠だが、嘗て僕の同士だった奴に変わりないからな。しかし工藤のカスに殴られ気を失ったというのに、とても心地よい夢を見ていたような気がする。小ぶりだがふわっとした素敵な感触というか……あれは何だったのだろう?」
こいつ、まさか無意識に秋月の胸を堪能してやがったのか?
やられてもただで起きないというか……なんて変態だ。
あのままずっと気絶しときゃ良かったんじゃね?
それから間もなくして、杏奈と秋月も覚醒した。
「……真乙くん、お腹、大丈夫なの?」
杏奈は真っ先に俺の傍に駆け寄り身を案じてくれる。
優しく健気な姿に胸が高鳴ってしまう。
「うん、偶然ベルトのバックルに当たって何ともなかったよ。制服に穴が空いちゃったけどね」
嘘だけどな。まさか自慢の
「良かった……真乙くんに何かあったら、わたし、わたし……」
「……杏奈、俺は大丈夫だよ。鍛えているからね」
ぽろぽろと涙を零す杏奈の肩にそっと手を添えて優しく擦った。
本当ならこのままギュッと抱きしめたい衝動に駆られるが、香帆と美桜が冷めた眼差しで凝視している。
まるで「ウチらの前でイチャコラ禁止だからな!」と言わんばかりのオーラを醸し出していた・
こ、怖ぇ……何なんだ、いったい?
てか姉ちゃん、俺の恋路を応援してくれるんだよね?
「幸城……佑馬と傑、それにみんなはどうしたの?」
秋月が不安そうな表情を浮かべ尋ねてきた。
「ん? ああ……一応平和的に話をつけたつもりだ。もう二度と、あんな悪戯はしてこないと思うよ」
「……そう。ところで、どうして私ってば気を失っちゃったんだろ? あっ、安永、あんた大丈夫なの?」
「当然だ。僕も最近、それなりに鍛えている……ほら」
ヤッスはゴミ置き場に捨てられた彼女の外靴を回収し手渡した。
「あ、ありがとう……色々と悪かったわね」
「別にお前が悪いわけじゃない。僕はどんな理由だろうと、仲間を蔑ろにする連中が許せなかっただけだ。あくまで僕が勝手に行動したこと。したがって、お前が気にする必要はないぞ、ギリCカップ」
「誰かギリCカップよ。やっぱり、あんた嫌い。杏奈は大丈夫だった?」
秋月はあっさりとした口調で言うと、俺から外靴を受け取る彼女に寄り添ってきた。
杏奈も「わたしも真乙くんが刺されたと思ってショックで気を失ったみたい……」と話している。
こうして二人の外靴も無事に回収し、大野達リア充グループも『零課』に託したことで場を治めることができた。
しかし肝心の渡瀬の居場所や協力者の手掛かりについてはさっぱり掴めていない。
ゼファーが言っていた、明日にでも来るという本命の「潜入工作員」に期待するしかないのだろうか?
翌日。
大野と工藤、四人のリア充達は何食わぬ顔で登校してくる。
どうやら無事にパラノイドを撤去され、俺から受けたダメージも治癒されたようだ。
おまけに昨日の事は記憶にないのか、普段通りに爽やかな陽キャぶりを見せている。
流石は『零課』。実に良い仕事をする分、末恐ろしい組織だ。
しかし連中に記憶がなくても、その他の生徒達は昨日の奇行ぶりをしっかりと覚えている。
時折、「憧れていたのに、あいつらヤバくない?」だの「すっかり見る目変わったわ……」などと失笑が漏れているが、こればかりは仕方ない。
まだ本人達も自分達がそう言われていることに気づいてないことも幸いだ。
いずれにせよ、あのまま放置していたら死んでいたのだから、こうして何事もなく復帰できただけでもラッキーなことだ。
人の噂も七十五日というし、そのうち元の雰囲気に戻るだろう。
けど、もう戻らない関係もあるようだ……。
「秋月ぃ、今日暇ぁ? 帰りにカラオケでも行かない?」
「……ごめん。用事があるから」
大野達の誘いに、秋月は素っ気なく答える。
そのまま逃げるように、ぽつんと席に座る杏奈のところに向かった。
あれほど仲が良かったのに、すっかり関係性が崩れてしまったようだ。
事実はどうあれ、秋月にとってもろ仲間に裏切られたと思っているからな。
にもかかわらず、いつものノリで平然と声を掛けてくる大野達を気味悪がり、余計に不信感が芽生えてしまっている。
だからといって俺から説明するわけにはいかないし、仮に説明しても信じてくれるかどうか。
「全て丸く収めることは難しい……俺達は見守るしかできないだろう」
ガンさんも第三者目線で言っている。
俺も頷き「だな、別に孤立しているわけじゃないし」と割り切った。
「安永、おはよう。ねぇ今度、『トウィンクルまじかる・ジャスティスピュアーズ』のブルーレイ貸してよぉ、あんた全シリーズコンプしているでしょ?」
「はぁ? お前、中二の頃、美少女アニメは卒業したって断言していただろ?」
「また観たくなったの、別にいいでしょ? ねぇ?」
「……善処する」
ヤッスは「やれやれ、何十巻あると思っているんだぁ……たく」と、満更じゃない表情で溜息を吐いている。
なんか二人、関係性良くなったんじゃね?
つーか、少し甘酸っぱい雰囲気なんだけど……ヤッスの癖に。
そう思っていたら、担任の灘田が教室に入ってきた。
ん? 誰か連れているぞ?
さらりとしたロングヘアーを靡かせる、抜群のスタイルを浮き出されるスーツ姿。
赤縁眼鏡を掛けたナチュラルで綺麗な美貌を持つ女教師だ。
「皆さんに紹介でーす。今日から副担任として勤めることになった、宮脇先生です。では先生、自己紹介お願いしまーす」
「おはようございます。本日より副担任として就任いたしました、『宮脇 藍紗』です。どうかよろしくお願いいたします」
え? 宮脇って……。
まさか受付嬢のインディさん?
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